震災でのレスキューロボットの活動についてIRSが報告会
~福島第一原発へも近日投入を検討中

レスキューロボット
「Quince(クインス)」

4月24日 発表



 ロボットを使ったレスキュー活動を行なうことを目指す、NPO法人国際レスキューシステム研究機構(IRS)は4月24日、記者会見を開き、東日本大震災におけるIRSの活動報告と、福島第一原発の事故対応への投入を目標として改造したレスキューロボット・システムの発表を行なった。実際の投入時期や運用場面は未定だが、政府と東京電力による福島第一原発の「事故対策統合本部」でロボットや無人重機の導入検討を担当している「リモートコントロール化PT」のメンバーの1人である東大の淺間一教授によれば、1カ月間程度の間に投入される見通しという。

●水中ロボットで海中を探査、遺体は発見できず
東北大学教授 田所諭氏

 まずはじめにIRS会長で東北大学教授の田所諭氏からIRSの活動概略が紹介された。地震発生時、主要メンバーは、レスキューロボット試験のためテキサスにいた。帰国後、仙台市消防局に能動用スコープカメラを使う申し出をしたり、経済産業省東北経済産業局、宮城県、仙台市など自治体に適用可能なロボットリストを配布したり、鹿島コンビナートでの対応に準備したが、結果的に使われることはなかった。一方、IRSの副会長で京都大学の松野文俊教授らが八戸でロボット「KOHGA」を使って被災した体育館の様子を調査をしたり、ロボット「Quince」を使って東北大学の建物調査を行なう中、港湾調査のニーズがあることがわかり、4月19日から23日にかけて、宮城県、岩手県で水中ロボットを使って港湾調査を行なった。

 調査報告は、前述の京都大学の松野文俊教授らと合同で調査を行なった「CRASAR(Center for Robot-Assisted Search and Rescue , Texas A&M University)」のロビン・マーフィ(Robin Murphy)教授らから始まった。今回、同チームは水中ロボット「SeaBotix」などを使って海上保安庁とも合同で探索を行なったという。

 探索した場所は宮城県本吉郡 南三陸町の志津川港と、岩手県陸前高田市の広田湾。カメラや音響探査を使って南三陸町では漁港に沈んでいる障害物の探索を行ない、陸前高田市では遺体を探索したが発見できなかった。なおこの探索は長岡技術科学大学の木村哲也准教授が南三陸町と個人的な繋がりがあり、県の関係者からアプローチを受けて始まったそうだ。

 今後の技術課題としてはシミュレーションや地図情報の活用、よりよいロボットの操作システム、コンピュータビジョンや認識技術、ビデオとソナーなど異なるセンサー情報を融合する技術、ヒューマンロボットインタラクション、マルチモーダルインターフェイス研究が必要だとした。ロビン・マーフィ氏は「機会があればさらに探査をしたい」と述べた。

長岡技術科学大学准教授 木村哲也氏Texas A&M大学 教授 ロビン・マーフィ氏ロボットを使った探索レスキューセンター「CRASAR」で来日
京都大学教授 松野文俊氏チームが使った水中ロボット「SeaBotix」アームは水中で100kgの物体を引き揚げられるという
東京工業大学教授 広瀬茂男 氏

 続けて、東京工業大学の広瀬茂男教授が発表した。広瀬教授らは宮城県亘理町の荒浜港周辺で活動を行ない、ソナーとハイビジョンカメラを搭載して水中で静止して対象を観察できる有線方式ROV「Anchor Diver III」を使って深度4mくらいの海域を100平方m程度探索したが遺体は発見できなかった。なお海中は瓦礫が多かったが電源供給用のテザーの電線などへのからみつきもなく、操作性も悪くなかったという。ただロボット本体がネットに引っかかったりして大変だっとして、今後はロボット本体の突起をなくすなど改良を続けていくという。

 全体の今後の課題としては、現場へのアクセス、オペレータの安全確保などが挙げられた。特に地元とのコネクションと情報共有が非常に重要だという。

Anchor Diver III水中でもこの姿勢を保つジョイスティックで操作できる

●福島第一原発での無人重機、ロボット活用の現状と今後
東京大学教授 淺間一氏

 まだ落ち着いた状態に至らない福島第一原発では、現在は人間が行なっている線量計測などの作業をロボット技術で置き換えることで、少しでも放射線の被曝量を低減することが求められている。この件については政府と東京電力による福島第一原発「事故対策統合本部」でロボットや無人重機の導入検討を担当している「リモートコントロール化PT」のメンバーの1人である東大の淺間一教授からまず概要解説があった。

