【COMPUTEX 2010レポート】【インテル基調講演】
多数の新しいAtomプロセッサの計画を公開

Intel アーキテクチャ事業本部 事業本部長兼上級副社長 ダディ・パルムッター氏

会期:6月1日~6月5日(現地時間)
会場:Taipei World Trade Center Nangang Exhibition Hall
   Taipei World Trade Center Exhibition Hall 1/3
   Taipei International Convention Center



 Intel インテルアーキテクチャ事業本部 事業本部長兼上級副社長のダディ・パルムッター氏は、COMPUTEX TAIPEIに併設されて行なわれている「e21FORUM 2010」の基調講演に登場し、同社の戦略などについて説明した。パルムッター氏は、多くの時間をAtomプロセッサ関連の話に割き、Atomを搭載したネットブック、タブレットなどに関する戦略や新製品を多数公開した。

 そうした話の中でパルムッター氏は、現在ネットブックに多数採用されているPine Trail-MプラットフォームにDDR3対応版が追加され、まもなくデュアルコア版も追加される予定であることを明らかにした。さらに、Moorestownのシリコンを応用しながら、Windowsもサポートされる“Oak Trail”プラットフォームに関する概要の説明も行なわれた。

●1つの命令セットアーキテクチャで、携帯電話からサーバーまでをカバーできるIA

 パルムッター氏は、同氏の講演では通例になりつつある、携帯電話から果ては大規模サーバーまで、すべて1つの命令セットアーキテクチャで統一することのメリットを語った。Atomベースの携帯電話や、タブレット、AIO、デジタルサイネージの看板などを見せながら「これらのデバイスはすべて1つのアーキテクチャで動いている。ソフトウェア開発者は、新しいアーキテクチャを勉強しなくてもすぐに新しいタイプのデバイス向けのソフトウェアを書くことができる」とし、IA(Intel Architecture)のメリットであると説明した。

 続いて、Intelのソフトウェア戦略に関して、ソフトウェア&サービス事業本部 事業本部長兼副社長のレネ・ジェームス氏が説明を行なった。「IntelはAtomプロセッサを使ったソフトウェアを開発する開発者向けのプログラムを用意しており、ソフトウェア開発者はこれを無料で利用できる。さらに、OEMメーカーとも協力して、それらを配信したり、販売する窓口としてAppUp Storeというアプリストアを用意しており、MeeGoやWindowsからユーザーが利用できるようになっている」とし、Intelが提供しているAtomデベロッパープログラムへの参加や、AppUp Storeなどへの参加を呼びかけた。

 ジェームス氏によれば、今回AppUp StoreにASUSTeK Computerが参加し、同社のタブレットやネットブックなどのデバイスから、アプリケーションをダウンロードしていく仕組みが提供されることになるという。

ソフトウェア&サービス事業本部 事業本部長兼副社長のレネ・ジェームス氏さまざまな階層でIntelがソフトウェア開発者をサポート
MeeGoは、1つの種類のデバイスだけでなく、複数のカテゴリーのデバイスを横断的にサポートするASUSがAppUp Storeと提携してアプリストアを開設する

●Intel HD Graphicsで偏光方式の3D立体視をサポート、Blu-ray 3Dを視聴可能に

 引き続き、パルムッター氏は、トラディショナルなPCの話題に移っていった。最近ではiPadやスマートフォンなどが話題の中心で、PCのことは忘れ去られがちであるが、とはいえ1つのアーキテクチャやOSで、もっとも出荷されているデバイスは未だにPCだと強調した。

 パルムッター氏は「2009年の調査では多くのものが出荷数が減っているが、唯一の例外がノートPCとネットブックだ。昨年は15%強も出荷が増えている。そして、今現在も1日に100万台のPCが出荷され続けている」とPCのビジネスはいまだに堅調であるとアピールした。

 そして、今後もPCが成長を続ける根拠として、「PCはこれまで1台を家族で共有したりしていた。これまではお父さんのPCをみんなで使い回していたのが、よりパーソナル化が進み、お母さんも、子供達も1台ずつPCを持つ時代が来る」とし、特に成長市場と言われる中国、ロシア、インドなどで複数台の需要が強くあると指摘した。

 そうしたPC向けのプロセッサとして、1月に発表した、2010 Coreプロセッサ・ファミリーに関する話題へと移っていった。パルムッター氏は「32nmプロセスルールは従来のプロセスルールに比較しても順調に立ち上がっている」と説明し、32nmプロセスルールの製品が非常に順調に普及が進んでいることをアピールした。

 そして、2010 Coreプロセッサ・ファミリーに関する新しい話題として、内蔵されているGPUであるIntel HD Graphicsにおいて3D立体視を正式にサポートすることを明らかにした。パルムッター氏によれば、Intel HD GraphicsにおいてBlu-ray 3Dの視聴が可能になるということで、偏光方式の3Dグラスと偏光パネルが貼られたディスプレイがあれば外付GPUがなくても3D立体視を楽しむことができるという。なお、先週NECより発表された「VALUESTAR N VN790/BS」は、このIntel HD Graphicsを利用して3D立体視を実現している。

 さらに、パルムッター氏はIntelが2010年に投入を計画している次世代プロセッサ“Sandy Bridge”についてふれ、内蔵GPUのデモを行なった。「Sandy Bridgeの内蔵GPUは、現行製品に比べて描画性能が高まっているのに、消費電力は従来製品よりも低い」と述べ、実際に3Dゲームをしながら消費電力が低い様子をデモした。

