組込みシステム開発技術展レポート
~Atomプロセッサの多彩な応用事例を展示

「第12回組込みシステム開発技術展(ESEC)」の来場者受付

会期:5月13日~15日

会場:東京ビッグサイト



 組み込みコンピューティング機器の開発技術に関する展示会「第12回組込みシステム開発技術展(ESEC)」が5月13日~15日の日程で始まった。入場料は5,000円となっているが、オンライン登録すると招待券引換証となる電子メールを受信できる。実質的には無料と言ってよいだろう。

 組み込みコンピューティングの世界で現在最も注目を浴びているプロセッサがIntelの「Atomプロセッサ」である。前年のESECでは、Atomプロセッサ搭載製品が数多く出品された。また2008年秋に開催された、ESECと並ぶ組み込み開発技術の展示会「Embedded Technology」でも、大量のAtomボードが出品された。

 今回のESECでも、Atomプロセッサを採用した組み込み機器や組み込みボードなどが数多く展示されていた。

 組み込み機器を展示していたのは、パナソニック、クラリオン、山下システムズ、アドバンテック、ダックス、ポートウェルジャパン、DT Research、オムロンなどだ。

 パナソニックはウルトラモバイルPC「TOUGHBOOK CF-U1」と医療現場用モバイルPC「TOUGHBOOK CF-H1」を実物出品した。いずれも製品化済みのPCである。クラリオンは、携帯型のPND(Personal Navigation Device)「NR1U」を実物出品した。北米市場では2008年11月に発売済みの製品である。欧州市場では2009年6月に発売予定。インターネット接続機能を備えており、Googleマップと連携して目的地を検索できる。

 山下システムズは、バッテリ駆動式のタッチパネル情報端末「MP084T-001G/Z530」を参考展示した。Z510/Z530プロセッサとUS15Wチップセット、512MBのDDR2-533 SDRAMを搭載した端末である。バッテリの駆動時間は2時間とそれほど長くはない。

 アドバンテックは、医療用モバイル端末「MICA-101」を参考展示した。Z510/Z530プロセッサ、10.4型タッチパネル液晶ディスプレイ、1次元/2次元バーコードリーダー、200万画素のカメラなどを内蔵する。パナソニックの医療現場用モバイルPC「TOUGHBOOK CF-H1」と同様に、Intelが提唱している医療向けモバイルプラットフォーム構想「Mobile Clinical Assistant(MCA)」に準拠する。

 ダックスは、無線LAN内蔵の小型ボックスPC「HFBX-3800」を実物展示した。Z510/Z530プロセッサを搭載する。外形寸法は135×155×41mm(幅×奥行き×高さ)。ポートウェルジャパンは、ハンドヘルド/ポータブル端末の試作機「UMPC-2711」を参考展示した。Z510/Z530プロセッサとUS15Wチップセットを搭載する。DT ResearchはタブレットPC「DT312」を実物出品した。Z530PプロセッサとUS15WPチップセットを搭載する。

 オムロンは、笑顔の認識機能を内蔵したパネルPCを参考展示して来場者の注目を集めていた。内蔵カメラで顔を認識すると、笑顔の度合いをパーセント表示する。顔認識によって年齢と性別を推測するエンジンも内蔵した。プロセッサはZ530。

パナソニックのウルトラモバイルPC「TOUGHBOOK CF-U1」。2008年6月に製品発表されたパナソニックの医療現場用モバイルPC「TOUGHBOOK CF-H1」。2008年11月に製品発表されたクラリオンの携帯型PND「NR1U」。北米市場で2008年11月に発売された
山下システムズのタッチパネル情報端末「MP084T-001G/Z530」。参考展示品アドバンテックの医療用モバイル端末「MICA-101」。参考展示品ダックスの無線LAN内蔵小型ボックスPC「HFBX-3800」。製品化済み
ポートウェルジャパンのハンドヘルド/ポータブル端末「UMPC-2711」。参考展示品DT ResearchのタブレットPC「DT312」。製品化については不明オムロンの笑顔認識機能を内蔵したパネルPC。参考展示品

 組み込みボードを展示していたのは、アスコット、ポートウェルジャパン、ダックスなどである。

 アスコットはCompactPCIバスに準拠したCPUボード「TP A40/30x」を出品した。Z530プロセッサとUS15Wチップセットを搭載する。メモリは1GBのDDR2-533 SDRAMである。2チャンネルのGigabit Ethernetインターフェイス、4チャンネルのSATA 3Gbpsインターフェイス、5ポートのUSB 2.0インターフェイスなどを搭載した。

 ポートウェルジャパンは、フォームファクタがNano-ITXの小型CPUボード「NANO-8045」を出品していた。Z510/Z530プロセッサとUS15Wチップセットを搭載する。ボードの外形寸法は120mm角と小さい。メモリはDDR2-533/400 SDRAMのSO-DIMMスロットに挿入する。メモリの最大容量は2GB。

 ダックスは、外形寸法が145mm角の小型CPUボード「HFMB-26」を出品した。プロセッサはZ510P/Z520P/Z530P/Z510PT/Z520PT、チップセットはUS15WP/US15WPTを選べる。メモリはDDR2-533/400 SDRAMのSO-DIMMスロットに挿入する。メモリの最大容量は2GB。外部記憶にはCompactFlashカードスロットのほか、SDカードスロットを用意した。

アスコットのCompactPCIバス準拠CPUボード「TP A40/30x」ポートウェルジャパンのNano-ITXボード「NANO-8045」ダックスの小型CPUボード「HFMB-26」

 Atomプロセッサ以外では、Xeonプロセッサ「E5504/E5540」(Nehalem)を2個内蔵する組込み用高性能コンピュータ「AR8300」をPFUが出品していたのが目立っていた。E5504を2個内蔵するデモ機を用意し、50,000×4,096画素(約2億画素)と膨大な画素数のモノクロ画像に対してパターンマッチング処理を実行してみせていた。シングルコアの場合に処理時間が495ms必要だったのが、8コアでは処理時間を72msに短縮できた。

PFUのXeonプロセッサ「E5504」を2個内蔵する組込み用コンピュータ「AR8300」「AR8300」によるデモンストレーションの説明パネルと実行画面

 このほか、東芝 セミコンダクター社がARMコア「Cortex-M3」を内蔵したマイコン「TMPM330FDFG」を実物展示していた。同社にとっては「Cortex-M3」を内蔵した初めてのマイコン製品である。「TMPM330FDFG」は512KBのフラッシュメモリを内蔵する。

 東芝はCortex-M3を内蔵したマイコンファミリーを「TX03シリーズ」と称しており、今後は少なくとも10品種を製品化していく計画となっている。

RMコア「Cortex-M3」を内蔵したマイコン「TMPM330FDFG」の展示。ノートPCの手前にあるボードに「TMPM330FDFG」を搭載した「TMPM330FDFG」の概要Cortex-M3を内蔵したマイコンファミリー「TX03シリーズ」の特長

 2008年に発売されたAtomプロセッサと新チップセットはこれまで、組み込み向けに改良を重ねられてきた。パッケージのボールピッチを広げてボードの組み立てを容易にしたバージョンと、この新パッケージで使用温度範囲を工業用途(マイナス40℃~プラス85℃)に広げたバージョンが登場した。Intelが組み込み用に相次いで派生品を供給することはこれまでにはあまりなかったことだ。組み込み分野にIntelは、相当に力を入れていることが窺える。

(2009年 5月 14日)

[Reported by 福田 昭]