 原発は現在、長期冷却構築を目指している。「リモコン化PT」も原発の状況収束にむけて検討を続けている。先日、ロードマップが発表されたことは報道のとおりだが、まず現在課題として挙げられていることは、建屋外部の飛散瓦礫の除去、燃料プールの注水、建屋内部状況の探索である。これらをそれぞれ無人機、あるいはロボット技術で置き換えるソリューションを考えるために準備をしている状況だという。

 淺間氏らは「対災害ロボティクス・タスクフォース」というロボット研究者たちの集まりを作っている。主要メンバーはロボットの主要研究者たちから構成されているが、あくまで学会ではなく個人の集まりの「超学会組織」。福島第一原発の原子力災害の対応・復旧・復興のためのロボット技術適用を目指している。淺間氏はチェアマンで、アンカーマンは東大の中村仁彦教授である。

 建屋外の放射線量の高い瓦礫は大手ゼネコンの大成建設・鹿島建設・清水建設のジョイントベンチャーが運用中の無人重機で除去中である。火山や土砂崩れなど危険の多い場所で施工を行なうための「無人化施工」技術を使ったものだ。そして4月17日には掃除ロボット「ルンバ」で国内でも知られる米iRobotの軍事ロボット「PackBot」を使って遠隔操作にて原子炉建屋内の探索が行なわれた。東京電力から公開された画像や動画は同社のウェブサイトで閲覧できる。最終的には人間が建屋内に入って作業せざるを得ないが、そのための環境探索である。この後は建屋内部の瓦礫の片付けや線量が高い瓦礫の遮蔽などの作業が必要になる。そのための基礎となる測定を現在行なっている段階だ。

大成建設、鹿島建設、清水建設JVによる無人重機による瓦礫除去導入されている無人化施工機械今後の瓦礫撤去予定

 「PackBot」は3月22日に日本に到着した。ロボット本体は既に数千台が製造され実用化されているロボットだ。米軍の調達規格であるMIL規格に準拠した製品であり、戦場での実績もある。そのこともあって東電現場で採用されたものと考えられている。PackBotはタービン建屋方向にある扉から建屋内に入れられた。人間が二重扉の外側扉を開けてロボットを設置後、内側の扉を遠隔操作によるマニピュレータで開けて、内部を探索した。このほかHoneywell製の軍事用偵察無人ヘリ「T-Hawk」なども投入されていることは報道のとおりである。

 淺間氏は現状について、「次々とミッションが出て来ていて、持っているカードをどう使うかと考えている」と述べた。原子炉建屋は5Fまであり、いずれ5Fのオペレーションフロアまで行なかなければならない。次に投入されるロボットはQinetiQの「TALON」や、iRobotのより大型のロボット「Warrior」だと言われているが、「日本のロボットも近いうちに導入することになるだろう」と語った。現在、導入が検討されているロボットは10種類程度あり、階段を問題なく踏破できるIRSの「Quince」は比較的有力なロボットの1つだという。ただ「リモコン化PT」では利用の提言はするが、最終的な導入の判断は現場が行なうという。またどのようなミッションが必要になるかどうかでどのロボットが導入されるか決まるので、いつどのロボットが導入されるかはわからないとした。

iRobotの軍事ロボット「PackBot」原子炉建屋の内部の探索を行なった「Quince」と開発者の1人である千葉工業大学 fuRo副所長 小柳栄次氏

 東北大、千葉工大などによってNEDO戦略先端ロボット要素技術開発プロジェクトの閉鎖空間内探査群ロボットのプロジェクトで開発されたロボット「Quince」は長さは66.5cm~109.9cm、幅48cm。本体だけの重さはおよそ27kg。時速は瓦礫上であればおよそ時速3km。およそ50度の階段を走行できる。また距離センサーを使ってロボットと地面との距離を絶えず計測することで、サブクローラ部をある程度自動で動かせる。これによって不慣れなオペレータでも不整地上でも半自動で自在に動かすことができ、アメリカでの検証の結果、瓦礫走破性能は「世界一」という。カメラ、サーモグラフィ、3次元スキャナ、運動センサーなどを標準装備しているほか、今回は放射線センサー、ガスセンサーなどを搭載。機器のLCD表示をカメラで撮影し、無線LANで画像を送って読み取ることで計測する。なおロボット本体は防塵防水で除染も可能。

