イベントレポート

日本HDD協会2013年1月セミナーレポート

〜HDD価格はタイ洪水以前の水準に戻らず、HDD出荷台数は2年連続で減少

1月25日 開催

会場:発明会館(東京都港区)

 ハードディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は1月25日に、「2013年のHDD業界展望〜新たなる成長機会とは?〜」と題するセミナーを開催した。

 日本HDD協会は、1月と11月にセミナーを開催してきた。1月のセミナーは、アナリストによる市場を展望する講演が通例となっている。今年は、IT総合研究所 チーフアナリストの久保川昇氏と、米国IDC(Internatinal Data Corporation)でGroup Vice Presidentを務めるDavid Reinsel氏がそれぞれ、講演した。

 なお、セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。

HDD出荷台数は2年連続のマイナス成長

 久保川氏は1994年から毎年、1月のセミナーでHDD市場の展望を講演してきた。もはや日本のHDD業界では「恒例行事」とも呼べる講演である。今回の講演タイトルは「2013年のHDD市場展望」。

 久保川氏の講演の特徴に、前年の予測がどのくらい的中したか(あるいはどのくら外れたか)を検証していることがある。皮肉なことに、筆者が久保川氏の講演を聴講するようになってからは、予測が的中したことがない。これは久保川氏に予測の才能がないというわけではなく、わずか1年先のことでも、市場の展開を予測することがいかに難しいかを示している。

 ここ5年ほどでも、2008年秋のリーマン・ショック、2011年春の東日本大震災、2011年秋のタイ洪水と予想外の大きな出来事がHDD業界を揺さぶってきた。2012年はタイ洪水の反動でHDDの出荷台数は2桁成長になると予測されていたが、2012年夏の時点で成長に急ブレーキがかかった

 久保川氏が昨年(2012年)1月のセミナーで予測した出荷台数は、HDDが前年比10.8%増の6億9,760万台、PCが同6.4%増の3億7,240万台である。しかし実際には、HDDが前年比6.9%減の5億8,020万台(推定値)、PCが同2.3%減の3億4,260万台(推定値)と、いずれもマイナス成長になる見込みだ。しかもHDDとPCともに2年連続のマイナス成長である。

 HDDの出荷台数が2年連続のマイナス成長となるのは異例のことだ。「世の中にHDDが出てから初めてではないだろうか」と久保川氏は講演でコメントしていた。一昨年の2011年はタイ洪水の影響でHDDの出荷台数がマイナス成長となった年である。自然災害によって生産と出荷が制限されたので、タイ洪水がなければプラス成長になったと見られていた。その反動がある中で翌年(2012年)の出荷台数がタイ洪水の年に届かないと2012年始めの時点で予測して調査会社は、皆無だったと言って良いだろう。

 2012年1月セミナーの講演では、久保川氏は2012年の各四半期ごとの動きを下記のように予測していた。第1四半期中に停止していた生産ラインの操業が再開するが、供給不足が続く。第2四半期には生産が実需を上回るものの、枯渇していた在庫の充足に回る。第3四半期と第4四半期はフル生産の状態が続く。

 しかし実際には、第1四半期の時点で供給が実需レベルに回復し、第2四半期には枯渇していた在庫が充足し、一部は過剰生産となった。第3四半期には過剰生産の反動が発生した。ところが価格競争は激しくならず、HDDメーカーは粛々と調整を続けた。

 価格競争が激しくならなかった一例として、久保川氏は「価格.com」で調べた3.5インチ型1TB HDD(WD10EARX)の価格推移のグラフを示していた。2011年6月の発売当初は4,500円くらいだったのが、タイ洪水の影響で2011年10月には約3倍の1万5,000円にまで急騰した。その後は価格が徐々に下がるものの、2013年1月時点でも7,000円を切っておらず、タイ洪水以前の水準には戻っていない。

PCの四半期ごとの出荷台数推移。出典:IT総合研究所
HDDの四半期ごとの出荷台数推移。出典:IT総合研究所

HDDメーカーは好業績を謳歌

 出荷台数は伸びないものの、価格が上昇したことでHDDメーカーの売り上げは急激に増加し、収支は大きく改善した。例えばSeagate Technologyの四半期売上高は2008年以降、2011年の第3四半期までは多くても30億ドルにとどまっていた。ところが2011年第4四半期に売上高が30億ドル強に増加すると、2012年第1四半期は45億ドルと一気に50%も売上高を増やした。

 そして利益はさらに急増した。例えばSeagate Technologyの四半期利益(ネットインカム)は2010年後半から2011年前半にかけては2億ドル前後で、売上高の10%に満たなかった。ところが2012年第1四半期の利益は12億ドル弱と、6倍近くも増えた。売り上げの25%強が利益になるという好業績である。

 そして平均販売価格は、2011年前半には50ドルだったのが、2011年第4四半期と2012年第1四半期には70ドルへと40%も上昇した。2012年第3四半期の時点でも平均販売価格は65ドルと高い水準にある。HDDメーカーにとってはむしろ、有り難い状況とも言える。

