イベントレポート
Microsoft、春に予定しているWindows 8.1の大規模アップデートの概要を明らかに
~Windows PhoneはAndroid向けのリファレンスデザインでも動作可能に
(2014/2/24 12:08)
米MicrosoftはMWC 2014の会期前となる2月23日(現地時間)に、スペイン バルセロナ市内のホテルで記者会見を開催し、同社のモバイル向け戦略についての説明を行なった。Microsoftは4月に「Build」と呼ばれる自社のカンファレンスを米サンフランシスコで行なうことを計画しており、より詳細な内容はそこで発表される見通しであるため、今回の記者会見では、主にこの春に予定されているWindows 8.1、Windows Phone 8の大規模アップデートに関する話題、さらにWindows Phoneのビジネスサイドの話題が中心となった。
その中でPCユーザーにとって注目の内容は、この春に予定されているWindows 8.1にとって初めての大規模アップデート(通称:Update1)の内容で、Microsoft OS担当副社長のジョー・ベルフィオーレ氏は「この春に予定しているWindows 8.1のアップデートでは、キーボード/マウスユーザーのためのユーザーインターフェイスへのアップグレード、メモリ1GB/16GBストレージしか搭載していないデバイスへの対応、さらにはエンタープライズ向けの機能拡張などが行なわれる」と述べ、キーボードやマウスで使っているユーザーの不満を解消するようなアップデートを加えることを明らかにした。
また、Microsoftは同社がスマートフォン向けに提供しているWindows Phone 8に対しても新しいハードウェアデザインを提供することを明らかにし、SoCベンダーのQualcommが提供しているAndroid向けのリファレンスデザイン機で、Winodws Phoneを動かすことができるような改良を加えることを明らかにした。
これにより、従来よりもより広範囲なOEM、ODMメーカーがサポート可能になり、各プラットフォームベンダが対応を急いでいる低価格レンジの製品にMicrosoftも取り組んでいく姿勢を明確にした。
春のアップデートで、キーボード/マウスユーザー向け機能、ハードウェア要件緩和などを提供へ
Microsoftのベルフィオーレ氏はWindowsのエコシステムについて触れ、「Windowsにはさまざまなデバイス用のさまざまなプラットフォームがある。しかし、それらのシステムはコア部分を共用しており、さらにどのデバイスでも同じユーザーインターフェイスを利用でき、クラウドを活用すればWindowsの体験を複数のデバイスで共有できる」と述べ、現在Microsoftが家庭用機器向けとして提供しているXbox One、デスクトップPC、ノートPC、タブレット、スマートフォンなどのOSが1つのプラットフォームとして動き、クラウドと連携することでユーザーにより便利な使い方を提案できるとアピールした。
その上で、まずはPC用のOSであるWindows 8.1について触れ「Windows 8はMicrosoftの歴史を振り返っても非常に大きなOSのアップデートで、Modern UIやタッチ機能の導入など、OSを再デザインしたようなものだ。その1年後にMicrosoftの歴史上最も早いOSのバージョンアップとして導入されたWindows 8.1でも、米国のリテール市場で40%がタッチ対応製品になるなど成功を収めている。ただ、タッチを使っていないユーザーの中に不満を感じているユーザーがいることは認識しており、次のアップデートでこの点に対処することにした」と述べた。
この大規模アップデートは、機能強化を目的としたものになると言われており、業界では通称「Update1」(アップデートワン)と呼ばれているモノになる(なお、ベルフィオーレ氏はUpdate1という言い方はせず、“春のアップデート”という表現を使っていた)。
以前からMicrosoftは、Windowsの機能強化としてUR(Update Rollup)と呼ばれるアップデートをWindows Vista/7時代に提供していたが、このUpdate1は1カ月に1回のセキュリティのアップデートとは異なり、新機能の追加が行なわれる点が大きな違いとなる。また、Windows 8からWindows 8.1へのアップグレードがWindowsストア経由で行なわれたのに対して、この“春のアップデート”はWindows Update経由で提供されることも大きな違いになる。
ベルフィオーレ氏は「このアップデートには大きく3つの目的がある。ノンタッチユーザーに対して使いやすくするユーザーインターフェイスの改良、ハードウェア要件を下げたオプションの提供、エンタープライズ向けの機能だ」と述べ、その概要を説明した。
ノンタッチユーザーに対してのユーザーインターフェイスの改良とは、Modern UIをキーボードやマウスで利用する時により使いやすくする工夫だ。「Windows 8/8.1ではタッチで利用するには確かに素晴らしい体験を提供できるのだが、その反面キーボードやマウスで使うユーザーが不満を感じていたことを私たちは認識している」とMicrosoftも認めた。
このため、Modern UIのスタートメニューにチャームを出さなくても検索や電源をオフにできるボタンを追加したり、Modern UIでマウスの右ボタンクリックでできることを増やしたりという機能追加を行なう。また、Windowsストアアプリは、現在Modern UIからしか起動できないが、タスクバーにピン留めして起動することができるようになるという。
ハードウェア要件の緩和では、現在のWindowsタブレットなどでは、必要最低限の要件として2GBのメモリと32GBの内部ストレージが必要とされているが、これを1GBメモリと16GBストレージに緩和する。この件は事前の情報では2015年になったという話も出ていたのだが、この春のアップデートで緩和されることが決定したようだ。ただし、ベルフィオーレ氏は今回どのような形でこの要件緩和を実現するのかは言及しなかった。
