イベントレポート

ヘリウム封止6TB HDDの液体液浸冷却と磁気テープの復権

~国際ディスクフォーラム2014レポート

「国際ディスクフォーラム2014」会場入り口に置かれた看板
会期:6月5日~6日

会場:東京都大田区 大田区産業プラザ

 HDD(Hard Disk Drive)業界における日本最大のイベント「国際ディスクフォーラム2014(DiskCon 2014)」が2014年6月5日~6日に東京都大田区の大田区産業プラザで開催された。

 国際ディスクフォーラムは講演会と、テーブルトップ形式の小規模な展示会で構成されている。今年のフォーラムで来場者の注目を集めたのは、HGSTが展示したヘリウムガス封止の3.5インチHDD「Ultrastar He6」である。このHDDやCPUボードなどを絶縁性液体に浸漬冷却させたサーバーを構築し、実際にサーバーを稼働して見せていた。

液体浸漬冷却のサーバーを稼働させた状態で展示していた。液体は絶縁性のフロリナートである。左上にヘリウムガス封止のHDD「Ultrastar He6」が置かれている
ヘリウムガス封止のHDD「Ultrastar He6」の内部構造。プラッタの枚数が7枚と多い

 3.5インチHDD「Ultrastar He6」が発表されたのは昨年(2013年)の11月である。空気(大半は窒素ガス)よりも軽いヘリウムガスを内部に充填することでプラッタとヘッド(HGA)を薄く軽くし、同じ高さに従来の5枚よりも2枚多い、7枚のプラッタを収納した。この結果、従来は4TBだった記憶容量を6TBと50%も拡大できた。

 ヘリウムガスには、空気に比べると熱伝導率が高いという利点もある。このため、放熱設計が容易になる。

従来のHDD(4TB、プラッタ5枚)とヘリウムガス封止HDD(6TB、プラッタ7枚)の断面構造
ヘリウムガス封止HDD(左)と従来のHDD(右)の主な仕様。ヘリウムガスの重さは空気の約7分の1しかない
ヘリウムガス封止HDD「Ultrastar He6」の主な仕様

伸びないHDDの出荷台数

 講演会では、初日の5日に大手HDDベンダー全てが最近のトレンドを講演するという贅沢なプログラムが組まれていた。講演社は順番にWD、Seagate Technology、HGST、東芝である。中でもHGSTと東芝の講演はHDDを中心にストレージの市場を展望する内容であり、非常に参考になった。その概要をご報告したい。

 始めにHDDの今後の市場を予測した数値を説明しよう。HDDの出荷台数は拡大が止まっており、2013年~2018年にかけての出荷台数はおよそ5億5,000万台で推移する。最大の顧客であるPC向けで出荷台数が減少傾向にあるためだ。この減少分を、エンタープライズ向けと外付けの市場拡大が補う形になる。

 ただし、出荷容量の拡大は続く。東芝は2013年から2018年にかけての出荷容量の年平均成長率を19%と予測した。具体的には2013年に約450EB(エクサバイト、1EBは10の18乗byte)であったのが、2014年には約500EB、2015年には600EB強、2016年には約750EB、2017年には約900EB、2018年には1,050EB強と増えていく。

まだまだ伸びるSSDの出荷台数

 一方、SSD(Solid State Drive)の出荷台数はまだまだ伸びる。東芝の講演では、2012年から2017年にかけてのSSD出荷台数の年平均成長率を、31%と予測していた。非常に高い成長率である。具体的には2012年には出荷台数が4,500万台だったのが、2013年には6,500万台となり、2014年には9,500万台に増える。そして2015年に1億2,000万台と1億台を突破し、2016年には1億5,000万台、2017年には1億8,000万台に達すると予測する。

 SSDの出荷容量は、さらに高い伸びを示す。東芝の講演によると、2012年から2017年にかけての出荷容量の年平均成長率は58%に達すると予測する。具体的には2012年に5EBだったのが2013年に10EB弱、2014年に15EB、2015年に23EB、2016年に35EB、2017年に50EBと急増する。実に5年で10倍という、著しい伸びを見せる。

