イベントレポート
【Maker Faire Tokyo 2012】巨大人型4脚ロボットからジョーク系まで展示されたものづくりの祭典
(2012/12/5 00:00)
12月1日~2日に、お台場の日本科学未来館において、Maker Faire Tokyo 2012が開催された。アメリカのMakeという雑誌が主体となって開催をしているMaker Faierというイベントがあり、サンフランシスコ近郊とニューヨークの2カ所で開催されている。この日本版が今回のMaker Faire Tokyo 2012である。
2011年までこのイベントは「MTM(Make Tokyo Meeting)」という名称で、MTM04~MTM07の4回は東京工業大学の大岡山キャンパスで開催されていたが、開催方式が本国Makeとやや異なるものであった。それが今回からは本国と方式をあわせると共に、場所を日本科学未来館に移しての開催となった。
最大の違いは有料になったこと。MTM07までは出展者/観客共に原則無料(企業などの出展者、および個人でも追加のテーブルを必要とする場合は有料)というものだったが、今回からは観客から入場料を取るようになった。もっとも本国は既に有料(2日通しのパスだと、前売りで30ドル)だし、ここまで大規模だと既に手弁当で賄うレベルではないから、この方向性そのものは筆者も賛成である。とはいえ、観客から入場料を取るのは初めてで、場所をお台場に移したこともあって、どの位の観客が来訪するのかは主催者であるオライリー・ジャパンも読みきれなかったのかもしれない。
そんなこともあってか、11月に巨大人型4脚ロボット「KURATAS」の展示も行なうことが発表されたのは、KURATASによる動員効果への期待もあったのかもしれないが、蓋を開けてみると「満員電車並み」、「狭すぎる」との声が上がるほどで、少なくとも観客に関して言えば例年以上に入っていた感じがある。出展者の配置というか、会場の使い方には課題が残されたのは間違いないが、まずは一安心というところではないかと思う。
KURATAS
今回、目玉として展示されたKURATASであるが、開催前日の11月30日に製作者の1人である倉田光吾郎氏から告知があったとおり、動作デモはなく、展示のみとされたが、何度か設けられた倉田氏や吉崎氏のトークショーでは大量の人だかりができた。ちなみにKURATASの展示そのものは12月10日まで続けられ、12月8日~9日には再び体験試乗会とトークショーが行なわれるので、今回見そこなった方はこの機会を活かして欲しい。
PC系ネタ
以下、「強いて分類するとPC Watch的なネタ」を色々ご紹介する。
・れすぽん「CPU自作入門&基板少女」
「CPU自作入門」で紹介されたオリジナルCPUを実装したFPGAの動作デモとキットの頒布(PC01)。
・O’Baka Project
MTMではおなじみ、空中配線ArduinoやBottle Circuitを展示したO’Baka Projectは、今回は液体漬けに挑戦した。
・デイリーポータルZ「デイリーポータルZの半笑い工作」
PC Watch枠なのか、INTERNET Watch枠なのかは悩んだが、新作の「アタ・マウス」があったのでこちらに。ちなみにデイリーポータルZを率いる林さんの新作は「ストリートビューのヒモ」。
・刺繍する犬「Geek Handstitch(基板刺繍と鉛)」
NeXT CUBE基板を借用して、その基板を刺繍で作成。他にも新MacBookや新iPodも。
・プロジェクトマイアミ:チーム火の鳥「続スゴ涼:スゴ楽」
仰向けで利用できるPC環境を自宅に構築し、「いつ寝たきりになっても大丈夫」と豪語する後藤氏に捧げたいのがこのスゴ楽。8月に大垣で開催されたMOM(Make Ogaki Meeting:MTMの親戚)で「スゴ涼」を発表したチーム火の鳥による「究極のPCエンターテイメントを創出する環境」である。
・イタチョコシステム「イタチョコなりのエレキテル」