また、エンタープライズ向けの改善では、Internet Explorer 11に、Internet Explorer 8互換モードを追加する。これは企業のWebシステムなどで、IE8を前提としたシステムなどがあり、Windows 8.1にOSのバージョンを上げると、それらが利用できなくなることが問題になっていたからだ。
ただし、ベルフィオーレ氏が明らかにしたのはこれだけで、より詳細に関しては「今後発表する」とだけ述べて、説明しなかった。4月上旬の開発者向けイベントBuildで、これらの詳細も明らかになるだろう。
Windows Phoneのビジネスモデルは大転換し、低価格機が実現可能なエコシステムへ
ついで、ベルフィオーレ氏は、Microsoftのもう1つのモバイル向けOSとなるWindows Phoneに関する説明を行なった。
ベルフィオーレ氏はWindows Phoneについていくつかの現状(西欧でのシェアが10%を超えている国が増えていること)を紹介し、日本を除くアジア太平洋地域や、アフリカなどの成長市場でWindows Phoneが伸びていることを強調した。その上で、Windows Phoneへのテコ入れとして、ユーザーからも指摘されているアプリの少なさを解決するために働きかけを強めており、特にユーザーからの要求が多かった「Facebook Messenger」をFacebookと協力して開発し近々リリースすることを明らかにした。
そして、「この春の終わりにアップデートを提供する。Windows 8.1で提供するアップデートよりもより多くのアップデートを提供する予定だ」と述べ、Windows Phone 8にも春にアップデートを提供する予定であることを明らかにした。そこには、S-MIMEの対応、VPNへの対応、エンタープライズWi-Fiのサポート、MDMの拡張、認証管理などのエンタープライズ向けの機能も含まれており、大きなアップデートになると強調した。
さらに、Windows Phoneのハードウェア設計を、OEMメーカーがより柔軟に行なえる仕組みについても説明を行なった。ベルフィオーレ氏によれば、今後Windows Phoneでは、Qualcommの新しいSoC、特に低価格向けになる「Snapdragon 200/400」などのサポートを追加するほか、512MBのメインメモリ、ストレージ4GBでも端末を設計できるようにする。また、これまでは必ず3つのハードウェアキーを必要としていたのをソフトキーでも代用できるようにし、カメラのシャッターボタンも必須だったのをオプションに。さらにモデムに関しても、キャリアが必要とするようなより多くのオプションを提供する。また、従来の設計デザインでは、MicrosoftとQualcommが指定した周辺チップ(例えばセンサーなど)しか利用できなかったが、新規にドライバを提供することでAndroid用として提供されている周辺チップも利用できるようにしてコストダウンできるようにする。
また、現在Android用に提供されているQualcommのリファレンスデザインで、そのままWindows Phoneを動くようにして、OEM/ODMメーカーが外見だけを変えることで、簡単にスマートフォンを設計できるようにする。さらに、現在のWindows Phoneではサポートされていないが、新興国の市場では必須の機能とされているデュアルSIM(SIMカードを2つ挿して切り替えて利用する機能)の環境もサポートする。実際、ベルフィオーレ氏はデュアルSIMを組み込んだサンプル製品を公開し、実際に動いている様子をデモした。
ベルフィオーレ氏は「こうした取り組みにより、どんなOEMメーカーでも、ODMメーカーでも、Windows Phoneを製造することが可能になる」と述べ、現在のように限られたOEMメーカーだけに絞ることで製品品質の維持を目指す路線を諦め、規模拡大のために大規模にOEMメーカーやODMメーカーに参入を呼びかける戦略に大転換したことを明らかにした。すでに別記事で説明したとおり、今年のMWCでは、199ドル以下の低価格製品という新しい市場に対してどのように取り組んでいくのかが最大のテーマになっており、このままいくとAndroidの一人勝ちとなりそうな状況に対して、Microsoftなりの回答ということになる。
Lenovo、ZTE、LG、FoxconnなどもWindows Phoneに参入
次いで壇上に登場した、MicrosoftワールドワイドOEM担当副社長 ニック・パーカー氏は「OEMメーカーはQualcommのリファレンスデザインをそのまま利用して簡単にWindows Phoneを製造することができる」と述べ、Microsoftとしても、設計やデザインなどの点で積極的にOEMメーカーをサポートしく姿勢を見せた。パーカー氏によれば、Microsoftは小規模のOEMメーカーやODMメーカーをサポートする仕組みも計画しており、ポータルサイトを通じてサポートを提供していく方針を持っている。そのポータルでは、OEMメーカーが顧客となる通信キャリアを探すことなどを助ける仕組みなども提供される予定で、まさに現在Windows PCのエコシステムで行なわれているような仕組みがWinodws Phoneにもたらされることになる。
そうした小規模のOEM/ODMメーカーに加えて、大規模なOEMメーカーへの売り込みを進めており、現在の4つの主要なOEMメーカー(HTC、Huawei、Nokia、Samsung)に加えて、Lenovo、ZTE、LG Electronics、Foxconnといった新しいOEMメーカー、ODMメーカー9社がWindows Phoneのビジネスへ参入することが明らかにされた。
現時点ではどのような製品がリリースされるかに関しての言及は無かったが、今後それらのOEMメーカーからWindows Phoneを搭載した端末がリリースされる可能性があり、ぜひとも日本でも販売される日が来ることも期待したいところだ。