 今回は基本的に2台1組で運用する予定。放射線を遮るように作られた厚さ1mに及ぶコンクリート製の原発の壁越しでは電波は非常に届きにくい。そこで、ロボットで建屋内部を探るためには、1台のロボットを中継用のブリッジにする。このロボット(有線Quince)は搭載したケーブルリールから遠隔操作用の通信ケーブルを伸ばしながら原子炉建屋内に進入する。そしてそこからもう1台のロボットに無線を飛ばし、そのロボット(無線Quince)で建屋内部の探査を行なう。有線Quinceはあまり動かず、無線Quinceで機動性を活かす。無線Quinceが動き回って無線が途切れそうになったら、無線が届く場所まで有線Quinceを動かして、またさらに先へ進むかたちをとるという想定だ。通信ケーブルは400m程度まで延長可能。

通信ケーブルをひきずった有線Quince(手前)と無線Quince(奥)の組み合わせで建屋内部探査を目指す有線Quinceには通信線のリールを搭載広角カメラを搭載

 このほか、LANケーブルを使って15.4Wまでの電力を送れるPower Over Ethernet(PoE)ケーブルを搭載するロボットも別途用意する。ネットワークカメラなど電源確保が難しいところで使われることが多いPoEだが、ここではロボットに搭載したカメラに対して給電することで、ロボット自体を止めた状態で据え置きのカメラとして使うことを想定する。この場合、建屋の入り口にロボット、可搬中継機、大容量バッテリを搭載したパレットを設置する。上記同様、中継機までは無線でつなぎ、そこから先はロボットに搭載したリールからPoEケーブルを伸ばしながら探査するという組み合わせだ。こちらは最大100mまで伸ばせる。

 このほか、Quinceを使った屋外線量計測も目指す。ブースター付きの無線機を搭載して、2km離れた場所から操作できるようにする。ロボットを使って線量計測することで、人間がやるよりも安全で、安定した計測条件で計測できる見込みとしている。

 また、マスタースレーブで操作可能で、軽量物なら動かせる6自由度アームを装備したQuinceや、3次元形状を計測するレーザー距離センサーを搭載するQuinceも準備する。ロボット自体の位置と姿勢計測データとあわせて、3次元地図が製作できる。ロボットの組み合わせも今後の現場の状況に合わせて変えていくとのことだ。なおチームは浜岡原発で無線環境のテストや階段の角度や材質のチェックなどを既に行なっているという。

屋外線量計測用Quince線量計測計テレメトリではなくカメラで撮影して計測する

 なお耐放射線に関しては、Quinceは民生用の部品を組み合わせたロボットだが、原子力開発機構の協力を得て部品に対して20シーベルト相当(実際にはグレイ)のコバルト線源のガンマ線を実際にで5時間程度照射する試験を行なうなどして、数十ミリシーベルト相当の環境であれば1,000時間程度は耐えられることを確認したという。もちろん個体差はあると考えられるが、それでも人間より耐えられることは間違いない。

 

実際にガンマ線をあてて耐放射線の試験も行なったそのほかの装備を搭載したQuinceも待機中

 ロボットの除染や再使用については今議論しているところ。できるだけ最大限利用するなら除染することになるが、使ったことがない状況なので、回収したものの除染仕切れないといった状況も想定しており、その場合は最後まで使い切ることを考える。そのためにはいろんなことに使えるために装備をさせていくことも考えているという。新規機材の開発などは未定。

 

 現場では既に投入されている海外のロボットと使い分けられることになると考えられる。具体的な役割分担や使い分けについては特に言及がなかったが、無線割当などは現在検討しているところだそうだ。

 国内外問わず、さまざまな技術と英知を結集することで一刻も早く福島第一原発の事故が収束することを願う。

(2011年 4月 25日)

[Reported by森山 和道]