古くからのMacユーザーにはおなじみ、ラショウ師率いるイタチョコシステムが今回も参上。今年の新作はUSBマニ車。ありがたいお経(?)が書かれたファンが高速回転するというイタチョコクオリティは健在。ちなみに2日午後にはラショウ師による暗黒舞踏のデモもあった。
・oink!「自作☆改造☆修理の館」
机上に何気なく置かれていた、昔懐かしいiMacの中身を入れ替えた「iMad」。このiMacの筐体の場合、ネジが非常に少なく、ひたすらはめ込みなのが大変だったとか。もちろん本体だけでなく、マウスも2ボタンの光学式マウス(ホイール付き)に作り変えるという念の入れよう。
・髭伯爵「『ぬいぐるみ』で作る電子回路」
PC Watch系というか武蔵野ブレッドボーダーズ系というか。「手芸系オヤジ」を名乗る髭伯爵氏の出展は、ぬいぐるみ部品回路というか、マクロブレッドボード+マクロ部品というか。コンデンサや抵抗となるぬいぐるみ(ちゃんと容量とか抵抗値はあっている)を、そのサイズに合わせたブレッドボードに装着して回路が組めるという、何も間違っていないのだが、何かが間違っている力作(褒め言葉)。ちなみに来年は、「555とかオペアンプとかを用意したいですね。中はディスクリートで等価回路を組む」とヤル気満々であった。
・電脳律速「はかどるん」
少しは実用的(?)なものも、ということで電脳律速さんのはかどるんは、USBキーボードとPCのUSBポートの間に挟んで、色々やってくれるもの。具体的にはキーボード万歩計(キーを何回打ったか数えてくれる)、英語/日本語配列変換(例えば日本語キーボードドライバをロードしておいて英語キーボードを繋ぐと、キートップの表記と実際に入力したキーが異なる。この際にはかどるんを挟むと、日本語キーボードと英語キーボードのコード変換をすることで、キートップの表記にあったキーが表示される)、キーマクロ(キーの入力を覚えて代行してくれる)といった機能を持つものだった。
・楢ノ木技研「オリジナル電子工作キットの展示販売」
再び非実用的というか、とんでもないものが。楢ノ木技研さんのブースは電子工作キットの展示販売といいつつ、そこで一番目立っていたのは、この超巨大水晶発信機。普通はこの水晶を小さく切り出してパッケージするものだが、今回は切り出す前の巨大結晶に直接発信回路を取り付けての展示。発信回路を動かすと14.4KHzで駆動するという、まず普段目にしないデモであった。
・ロボット工房のらとりえ「ロボット&アクセサリー」
メインの展示は色々なロボットやアクセサリなのだが、さりげなくこんなものが。中身は800MHz駆動のVortex 86SXにメモリ512MBを搭載。ブートはmicroSDカードから。のらとりえが開発をしたということで、何気に展示がされていた。
・九州プログラミング研究会「電子工作いろいろ」
PC Watchからもやや外れる気がするが、今回一番衝撃を受けた展示だったのでご紹介。お三方が参加されたうちのJuJuさんのLED工作。
目玉となっていたのは、8×8のフルカラーLEDアレイを自由に繋いで一体化して表示できるFLIS-MATRIXというアプリケーションだったが、それより凄まじいと思ったのはFLIS-UNO。2線式のフルカラーLEDである。
LED工作したことがある方はお分かりだろうが、フルカラーLEDはR/G/Bの3色のLEDを同時に光らせて、その輝度に応じて色を変化させるから、普通に考えると絶対に4本(R/G/Bそれぞれの電源+共通のGND)が必要である。これは面倒なので、LEDに8bit MCUを組み合わせ、このMCUからR/G/Bそれぞれの電源をPWMで出力するようにすれば本数は若干減る。それでもMCUへの電源とGND、それにMCUへのコマンド用信号線が必要になる。そこで、電源ラインにそのままコマンドを乗せるという方法で2本まで減らすことができたという。この場合、Loが長く続くと電源が足りなくなるので、短期間であれば電源を供給できるようにコンデンサによるバックアップを持たせたのだとか。
