~エルピーダ、Micron、SamsungがDRAM市場を展望
半導体メモリの技術と市場を展望する専門講演会「MemCon Tokyo 2010」の基調講演レポートに続いて、今回は午後の講演セッションから、DRAMベンダーによる講演の概要をお届けする。講演社はエルピーダメモリ、マイクロンジャパン、日本サムスンである(講演順)。
●エルピーダメモリ:DDR3タイプとDDR4タイプの境界は2,000Mbps前後エルピーダメモリでモバイル&コンシューマDiv マーケティングGr エグゼクティブプロフェッショナルをつとめる吉富安雄氏 |
DRAMベンダーの講演セッションでは始めに、エルピーダメモリでモバイル&コンシューマDiv. マーケティングGr. エグゼクティブプロフェッショナルをつとめる吉富安雄氏が「Elpida Memory Solution to All Electronics Systems」と題して講演した。
吉富氏は始めに、DRAM市場の最新状況を概観した。年間に1Gbit換算で100億個のDRAMチップが世界全体で出荷されており、その約8割がPC及びサーバー向けだとする。PC及びサーバー向けではDDR2タイプからDDR3タイプへの置き換えが急速に進んでおり、2010年には、PC新製品及びサーバー新製品のすべてがDDR3タイプを搭載するようになると述べていた。DDR3タイプで主流となる速度(最大データ転送速度)は1,333Mbps。いわゆるDDR3-1333品がDRAM市場では標準的な品種となる。
DDR3タイプでもより高速な、DDR3-1600品の搭載製品が登場するのは2011年になる。記憶容量は2010年~2011年とも1Gbitが主流である。2Gbit品を搭載したPCあるいはサーバーが登場するのは、40nm世代の半導体微細加工技術であるArFレーザー液浸リソグラフィが熟成される時期になるという。それは2010年~2011年のどこかのタイミングで起こると説明していた。
PC及びサーバー以外の用途では、デジタル・コンシューマと携帯電話(スマートフォンを含む)に分けて動向を示した。デジタル・コンシューマは大きく、据置きのデジタル家電(TV、ゲーム機、Blu-ray Disc機)とポータブル(デジタルスチルカメラ)に分かれる。
据置きのデジタル家電にはDDR2タイプが主に搭載されており、一部のゲーム機はXDRタイプを搭載しているとした。DDR3タイプへの移行はPC及びサーバー向けに比べるとゆっくりと進む。2011年の春モデルからDDR3タイプが載るようになる。PC及びサーバー向けに比べると、1年~1年半の遅れがあるという。ポータブルは低消費電力のLPDDRタイプとDDR2タイプに分化している。今後は、低消費電力の次期品種であるLPDDR2タイプの割合が増えていく。
携帯電話(スマートフォンを含む)は、複数の機能ブロックでDRAMを使う。大別するとベースバンド・プロセッサ用DRAM、カメラ・モジュール用DRAM、アプリケーション・プロセッサ用DRAMがある。いずれも現在の主流はLPDDRだが、仕様は若干違う。ベースバンド・プロセッサ用とカメラ・モジュール用は消費電力の低いDRAMを要求しており、性能はそれほど追求しない。これに対してアプリケーション・プロセッサ用はスマートフォン向けを中心に高速のDRAMを要求する。このため、データ転送速度が800MbpsのLPDDR2タイプを搭載した新製品が2010年の冬モデルには登場する。アプリケーション・プロセッサ用DRAMは搭載容量(合計)も増える。合計3Gbitだったのが2010年の冬モデルには4Gbitを搭載するようになる。一部には、8Gbitを搭載する機種が登場するという。
このほかPC用グラフィックスDRAMは、デスクトップPCのバリュー品がDDR3タイプへ移行し、メインストリーム品とパフォーマンス品、エンスージアスト品がGDDR5タイプに移行する。ノートPCはメインストリーム品がDDR3タイプを搭載し、パフォーマンス品とエンスージアスト品がGDDR5タイプを搭載する。
またDDR3タイプの高速化トレンドについては、1,333Mbps品の次は1,600Mbps品、その次は1,867Mbps品が予定されていることを示した。1,867Mbps品の次に相当する2,133Mbps品は流動的で、次世代規格であるDDR4タイプがカバーする可能性もある。DDR3タイプとDDR4タイプの境界は2,000Mbps前後にあるとの見解を吉富氏は述べていた。気になるのはDDR4タイプへの移行時期だが、30nm台前半あるいは20nm台後半の半導体微細加工技術が量産可能になる時期が、DDR4タイプへの移行時期だと説明していた。
