イベントレポート
日本HDD協会2013年10月セミナーレポート
~縮小均衡への道を歩み始めたHDD市場
(2013/10/28 06:00)
- 10月18日午後 開催
- 会場 発明会館(東京都港区)
ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は10月18日に「加速する、HDD産業の変化」と題するセミナーを開催した。
本セミナーでは始めに市場調査会社テクノ・システム・リサーチのシニアディレクターを務める馬籠敏夫氏が「変化するHDD市場とメーカーの新たなる戦略とは」と題して講演した。馬籠氏はHDD業界ではベテランのアナリストとして知られており、その市場分析には定評がある。
馬籠氏の講演からは、HDD産業が転換期を迎えたことが明確にうかがえた。ここで転換期とは、主に2つの転換を意味する。1つは、薄利大量販売路線から、利益重視路線への転換である。もう1つは、出荷台数の増加トレンドから、出荷台数の縮小トレンドへの転換である。HDD市場は縮小均衡への道を歩み始めたことが、講演では示唆された。
年間出荷台数は3年連続のマイナス成長に
HDDの年間出荷台数(世界市場)は、2010年に約6億5,000万台でピークを迎えてから、2年連続でマイナス成長に陥った。2013年はマイナス成長に終止符を打つ年になるとHDD業界は期待していたが、現実は厳しいものとなりつつある。
四半期ベースでみたHDDの出荷台数(世界市場)は、2013年第3四半期(7~9月期)までの実績が出た段階にある。第3四半期の出荷台数は約1億3,900万台だと馬籠氏は述べていた。この数値は前年(2012年)同期とほぼ同じ。続く第4四半期(10~12月期)に関しては、第3四半期と同じ水準という見方と、第3四半期に比べて若干下がるという見方があり、後者の見方が多いという。
第4四半期の予測値は約1億3,770万台で、前年同期に比べるとわずかに上回るものの、第3四半期からはわずかに減少する。2013年の第1四半期(1~3月期)と第2四半期(4~6月期)はいずれも前年同期に比べてマイナス成長だったので、通年では前年比5.5%減の5億4,600万台となり、「3年連続のマイナス成長となる公算が大きい」と馬籠氏は予測した。
なお2013年の5億4,600万台という予測値は10月3日時点の数値で、セミナー当日である10月18日時点では予測値は5億4,200万台へと下方修正されていると、講演で馬籠氏は説明していた。
ストレージ市場の牽引役はHDDからSSDに交代
3年連続のマイナス成長は、HDD産業の歴史では初めてのことだ。より正確には、2012年の2年連続マイナス成長が史上初なので、マイナス成長の連続記録が更新されることになる。
HDDの平均単価は2012年の65.5ドルから、2013年は59.5ドルに下がる。このため金額ベースの市場規模は、台数ベースよりも大きく減る。2012年の市場規模は378億4,200万ドルであり、2013年の市場規模は324億8,700万ドルとなる。
HDDにSSD(Solid State Drive)を加えたストレージ装置全体でみると、2013年の出荷台数は前年比2.5%減の5億9,210万台と予測している。ストレージ装置全体でも3年連続のマイナス成長となるのだが、HDD単体(同5.5%減)よりも減少幅が小さい。
ストレージ市場で減少幅が小さいのは、SSDの出荷台数が急速に増加しているからだ。SSDの出荷台数は以前から急速に伸びていたものの、出荷台数の規模が小さいためにストレージ市場全体に対する影響は無いも同然だった。しかし2013年にはSSDの出荷台数は5,010万台に達し、HDDの出荷台数に比べると10分の1近くの規模に達すると予測されている。ようやく、ストレージ市場全体に対する影響力を備えるようになったと言える。
そしてSSDの影響力は、今後2年ほどで急速に高まる。HDDの出荷台数は来年(2014年)もマイナス成長であるのに対し、SSDの出荷台数は順調に伸びると予測されるからだ。SSDの順調な伸びに支えられることで、2014年のストレージ出荷台数はプラス成長に転じる。
ノートPCがSSD市場の成長を牽引