そして「MCUが大きいと全体に大きくなってしまって格好悪い」という信念のもと、小型化のために6ピンのATtiny10を使う事で幅をLEDと一緒まで押さえ込んだのがとFLIS-UNO/eである。ちなみにこのFLIS-UNOやFLIS-UNO/eの設計図や回路、電源ラインを使ったバス仕様であるFLIS/BUSの詳細などは全て公開されているが、そういう話が目立つろころにないのが展示として残念だった。
ケータイWatch系ネタ
・Etsy「森翔太 [Showta Mori]」
一部のコアなファンには有名な仕込みiPhone。これは服の袖の中にiPhoneを忍ばせ、使うときはシャキッっと手のひらに飛び出させる小道具。今回はiPhone 4/4S用の仕込みiPhone 4号機を限定9個販売。あとで聞いたら見事に完売されたそうである。
Car Watch系ネタ
・Suns & Moon Laboratory「ANIPOV」
自転車のスポークに取り付けることで絵を表示させるというANIPOV。確かMTM04の頃から展示していたはずなのでもう3年以上になるのだが、やっと製品化に向けて進んでおり、2枚のもので18,900円(ANIPOV 1枚だと9,800円)。
・勝 純一「じぇーけーそふとのこーなー+」
磁石が付くタイプの壁ならば登攀可能なリモコンカー。正式名称は「汎用壁ロボ『うおーるぼっと』」制御にはWiiリモコンを流用という、なかなかのアイディア品。
・はらっぱ技術研究所「こどもと大人のための組立式リヤカー」
5千円程度の材料費で製作でき、子供3人が乗っても耐え、分解も可能な組み立て式リヤカー。
デジカメWatch系ネタ
・カメラスタビライザー研究所「カメラスタビライザーの自作」
カメラのスタビライザーは結構なお値段になるのはご存知の通りで、これを自作しようという人も多いのだが、これもその一例。
・ienaga’s booth「電子工作とか3Dプリンタとか微速度撮影とか」
いえなが氏は3Dプリンタでの作例とか自作インターバルタイマなども展示されていたが、圧巻は「iDolly」。タイムラプス撮影をやる時、撮影そのものはインターバルタイマがあればいいが、同時に微妙に視点をどうずらすか、という課題を解決するのがこのアーム。材料費はレールが15,000円、そのほかが5,000円程度で、しかも釣具のバッグに収まる携行性のよさを実現できた。もちろん電源は別途必要だが、ポータブル電源を用意したら、先にカメラの電源が尽きた(笑)そうである。
AV Watch系ネタ
・CharonixDW@yuna_digick「ロストテクノロジー・ニキシー管の世界」
MTMではこれも恒例となった、ニキシー管を使った工作を得意とするゆな研さん。前回は112chのニキシー管を使ったスペクトルアナライザーの表示で度肝を抜いたのだが、今回も登場していた。ちなみに今回はJAXAカウントダウンクロックのレプリカや、超巨大ニキシークロックも展示されていた。
・チームラボMake部
チームラボMake部はいくつかの出展があったが、これはその1つ。おなじみルンバを分解、掃除ユニットを大胆に取っ外し、そこにビデオカメラを取り付けたのが「ローアングラー3号」。なにしろ元がルンバだから、低い位置を這いずり回る能力には定評があり、撮影映像をそのままリモートで飛ばすという、「どうしてこうなった」系作品。
家電Watch系ネタ
・A&N lab.(あんりある)「音声合成ICを乗せたリモコンGPS時計の可能性~声と音楽とニキシー管をのせて~」
今年はなぜかニキシー管が人気で、例えばこんなものが売られていたりしたのだが、MFTでもニキシー管を使った出展は結構多かった。その中で両極端に位置するものをご紹介。まずはA&N lab.さんのGPS時計。見かけはまぁ普通(?)の時計だが、時間あわせはGPSを使って正確に行なっており、駆動回路も当然フルデジタル。パッケージはこのような堅牢なケース(防水/耐衝撃)に収められるという。これで65,000円が高いか安いかは微妙だが、この展示品は既に購入予約済のものだそうだ。