大手HDDメーカーの四半期売上高推移。出典:IT総合研究所
大手HDDメーカーの四半期利益(ネットインカム)推移。出典:IT総合研究所
大手HDDメーカーの四半期平均販売価格推移。出典:IT総合研究所

 HDDメーカーごとの出荷台数シェアはWestern Digital(HGSTを含む)がトップで44.5%を占め、Seagate Technologyが2位で41.8%を占めた。残りは東芝で13.7%のシェアである。HDD市場はこの3社による寡占状態となった。

2013年の前半は伸びず、後半に期待

 2013年のHDD市場はどのように推移するのだろうか。2013年の前半は世界的な景気後退の影響が続き、出荷台数ベースでの成長は期待できない。期待できるとすれば、2013年の後半になる。久保川氏は「かなり強気の予測」として、2013年のHDD出荷台数を前年比5.6%増の6億1,290万台、PC出荷台数を同5.4%増の3億6,130万台と予測した。

2013年のHDDとPCの出荷台数予測。出典:IT総合研究所

モバイルとアプリがIT産業を牽引

 続いて米国IDCでGroup Vice Presidentを務めるDavid Reinsel氏の講演概要をご紹介しよう。講演タイトルは「The 2020 Digital Universe and its Impact on HDD Industry」である。IT産業が中期的にHDD産業に与える影響を論じたものだ。

 Reinsel氏は、IT産業のプラットフォームが大きく変化してきたことを世代交代として表現した。第1世代のプラットフォームはメインフレームで、1985年頃まではメインフレームの時代が続いた。1985年頃からは第2世代のプラットフォームであるPCの時代が2010年頃まで、25年ほど続いた。そして2011年からはモバイルデバイスとアプリケーションが第3世代のプラットフォームとしてIT産業を牽引するようになったと述べていた。具体的には、2013年から2020年までのIT産業の成長の90%を第3世代のプラットフォームが担うと予測した。

IT産業のプラットフォームの変遷。出典:IDC
PCとモバイルデバイス、ストレージの出荷台数予測。出典:IDC

 それから第3世代のプラットフォームを支えるのは、「ソーシャルビジネス」と「モビリティ」、「ビッグデータ」、「クラウド」の4つの柱だと説明した。そして人類が扱うデータの総量は2010年と2020年を比較すると50倍に急増し、2020年には年間で40ZB(ゼッタバイト、1ゼッタバイトは10の21乗バイト)に達するとの見通しを示した。

 人類は膨大なデジタル・データを生成し、取り込み、複製し、消費する。ただし、保存するとは限らないとReinsel氏は指摘した。この指摘は興味深い。例えばストリーミング・データをインターネット経由で視聴しても、保存はしない。すなわちストレージの記憶容量を増やす必要がない。第2世代のプラットフォームであるPC時代には、クライアント側のHDD需要が急増した。これに対して第3世代では、PC時代に比べるとクライアント側のHDD需要は伸びない可能性がある。

 一方、サーバー側では保存しておくデータの総量がどんどん増えている。このため、HDDの出荷(記憶容量ベース)に占めるエンタープライズ用途の比率が増加しているという。さらにはHDDの記憶容量当たりの単価はこれまではクライアントPCやモバイルなどに向けたHDDが低く、エンタープライズ向けが高価だったが、今後はエンタープライズ向けHDDの単価が急速に下がっていくと予測した。

 それからReinsel氏は、2013年のHDD市場とSSD(Solid State Drive)市場の予測を最後に述べていた。HDDの出荷台数は前年比8.7%増の6億3,440万台になる見通しだ。出荷金額は同2%減の370億ドルと予測した。SSDの出荷台数は前年比50%増の6,850万台になる見通しだ。用途別ではPC関連が75%を占める。出荷金額は同25%増の80億ドルと予測した。

HDDの出荷台数と出荷記憶容量、HDD開発企業の売り上げに占めるエンタープライズ向けの割合(1992年〜2016年)。出典:IDC
用途別HDD製品の記憶容量(1GB)当たりの単価(1998年〜2016年)。出典:IDC
2013年のHDD市場とSSD市場の予測。出典:IDC

 HDDの記憶容量当たりの単価は、今後も下がり続ける。しかし出荷台数が2年連続でマイナス成長となった現在、今後の出荷台数が拡大し続けるかどうかは、いささか怪しくなってきた。エンタープライズ向けではHDD 1台が格納するディスクの枚数を増やすことで、記憶容量を拡大する方向が明確になってきたからだ。具体的には、最大で5枚だったディスク枚数を7枚に増やす。これで記憶容量は40%ほど拡大する。この違いは少なくない。

 ここで重要なのはディスクの格納枚数が増えることでHDDの生産台数が同じでも、磁気メディアや磁気ヘッドなどの部品レベルでは生産数量が増えることだ。これはHDD部品メーカーの生産能力が同じだと、自動的にHDDの単位期間当たりの生産台数(スループット)が減ることを意味する。すなわち、自動的にHDDの生産調整が進む。すると、価格競争による値下げが起きにくくなる。HDDのユーザーにとっては、あまり有り難くないシナリオが見える。

(福田 昭)