【PDC09基調講演レポート】
クライアントあってこそのクラウド

会期:11月17日~11月19日(現地時間)
会場:Los Angeles Convention Center



 米カリフォルニア州ロサンゼルスで開催中のMicrosoftのソフトウェア開発者向けカンファレンス「Professional Developers Conference 2009(PDC09)」。2日目の基調講演は、前日のAzure始動を支えるクライアントに関して、同社の方向性が論じられた。

●Windows 7はグレートなプラットフォーム
ウルトラセブンの歌のメロディに乗せてステージに登壇したミスターWindows 7ことシノフスキー氏

 この日の最初の登壇者は、Windows & Windows Live 担当プレジデントであるスティーブン・シノフスキー氏だった。ミスターWindows 7とでもいうべき人物で、Windows 7開発の陣頭指揮を執った人物だ。熱心な親日家としても有名で、一般向けパッケージの発売に際しては、自ら来日して新OSをアピールした。

 定刻を迎え、暗転した会場が静まると、そこに聞こえてきたのはなんと「ウルトラセブンの歌」のメロディだった。日本人でも、ある程度の年齢以上でなければピンとこないはずだが、その場にいた日本人プレスはこぞって大受け。前後左右の外国人プレスから、この曲はいったい何なんだと聞かれる始末だ。

 その曲にあわせてステージに登場したシノフスキー氏は、それがウルトラセブンのテーマで、日本で'60年代にヒットしたヒーローのストーリーであることを説明、ご丁寧にもスペシウム光線発射のポーズまで披露してスピーチを始めた。この調子では、次回のPDCで、エイトマンのテーマが流れてもおかしくなさそうだ。

 シノフスキー氏のスピーチは、おおむね、これまでのさまざまな機会に語られてきたことの集大成であり、特に新鮮味のあるものではなかったが、自らをプログラマーと称する人物だけに、会場の開発者たちには説得力のある内容として心に響いた様子だった。

 シノフスキー氏はWindows 7の開発プロセスは、実に良い仕事であったとし、その開発では、プリβからβ、そしてRCに至る中で、βの時点ですべての機能を実装していたことを強調、そのことがWindows 7を取り巻くエコシステムの充実にも貢献しているはずだとした。

テレメトリによる調査の結果。使われているデスクトップ解像度などの割合が徹底的に調査されている

 Windows 7が良いOSになったのは、テレメトリ調査の結果でもあるとシノフスキー氏。たとえば、ユーザーが使っているスクリーン解像度のほとんどがXGA(1,024×768ドット)で、それに続いてWXGA(1280×768ドット)となり、すでにフルHD解像度(1,920×1,080ドット)もある程度の割合を占めていたといった調査結果を披露した。

 Windows 7では、UACの挙動に改良が加えられ、有りと無ししか選べなかったVistaに対して、その中間に新たに2段階の設定が加えられ、デフォルトの設定は上から2番目になっているが、これも、ユーザーがUACのダイアログに接したときの挙動が丹念に調べられた結果だ。会場では、そのユーザーの挙動を調べる様子もビデオで紹介された。

 このほか、ウィンドウ管理に関しても、エアロスナップやエアロシェイクが、その実装検討段階で実に直感的なインターフェースとして受け入れられていることが、ビデオで流された。

 シノフスキー氏は、デベロッパーにとってのWindows 7には、ビジネスチャンスがたくさんあることを強調し、それがエコシステムとして業界全体のパワーを駆り立てるとした。新しい要素としてのリボンやジャンプリスト、Windowsタッチなどを例にあげている。

 ここで、ステージ上手に並ぶ機材群のところに移動したシノフスキー氏は、Windows 7をプリロードした各社の製品について解説しながら、Windows 7開発について話を進める。

 初代のEee PCでタスクマネージャで巨大なファイルを開いたときとVAIO Xで開いたときのプロセッサの使用率を比較し、Windows 7が非力なプロセッサしか持たないネットブックでも十分に実用的に動くことが想定されて開発されていたことや、NVIDIAのビデオチップとチップセット内蔵グラフィックスを切り替えられる高性能ノートPCにおいて、ネットブックに対するトランスコードの速度差を立証してみせたり、ATIのカードを実装したゲーミングPCがDirectX 11対応していることで、10倍ものポリゴンをたやすく処理できていることなどが紹介された。

 また、新たな実装として、センサーを使ったAPIではどのようなことができるかを紹介した。ライトセンサーを実装したPCでは、人が前にたつとスリープから復帰するといった具合だ。また、Windowsタッチについてもここで紹介されている。これらすべてが新たなトリガーとなってビジネスチャンスを作るということだ。

 この流れの中でAcerのコンパーチブルタイプのマルチタッチスクリーンを持つCULVノートPCが紹介され、これをPDC09 PCと命名、開発のために役立ててほしいと、全参加者へのおみやげとして、基調講演後配布されることをシノフスキー氏が発表すると、会場は沸きに沸いた。ローコストPCであるとはいえ、まさか、カンファレンスの配付資料としてハードウェアとしてのPCが配られる時代がくるとは感慨深いものがある。

PDC09 PCのスペック。マルチタッチデバイス装備のCULVノートPCだ基調講演後PDC09PCが配布された。当然、すぐに箱を開けて、その場で使い心地を試す参加者がたくさんいた

 ちなみに、会場での受け付け時に配布されるカンファレンスバッグがエコバッグに近い貧弱なものだったのに不況の影響を想像しつつ、何か変だとは思っていたのだが、これが理由だったようだ。なお、このPCをゲットできたのは、フルカンファレンスの正規参加者のみで、報道関係者やMicrosoftの関係者、講演者等は除外されていた。実機を紹介できないのが残念だ。

