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HGST、ストレージの未来を展望
~SSDに食われることのないHDDと、ヘリウムガスHDDの可能性
(2013/6/5 00:00)
株式会社HGSTジャパンは4日、都内で記者向け説明会を開催し、HGST Product Marketing Vice Presidentを務めるブレンダン・コリンズ(Brendan Collins)氏が、同社が持つ技術やストレージ市場の今後の展望について語った。
近年、PC、スマートデバイス、クラウドサービスの普及により、ユーザーが創出するデータ量が格段に増え、それに伴いストレージへの需要は爆発的に増えた。全世界で創出されるデータの容量はZB(ゼタバイト)単位で語られるようになり、そのため手元のデバイスからインターネット経由でアクセスするサーバーまで、あらゆる所でストレージが欠かせなくなっている。
アプリケーションごとのストレージの需要のトレンドを見てみると、クライアントPC、家電、クラウドのいずれの分野でも、今後高い成長が見込まれる。しかし、多くのデータが置かれるであろうクラウド=エンタープライズストレージ領域において、記録密度は年間20%しか向上しないが、それに対するデータ量は55%も増える予測があり、これが今後のストレージ市場の課題となっている。
各セグメントの台数ベースの成長を展望すると、エンタープライズのSSDが47.4%増の大きな伸びを示す。また、先述するユーザーデータの増加に伴い、大容量HDDの需要が増す。その一方で、性能を重視するエンタープライズ向けHDD製品の出荷は縮小するが、SSDがエンタープライズ向けHDD市場のすべてを食い尽くすわけではないという。
エンタープライズにおけるSSDの拡大を妨げる要因の1つ目は、やはり容量である。今後数年に渡り、HDDの記録密度を向上させる技術は確立されているが、SSDの基幹コンポーネントであるNANDフラッシュの技術は先行きが不透明である。NANDフラッシュの多値化技術(SLC→MLC→TLC)の成熟と安定には時間がかかるほか、プロセスルールの進化もこれまで以上に時間がかかっているためである。
導入コストも引き続き問題として存在する。同じダイサイズにより多くのデータを保存できれば、半導体メリットを活かしてSSDのコストを引き下げられるが、現時点では多値化技術の進歩が予想以上に遅れているため、コストは依然として高価であり、導入の妨げとなっている。例えば、SAS SSDのコストは、同容量の15,000rpm HDDの8倍、10,000rpm HDDの12.5倍、7,200rpm HDDの50倍である。この差は今後しばらく並行して推移し、その差が急激に縮まったり、逆転したりすることはないだろうとした。
とはいえ、そもそもエンタープライズではSSDを必要とするシナリオはそれほど多くなく、平均してみると、いわゆるホットデータ(よくアクセスするデータ)は多くても10%程度だという。このため、10,000~15,000rpmのハイパフォーマンスHDDの領域はある程度SSDに侵食されるが、現時点では容量ニーズのほうが高いため、依然としてHDDはエンタープライズストレージにおける主力になるとした。
いずれにせよ、ストレージ製品を主力とするHGSTとしては、今後はSSDとHDD両方に注力していく。SSDにおいてはIntelと協力し、独自のコントローラなどを開発したSAS SSDを提供。現時点ではSASとファイバーチャネルにおいて市場シェアの45%を維持しているという。
ヘリウムガスを封入した「シールドHDD」の可能性
HDDについては、今後ヘリウムガスを封入した「シールドHDD」を展開。ヘリウムガスを封入することで、空気抵抗が減りディスクの振動を抑えられ、現在の3.5インチHDDフォームファクタに7枚のプラッタを搭載することができるようになるという。これによって容量が40%以上向上し、TBあたりの電力を49%低減。データセンターにおけるデータ密度向上に貢献し、消費電力、信頼性、冷却効率、システム重量など、データの肥大化に伴うデータセンターのさまざまな課題を解決できるようになるとした。
また、シールドHDDにより、「Cold Storage」、「Cooling Storage」と呼ばれる新たな分野を開拓する。Cold StorageはI/Oの頻度がそれほど高くないアーカイブ、バックアップ、スナップショットなどに使われるもの。主にテープドライブの置き換えを狙ったものだ。一方Cooling Storageは、徐々にI/Oが低下するアプリケーション向けのもの。例えばTwitterやFacebookなどのソーシャル・ネットワークは、時間の経過とともに情報の価値が下がり、アクセス頻度が低下する。そうしたデータをCooling Storageに移すことでより低コストでデータを維持する構想だ。
Cold StorageとCooling Storageは、このシールドHDD技術を基幹とする。先述の通り、シールドHDDでは7枚プラッタを封入でき、記録密度を向上させられるが、Cold StorageとCooling Storageではプラッタの回転速度を下げるなど、低速化をすることで、容量あたりのイニシャルコスト/ランニングコストを現状から下げられる。
これは「格納しきれないデータ」問題に対する1つの答えだという。冒頭で述べた通り、市場のストレージ容量へのニーズに、HDDの高密度化の技術が追いついていないのが現状だ。特に今後増加するとみられるビッグデータ分野などでは、その問題が顕著になり、創出されたデータが行き場を失うことになる。その分野でHDDの可能性を拡大させるのがCold Storage、そしてCooling Storageのコンセプトであると同社は考えている。それを実現するための第1歩とも言えるのが、記録密度の向上とコスト低減を両立させた、ヘリウムガスを封入したシールドHDDである。