イベントレポート
Qualcomm、Snapdragon 810が実際の製品に搭載とアピール
~ブースでは11ad/ac両対応トライバンドWi-Fiのデモを行なう予定
(2015/1/7 00:00)
Qualcommは、International CESのプレスデーに記者会見を開催し、CESで展示するソリューションなどに関する説明を行なった。Qualcommは例年International CESのタイミングに合わせて新製品の発表を行なうが、今回は新製品の発表はなく、昨年(2014年)発表された同社のハイエンドSoCとなるSnapdragon 810が、予定通り昨年の末に出荷を開始し、LG電子などから搭載スマートフォンが発表されたことをアピールした。
同時に、記者会見の翌日より開始するInternational CESの展示内容についても明らかにし、Atheros Communicationsの買収後に同社の主力製品の1つになりつつあるWi-Fiチップのデモで、IEEE 802.11adと呼ばれる60GHz前後の短距離無線と、既存のIEEE 802.11acの3つの周波数(5GHzと2.4GHz)の3つのモードを切り替えて利用できるトライバンドWi-Fiのデモを行なうと明らかにした。
昨年発表されたSnapdragon 810が、実際の製品に搭載されてCESに登場
冒頭でも述べた通り、Qualcommは今回のCESでは特に新しい発表は行なわず、発表済み製品を搭載したOEMメーカーの製品を紹介したり、昨年のQualcommが成し遂げたデザインウィンなどを紹介する内容を中心に記者会見が進められた。
Qualcommの現状について米国本社の社長デレク・K・アベール氏は「弊社はこれまで累計で330億ドルにも及ぶ研究開発費を使ってさまざまな技術を開発してきた。セルラーモデムの技術をリードしてきたのは言うまでもなく、近年ではモデムとコンピューティング能力をの両方を持つSoCで市場をリードしてきた。アナリストの予想では、14年~18年に累計で80億台のスマートフォンが出荷される見通しで、我々のSnapdragonやセルラーモデムはそうした市場の発展に大きく貢献するだろう」と述べ、QualcommがモバイルのSoCやモデムなどの開発のために多数の開発費を注ぎ、その結果としてSnapdragonを搭載したAndroidスマートフォンが累計で10億台を超える結果を出してきたとした。
そうした中、2014年に発表したSnapdragon 810が、予定通りOEMメーカーに対して出荷され、「今日この記者会見の前に、LGからG Flex 2が発表されたが、それがSnapdragon 810を採用した最初の例となる。今後さらに搭載例は増えていくだろう」と、同社のフラッグシップ製品が出荷されたことをアピールした。
Snapdragon 810は、8つの64bit ARMコア(クアッドコアCortex-A57+クアッドコアCortex-A53)を持つオクタコアCPU、Adreno 430という新世代のGPU、4K動画(H.265)対応のハードウェアエンコーダ/デコーダを持っている。
今回アベール氏はそのSnapdragon 810を利用して、Unrealエンジンを動かすデモを行なった。こうしたゲームエンジンを利用したデモは、競合となるNVIDIAの十八番と言ってもいいが、敢えてそれを行なうことで、Snapdragon 810が、競合他社に負けない強力なGPUを持っていることをアピールする狙いがある。
IEEE 802.11adに対応したアクセスポイントは今年の後半に市場に登場
Snapdragon 810のもう1つの特徴は、統合されている無線関連だ。4G LTEモデムに関して、発表当初はCAT6(カテゴリ6、LTE-Advancedで規定されている通信方式、2×20MHzのキャリアアグリゲーションで最大300Mbpsの下り速度を実現する)までの対応となっていたのだが、昨年の末にCAT9(カテゴリ9、3×20MHzのキャリアアグリゲーションで最大450Mbpsの下り速度を実現する)対応にアップグレードされ、端末メーカーはSnapdragon 810を利用してCAT9対応の端末を製造できる。
また、Wi-Fiに関しても、IEEE 802.11acに加えて、IEEE 802.11ad、さらにはMulti-User MIMO(MU-MIMO)にも対応。IEEE 802.11adは、IEEEでWi-Fiの次世代規格として策定が進められている仕様で、WiGigという名前でも知られている。IEEE 802.11adは、60GHz前後の免許が必要の無い超高帯域を利用して高速に通信でき、通信できる範囲はIEEE 802.11acなどに比べて狭くなるが、仕様上は最大4.6Gbps~6.75GbpsというGigabit Ethernetを超える速度で通信できるのが特徴だ。
アベール氏は今回のCESのQualcommブースにおいてこのIEEE 802.11ac(5GHz/2.4GHz)とIEEE 802.11ad(60GHz前後)の3つの帯域(トライバンド)を切り替えて通信するソリューションを展示すると明らかにし、「対応するアクセスポイントは今年の後半に登場する見通しだ」とした。端末だけでなくアクセスポイントに関してもIEEE 802.11adに対応した製品が今年の後半に登場し、実際にユーザーが利用できる環境が整うだろうとした。
また、同社ブースにQualcommが自動車メーカーなどに対して提案している車載用のSnapdragonを搭載したコンセプトカーを展示したり、同社が進めるヘルスケア事業において米国のドラッグストアチェーンWalgreenとの提携を発表したりするなど、CESでのハイライトに関して説明した。
質疑応答では「Snapdragon 810の出荷が規定以上の熱により、OEMメーカー各社が熱設計を見直す必要がありそれで出荷が遅れたのではないか?」という質問が出たが、アベール氏は「噂話には回答しないのが弊社の姿勢。ただ、Snapdragon 810に関してはスケジュール通りに出荷できている」と述べ、特に何らかの問題が発生してスケジュールが遅れた事実はないとした。
日本のスマートフォン市場を見れば、自社SoCを搭載しているiPhoneは別にして、国内のMNO3キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク・モバイル)が発売しているAndroidスマートフォンは、少ない例外を除けばほとんどがSnapdragonベースのスマートフォンになっている。特にハイエンド向けはSnapdragon 801が採用されていることが多く、Snapdragon 810がその後継であることを考えれば、今年国内市場向けに登場する各社のAndroidスマートフォンにSnapdragon 810が搭載されて登場することはほぼ確実と言えるだけに、期待して待ちたいところだ。