【IDF 2009レポート】ポール・オッテリーニ社長兼CEO基調講演
22nmプロセスルールウェハと、実働するSandy Bridgeを初公開

ポール・オッテリーニ氏

会期:9月22日~24日(現地時間)
会場:サンフランシスコ モスコーンセンター



 Intelの開発者向けイベント「Intel Developer Forum(IDF)」が、9月22日~24日(現地時間)の3日間にわたり、米国カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーンセンター西館において開催されている。

 初日にはIntelの社長兼CEOのポール・オッテリーニ氏による基調講演が行なわれた。同氏は、世界初となる22nmプロセスルールで製造されたSRAMのウェハと、Intelが来年のリリースを目指して開発を続けている次次世代のマイクロプロセッサSandyBridge(サンディブリッジ)のA1シリコンを搭載したPCを初めて公開し、同社のシリコン技術の先進性をアピールした。

●コンピューティングのチップを作る会社へ

 基調講演の冒頭でオッテリーニ氏は、Intelアーキテクチャ(IA)のメリットについて語り「IAでは、モバイル機器、PC、サーバーなどの異なるコンピューティングデバイスでも1つのアーキテクチャで構築できる非常に大きなマーケットだ」と述べ、IAのアドバンテージをアピールした。

 オッテリーニ氏は「これまでムーアの法則は成功を収めてきた。これまではそのメリットをスピード、サイズ、バッテリーライフなどを改善することに利用してきた。しかし、これからは帯域やユーザーインターフェイス、ソーシャルネットワークなどの改善に利用することになるだろう。状況は変わってきている。IDFもそれに合わせて変わってきている。もともとIDFはPCのイベントとして出発したが、コンピューティングのイベントへと変化してきた」と述べ、IAがPCに止まらずコンピューティング全体に広がるものであるという認識を示した。

IAはコンピューティング全体に広がっているムーアの法則は順調に守られている

●世界初の22nm SRAMウェハを公開

 続いてオッテリーニ氏は、Intelの最大の強みであるプロセスルールについて語った。

 「我々は2年前にHigh-Kメタルゲートを採用した45nmプロセスルールに基づいた製品をリリースし大成功を収めた。そして今年の第4四半期には第2世代のHigh-Kメタルゲートを採用した32nmプロセスルールに基づいた製品の顧客への出荷を開始する。今日はそれに続く次世代の話しをしたい」と述べた。

 オッテリーニ氏は試作されたウェアを示し、「これは世界で初めて22nmプロセスルールで製造されたウェハとなる。もちろん、実際に動作する」と述べ、そのウェハを聴衆に公開した。同氏によれば、採用されているトランジスタは、Intelとして第3世代に相当するHigh-Kメタルゲートで、SRAMチップは1チップあたり364Mbitの容量を持ち、290億トランジスタから構成されているという。

試作された22nmプロセスウェハチックタックモデルの解説

 オッテリーニ氏は続いて、そうした最新のプロセスルールを利用して製造する製品について、「我々はPC用のマイクロプロセッサにはチックタックモデルと呼ばれる仕組みを採用している。しかし、今後はそのチックタックモデルには当てはまらない新しい戦略も展開していく」と述べ、Intelが計画しているSoC(System On a Chip)戦略についても語った。

 「SoCは、Atomコアを利用した新しい市場向けの製品で、今後Intelにとって重要な投資だと考えている。32nmプロセスルールでSoCを作ることで、大きな消費電力の削減を実現することができる」と、最新のプロセスルールでSoCを作るメリットを語った。

 さらにオッテリーニ氏は、「重要なSoCそのものはIntelで作るが、周辺チップはファウンダリーへ委託する。新しいカテゴリーの製品であり、新しいルールでやる」と述べ、SoCに付属するI/Oコントローラなどは外部のTSMCに製造を委託すると説明した。

AtomはSoCで展開するCPUコア以外は外部に任せる新戦略

●テープアウトしたばかりのSandy BridgeのA1シリコンを利用して実働デモ

 同氏は今年度のPCの出荷予想についてふれ、「当初の予想ではPCの出荷は今年は昨年に比べて下がり来年に反発するという予想が出ていたが、我々の予想はこれより強気の予想をしている。昨年末からの経済危機で心配されたがPC市場への影響は思ったより小さかったと考えている」と述べた。

PCの出荷は予想より良さそうCore i7/5/3ブランドとWindows 7

 「我々はCore i7、i5、i3という新しいブランドの製品をすでに発表したか、今後発表する予定だ。そしてまもなく新しいOSとなるWindows 7がリリースされるが、Microsoftと協力してその立ち上げを行なっていきたいと考えている」と述べ、Windows 7のメリットとして高速な起動やプロセッサのC6ステートへの対応など省電力機能の進化などをあげた。

 続いて、コンシューマ向け製品デモをし、写真の編集などを次世代プロセッサだと高速にできるというデモを行なった。しかし、「実はこのプロセッサは次世代の製品ではない。実際には次々世代となるSandy Bridgeなのだ」と述べ、最近テープアウトしたばかりだというSandy BridgeのA1(初期)シリコンを利用したデモを行なった。「このようにすでにSandy BridgeでWindows 7が動作している」と話すと、会場から拍手が起こった。

