イベントレポート
VLSI技術シンポジウム始まる。「ムーアの法則」の先を議論へ
~VLSI 2016レポート
2016年6月15日 06:00
半導体の研究開発コミュニティにおける夏の一大イベント、「VLSIシンポジウム」が今年(2016年)も始まった。
「VLSIシンポジウム」は、半導体の「デバイス技術」に関する研究成果を発表する国際会議「Symposium on VLSI Technology」(VLSI Technology、あるいはVLSI技術シンポジウム)と、半導体の「回路技術」に関する最新の研究成果を発表する国際会議「Symposium on VLSI Circuits」(VLSI Circuits、あるいはVLSI回路シンポジウム)で構成される。
過去、両者は同じ会場で、会期を1日ずらして開催されてきた。今年のVLSI技術シンポジウムは6月13日~16日に、VLSI回路シンポジウムは6月14日~17日が会期である。VLSIシンポジウムは西暦の奇数年に京都で、偶数年に米国のハワイで開催されてきた。今年は偶数年なのでハワイ開催の年に当たる。会場は例年と同じ、米国ハワイ州ホノルル市のリゾートホテル「Hilton Hawaiian Village」である。
依然として衰えないデバイス技術の研究開発
6月13日に始まったのは、デバイス技術の関する国際会議、「VLSI技術シンポジウム」(Symposium on VLSI Technology)の技術講座セッション(ショートコース)である。デバイス技術の研究開発成果を競うカンファレンスは、翌日の14日からになる。
カンファレンスでの発表講演を目指して投稿された要約論文(投稿論文)の数は214件である。ハワイ開催だけで比較すると2014年が224件、2012年が205件、2010年が215件だったので、ほぼ同じ水準を保っていると言える。なお、VLSI技術シンポジウムの投稿数はハワイ開催年が多く、京都開催年が少なくなる傾向がある。
発表講演に選ばれた論文(採択論文)の数は85件である。採択率は40%と例年とほぼおなじで、依然としてあまり高くない。「狭き門」をくぐり抜けた、品質の高い研究成果が発表される。
中国、インドに加えて中東からも投稿
投稿論文を地域別に見ると、従来からの常連である米国や日本、欧州、韓国、台湾、シンガポールに加え、最近では中国、インドといった新興国からの投稿が常態化してきた。アラブ首長国連邦、サウジアラビアといった中東からの投稿もある。半導体の研究開発拠点が国際的に広がっていることがうかがえる。
気になるのは、日本からの投稿数が減少していることだ。2007年~2008年頃は50件を超える投稿数があり、トップを米国と競っていたのだが、以降は漸減傾向にある。2016年の投稿論文数は25件にまで減り、欧州と米国、台湾の後塵を拝している。
採択論文を地域別に見ると、欧州が28件でもっとも多く、米国が24件で続く。3位は12件の日本と台湾が同数で並ぶ。最近は、欧州の躍進が目立つ。欧州の中ではベルギーが13件と多く、欧州全体の半分近くを占める。
企業と大学を比較すると、投稿論文数では大学が多く、採択論文数では企業が多い。大学の投稿論文が多く、大学の採択率が低いのは、最近の傾向である。なお企業の採択率は59.3%、大学の採択率は25.2%である。採択率にかなりの開きがあることが分かる。
欧州の研究機関と台湾の大学に勢い
発表機関別に採択論文数をランキングすると、トップはベルギーの研究開発機関imecで発表件数は10件である。2位はIBMで発表件数は7件。IBMは米国やスイスなどに半導体の研究拠点を構える。IBMは半導体の量産機能をファウンダリのGLOBALFOUNDRIESに売却したが、研究開発機能では健在ぶりを見せている。
3位はフランスの研究開発機関CEA-LETIである。5件の講演を予定している。4位は東芝と台湾のTSMCが4件で続く。東芝の発表件数も相変わらず多い。もはや国内企業で複数件の研究成果を毎年のように発表しているのは、東芝だけになってしまった。
大学では、台湾の国立交通大学(National Chiao Tung University)と米国のStanford Universityがいずれも3件でトップに立つ。2010年~2015年に4件~6件の論文発表で大学トップクラスの常連だった東京大学は、今回は2件とやや寂しい。
全体としては欧州の研究機関と大学、台湾の大学と企業に勢いを感じる。次世代半導体デバイスの研究は材料レベル(シリコン(Si)以外の材料探索)に突入していることから、基礎研究に強いと言われている欧州が躍進しつつあるようにも見える。
ムーアの法則に関連するパネル討論が続出
VLSI技術シンポジウムでは毎回、夜に複数のパネル討論会を開催する。今回は「ムーアの法則」に関連するテーマを扱うパネル討論が続出する。
6月14日の夜にはムーアの法則をテーマにした、技術シンポジウムと回路シンポジウムの合同パネル討論が予定されている。タイトルはかなり個性的だ。「More Moore, More Than Moore, or Mo(o)re Slowly(ムーアの法則を進める、ムーアの法則を超える、それともムーアの法則は(微細化は)ゆっくりと進む)」である。
同じ6月14日の夜には、技術シンポジウム単独の半導体メモリに関するパネル討論も予定されている。タイトルは「How Moore’s Law, Industry Consolidation, and System Trends are Shaping the Memory Roadmap (ムーアの法則と業界再編成、システム動向はメモリのロードマップをどのように形成していくか)」である。
続く6月15日の夜は半導体企業の経営幹部をパネリストに迎えた、半導体事業(ビジネス)の将来に関するパネル討論が予定されている。タイトルは「Semiconductor Business: Inflection Beyond Scaling(半導体ビジネス:スケーリングの先にある変化の予兆)」である。この討論会もスケーリング、すなわちムーアの法則の限界とその先を議論する。
VLSI技術シンポジウムのカンファレンスでは、プレビューレポートでお伝えしたように、興味深い論文が相次いで発表される。具体的な内容は順次、現地レポートでお伝えするので、ご期待されたい。