米Appleが次期OSや関連する技術情報などを開発者向けに開示するWWDC(Worldwide Developers Conference:世界開発者会議) 2011が、6月6日(現地時間)から米国サンフランシスコで開幕する。オープニングでは、病気療養中という状況は変わっていないものの、今年もスティーブ・ジョブズCEOがステージへと登壇予定。同氏と同社エグゼクティブによって基調講演が行なわれると正式に発表された。WWDC2011の基調講演は、6日午前10時(日本時間7日午前2時)から開始される。
●Mac OS X Lion、iOS5、iCloudの披露にプラスαはあるか?今年も会場となるMoscone Center West。入り口にはシンプルなWWDC2011のバナーとフラッグが見える |
ここ数年のWWDCを振り返ると、2007年以降はiOS(当初はiPhone OSという名称)とiPhone関連の内容が大きな割合を占めている。iPhone 3G、iPhone 3GS、iPhone 4はいずれもこのWWDCが製品発表の舞台にもなった。特に2010年のiPhone 4とiOS4にフォーカスしたWWDC10に至っては、おそらくWWDC史上はじめてMac OSの画面がスライドに登場しなかったイベントとなっている。
いっぽうでその間もMac OS Xは着実に歩みを進めてきた。2007年には10.5にあたるLeopard、2009年には10.6のSnowLeopardを発表、それぞれWWDCから数カ月のスパンで製品リリースが行なわれている。2011年は、すでに開発コードネームが発表されている“Lion(ライオン)”がMac OS Xの8番目のメジャーリリースとして紹介される。
Lionのスクリーンショットや開発の方向性などは、同社のSpecial Eventですでにアナウンスされた。名称の発表以降は公式プレビューサイトが公開されており、Lionに搭載される各種機能などが紹介されている。SnowLeopardに先行して搭載されているMac App Storeをはじめ、iPadライクなアプリケーションランチャーのLaunchpad、アプリケーションのフルスクリーン化、DashboardとExposeを統合したMission Control、ジェスチャー操作の拡張、Mail5となるMail.appの一新などが掲載されている。守秘義務を結んだ開発者に向けたプレビュープログラムも順調に進行しているようで、公式サイトには「2011年夏、登場」の予告もあり、場合によってはWWDC開幕当日に「Mac OS X Lion」の正式リリースという可能性も高い。
今回のWWDCは同社としては珍しく、その内容について事前にアナウンスが行なわれている。同社リリースによれば、『Appleの次世代ソフトウエア「Mac OS X(マックオーエステン)」の8番目のメジャーリリースとなるLion(ライオン)、およびiPad、iPhone、iPod touchを動かすAppleの先進のモバイルオペレーティングシステムの次世代バージョン「iOS 5(アイオーエスファイブ)」、そして近くAppleが提供を開始するクラウドサービスである「iCloud」が披露されます。』とのことだ。
Lionは前述したとおりの状況。いっぽうiOS5は昨年までのようなSpecial Eventで行なわれた事前プレビューなどがまったくない状態で、WWDC2011での初披露となる。これまではiPhone OSに初代iPhone。2.0にはiPhone 3G、3.0にはiPhone 3GS、iOS4にはiPhone 4と、iPhoneの新モデルにあわせてバージョンアップを行なってきているだけに、WWDCで披露されるiOS5の位置づけにも注目したい。iOS5はこれまで一切のプレビューがなかっただけに、WWDCでiOS5の概要をアナウンスしてβ版を開発者向けに公開し、後日次世代のiPhoneとともに正式リリースという流れになるのではないかと、筆者は予想している。
iCloudは、リリースでは「近くAppleが提供するクラウドサービス」とされているが、多くのユーザーが期待するように、そのクラウドサービスの中に、長く噂の絶えることのなかったクラウド型音楽サービスが含まれる可能性が高い。すでに米Amazonはロッカー型のクラウド音楽サービスを開始しており、Googleもまた先日のGoogle I/OでMusic BETAをアナウンスした。こちらもロッカー型で、現在は米国内に限り招待制でβテストを行なっているという状況だ。iCloudのサービスに音楽が含まれるとしたら、世界最大の音楽配信サービスであるiTunes StoreをもつAppleがどのような戦略を描き、先行した2社といかに差別化されたユーザーエクスペリエンスを提供してくれるのかという部分に期待が高まる。