 なお、オッテリーニ氏はそれ以上の詳細は明らかにしなかったが、基調講演の終了後に確認すると、動作クロックは2GHzとなっていた。

Sandy Bridge搭載機を使ったデモSandy Bridge搭載機の裏面。2GHz動作であることがわかるこちらでも動作クロックが確認できる

●Atom用ソフトウェア開発を支援

 オッテリーニ氏はAtomアーキテクチャの魅力について語った。「Atomでは平均消費電力が90%削減、チップの実装面積は85%削減、CPUのコストは65%削減されるなどのメリットがある」と述べ、そうした特徴からこれまでIAが入っていけなかったような市場にも入っていけるようになったと述べた。その代表例として、「ネットブックは、WiiやiPhoneよりも急速に立ち上がっている」とネットブックが大きな成功を収めたと指摘した。

Atomの進歩を強調ネットブックの立ち上がりをWiiやiPhoneと比較Atom開発者向けのプログラム

 そうした中でソフトウェアの対応が重要だと説明した。「Atom向けのOSとしては、ネットブック向けにはWindows、それより小さいデバイスにはMoblin、リアルタイムOSとしてはWind Riverなどがある。よくどのOSを選べばよいかと聞かれるが、答えはシンプルで、使いやすいものを使えばいいのだ。さらにAdobe AIRとMicrosoft Silverlightが、Windowsと、Moblinの両方をすでにサポートしているなど、環境はさらに整いつつある」とAtomプラットフォーム向けのソフトウェア環境の充実さをアピールした。

 「我々はソフトウェアは非常に重要だと考えている。そして、それを充実させるにはソフトウェアコミュニティとの協力が何よりも大事で、今後もそれを大事にしていきたいと考えている。そこで、我々は“Intel Atom Developer Program”という開発者向けのプログラムを今後展開していく。このプログラムでは、ソフトウェア開発者に対してツールやSDKを提供し、よりよいソフトウェアを開発してもらう」と述べ、ASUS、Acer、Dellの3社がこのプログラムに協力することなどを明らかにした。オッテリーニ氏によれば、このプログラムの対象となるのはWindowsとMoblinの2つのOS上で動作するアプリケーションになるということだ。

●Atomが狙う分野は自動車と携帯電話

 オッテリーニ氏はAtomの別の用途として、いわゆる組み込み向け、とくに代表的な用途としてIVI(In-Vehicle Infortainment、車載向け情報システム)をあげ、「IVIは潜在的な成長が見込める市場だと考えている。この市場には多くのベンダが存在しており、大きな可能性がある」と述べ、IntelとしてもIVI市場に積極的に取り組んでいるという姿勢を明らかにした。

 そして、そのIVIでの具体的な成功例として、BMWの複数シリーズとダイムラーのメルセデスベンツCクラスおよびSクラスのIVIシステムの受注に、Intelの顧客であるHarman Beckerが成功したことを明らかにした。オッテリーニ氏によればいずれも2012年の投入を目指して開発が進んでいるとのことで、数年後にはAtomが搭載された自動車が市場に登場することになりそうだ。

IVI市場の発展を予想BMWとダイムラーからAtom搭載のIVIを受注

 さらにオッテリーニ氏は同じAtomブランドである、Atom Zシリーズ(開発コードネーム:Menlow)の後継製品となるMoorestown(ムーアズタウン)、さらにその32nm版となるMedfield(メッドフィールド)について触れ、今後も実装面積や消費電力の削減が続けられると述べた。それにより、MoorestownやMedfieldではスマートフォンのようなより小さなプラットフォームの機器にもIAが入っていけるようになると説明した。

Atom Z系のロードマップMoblin v2.1搭載のMID
Moblin v2.1の画面

 それらのOSとして開発が続けられているLinuxベースのOSとなるMoblinについても触れ、現在開発中の新バージョンv2.1のデモを行なった。「Moblin v2.1では新しいユーザーインターフェイスを採用しており、MIDなどで快適に操作できるようになっている」とし、デモを行なった。デモに利用されたのは、AtomベースのMIDで、実際にタッチパネルの機能を利用してIMやソーシャルネットワーキング、ブラウザ、メールなどの操作が手軽に行なえる様子が見られた。

●コンピューティングと通信の融合はすでに実現
2004年にコンピューティングと通信の融合を予想

 最後にオッテリーニ氏は「私は2004年のIDFで、コンピューティングと通信の融合が起こると述べた。しかし、すでにそれは過去の話となった。それはもう当たり前の話で、これからはそうしたデバイスをファッションの一部にするなどして普及を図る必要がある」と述べた。

 「今後も我々はそうしたことを日常的なものにしていくためには、何をすべきかということの調査研究に投資していく。また、皆さんからもそうしたアイディアを提案していただきたいと思っている」と、聴衆である開発者に向かって呼びかけ、共に魅力的な製品を作り、世の中に提供していこうと呼びかけて、基調講演のまとめとした。

(2009年 9月 23日)

[Reported by 笠原 一輝]