イベントレポート

Intel、半永久的に自律駆動する無線通信機能付きセンサー端末と超低消費電力x86マイコン

開発した無線センサー端末の概要。出典:VLSI回路技術委員会

 外部からの電源供給が不要で、半永久的に自律駆動する無線通信機能付きセンサー端末と端末向けの超低消費電力x86マイクロコントローラ(マイコン)をIntelが開発し、その概要を国際学会「VLSI回路シンポジウム」で6月16日に発表した(講演番号8.1)。IoT(Internet of Things)分野の無線搭載センサーネットワークを構成する端末として利用できる。

 開発した端末は、電力獲得用の太陽電池(大きさは1平方cm)、電力獲得IC(エネルギーハーベスティングIC)、x86アーキテクチャの32bitマイコン、パワー管理IC、Bluetooth Low Energy(BLE)規格の無線トランシーバ、フラッシュメモリ、センサー群で構成される。

開発した無線センサー端末のブロック図

370mVの低電源電圧で周波数が3.5MHzと高く、消費電力が58μWと低い

 x86アーキテクチャの超低消費電力32bitマイコンは、無線センサー端末向けに新たに開発した。14nmのSoC(System on a Chip)向けトライゲートCMOSプロセスで製造しており、シリコンダイ面積は0.79平方mmと極めて小さい。

 マイコンが動作する電源電圧の範囲は、308mV~1Vとかなり広い。動作周波数は電源電圧が308mVの時に0.5MHz、370mVの時に3.5MHz、750mVの時に180MHz、1Vの時に297MHzである。動作サイクル当たりの消費エネルギーが最小になるのは電源電圧が370mVの時で、動作周波数は3.5MHz、消費電力は58μW、1サイクル当たりの消費エネルギーは17.18pJである。

開発した32bitマイコンの電源電圧(横軸)、動作周波数(上のグラフの縦軸)、消費エネルギー(下のグラフの左縦軸)、消費電力(下のグラフの右縦軸)

 マイコンの内部回路は、CPUコア、1次キャッシュ、ブートROM、共有メモリ、DMA(直接メモリアクセス)、SPI回路、タイマー、汎用IO、I2C回路、パワー管理兼クロック制御回路、校正済みリング発振器(CRO)、入出力回路、電源回路などで構成される。

 これらの回路には、特性の異なる4種類のトランジスタによるセルライブラリを構築して割り当てた。HP(高性能)トランジスタ、SP(標準性能)トランジスタ、ULP(超低消費電力)トランジスタ、TG(ゲートを厚くした)トランジスタである。

 HPトランジスタはクロック分配回路に採用し、ばらつきによるクロックのスキューを最小化した。SPトランジスタはロジック回路に採用し、ロジックの動作速度を確保した。TGトランジスタは電源電圧の高いIO回路に使用している。

 ULPトランジスタはメモリ回路に採用し、待機時の消費電力を最小化した。メモリセルは8個のトランジスタで構成しており、セル面積は0.155平方μmと14nm技術としてはかなり大きい。メモリセルのリーク電流は電源電圧が308mVの時に8.3pAである。8個のSPトランジスタで構成したメモリセルに比べると、リーク電力は26分の1と大幅に小さくなっているものの、メモリセル面積は55%増になっているという。

5つの電源ドメインと3種類の省エネルギーモードを用意

 電源ドメインは5つ。コア電源(Vcore)、常時オン(Anytime On)の回路用電源(Vaon)、リング発振器用電源(Vcro)、レベルシフタ用電源(Vls)、IO用電源(Vio)である。IO用電源(Vio)の電圧は1.5Vに固定しておく。そのほかの電源電圧では、コア電源(Vcore)と常時オン(Anytime On)の回路用電源(Vaon)、レベルシフタ用電源(Vls)は基本的に同じ電圧である。

開発したx86低消費電力32bitマイコンの内部ブロックと電源ドメイン

 待機時の消費電力を節約する省エネルギーモードはS3~S0まで、4種類(厳密には省エネルギーとなるのは3種類)ある。「S3」はノーマルモードで、通常の動作モードである。「S2」は「ショートスリープ」と呼ぶ弱い省エネルギーモードで、クロックゲーティングによってCPUコアは休止状態となる。消費エネルギー(サイクル当たり)はノーマルモードに比べると38%ほど減少する。ノーマルモードへの復帰にはμsオーダーの時間を必要とする。

 「S1」は「ロングスリープ」と呼ぶ、S2よりも深い省エネルギーモードである。校正済みリング発振器(CRO)が止まり、全体がクロックゲーティングされる。全体の回路はリアルタイムクロック(RTC、周波数32kHz)によってゆっくりと駆動される。消費エネルギー(サイクル当たり)はノーマルモードに比べて84%ほど減少する。ノーマルモードへの復帰にはmsオーダーの時間を必要とする。

 「S0」は「ディープスリープ」と呼ぶ、最も深い省エネルギーモードである。CPUコアとCROの電源供給は停止される。常時オン(Anytime On)の回路は電源供給があり、リアルタイムクロックによって動く。消費エネルギー(サイクル当たり)はノーマルモードに比べて94%減(16分の1)と大きく減る。ノーマルモードへの復帰には数秒の時間を必要とする。

開発した32bitマイコンの低消費電力モードとサイクル当たりの消費エネルギー

室内照明で無線センサー端末は連続して動作

 開発したマイコンを組み込んだ無線センサー端末は、室内照明下(1,000ルクス)で連続動作する。この動作には、BLEによるデータ送信を含む。

 無線センサー端末の動作は、センサーのデータを定期的に収集しつつ、間欠的にBLEによってデータをホスト側(ハブ側)に送信するというものになる。マイコンの電源電圧が0.45V、動作周波数が13MHzの時にマイコンの消費電力は290μW、無線センサー端末全体の消費電力は360μWである。

無線センサー端末の動作例(起動から初期化、BLE通信までの約4分間)。間欠的に通信を実行することで、平均的な消費電力を低減する

 無線センサー端末で主にエネルギーを消費するのは、マイコンと無線通信である。消費電力の極めて小さなマイコンを実現することが、無線センサー端末の実用性を大きく左右する。x86の32bitマイコンで非常に少ない電力消費を達成したことは、大きな意義のあることだと言える。