DRAM全体の製品動向。DDR2からDDR3へ、LPDDRからLPDDR2へと移行する | PC及びサーバー向けDRAM製品の動向 | デジタル・コンシューマ向けDRAM製品の動向 |
携帯電話(スマートフォンを含む)向けDRAM製品の動向 | グラフィックスDRAM製品の動向 | DDR3タイプの高速化とDDR4タイプへの移行 |
●マイクロンジャパン:Numonyxの買収で半導体メモリのナンバー2に
マイクロンジャパンでDRAMマーケティングのシニアマネージャーをつとめる加藤毅氏 |
エルピーダメモリの次は、マイクロンジャパンでDRAMマーケティングのシニアマネージャーをつとめる加藤毅氏が「マイクロンの日本市場戦略」と題して講演した。加藤氏は始めに、マイクロンジャパンの親会社である米国のMicron Technologyの、これまでの歴史をかいつまんで述べた。
Micron Technologyは'78年に米国アイダホ州ボイジ市を本拠地とする、DRAM専業メーカーとして設立された。'80年代前半にはDRAM好況の波に乗って事業を急成長させ、'84年には米国NASDAQ市場に上場する。加藤氏の講演では省かれたが、'85年には一転してDRAM価格が暴落し、日米半導体貿易摩擦が勃発する。このとき米国政府に対して率先してロビー活動を実施した半導体企業群の1社がMicron Technologyであったことは、当時の半導体業界関係者の間では常識である。
加藤氏の講演に話題を戻そう。'98年に半導体大手のTexas Instruments(TI)がDRAM事業から撤退し、Micron TechnologyはTIのDRAM事業を買収する。なおこれも加藤氏の講演にはなかったが、TIはこのとき日本の鉄鋼メーカー神戸製鋼所と合弁でKTIセミコンダクターを兵庫県西脇市に設立済みであり、KTIセミコンダクターが2001年5月にMicron Technologyの100%子会社「マイクロンジャパン」となる。マイクロンジャパンの本社所在地が兵庫県西脇市であるのは、こういった経緯による。
再び加藤氏の講演に話題を戻そう。Micron Technologyは2002年には東芝の汎用DRAM子会社(米国バージニア州)を買収する。2006年にはIntelとNANDフラッシュメモリの製造合弁会社IMFTを設立する。2006年にはNANDフラッシュメモリ応用製品のベンダーLexar Mediaを買収する。2008年にはドイツのDRAMベンダーQimondaが所有する台湾のDRAMベンダーInotera Memoriesの株式を購入する。買収を繰り返すことで事業を拡大していったことが分かる。
それから加藤氏は、NORフラッシュメモリの大手ベンダーNumonyxをMicron Technologyが2010年2月に買収した件を紹介した。Numonyxの買収によってMicronはこれまでのDRAM、DRAMモジュール、NANDフラッシュメモリ、SSD、NANDフラッシュメモリカードといった事業に、NumonyxのNORフラッシュメモリ、NANDフラッシュメモリ、マルチチップパッケージ、相変化メモリ(PCM)といった事業を追加・統合したことになる。半導体メモリ全体でみるとMicronは市場シェア14%で売上高ランキング第3位、Numonyxは市場シェア5%で第6位にあり、買収によって市場シェア19%で第2位のベンダーが誕生したことになる。
そしてDRAM事業の説明に入った。MicronはDRAM事業を5つのセグメントに分けている。パーソナルシステム(PCはこのセグメント)、サーバー、グラフィックス/コンシューマ、ネットワーク/ストレージ、自動車/産業である。それぞれのセグメントにおけるDRAM製品の現状と今後を展望した。
パーソナルシステム(PCはこのセグメント)向けのDRAM製品は、2010年時点でDDR3タイプの1Gbit品が標準となっている。DDR3タイプが主流の状態が今後しばらくは続く。次世代のDDR4タイプが市場に出てくるのは、2013年~2014年になると予測する。1Gbit品から2Gbit品への世代交代は、2010年後半に始まる。そして2012年には4Gbit品の量産が立ち上がる。