そのSSD市場を牽引する用途は、ノートPCである。2012年の出荷台数2,910万台の半分を超える1,930万台を、ノートPC向けが占める。2013年のSSD出荷台数予測値5,010万台の中でも、ノートPC向けは3,300万台で6割強を占めることになる。2014年以降もSSD市場の伸びを牽引するのは、ノートPC向けである。
これは言い換えると、ノートPCの内蔵ストレージに占めるSSDモデルの比率が増加することを意味する。ノートPC本体の出荷台数は伸びなくなっているからだ。2013年の下半期における内蔵ストレージの種類別割合では、HDDのみ内蔵のモデルが80%台前半、SSDのみ内蔵のモデルが10%台前半、ハイブリッド(HDDとNANDフラッシュメモリを内蔵する)モデルとデュアル(HDDとSSDの両方を内蔵する)モデルが合計で約10%という状況である。今後はSSDのみ内蔵のモデルとハイブリッドモデル、デュアルモデルの割合が徐々に増加する。HDDのみ内蔵のモデルは徐々に比率を下げていく。
そしてノートPCの出荷台数が減少傾向にあり、HDD内蔵モデルがほぼ100%を占めるデスクトップPCの出荷台数も減少傾向にあることから、当面はHDDの出荷台数が増加に転じることはかなり難しい状況にある。すなわち2014年はもちろんのこと、2015年もHDD市場はマイナス成長になる。2010年のピークに6億5,000万台を超えた出荷台数は、2013年の段階で1億台ほど減少する。その後は減少の傾向はやや緩やかになるものの、2015年の出荷台数は5億2,000万台に留まるとの予測だ。
HDD 1台当たりの記憶容量拡大がビッグデータを支える
ここで少し奇異に感じるのは、世界市場全体ではストレージの総容量に対する需要が増加しているトレンドとの矛盾である。エンタープライズ向けでは、データセンターに代表されるクラウドストレージに対する需要が拡大している。ここではHDDに対する需要は衰えていない。
ただし、絶対的な台数の規模から見ると、HDDはPC向けが圧倒的に多く、エンタープライズ向けは少数に留まっている。2013年第3四半期におけるHDD出荷の用途別割合はデスクトップPC向けが27.9%、ノートPC向けが39.9%で、両者を合計すると67.8%に達する。一方でエンタープライズ向け(ニアライン向けを含む)の割合は12.9%である。台数ベースの市場規模では、エンタープライズ向けはPC向けの約5分の1に留まる。
そしてHDDの台数ではなく、記憶容量で見ると、2010年以降もマイナス成長に陥ることはなく、出荷総容量の拡大が続いてきた。HDD 1台当たりの記憶容量が増加を続けているからだ。2010年にはHDD 1台当たりの記憶容量は529GBだった。それが2013年には993.2GBに増えている。この間に、90%も記憶容量は増加した。今後もHDD 1台当たりの記憶容量の増加は続き、2015年には約1.3TB(1,308GB)に達する。
過去、HDDの出荷台数は中長期では増加することが前提になってきた。ところがPCの出荷台数がはっきりと減少トレンドに入った現在、HDDの出荷台数も減少トレンドに転じることが明確になった。ノートPCではSSDモデルの比率が上昇することで、HDD出荷台数の減少傾向を加速する。HDDの市場が急速に縮小する可能性は低いが、拡大する可能性も低い。漸減傾向のトレンドが続くだろう。
HDDメーカーは3つのグループに寡占化しており、いずれのグループもSSDを製品系列に組み込み済みだ。HDDの出荷台数は漸減傾向にあるものの、依然として5億台を超える需要がある。製造技術の難度は高く、新規参入は考えにくい。3つのグループ、すなわち、Western Digital(HGSTを含む)が約45%、Seagate Technologyが約40%、東芝が約15%を占める現状に急激な変化は起きにくい。いたずらな増産で価格急落を招くことはしない、という雰囲気がHDD業界には強い。一般のHDDユーザーにとってはあまりありがたくない状況が、今後も続きそうだ。
なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。