一方で、Appleはクラウドサービスである「Mobile me」をすでに運用しており、iCloudがこれに変わるものなのか、あるいはどのような形での融合を目指すのかという点にも注目したい。特に例年初秋に行なわれるiPodやiTunesを中心とした音楽にフォーカスしたSpecial Eventではなく、開発者の集うWWDCで披露するとアナウンスしているだけに、iCloudはユーザーとして利用するだけのクラウドサービスではなく、開発者にとってはAPIが公開されたり、iCloudを利用するソフトウェア開発などが行なえるクラウドサービスになるのではないだろうか。
雄々しいライオンの姿。Mac OS X Lionの大型バナー | WWDC2011で初めて概要が披露されるiOS5の大型バナー | 名称に続いてアイコンがお目見え。iCloudの大型バナー |
事前に基調講演の内容をアナウンスしているとは言え、必ずしも隠し球がないとは限らない。またそれを期待させてくれるのがAppleという企業である。本来、開発者向けであるイベントが、これだけエンドユーザーの注目を集めるというのも極めて稀な例だ。
筆者個人としては前述したとおりiOS5に関連して今回は新iPhoneのアナウンスはないと見ているが、iCloudの名称が出てからにわかに注目を集めているのが、同社の「TimeCapsule」だ。同製品はMac OS XのTimeMachineに対応するバックアップストレージであるほかに、プリンタサーバー、Windowsとのファイル共有、簡易NASといった機能を備える無線ネットワーク対応製品。MacからもiOSデバイスからも無線でアクセスできるパーソナルなネットワークストレージである同製品と、iCloudというクラウドストレージが何らかの形での融合するというのはあり得る話だ。いずれにせよ、こうしたプラスαは当日の発表に期待を寄せたいと思う。
●またも最短記録を更新。わずか半日足らずでソールドアウトした参加チケットWWDCには世界中から5,000人余りの開発者が集まる。Appleは3月28日午前(現地時間。日本では3月28日の午後10時過ぎ)にWWDC2011の開催と会期を正式発表したが、同時に販売が開始された1,599ドル(国内向け販売価格は134,800円)の参加チケットは、約10時間後にはソールドアウトした。事前段階でのチケット完売は2008年以来続いているが、前回はそれでも1週間余りは完売までに時間を要している。今回、さすがに1日保たなかったというのは驚くべき過熱ぶりと言っていい。ちなみに、五月に開催されたGoogle I/Oのチケットも販売開始からおよそ2時間ほどで完売している。いずれのイベントも、わずか4~5年前までは当日会場に来ても参加チケットが購入できたということが信じられない状態だ。
前回は販売時期が日本のゴールデンウィークにあたり、大規模な企業や学術系機関などでは出張申請や稟議書を回すのが困難だったであろうという感想を書いたのだが、今回の10時間足らずというスピードは平常営業日であっても厳しいスケジュールとなったものだ。それでも、筆者の知る日本人の開発者達は着実に参加チケットを入手し、続々と現地入りしている。AppleがWWDC2011で示す2つの次世代OSとiCloudのビジョンと、開発者がそれに応えて開発するさまざまなソリューションや製品の発展に期待したい。
開幕を控えて、会場となるMoscone Center Westでは着々と準備が進んでいた。入場パスの配布は日曜日から始まっており、参加チケットの購入時に事前登録を終えている参加者が、断続的にパスの受け取りに訪れていた。パスポートなどの身分証明書の提示で、入場パスとWWDC限定グッズのフリースなどを受け取ることができる。現時点で入場可能な1階のフロアには、特に黒い幕で覆い隠されたバナーは見あたらない。バナーは3つあって、それぞれ「Mac OS X Lion」、「iOS5」、「iCloud」が描かれている。そして、カウンター奥にある大型のバナーには「Mac OS X Lion+iOS5+iCloud=WWDC」というシンプルなアイコンの演算結果が示されている。
5日間にわたるWWDCの中心となる数々のセッションは、参加者と同社の間でNDA(Non Disclosure Agreement:機密保持契約)が結ばれている。セッションに参加する場合にはメディア関係者であっても開発者として正規の参加申し込みを行なった上で参加しているため、個々のセッションの内容を記事として公開することができない。会期中は唯一、基調講演で話された内容と、WWDCで正式発表された製品情報のみを記事として紹介することになる。
PC Watchでは基調講演のレポートを中心に、関連のニュースを随時お届けする予定である。
(2011年 6月 6日)
[Reported by 矢作 晃]