サーバー向けDRAMはDDR3タイプの1Gbit品と2Gbit品が主流である。DDR3タイプでも消費電力を下げた、電源電圧1.35VのDDR3Lタイプ品がサーバー向けでは使われる。またDRAMモジュールの容量は2GBから4GBへの世代交代が進む。2011年には8GBの大容量モジュールが搭載され始める。
コンシューマ向けDRAMは、DDR2タイプの1Gbit品が主流である。DDR3タイプへの移行は2011年~2012年になる。グラフィックス向けDRAMは、DD2タイプとDDR3タイプが混在する。
ネットワーク/ストレージ向けでは、さまざまな容量のDRAMが併存する。2010年時点では256Mbit、512Mbit、1Gbit、2Gbitが混在する。動作モードではSDRタイプ、DDRタイプ、DDR2タイプ、DDR3タイプとこれもさまざまである。またこの分野では、SRAMの置き換えを狙ったRL(Reduced Latency)タイプのDRAMが製品化されている。
自動車/産業向けでは、動作温度が85℃の高信頼品が産業向け、動作温度が105℃の超高信頼品が自動車向けに要求される。記憶容量と動作モードはさまざまで、256Mbit/512Mbit/1Gbit、SDR/DDR/DDR2が混在する。
Micron Technologyの略史 | Micron Technologyの主な製品とNumonyxの主な製品 | 半導体メモリベンダーの売上高ランキング(2009年) |
DRAM事業のセグメント | パーソナルシステム(PCはこのセグメント)向けDRAM製品の動向(2010年~2014年) |
●日本サムスン:スマートフォン向けにLPDDR2 DRAMをプッシュ
日本サムスンでMemory技術品質担当の部長をつとめる金相局(Kim Sangkuk)氏 |
DRAMベンダーによるセッションの最後は、Samsungグループの日本法人である日本サムスンでMemory技術品質担当の部長をつとめる金相局(Kim Sangkuk)氏が「Green & Portable-friendly Mobile DRAM Solution」と題して講演した。現在、急速に出荷台数を伸ばしているスマートフォンの動向と、Samsung Electronicsのスマートフォン向けDRAM事業を主に紹介した。
スマートフォンの出荷台数は最近になって急速に伸びており、2010年には前年に比べて56%増の2億8,300万台に達した。スマートフォンが搭載する半導体メモリの容量も急速に増加しており、2010年にスマートフォン1台当たりの半導体メモリ搭載容量は6.5GBに達した。内訳はDRAMが298MB(2,384Mbit)、NANDフラッシュメモリが6.2GB(49.6Gbit)である。またスマートフォンがDRAMに要求するデータ転送速度が、急速に増加してきた。
こういった状況に応えるべく、Samsung Electronicsは、スマートフォン向けDRAMとしてLPDDR2タイプのDRAMに注力しているとする。スマートフォンを含めた携帯電話機向けには現在、Mobile DRAM(LPDDR DRAM)が使われている。Mobile DRAMに比べるとLPDDR2 DRAMはデータ転送速度当たりの消費電力がおよそ2分の1に減少する。
Samsungは46nmプロセスを利用し、2010年にデータ転送速度800Mbpsの2Gbit品の生産を開始し、2011年にはデータ転送速度1,066Mbpsの1Gbit品の生産を始める。次世代の3Xnmプロセスによる1,066Mbpsの4Gbit品の生産も、2011年には開始する計画である。その結果、2011年末にはLPDDR2 DRAMの比率が20%~30%に増え、Mobile DRAMの比率は70%~80%に低下すると予測した。
DRAMベンダー3社の講演から分かることは、まずPC用DRAMはDDR3タイプが標準になっていること。それからグラフィックス用DRAMはGDDR5タイプが主流になりつつあること。それからモバイル用DRAMは2010年から2011年にかけて、LPDDR2タイプが普及を始めることだ。DDR3とGDDR5とLPDDR2の3者がDRAMの主要品種として出荷される時期が、ここしばらくは続く。
(2010年 6月 30日)
[Reported by 福田 昭]