未だ成長を続けているノートPCやネットブックPC業界は1日に100万台のデバイスを出荷している中国、ロシア、インドなどでは家庭に1台以下しか普及していないため、まだまだ潜在的な成長の余地がある
32nmプロセスルールは非常に急速に立ち上がっているIntel HD Graphicsにおいて3D立体視をサポートするSandy Bridgeは、GPUをネイティブに統合することになる
Sandy BridgeではGPUの処理能力が向上しているため、表現力も向上している消費電力の比較、左側が現行製品、右側の青いバーがSandy Bridgeの消費電力

●デュアルコア版Pine Trail-Mは今年の後半に市場に投入、薄型ネットブックへも搭載可能

 パルムッター氏が次の話題として取り上げたのが、ご当地である台湾産製品としてもっとも成功したものの1つにあげてもよいネットブックに関する話題だ。「ブラックベリーよりも、iPodよりも、任天堂のWiiよりも急速に立ち上がったカテゴリがあるのだが、それは何か……その答えはネットブックだ」と述べ、ネットブックが他のどのような製品よりも急速に市場に受け入れられたとした。「ネットブックの第2の波がこれから来るのだ」とし、今後Intelが投入する新しい製品で、より魅力的なネットブックが市場に投入されるようになり、ネットブックの第2のブーム期がやってくるのだという認識を明らかにした。

 同氏のいう新しい武器とは、Intelが投入するPine Trail-MのDDR3対応版とデュアルコア版だ。Pine Trail-Mは昨年の12月に投入されたIntelの新しいネットブック向けのプラットフォームで、GPU内蔵型プロセッサのAtom N470/450(Pineview-M)とチップセットNM10(TigerPoint)から構成されている。この最初のPineview-MはメインメモリとしてDDR2のみに対応していたのだが、最近ではDRAMの価格が逆転しDDR3の方が安価になりつつあるので、OEMメーカーではローエンドなはずのネットブックで若干価格が高めになってきたDDR2を使わなければいけないという状況が発生していた。

 そこで、今回N475、N455というN470とN450のDDR3版が投入され、この問題を解決した。なお、価格はN470とN450と据え置きで、1,000個あたりのリストプライスはそれぞれ75米ドル、64米ドルとなっている。パルムッター氏によれば両製品も「すでにOEMメーカーへ出荷済み」とのことなので、まもなく搭載製品が市場に出回ることになるだろう。なお、デスクトップ版も用意されており、D525、D425がそれで、こちらは6月21日に出荷が開始される。

 そしてもう1つが、デュアルコア版のPineview-MがPine Trail-Mに追加されることが公式に明らかになったことだ。ただし、今回はあくまで投入の意向表明であり、即製品が投入される訳ではない。Intelによれば、製品投入は今年の後半が予定されており、現時点ではSKUなどは公開されていない。

 パルムッター氏はこのデュアルコア版Pine Trail-Mを採用した製品のデザイン例として、Intelが"Canoe Lake"(カヌーレイク)の開発コードネームで呼ぶ厚さがわずか14mmとスリムなネットブックを公開した。パルムッター氏は「今後OEMメーカーからこうしたより薄型のネットブックが登場することになるだろう」とのべ、今後も魅力的なネットブックを市場に送り出すことで、ネットブック市場を活性化していきたいという方向性を明確にした。

ネットブックの普及はiPodよりも、任天堂Wiiよりも速く立ち上がったIntelの新しい武器はDDR3対応版とデュアルコア版のPine Trail-M
デュアルコア版Pine Trail-Mの紹介、市場への投入は今年の後半になる14mmと非常に薄型のCanoe Lakeを手に持つパルムッター氏
【動画】シングルコア(左)とデュアルコア(左)の比較。Webサイトの表示が軽々できるようになっていることがわかる

●消費電力が50%削減されるOak Trailは2011年の年頭に登場へ

 ついで、パルムッター氏は、組み込み器機向けのAtomプロセッサの話題へと移った。パルムッター氏は、壇上に飾られた多数のAtomプロセッサを採用した組み込み器機を紹介し、「Atomはネットブックだけではない、玩具やテレビなど様々なデバイスにも採用が進んでいる」と述べ、先日Googleが、ソニーとIntelと提携することを明らかにしたGoogle TVのデモを行なった。

 さらに、Moorestownの開発コードネームで開発されてきて、先月発表されたばかりのIntel Atom Z6xxシリーズについて触れた。Atom Z6xxシリーズは、スマートフォン向けのプロセッサとして位置づけられている製品で、実際にデモ機でAndroidやMeeGoなどのOSが動作する様子がデモされた。

 そして最後にパルムッター氏が紹介したのが、今もっともホットな製品と言ってよいタブレット製品におけるIntelのソリューションだ。現行のAtomプロセッサ(Pine Trail-M)ベースの製品が紹介されたあとで、IntelがMoorestownのPC版として開発してきたOak Trail(オークトレイル、開発コード名)をタブレットや薄型ネットブックに最適な製品として紹介した。パルムッター氏によれば、Oak Trailは、1080pのビデオをデコードが可能で、Pine Trail-Mに比べて消費電力が50%に削減されるという。なお、Oak Trailは2011年の早い時期に投入される予定となっており、来年に前半には搭載した製品が市場に登場することになりそうだ。

これらすべてのデバイスが組み込み向けのAtomプロセッサを採用している今後家庭内の様々なデバイスにAtomプロセッサが使われるようになる
組み込み向けに用意されるAtomプロセッサGoogle TVの登場でソフトウェアも含めたすべてのピースがそろいつつあるテレビ向けのAtom
Androidが動いているAtom Z6xxを搭載したスマートフォン現行のAtomプロセッサを搭載したタブレット端末、OSはMeeGoOak Trailを説明するスライド
【動画】MeeGoベースのタブレットがさくさく動く様子

(2010年 6月 2日)

[Reported by 笠原 一輝]