イベントレポート

ペンだけでなく「インク」にも注力するデジタル時代のワコムの戦略

〜オープンでクロスプラットフォームなデジタルインク技術を立ち上げ

 株式会社ワコムは7日(米国時間)、CES 2016に合わせ「Connected Ink」と題したイベントを開催。デジタルペンやタブレットで定評のある同社だが、それらハードウェアだけでなく、今後デジタルインクにも注力し、パートナーや開発者、コンテンツクリエイターと協業していくビジョンを示した。

 今回のイベントで同社が参加者に対して訴えかけたのは、「WILL」への参画だ。WILLとは「Wacom Ink Layer Language」の略で、ハードウェア、ソフトウェアおよびアプリを繋ぐインクエンジンとインク層のフレームワークだ。WILLを使うことで、ワコムが30年以上に渡り培ってきたデジタルインクのノウハウを活用したデジタルインク向けアプリを容易に開発できるという。

 なぜ、同社はデジタルインクに注力するのか? イベントで壇上に立った同社代表取締役社長の山田正彦氏によれば、それはインクこそが創造性のために必要な道具であるが、一方で制約もあるからだ。

ワコム代表取締役社長の山田正彦氏

 創造性は人間に特有の能力である。人間は何千年にも渡って、インク、ペン、そして紙を使って考えを記し、それを世代を超えて共有し、文化や文明を発展させてきた。だが、もっとも重要なのはインクである、と山田氏は説明する。と言うのも、描画するペンや媒体となる紙はハードウェアにすぎず、人間の創造性を表わしたもの、すなわちコンテンツとはインクが描いたものだからだ。しかし、通常のインクには制約がある。それは紙に記しても、即座には共有できないという点だ。

 そういった中、同社が立ち上げるのがWILLだ。インクをデジタル化し、より良いツールを提供することで、人々はインスピレーションから作品まで即座に共有でき、創造性をさらに高められる。

インクは人類の歴史で最も強力で創造的なツール
協業により、そのインクに、新たなアイディアを創出するためデジタル技術の力を付与していきたいとする同社

 WILLは2014年に発表され、既に開発者やクリエイター向けにSDKが提供されている。だが、モバイルデバイスやクラウド、Web技術がより高度なものとなった今こそがWILLを本格的に立ち上げるタイミングだと同社は考える。

 WILLのSDKはWindows、iOS、Android、Web用が用意されている。これまでは、開発者向けに提供されていたが、1月7日(同)よりフリーでダウンロードできるようになった。WILLを利用したアプリを使うことで、ユーザーはデジタルインク、すなわち手書きのデータやコンテンツをあらゆるプラットフォームにまたがって利用したり、リアルタイムで協業といったことに活用できる。

 名称にWacomと入っていることで、同社がデジタルインク業界で囲い込みを行なおうとしているように捉えられるかもしれないが、同社はWILLがオープンフレームワークで、業界標準技術を利用していることを強調する。実際、WILLはワコム以外の競合他社のハードウェアやソフトウェアでも利用可能だ。あるいは、指によるタッチで描くアプリケーションも想定されている。また、ワコムというとクリエイター向けというイメージもあるが、WILLはイラストなどだけでなく、図や記号を使ってアイディアを取りまとめたり、数式を書いたり、楽譜を書いたり、生体認証として利用できる署名などといったアプリも想定する。

 認証用の署名については、デジタルペンを使うことで、そのハードウェアIDや、どういった筆順、筆圧、ペンの傾きを用いて書いているといった情報も取得でき、第三者によるなりすましを防げると言う。また、手書き文字認識技術に強みのあるMyScriptと協業し、その技術をWILLに実装することも発表されている。

WILLはクロスプラットフォームで、業界標準技術に基づいたオープンなエコシステム
Windows、iOS、Android、Web用SDKが用意
一般的な手書き以外にも、生体認証、手書き文字認識なども想定する

(若杉 紀彦)