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ET2008レポート【Wintel編】
Windows Embedded StandardとAtomプロセッサが握手

ET2008会場入口の案内図

会期:11月19日~21日

会場:パシフィコ横浜

入場料:1,000円(事前登録者は無料)



 組み込み機器の開発技術に関する総合展示会「ET2008(Embedded Technology 2008/組込み総合技術展)」が、パシフィコ横浜で開催された。ETでは例年、組み込み機器を構成するハードウェアとソフトウェア、開発に必要なツールが数多く展示される。またETの会場付近で報道関係者向けの発表会がいくつか催される。本レポートでは、PCユーザーに関心の高いと思われる技術や製品、記者会見などの内容を紹介する。

 最初にマイクロソフトとインテルがそれぞれ報道関係者向けに組み込み分野での最新情報を解説したので、その内容をご報告しよう。

マイクロソフトでWindows Embedded担当シニアエグゼクティブプロダクトマネージャを務める松岡正人氏

 マイクロソフトは、組み込み用Windows OS「Windows Embedded Standard」のリリースとその概要を発表した。台湾の半導体ベンダーVIA Technologiesが11月19日にET2008展示会場近くのホテルで記者会見を開催し、その中でマイクロソフトのWindows Embedded担当シニアエグゼクティブプロダクトマネージャの松岡正人氏が概要を説明した。

 松岡氏は始めに、組み込み分野に対するマイクロソフトの取り組みを簡単に述べた。過去、マイクロソフトはPC向けとほぼ同じ機能を備えたWindows OSを組み込み向けに提供してきた。今後は、過去になかったタイプのサービスを提供できるWindows OSを組み込み向けに開発していくとした。例えば、窓口担当者の代わりに顧客と双方向でやり取りする組み込み端末を想定したWindows OSである。

 続いて、組み込み用Windows OSの名称について、最新の状況を解説した。なおマイクロソフトが組み込み用OSの名称を変更することは大原氏が4月にレポート済みである。名称はすべて「Windows Embedded xxxxxxx(xには適当な文字が入る)」となる。

組み込み用Windows OSの概要

 現在提供中の組み込み用Windows OSは、一般用途向けOSと特定用途向けOSに大きく分けられる。一般用途向けOSには、「Windows Embedded CE」、「Windows Embedded Standard」、「Windows Embedded Enterprise」の3種類のOSが用意されている。前者のWindows Embedded CEは2009年に次世代版がリリースされ、「Windows Embedded Compact」となる予定である。真ん中のWindows Embedded StandardはWindows XP Embeddedの次世代製品で、今月リリースされた。後者Windows Embedded Enterpriseは既存のPC用OSを組み込み機器で使うための仕組みである。Windows Vista for Embedded SystemとWindows XP for Embedded Systemがあり、組み込み開発に限定してライセンスされている。

 特定用途向けOSには「Windows Embedded for Point of Service」と「Windows Embedded NavReady」がある。前者はATM端末やキオスク端末などに向けたOSである。2009年には次期版の「Windows Embedded POSReady」が出荷される予定となっている。後者は2008年6月に出荷を始めた新しいOSで、PND(Personal Navigation Device)に向けたものだ。

現在提供中の組み込み用Windows OSの一覧。マイクロソフトのスライドを元に筆者が作成
現在提供中の組み込み用Windows OSの性能比較表。マイクロソフトのスライドを元に筆者が作成

 続いて松岡氏は、11月に出荷を始めたWindows Embedded Standardの内容を説明した。このバージョンから、Windows Embeddedのシリーズにも年号を製品名にいれた。すなわち「Windows Embedded Standard 2009」となった。

 Windows Embedded Standard 2009は、Windows XPのService Pack 3(SP3)をコアとした組み込み用OSである。これまで提供されてきたWindows XP EmbeddedはWindows XPのSP2をコアとしていた。SP2とSP3の違いがWindows XP EmbeddedとWindows Embedded Standard 2009の違いになる。具体的にはInternet Explorer 7、Windows Media Player 11、Remote Desktop Protocol 6.1などが追加された。

 また大きな違いとして、アプリケーション・ソフトウェア開発に「.NET Framework 3.x」が使えるようになったことを強調していた。既存のWindows XP Embeddedではソフトウェア開発に「.NET Framework 2.x」を使っていたため、グラフィックス回りの開発に手間がかかっていた。今回の変更により、グラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)の開発効率が大幅に向上するという。例えば3次元グラフィックスのコード量は、数十分の1~数百分の1に減少するとした。この辺りの改良は、Atomプロセッサのチップセット「US15W」のグラフィックス性能が非常に強力であることと対応しているように感じた。

 なお、Windows XPをコアとした組み込み用の一般向けOSは、これが最後のバージョンとなると説明された(特定用途向けではWindows Embedded POSReadyがWindows XPコアとなる)。そして組み込み用一般向けOSの次期バージョンは、Windows 7ベースで開発され、Windows Vistaがスキップされる。大原氏のレポート時点ではWindows Vistaベースの次期Windows Embedded Standard 「Quebec」をマイクロソフトはロードマップに入れており、方針転換がなされたことが分かる。