・EET-Lab「Nixie tube clock by relays」
同じニキシー管時計を、一切デジタル回路を使わずに作ったのがこちら。なんとリレーを300個以上搭載した代物である。ちなみに、こちらは同じくリレーを112個使ったもの。いろんな意味で力技がすばらしかった。
・伊藤技術研究所。「プロセスの物理表現」
さらに時計つながりで伊藤技術研究所。の24時間時計のプロトタイプ。なぜか0時が真下、という独自のレイアウトもさることながら、駆動部が独特。時間の制御とLEDの駆動はArduinoで行なっているのだが、秒針の駆動がなぜかPICベースのモータドライバ。なぜPICなのかというと、5年前くらいから手元にあったかららしい。
・道玄坂電子工作部「ミクの肩たたき他」
肩たたき機をちょっと魔改造して、外部からの音楽ソースに合わせて振動するようにしたという展示だが、問題は「どうやって」実現したか。肩たたき機も当然内部にマイコンが入っているが、その仕様等はもちろん公開されていない。そこで、マイコンからの信号を1本1本オシロを使って確認し、モーター駆動を行なっている配線を見つけてそこに割り込んだのだとか。
・ABA「土鍋炊飯botをつくってみた」
土鍋でおいしく御飯を炊くために、カセットコンロの火力を自動調節するというシステム。どうやって火力調節するか、というとカセットコンロのつまみをサーボモーターで駆動するという力技である。温度そのものは土鍋の蓋の穴から温度計を差し込んで測定するというもので、これにより「美味しい御飯を炊くために最適な温度プロファイル」を自動調整できるというものだった。
総括
軽くいくつか紹介させていただいたが、もちろんこれは全体の内のほんのわずかである。というより、この調子で書いているといつまでも終わらないので、このあたりで強引に切らせていただいた。こういった具合にアイディア勝負のものから完成された製品の展示まで、とにかく何でも「作ったものを紹介したい」と思えば、それで出展できるのがMTMであったが、それはMFTにも間違いなく引き継がれることになった。
こうした展示以外にもワークショップも盛んであった。1Fではプログラミングや半田付け工作などのワークショップがトータル10カ所以上、さらに7Fの会議室を利用した編み物系の部屋では常時複数のワークショップが行なわれており、こうしたものを楽しんだ参加者もかなり多かった。
Twitterのハッシュタグは“#mft2012”であるが、これを見ていると「次は観客ではなく出展者になりたい」という声もちょくちょく目に留まる。次のMFTは2013年の秋~冬を予定ということで、例年のスケジュールからすると夏の終わり頃には大雑把にスケジュールが固まってくるのではないかと思う。
課題としては、やはり会場の絶望的な狭さが挙げられるだろう。MTM07まで会場として利用していた東工大の体育館と比較するとかなり狭いのは否めず、そこに色々なものを盛り込みすぎた観がある。結果、MTM07までは屋外展示で行なわれたいくつかの出展や、テスラコイルを使っての高電圧デモなどは今回見送りになったようだ。また、日本科学未来館自体が、ここまで大量の参加者が短期間に押し寄せることを想定していなかいようで、トイレや休息場所、フードコートのキャパシティはややきつかった。
ちなみに筆者はMTM06/07には出展をさせてもらったが、今回は用意が間に合わず(というか、アイディアが浮かばず)観客に戻らせていただいた。出展者の側に廻ると、会場を見て廻る暇が無いという基本的な問題があって、ここ2回はろくに出展物を見る暇がなかったので、今回は取材ができて満足だったのだが、取材してるとやはり出展者側に廻りたくなるのが人情というものである。ということで、来年は何かしらアイディアを考えたいと思っている。