情報処理学会、情報処理技術遺産の認定式を開催
~NECのTK-80や、シャープのトランジスタ電卓が認定

認定式が行なわれた東京工業大学大岡山キャンパスの会場

3月2日 開催



 一般社団法人情報処理学会(白鳥則郎会長)は、3月2日午前9時30分から、平成22年度情報処理技術遺産および分散コンピュータ博物館認定式を、東京都目黒区の東京工業大学大岡山キャンパスで行なった。

 同認定制度は、日本の情報処理技術発達史上の貴重な研究開発成果や、国民生活、経済、社会、文化などに顕著な影響を与えたコンピュータ技術や製品など、次世代に継承していく上で重要な意義を持つ情報処理技術遺産の成果の保存と活用を図るために、2009年度から実施しているもの。3回目となる今回は、9件の情報処理技術遺産と1件の分散コンピュータ博物館を認定。情報処理学会第73回全国大会で、所有者に認定証などが授与された。

白鳥会長から所有者に認定証が授与された

情報処理技術遺産の認定基準など

 今回認定された情報処理技術遺産は、「翻訳実験用計算機 KT-1 論理パッケージ、磁気ドラム」(製造者:九州大学、製造年:1958~1959年)、「14-B」(製造者:カシオ計算機、製造年:1959年)、「NEAC-2206」(製造者:NEC、製造年:1963年)、「CS-10A」(製造者:早川電機工業、製造年:1964年)、「USAC-3010」(製造者:ウノケ電子工業、製造年:1967年)、「FACOM 230-25システム一式」(製造者:富士通、製造年:1973年)、「HITAC 8700」(製造者:日立製作所、製造年:1973年)、「TK-80」(製造者:NEC、製造年:1976年)、「PANAFACOM Lkit-16」(製造者:パナファコム、製造年:1977年)の9件(いずれも社名は当時のもの)。さらに、分散コンピュータ博物館として、北陸先端科学技術大学院大学JAIST記号処理計算機コレクションを認定した。

九州大学「翻訳実験用計算機 KT-1 論理パッケージ、磁気ドラム」カシオ計算機「14-B」NEC「NEAC-2206」
早川電気工業(現シャープ)「CS-10A」ウノケ電子工業「USAC-3010」富士通「FACOM 230-25システム一式」
日立製作所「HITAC 8700」NEC「TK-80」パナファコム「PANAFACOM Lkit-16」
展示されたパナファコムのPANAFACOM Lkit-16Lkit-16の当時のカタログのコピー北陸先端科学技術大学院大学JAIST記号処理計算機コレクション


情報処理学会・白鳥則郎会長

 情報処理学会・白鳥則郎会長は、「機械式コンピュータから100年、電子式コンピュータの登場から56年を経過している。しかし、この間の歴史的なハードウェア、ソフトウェアを保存するという活動がなく、残存しているものも日々失われている。欧米が若い世代のコンピュータ教育に利用していることと比べると大きな差がある。情報処理学会では我が国のコンピュータ発達史上の重要な成果や製品を、約1,000点の写真を含めた2,000点もの資料を『コンピュータ博物館』に掲載しており、月に10万件前後のアクセスがある。しかし、それらの史料の大半はすでに実物としては存在していない。情報処理学会では、現存する貴重な史料を、コンピュータに特化した実博物館などで保存すべきと考えて各方面に働きかけてきたが、残念ながら未だ実現の見通しがたっていない。我々ができることはないかと考えた結果、この制度を考えた。わずかに残っている貴重な史料の保存を図るとともに、我が国のコンピュータ技術の発展を担ってきたパイオニアたちの知恵や経験を次世代に継承するとともに、世の中に広く啓蒙したいと考えている。昨年(2010年)までに34件の情報処理技術遺産の認定と、分散コンピュータ博物館で4件の認定を行なっている。この活動が報道でも取り上げられ、情報処理学会に対する情報提供が増え、当初の目的を達していると考えている。今後も継続して、この制度を推進していきたい」とした。

情報処理学会歴史特別委員会・発田弘委員長

 また、情報処理学会歴史特別委員会・発田弘委員長は、「委員会としては100件の実物所在情報を管理しており、その中から重要性、緊急度、保存状態などを勘案して、9件を認定した。前回は2件のソフトウェアを認定したが、今回はソフトウェアが入っていない。ソフトウェアは保存が難しく、マニュアルなども保存されていないケースがあることを感じた。さらに、以前の調査では実物所在が確認されていたものが、再調査の中で、行方不明というものもあった。まだまだ貴重な遺産はある。この活動を通じて、情報処理技術遺産に対する関心が高まっていることを実感しており、情報提供も期待している。時間的、費用的な制約で今回は認定されなかったものもあり、継続的に活動を続けていきたい」とした。

 一方、TK-80が情報処理技術遺産に認定されたNECを代表して、認定証を受け取ったNECパーソナルプロダクツのPC事業本部商品企画開発本部・栗山浩一本部長代理は、「米国で注目を集めていたマイコンの世界を、日本に広げるとともに、その後の日本におけるパソコン普及の原点ともいえる役割を果たしたのがTK-80。ハードウェアを作る喜びとともに、プログラムを書く楽しさを与えてくれた製品といえる。それが情報処理技術遺産に認定されたことは大変喜ばしいことである。私自身も学生時代にTK-80を購入したが、当時は九州に住んでおり、秋葉原のように手軽にパーツが入手できる場所がなく、大変苦労した。TK-80によって、パーツを1つ1つ取り揃える必要がなくなったという点でも、地方に住んでいるマイコンマニアにとってはありがたい製品だった」と、自らの体験を交えながら、認定の喜びを語った。

TK-80と情報処理技術遺産認定証を授与されたNECパーソナルプロダクツのPC事業本部商品企画開発本部・栗山浩一本部長代理TK-80の情報処理技術遺産認定証会場に展示されていたNECのTK-80
当時のパンフレットのコピーなども一緒に展示されていた

NEC出身の創価大学・渡部和名誉教授による講演の様子

 認定式では特別講演として、創価大学・渡部和名誉教授による「設計地獄から設計天国へ ─回路設計自動化の夢を追って(Dichtung)CADの門を開く(Wahrheit)─」、東京工科大学の相磯秀夫理事による「変化の時代に求められる情報教育」が行なわれた。

(2011年 3月 2日)

[Reported by 大河原 克行]