Windows Embedded Standard 2009の概要。なおサポート期間は10年である Windows Embedded Standard 2009の特徴
Windows Embedded Standard 2009で追加された機能 ET2008展示会場のマイクロソフト・ブースではパートナー企業のユニダックスがWindows Embedded Standard 2009とAtomプロセッサ・ボードの組み合わせを展示し、来場者の注目を集めていた

●Atomプロセッサは800件を超える採用案件を獲得

 ET2008では11月21日に、米Intelでデジタルエンタープライズ事業本部バイス・プレジデント兼エンベデッド&コミュニケーション事業部長を務めるダグラス・デービス氏が「エンベデッド・コンピューティングの将来」と題して招待講演を行なった。また招待講演に先立ち、報道関係者を対象としたラウンドテーブルをインテルは開催した。ラウンドテーブルでは、ダグラス・デービス氏が招待講演の概要を簡単に説明した後、報道関係者との間で質疑応答がなされた。

 デービス氏は、インターネット接続機能を備えた組み込み端末が2015年には150億台に達するとの予測を示した。この見通しは、8月に開催されたIDF(Intel Developer Forum)でデジタルエンタープライズ事業本部シニアバイス・プレジデントのパット・ゲルシンガー氏が述べた内容と同じである。

 そしてノートブックPCやデスクトップPC、携帯電話機は、市場という氷山の一角、すなわち海面上に浮き出ている部分に過ぎず、海面下には、インターネット接続された組み込み機器という大きな氷山が隠れているとした。この2015年に150億台に達するとされるインターネット端末の巨大市場に向けてソリューションを展開していくと説明した。

 具体的には、Atomプロセッサとx86アーキテクチャのSoC(System on a Chip)でさらなる成長を達成するとする。Atomプロセッサはすでに800種類を超える組み込み機器で採用される見込みであり、その中にはこれまでx86アーキテクチャを採用していなかった機器が、少なからず含まれているという。

米Intelでデジタルエンタープライズ事業本部バイス・プレジデント兼エンベデッド&コミュニケーション事業部長を務めるダグラス・デービス氏 インターネット接続機器の広がり。組み込み機器がインターネット接続機能を備えることで、インターネット端末は2015年に150億台に達するという x86アーキテクチャCPUの市場を巨大な氷山に例えた
x86アーキテクチャCPUの性能階層と応用分野の関係 Atomプロセッサを採用した機器の例。ここに挙げた機器の多くは、x86アーキテクチャのCPUを初めて採用したという

 ラウンドテーブルの質疑応答では、いくつかの興味深い事実が明らかになったのでご報告する。まず「Embedded Menlow」プラットフォーム(組み込み用Z500系Atomプロセッサと組み込み用SCH US15Wチップセットの組み合わせ)の次期バージョンである「Embedded Menlow XL」プラットフォームは、FCBGAパッケージのボールピッチを拡大したプラットフォームであることが分かった。Menlowのボールピッチは0.6mmであるのに対し、Menlow XLではボールピッチを1.0mmに拡大する。このためパッケージの外形はいくらか大きくなるものの、プリント配線基板へのはんだ付け作業が容易になるとともに、工業用使用温度範囲に対応するようになった。

「Menlow XL」は2009年1~3月に出荷される予定。Intelデジタルエンタープライズ事業本部シニアバイス・プレジデントのパット・ゲルシンガー氏が8月のIDFで基調講演したときのスライドから引用

 また、今後登場するx86アーキテクチャの組み込み用SoCは、Atomプロセッサコアを搭載することが改めて確認された。2009年下半期に出荷予定の次期SoC「San Onofre(開発コード名)」はAtomコアとなることが確定したといえよう。

 そのほかAtomプロセッサとARMプロセッサコアの性能比較論争に関しては、Intel側はウルトラモビリティ事業本部が携帯電話機の担当で性能比較結果を述べており、デジタルエンタープライズ事業本部は無関係であるとしてコメントする立場にないとの回答があった。Atomプロセッサ搭載の組み込み機器でも携帯電話機はウルトラモビリティ事業本部が担当し、家電機器はデジタルホーム事業本部が担当している。例えばx86アーキテクチャの組み込み用SoCでも家電向けの「CE3100」は、デジタルホーム事業本部の担当チップである。Intelは顧客対応を優先した応用分野別組織であるために、いささか複雑なことになっているようだ。

□ET2008のホームページ
http://www.jasa.or.jp/et/
□Windows Embeddedのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/windows/embedded/default.mspx
□インテルの組み込み機器向け製品のホームページ
http://www.intel.co.jp/jp/products/embedded/index.htm
□関連記事
【9月10日】ARM、IntelによるAtom優位の主張に強く反論
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0910/arm.htm
【8月21日】パット・ゲルシンガー基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0821/idf03.htm
【5月15日】組込みシステム開発技術展レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0515/esec.htm
【4月18日】【ESC SV 2008】Windows Embeddedの製品ラインを再編
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0418/esc03.htm
【2007年11月15日】組込み系技術展の「Embedded Technology 2007」が開催
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1115/et.htm

(2008年11月25日)

[Reported by 福田昭]

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