Androidを搭載したカラフルな腕時計の試作品が登場
「ARM TechCon 2011」には講演会のほかに、展示会が併設されている。ARMはもちろんのこと、ARMのエコシステムを構成するサードパーティ企業が半導体チップや設計ツール、応用製品などを出展している。講演会と違って試作品や開発品などのハードウェアとソフトウェアを実際に試せる貴重な機会でもある。
「i'm WATCH」の外観。1.55型のタッチパネル液晶ディスプレイを搭載する。ディスプレイの解像度は240×240画素(密度は220画素/インチ) |
応用製品の展示で注目を集めていたのが、Androidを搭載したカラフルな腕時計「i'm WATCH」の試作品である。イタリアの企業2社(Blue SkyとSi14)が共同で開発したもの。スマートフォンやメディアタブレットなどのモバイル機器とBluetoothによって通信し、データをやり取りする。スマートフォンあるいはメディアタブレットなどのBluetooth通信機能を備えたネットワーク端末をユーザーが所有していることが、前提になっている機器だとも言える。
i'm WATCHは、正方形の板状の本体と、腕輪で構成されている。全体の重量は70g。腕にはめてみると、普通の腕時計よりもやや重い。重さはあまり気にならないものの、ディスプレイは腕時計の文字盤としてはかなり大きく、やや奇異な印象を受ける。ちなみにディスプレイは1.55型のマルチタッチ方式カラーTFT液晶パネルである。
標準的な表示は、現在時刻と月日、曜日、天気情報、現在地情報と、電話機能(内蔵のマイクとスピーカを利用した音声通話機能)や電子メール、アドレス帳などのアプリケーション(アプリ)のアイコンを混在させたもの。このほかに、アナログ時計や番号入力画面、天気予報などに表示画面を変えられる。表示画面を変更するときはタッチパネルを指で触れ、斜めにスワイプする。
ディスプレイの表示を変更した例。左からアナログ時計、番号入力キーボード、フォトギャラリー | ディスプレイの表示を変更した例。左から天気予報、Facebook、アドレス帳 |
i'm WATCHの主な機能 | 展示会場のブースに置かれたi'm WATCHの試作品(上)と回路基板(下)。試作品の左側面に接続されているのは充電用プラグ |
●バッテリ寿命はかなり厳しい
気になるのはバッテリ寿命だが、展示ブースの説明員によるとディスプレイをオンにした状態で5時間くらい。カタログ値では音声通話時(スピーカ使用)のバッテリ寿命は2時間である。ふだん持ち歩くことを考えると十分とは言えず、改良の余地が大きい。
バッテリはリチウムポリマ2次電池で容量は450mAhである。単4形ニッケル水素2次電池の半分以下の容量だが、重量の制限を考えるとこれがぎりぎりなのだろう。なお充電はUSBケーブルを使う。本体側面に、オーディオ出力とデータ通信と充電を兼ねたジャックが設けてある。
i'm WATCHのアプリはAndroidマーケットで流通しているものとは異なる、独自の流通市場を介してアプリをダウンロードする。これは搭載したAndroidが標準のカーネルではなく、カスタマイズしたものだからであることが大きい。Android 1.6をベースに必要なメモリ容量(フットプリント)をさらに少なくしたOSだという。
小型軽量化のためとはいえ、Androidマーケットのアプリが走らないのはかなり残念であるし、i'm WATCHがビジネスとして成功するかどうかの懸念材料でもある。もっとも、スマートフォンよりもずっと小さなディスプレイでアプリを正確に表示することは難しい。やむを得ないとも言える。
●Cortex-A9コアのプロセッサを搭載26日の午後には、講演トラックでi'm WATCHの技術内容が公表された。以下はその概要である。
まず、i'm WATCHが装備する無線通信機能はBluetoothだけである。バージョンは2.1プラスEDR。バッテリの消耗を抑えるため、そのほかの無線通信機能は持たない。有線インターフェイスはUSB 2.0。i'm WATCHはUSBクライアントとして動作する。
メインプロセッサはFreescale Semiconductorの「i.MX233」である。CPUコアはCortex-A9コアで、最大動作周波数は454MHz。動作周波数は負荷に応じて454/390/360/262MHzと動的に変更している。
メインメモリはLPDDRタイプのSDRAMで容量は64MB(512Mbit)、最大動作周波数は166MHz。フラッシュストレージとして4GBのeMMCモジュールを内蔵する。
外形寸法はディスプレイ部が38mm角、ディスプレイパネルが28mm角。ディスプレイは緩やかな曲面を描いている。
さまざまな外装色が用意される |
Android搭載でアプリが動く腕時計が登場することは、ARM TechConの開催前に一部の海外オンラインメディアが報じていた。このため相当な期待を持って実物を見に行ったのだが、現状では残念ながら、エンドユーザの視点では、それほど完成度が高いとは言えない。特にAndroidマーケットのアプリが使えないのは痛い。またバッテリ寿命が短いのも、つらいところだ。一方、市販部品の組み合わせで開発したハードウェアとしてみると、かなり頑張っているとの印象を受ける。
こういった新しい試みは、それ自体が非常に重要なことだ。市販部品の性能は時間の経過とともに向上するので、2~3年後には、消費電力を一段と引き下げたハードウェアを作れるようになるだろう。今後の発展に期待したい。
(2011年 11月 4日)
[Reported by 福田 昭]