イベントレポート
案の定クレイジーだったオーバークロック業界
~液体窒素自動注入装置やオーバークロック専用メモリ
2016年6月7日 17:10
毎年COMPUTEX TAIPEIには、我々のようなメディアや商談をするバイヤー、一般観衆に加え、世界中からPCパーツ好きなオーバークロッカーも集まる。今年(2016年)はHWBOTのワールドツアーが会期中に開かれたこともあり、多くの“名人”たちが集まった。
メモリメーカーの「G.Skill」は去年(2015年)に引き続き、ブースでオーバークロック大会を実施している。このブースでの最大の見所は、EVGAのオーバークロッカーK|NGP|N氏が手作りした「液体窒素自動注入装置」だろう。
一般的に液体窒素を用いたオーバークロックをする時は、ボンベから一旦10~20L程度のデュワー瓶などに液体窒素を移し、さらに容積が1L~1.5L程度の保温ポッドに移す。その後、カップラーメンなど発泡スチロール製の容器に移して、そこから使いたい分だけ冷却ポッドに注ぐ。つまり容器を4つ使うわけだ。4回注ぐ作業が発生するので、かなりの液体窒素をロスしてしまう。
液体窒素自動注入装置は、なんとCPUの冷却ポッドと液体窒素のボンベをホースで直結。モータルコンバット用のジョイスティックを改造し、ボタンをチョンと押すだけで液体窒素が自動的にポッドに注ぐようになっている。これで大幅なロスを抑えるとともに、注ぐ時間や体力を大幅に軽減できる、というわけだ。
もちろん、装置を作る分の労力がいる上に、設置も撤収も楽ではないと思うが、極冷オーバークロックをしている最中は注ぐ作業にさほど神経を使わなくても良くなるので、ほかの作業に集中できるのがポイントだ。さすがNVIDIAも認めるオーバークロッカーだけのことはある。
ちなみにG.Skillのこのオーバークロック大会の優勝賞金は1万ドルとのことだが、出ている人達はどう見てもこの大会に出るために10万ドル以上はたいてそうだ。
このメモリ、怪しい
それから、会場外の一角に設けられたHWBOTのブースでも、多くのオーバークロッカーが自分たちの課題をこなしていたのだが、弊誌でもお馴染みのChi-Kui Lam氏がどうやら会期中に“当たり”のメモリを発見し、ブースで盛り上がりを見せた。
実は、それまで世界のメモリオーバークロックの記録は、台湾Toppc氏の2,501.2MHz(5,002.4MHz相当)で、使われているマザーボードはMSIの「Z170I GAMING PRO AC」だった。名前から分かる通り、このマザーボードはゲーミング向けであり、オーバークロック向けではない。それにもかかわらず世界一のクロックだったので、オーバークロッカーの間では話題になっていた。
今回の大会では、マザーボードにASRockのオーバークロック向け「Z170M OC Formula」を使い、記録更新のチャレンジが行なわれた。筆者が訪れた時には、Lam氏は上の記録を上回る2,519.4MHz(5,038.8MHz相当)を記録した。その後、続々と記録が更新され、今はアメリカのSplave氏が2,594.6MHz(5,189.2MHz)という記録を保持しているようだ。
この最高記録はG.Skill製のメモリを使用していたのだが、今回のHWBOTのワールドツアーには「ZADAK511」というブランドが協力していることもあり、ZADAK511製のメモリが多く使われていた。
ZADAK511のホームページを見ても、どこのメーカーなのか分からないと思うが、実は台湾Apacerのサブブランドである。会場の一角に転がっていたモジュールのラベルで確認すると、「SHIELD」シリーズのようで、8GBのシングルサイドDIMM、標準ではDDR4-4133という高いクロックで動作し、レイテンシは18-20-20-48などとなっている。チップはSamsung製のBダイとのことだった。
このメモリの最大の特徴は、JEDEC準拠のB0ガーバーでもB1ガーバーでもない、まったくオリジナルの基板が採用されている点。写真を見れば分かるが、B1ガーバーのようにチップがやや下の方にオフセットして設置されているものの、左側の4つチップは、B1ガーバーとは異なり極端に左寄りに設置されている。おそらく高クロック向けに設計した結果こうなったのだろう。
ちなみに、SkylakeとともにB1ガーバーのDDR4が登場した辺りから、「B1ガーバーは高クロック向けに設計された基板」という理解がされがちだが、策定され1年以上経った今でも採用製品は少なく、オーバークロッカーの間でもB1ガーバーはそこまで普及していない。B1ガーバーは本来ネイティブのDDR4-2400向けに設計されているのだが、B0ガーバーでDDR4-2400を実現している製品も多い。これはなぜだろうか。
ADATAのプロダクトマネージャーの話によると、「B0ガーバーとB1ガーバーの最大の違いはサポートするDRAMチップの大きさ。B0ガーバーではパッケージサイズが10.5×13mmまでのチップをサポートするが、B1ガーバーでは9×13mmまでとなっている。ちょうどB1ガーバーが登場した時から、メモリチップのステッピングが変わり、パッケージが小型化して、なおかついくつかのコンデンサを省略可能になったので、B1ガーバーが登場した。一方、動作クロックの大半はチップの耐性で定まるので、基板設計はほとんど影響しない。だからB0ガーバーが今でも使われている」とのことだった。