日本マイクロソフト、アーティストデザインマウスの作者を招いたトークイベント

KENZO氏デザインのマウス「Design Era」



 日本マイクロソフト株式会社は6月15日、4月に発売した「Wireless Mobile Mouse 3500アーティストエディション」を手掛けたグラフィックアーティストのケンゾー ミナミ氏を招き、トークイベント「SUPER PEDANTRY -ケンゾー ミナミの超衒学的世界」を開催した。

 Microsoftは1982年からハードウェア事業を開始し、今年(2012年)がハードウェア事業開始30周年にあたる。マウスは1983年から販売しており、1999年には専用パッドを必要としない光学マウスを世界で最初に発売し、2008年には青色LEDを使ったBlueTrackマウスを発売するなどの実績を持っている。

Microsoftのハードウェア事業は今年で30周年30年前、1982年当時のMicrosoftロゴ1983年にMicrosoftが初めて発売したマウス
日本法人には2つしか現存していないという1983年当時のマウス1993年から2006年までのMicrosoft製マウス1999年Microsoftが世界で最初に発売した赤色LEDの光学式マウスと、2008年に発売した青色LEDを使ったBlueTrackマウス
当初はモノクロばかりだったEraシリーズ日本からの要請もありカラフルになったEraシリーズ
昨年からスタートしたアーティストデザインによるEraシリーズEraシリーズをデザインしたアーティストの皆さん
日本マイクロソフト株式会社 コンシューマー&パートナーグループ リテールビジネス統括本部長 執行役員 五十嵐章氏

 日本マイクロソフト・コンシューマー&パートナーグループ リテールビジネス統括本部長・五十嵐章執行役は、「当初は仕事で使う物だからと、マウスの色は黒やグレーだったが、色とりどりのカラフルなものを投入し、昨年(2011年)からはアーティストによるデザインのARTIST EDITIONの提供を始めた。Ultrabook、タブレットと誰でも外に端末を持ち歩く時代となり、仕事用だけでなく、生活シーンに合わせてマウスも個性的なものが必要ということで、個性的なARTIST EDITIONを用意した。デザインをお願いするアーティストは、あらゆる国のあらゆる方で、各国のハードウェア担当者がバイヤー役となり、売りたいアーティストの商品を選択する。製品化はリクエストが多い順に行われ、製品化されないものもある。ケンゾー ミナミさんの作品は全世界のバイヤーから最もコミットがあった作品」と説明した。

 ケンゾー ミナミ氏は、兵庫県出身。ニューヨークを拠点にTV番組のセットデザインを行ったことを皮切りに、さまざまなメディアのアートプロジェクト、ナイキ、リーボック、ユニクロなどとのコラボレーションを行ない、ニューヨークのMoMA(ニューヨーク近代美術館)には、サーフェスデザインを行なった「DUNNY」というフィギュアが永久コレクションとして所蔵されている。

グラフィックアーティストケンゾー ミナミ氏

 しかし本人は、「自分はアートというものを信頼していなかった。情念を持って作品を作るタイプではない。どちらかというと、工学製品を開発するアプローチに近く、作品を作っている」という。

 衒学的と評される自身の作品についても、「日本では衒学的というのはネガティブな意味に使われることも多い」とも話す。自身の作品の中には、「オタク的な、どうでもいい情報が満載になっているが、その情報に誰も全く気がつかなくても構わないし、誰か気がついてひっかかる人もいる。ただし、その情報を正しく理解する人もいるし、全く意図していなかった意味を持つこともあるのも、それはそれで面白い」と話す。

 このKENZO氏のことばの具体例が、MoMAに永久コレクションとして所蔵され、KENZO氏の代表作の1つである「DUNNY」。耳はドイツの国旗が描かれ、顔部分にはチェコの国旗が描かれている。チェコスロバキア時代、ドイツが同国に侵攻した歴史があることから、2つの国の国旗を見るとそうした意味づけをした人も多いそうだが、「実はこの作品を作っていた頃の彼女が、ドイツとチェコのハーフだったことから、2つの国の国旗を描いただけだった」そうだ。しかし、作者の意図を超えて作品が意味づけられ、評価されることになっていったのだという。

 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に登場するタイムマシン「デロリアン」の時速88マイルからインスピレーションし、「88」と表記されたTシャツも同様で、その真意を理解したバック・トゥ・ザ・フューチャーファンもいたものの、ヨーロッパでは88がネオナチを象徴する番号でもあることからそういう理解をする人や、中国ではおめでたいとされる「8」を重ねたものとして理解する人もいたそうだ。「どんな意味として理解しても構わないし、意味など考えずに、単に模様として88という表記を捉えても構わない」とKENZO氏は話す。

 KENZO氏の作ったTシャツをU2のジ・エッジが身につけていたこともあったそうだが、「50枚くらいしか制作していないTシャツなのに、どうして手に入れたのか……」とKENZO氏にもその経緯は不明なのだそうだ。

ケンゾー ミナミ氏デザインのマウス「Design Era」マウスの原画KENZO氏のTシャツを着たU2のエッジ
日本で地球滅亡? と騒ぎになったノストラダムスの大予言の1999年7月をモチーフにしたTシャツKENZO氏デザインのリーボックスニーカー
ドイツ、チェコという2つの国旗が描かれたMoMA所蔵の「DUNNY」KENZO氏がよくモチーフにしている素数の番号を持った来場者に、マウスの現物がKENZO氏自身からプレゼントされた

 それでは今回のマウスのデザインはどのような意図を持って行なったのか。

 「機械と人間との接点としてのマウスから想定し、手がマウスを囲っているというところから広がって、(小説家のウィリアム・S)バロウズのカットアップ技法やハイパーテキスト的な連なりというのか、物の中にいくつかダイアログがあり、それぞれが意味を持ち、そこからループに広がっていくような世界をイメージして無限大マークなどをちりばめてみたが、そこに気がつく人がいてもいいし、そんな意味を全く考えずに、見た目が好き!というだけで使ってもらってもかまわない」と語った。

(2012年 6月 18日)

[Reported by 三浦 優子]