【MWC 2012レポート】【Broadcom/NXP/Qualcomm編】
BroadcomのICS向けSoCや、NXPの新NFC、Qualcommの11acなど

Broadcom 28155を搭載した基板

会期:2月27日~3月1日(現地時間)
会場:スペイン・バルセロナFira Montjuic



●Broadcom

 米Broadcomは、MWC 2012にあわせていくつかの発表を行なっているが、そのうちの1つがAndroid 4.0(ICS)に最適化されたCPU(SoC)だ。

 発表されたのは、「28155」、「28145」、「21654」の3製品。主な仕様は下表の通り。いずれも現在サンプル出荷中で、量産は2012年下半期の予定。

【表】主な仕様

281552814521654
CPUコアCortex A9
クロック周波数1.3GHz1GHz
コア数21
GPU演算能力24GFLOPS8GFLOPS
出力解像度1080p720p
モデムHSPA+HSPA
通信速度21Mbps7.2Mbps

 同社Mobile & Wireless Group担当上級副社長兼ジェネラルマネージャのRobert A. Rango氏によると、現在スマートフォンは、全製品市場の4倍の勢いで成長しているが、中でも初めてのコンピュータ代わりとして新興国での成長がめざましいという。今回の新製品は、基本的性能を抑えながらも、新興国でも展開できるよう安価な価格付けがされている。

 具体的に、「Samsung GALAXY S II」、「HTC EVO 3D」、「Motorola ATRIX 2」は28155/28145と同等の性能だが、端末の原価は180ドル程度になる。一方、実際に28155/28145を採用した場合の端末原価は90~125ドル程度に抑えられるという。

 性能面では、独自のVideoCore技術を採用したGPUコアを内蔵し、28155では1080pでの動画撮影/画面出力が可能。また、3Dについても、OpenGLベンチマークでTegra 3搭載機が34.2fpsのところ、55.4fpsという高い性能を発揮できることをデモした。

BroadcomのRobert A. Rango氏SoCのラインナップ
新製品を使った場合の他社製品との原価の比較社長兼CEOのScott McGregor氏は、膨大な製品ポートフォリオと社内の協力体制が同社の強みと述べた

●NXP

 蘭NXPはブースをNFCカフェに見立て、全面的にNFCの訴求を行なっている。中には技術デモもあれば、実際に運用されているサービスもあるが、それぞれを紹介しよう。

 NFCは、近接無線通信の規格。国内では日本のおサイフケータイなどで使われているFeliCaが同様の規格として有名だが、NFCとFeliCaとでは互換性がない。そのため、おおざっぱに言うとFeliCa=日本、NFC=海外という図式が成り立つが、先だって日本で発売されたKDDIの「GALAXY S II WiMAX ISW11SC」はNFCに対応していたりもする。

 そんな中NXPは、フェリカネットワークスと共同で24日に、FeliCaに対応したNFCチップの開発を表明した。チップの投入時期は2013年だが、これにより今後、対応チップ搭載端末で、おサイフケータイだけでなく、世界各地のNFC対応サービスを利用できる目処が立ったことになり、NFCの動向にも目が離せなくなった。

 NFCの用途として最も有望で、先行するのは決済系サービスだ。おサイフケータイでもなじみ深いように、電子マネーと組み合わせて、レジなどのリーダーにかざすだけで決済が完了するものだ。会場のデモの1つでは、NFC経由でオンラインクーポンを取得し、そのクーポンの割引を適用させた上でGoogle Walletを使って決済する様子がデモされた。

 ATOPに関連したデモも行なわれた。ATOPとは、欧州で近く乗用車に導入が義務づけられる緊急通報システムのためのプラットフォーム。通信機能として、3G通信機能と、GPS、NFCを搭載しており、例えば事故の際に、GPSによる位置情報を持った緊急通報を当局などに行なう。

 NFCの用途としては、会場にはバイクが設置されており、NFCカードをATOPにかざすとエンジンがかかるようになっていた。通常の自家用車なら、そのメリットは薄いかもしれないが、たとえばカーシェアリングシステムにおいて、従来の鍵の受け渡しをすることなく、スマートフォンアプリで認証を行ない、NFCスマートフォンでエンジンをかけるというケースなどが想定されている。

 このほか、すでに運用が開始されているものとして、サンフランシスコのNFC対応コインパーキングや、NFCタグから情報を読み取り、自動的にEvernoteにクリッピングする機能などが実演された。

NXPブースNFCとfoursquareの連携デモGoogle Walletを使った決済のデモ
バイクにつけられたATOP。これはオプション的だがNFCが鍵の代わりになるサンフランシスコで導入されているコインパーキングのNFC決済。ユーザーは小銭がいらず、運営者はコイン回収コストを削減できるポスターに添付されたNFCから情報を読み取って、映画の予告編を見るといった用途も

●Qualcomm

 Qualcommは、Snapdragon S4 Proの発表を行ない、ブースでその関連デモを行なっている。

 S4 ProはS4の上位モデルで、「Adreno 320」と呼ばれるより強力なGPUコアを内蔵するのが特徴。比較対象は不明だが、リリースでは従来のGPUコアの4倍の性能を持つとしており、Androidのみならず、Windows 8もターゲットにしている。

 Snapdragon S4ファミリーの特徴は、コアのクロックを非同期で変更できる点。ブースにはデュアルコアとクアッドコアそれぞれのデモ機が置かれ、個々のコアが負荷に応じて動的にクロックが変わる様子が初公開されていた。現行バージョンでは、クアッドコアモデルで最高クロックが1.5GHzとなる。不要なコアは0Hzにまで落とせるので、電力効率が非常に高いとしている。なお、設計上の最大クロックは2.5GHzになっている。

 Snapdragonと組み合わせられるIEEE 802.11ac対応製品も発表された。先に買収したAtherosによる製品で、現行のIEEE 802.11n対応チップとピン互換性があるため、OEMは容易に移行できる。デモ機では、11n対応製品同士の機器間転送速度が80Mbps前後なのに対し、11ac搭載機では200Mbpsを超える速度が確認できた。なお、同社では、Snapdragonのようなベースバンドを持たない製品と組み合わせるモデルも用意しており、TVなどに組み込むことで、フルHDの映像もケーブルなしで送受信できるようになる。

QualcommブースクアッドコアSnapdragon S4のデモ。4つのコアのクロックがリアルタイム表示されているが、それぞれ全く異なっているのが分かるGPUの性能を示すデモ。HTML5アプリで、CPUだけのレンダリングでは16fpsのところ、GPUを使うと60fps出る
IEEE 802.11acのデモ。左が11n、右が11acLTEのデモにも力が入っている。これはマルチキャストを使って、映像コンテンツなどをTVのようにブロードキャストするというもの

(2012年 3月 1日)

[Reported by 若杉 紀彦]