 SSDの急速な伸びを後押しするのが、コストの低減である。記憶容量(GB)当たりの単価は、2012年から2017年にかけて年平均24%の割合で減少していくと東芝は予測する。ハイエンドのエンタープライズ向けSSDの単価は、2013年の時点でGB当たり2ドル。これが2017年にはGB当たり70セントに低下する。およそ3分の1になる。

鈍化するHDD記録密度の向上ペース

 最初にご紹介したヘリウムガス封止のHDDは、基本的な考え方としてはプラッタの枚数を増やしてHDDの記憶容量を増やす。プラッタの記録密度(面密度)の向上にはあまり依存しない。

 背景には、プラッタの面密度向上ペースが過去に比べると鈍っているということがある。面密度は1995年~2001年には年平均100%、2001年~2006年には年平均30%、2006年~2010年には年平均50%という高い比率で向上してきた。2010年代は当初、年平均40%のペースで面密度を高めることが期待されていた。しかし実際にはそれほどの伸びは見せてない。年平均10%~15%のペースに留まっている。

 現在の磁気記録技術は垂直磁気記録であり、面密度の向上がかなり限界に近づいてきた。新たな高密度化技術の研究開発が進められているのだが、商用化するための課題がクリアされていない。そこでプラッタの枚数を増やすことで、ドライブ当たりの容量を拡大する動きが強まっている。

見直される磁気テープストレージ

 今回のフォーラムでは、もう1つ、注目すべき講演があった。6日に富士通が、磁気テープストレージの最新動向について解説したのである。この概要もご紹介したい。

 ネットワーク接続という観点からストレージを分類すると、オンラインストレージとオフラインストレージに分けられる。オフラインストレージの代表が、磁気テープ装置である。磁気テープ装置は記憶容量は巨大であるものの、HDDに比べるとアクセスが非常に遅い。特に問題となるのが最初のデータを読み出すまでのレイテンシで、数秒~数十秒を覚悟しなければならない。このため磁気テープ装置はバックアップ用として元々は使われていたのだが、HDDによるバックアップが普及したことで、影の薄い存在となりつつあった。

 ところが最近になって、いくつかの理由から、磁気テープ装置の良さが急速に見直されることとなった。1つは、データの保護手段としての磁気テープ装置である。磁気テープ装置はオフラインであるために、オペレータのミスによる誤消去やソフトウェアのバグによる誤消去が発生しにくい。最近ではバックアップを含めたオンラインストレージ上のデータが誤って消去されるというアクシデントが実際に発生しており、オフラインのバックアップ手段に対する要求が高まってきた。

 もう1つは省エネルギーである。磁気テープ装置は、消費電力がHDDに比べるとはるかに少ない。富士通は一例として、50TBのストレージでHDDのわずか13%、280TBのストレージでHDDのわずか4%と磁気テープの優位性を定量的に挙げていた。さらに、トータルコストでもHDDに比べて低くて済む。5年間のバックアップコストは、HDDのおよそ4分の1だと富士通は講演で述べていた。これはバックアップ容量を毎年28TBずつ増やしていった場合のコストをハードウェア、電気料金、ファシリティのトータルで比較した場合である。

データストレージ用磁気テープ規格「LTO-6」の主な仕様。磁気テープ装置はデータを読み書きするドライブ(磁気ヘッド)と、データの記憶媒体であるテープカートリッジで構成されている

 そして意外に知られていないことなのだが、データ転送速度ではHDDと磁気テープはほぼ同等の性能を有しており、なおかつ性能向上を継続してきたのだ。磁気テープの業界標準は「LTO(Linear Tape Open)」という技術仕様なのだが、2000年頃に誕生した第1世代の「LTO-1」以降、バージョンアップを重ねてきた。最新の仕様は2012年に登場した第6世代の「LTO-6」である。この間、データ転送速度は年平均19%の割合で高速化してきた。LTO-6のデータ転送速度は160MB/secである。LTO-1が20MB/secだったので、8倍に向上している。

 ネットワークに接続されていることは、多大な利便性を提供する。しかし一方で、ネットワークを通じて意図せざる不具合も伝わってしまう。オンライン状態は、セキュリティの観点からも好ましくないことがある。今後はオンラインとオフラインを適切に使い分けることで、巨大なシステムの信頼性や安全性、可用性などを担保していくことになるだろう。

(福田 昭)