 続いてシノフスキー氏は現在開発が進められている次世代のブラウザInternet Explorer 9について紹介、そこで行なわれている数々のチャレンジを披露した。

 たとえば、レンダリングでは、GDIとDirect2Dが比較され、いかに後者がスムーズにレンダリングできるかを証明、地図のパンニングなどが披露されて、トップオブスタンダードとしてのIEをアピール、このブラウザに最適化してサイトを作れば、そのサイトはすばらしいものになると強調、そのAPIにビジネスチャンスがあるのは間違いなく、Windows 7とIEというグレートなプラットフォームにおいて、グレートなソフトウェアを開発してほしとしてスピーチを終えた。

●新SilverlightでWindowsでなくてもWindows体験
Silverlightがいかに大きな進化を果たしたかをアピールするるスコット・ガスリー氏

 続いてステージに登場したのは、.NET Developer Platform 担当コーポレート バイスプレジデントであるスコット・ガスリー(Scott Guthrie)氏だった。同氏のスピーチのハイライトはSilverlight 4が、当日、公開βとして提供開始されたというものだった。Silverlightによるクロスプラットフォームのエクスペリエンスは、その機能強化によって、一段とリッチなものになるとする。

 ガスリー氏は、Silverlightを使った各社のサイトを紹介しながら、新たにウェブカメラとマイクがサポートされたり、マルチキャストを受信することができるようになったことを紹介した。ウェブカメラとマイクのデモではカメラの映像にリアルタイムでエフェクトをかけ、変形してスクリーンに映し出された自分の顔をキャプチャし、その場でTwitterのプロフィール写真としてアップロードする様子が紹介された。また、バーコードリーダーのデモでは、本の背表紙に印刷されたバーコードをスキャンし、即座に各社のeコマースサイトで価格が抽出される様子などをデモンストレーションしていた。

 また、IISでのストリーミングの紹介では、新たにiPhoneがサポートされるようになったことが紹介されている。iPhoneでサイトにアクセスし、動画を再生する様子をデモンストレーションするガスリー氏だが、ここでハプニング。どうしても再生が始まらない。すかさず予備のiPhoneを取り出しす余裕のガスリー氏だが、やはりNG、驚いたことに3台目のiPhoneをポケットから取り出したガスリー氏は、それでもダメだとわかると、ようやく気まずそうな顔であきらめた様子。だが、ここで、ステージ下手から裏方のテクニカルスタッフがiPhoneを手に登場し、ガスリー氏にiPhoneを渡すのだが、やはりそれでもダメで、とうとうiPhoneでの再生はかなわなかった。これが仕組まれた演出なのか、ただのハプニングなのかは不明だが、新たなデバイスのサポートは事実である。

 さらに、新しいSilverlightは、ビジネスアプリの開発プラットフォームとして、プリントやリッチテキストの編集、クリップボードなどのサポートが加えられている。テキストエディタにはグリッドコントロールなども実装され、コピーしたグリッドをExcelに貼り付けると、きちんと表として認識されている様子が披露された。もちろん、専用クライアントのみならず、ブラウザそのものもアプリケーションになる。

動画を含むページをジグソーパズル化。各ピースでは同期してビデオが動き続けている

 また、動画を含むページをジグソーパズルのようにバラバラに表示しても、バラバラになったジグソーの各片で動画が同期して動き続けていたりする様子も紹介され、会場は大きな興奮に包まれた。

 ガスリー氏は、Silverlightがブラウザを超える存在として、サンドボックスでのWindows APIをサポートすることを紹介し、ローカルファイルシステムを扱えるようになったことなどをアピールし、新たな時代の到来を告げ、その日の公開β提供開始をアナウンスしてスピーチを終えた。もはやWindows OSがなくてもWindowsの世界を堪能できるといわんばかりである。

●Office 2010が新たなビジネスチャンスを創造する
Office 2010のベータ公開提供をアナウンスするカート・デルベーネ氏

 最後に登場したのはOffice Business Productivity Group 担当シニア バイスプレジデントであるカート・デルベーネ(Kurt DelBene)氏で、基調講演の締めくくりとして、「Microsoft Office 2010」、「Microsoft SharePoint Server 2010」、「Microsoft Visio 2010」、「Microsoft Project 2010」、「Microsoft Office Mobile 2010」といったOffice関連製品の公開β提供開始がアナウンスされた。

 デルベーネ氏は、Officeもまた、1つのプラットフォームであることを強調し、プロダクティビティ(生産性)、サービス、フレキシビリティ(柔軟性)の点で優れているさまざまな要素をアピールした。同氏はOutlook 2010のテクニカルプレビューでは実装されていなかった新機能として、メールの差出人に関する情報を各SNSと連動して取得できるOutlook Social Connectorを紹介し、その拡張性を強調した。

 Windows 7がそうだったように、ここのところのMicrosoftのβバージョンのクオリティはきわめて高いものになっている。Office 2010のテクニカルプレビューは7月に開始され、ほぼ4カ月、日常的に使い続けているが特に不便を感じていなかった。デルベーネ氏の貴重講演の前日、TechNet等で先行して配布が開始されたβをダウンロードして、渡米時に持参した3台のPCにインストールしてみたが、その仕上がりは期待を裏切らない完成度であるように見える。

 Office 2010は来年前半の正式リリースが予定されている。デルベーネ氏は、このプラットフォームと、「SharePoint Server 2010」との連携によって、オンプレミス(自社内)、クラウドの双方でこれらのコア機能を利用できるようになることは、開発者にとって、またとないビジネスチャンスになることに言及し、新たな製品として、SAPとの協業により実現した「Duet Enterprise for Microsoft SharePoint and SAP」をアナウンスして、来年起こるであろう新たなイノベーションに期待を高めてスピーチを終えた。

(2009年 11月 20日)

[Reported by 山田 祥平]