キヤノン、Webプリント重視でインクジェットのシェア50%を目指す


●需要は頭打ちだが、シェア50%を目指す
川崎正己氏

 キヤノンは8日、インクジェットプリンタ「PIXUS」シリーズの発表会を開催した。

 最初にキヤノンマーケティングジャパン株式会社 代表取締役社長の川崎正己氏が登壇し、国内市場動向と新製品の狙いを語った。

 川崎氏によれば、インクジェットプリンタは、技術的に安定し、使用期間が長期化することによって、需要は微減の状態だという。その状況下でも、キヤノンの出荷台数は対前年を上回っていると強調した。また、プリンタの使用頻度に関係する消耗品の動向についても、キヤノンの出荷の伸び率は市場全体の伸び率を上回っていると説明した。

国内市場動向。市場全体では対前年割れだが、キヤノンは前年を上回っているプリンタが使われるほど、周辺機器の出荷も増える

 今年の製品については、「発表時期を数週間繰り上げることで市場の活性化を図った」とし、製品の特徴としては写真プリント、簡単操作に加え、“Webプリントに強い”という点を新たな特徴として訴求する。

 投入される新製品は8モデルで、内訳は家庭用複合機が6モデル、家庭用単機能プリンタが1モデル、ビジネス用単機能プリンタが1モデルとなっている。

 PIXUS全体のラインナップは、今回新製品のなかったプロフェッショナル・フォト向け製品などを含め、全15モデルとなる。

 今年の目標としては、「家庭用プリンタシェアで50%を獲得する」とした。

新たな訴求点として「Webプリント」が選ばれた8モデルが一気に投入される既存モデルを合わせて15モデルがラインナップされる
シェア目標は50%業界全体の環境への取り組みとして「インクカートリッジ里帰りプロジェクト」も紹介された。主要6メーカーのインクカートリッジが郵便局で回収される

●インクジェット基幹技術「FINE」10周年

清水勝一氏

 続いて、キヤノン株式会社常務取締役 インクジェット事業本部長の清水勝一氏が登壇し、新製品の特徴について述べた。

 まず、キヤノンのインクジェットプリンタの基幹技術である「FINE」が10周年を迎えたと発表した。FINEは半導体技術を用いてノズルを一体成形する技術で、'99年の「BJ F8500」に最初に搭載された。それ以来、123モデルに搭載されたという。

基幹技術である「FINE」が10周年を迎えた半導体技術の導入がFINEのキモ。'99年以来123モデルに搭載された

 続いて、ISOで制定された印刷速度の標準規格が解説された。これは普通紙におけるPCプリントとコピー速度の測定方法をスペックとして表記することを義務づけたもので、Word/Excel/PDFなどのデータが使用される。これによって、品質を落とした状態での過剰なスピード競争が抑制され、異なるメーカーの製品でも平等に比較できるようになったという。

箱から出した、標準状態で速いことが重要ISOによる規格の内容。プリントとコピーの2つが用意される
メーカー間の製品比較が容易になるISO規定下での新製品の実力

 次に、新製品の特徴として、大型液晶の採用が挙げられた。最上位機種のMP990では3.8型、最多販売機種のMP640でも3.0型が搭載されている。

 また、無線LAN搭載機種の増加とAOSSへの対応も紹介された。これにより、無線LANの簡易設定機能としてはWPS/WCN/AOSSに対応することになった。さらに無線LAN経由でiPhone/iPod touchからのプリントにも対応する。専用のアプリケーションは、10月以降にApp Storeで公開される予定だ。

MP990では3.8型の大型液晶が搭載される量販価格帯にも、無線LAN対応機種が投入されたiPhoneからのプリントアウト対応は話題を呼びそうだ
展示会場で掲げられたiPhoneプリントの説明左で手にしているiPhoneから右のプリンタへ出力できる
プリント設定画面画像選択画面

 また、逆光写真などのプリントに威力を発揮する「自動補正機能II」、Internet Explorer 7/8専用プラグインでWebプリントの高機能化を図った「Easy-WebPrint EX」なども紹介された。

自動写真補正II。逆光で暗くなった部分を修正しても、周囲とのバランスが取れているEaxy-WebPrint EX。一部を切り抜いて印刷できる同。複数ページのまとめとテキストの追加

●ビジネス用ながら、注目の新製品「PIXUS iX7000」

 ここまで紹介された製品は、基幹部分は昨年の製品を継承している。

 しかし、ビジネス市場向け製品ながら、「PIXUS iX7000」は新たに開発された製品であり、今回発表された製品群のなかでは、もっとも注目すべき製品ともいえる。

 iX7000は、A3インクジェットプリンタで、SOHOユーザーをターゲットとしている。普通紙での高品質プリントを重要視している点もビジネス市場を踏まえてのことだ。

 この要請に応えるために、キヤノンは「PgR」という技術を採用している。これは、顔料インクによる印刷の前に、用紙に透明インクを塗布するものだ。これにより、用紙内部や裏への浸透を防ぎ、カラーレーザー並の高品位なテキストと写真画質を実現するという。

 PgRは、ビジネス用複合機「MX7600」で採用されていたが、用紙サイズはA4までだった。iX7000が、初のA3サイズ対応機種となる。

 

PIXUS iX7000は、注目すべき製品だSOHOユーザーがターゲットPgRは透明インクを塗布することで、顔料インクの浸透を防ぐ
メインのA3用紙は250枚入るカセットが用意される専用Webで、メニューなどのテンプレートが用意される

●マーケティングはWebプリントを強調

佐々木統氏

 続いて、キヤノンマーケティングジャパン株式会社常務取締役コンスーマーイメージングカンパニープレジデントの佐々木統氏が登壇し、新製品のマーケティング戦略を語った。

 佐々木氏は、マーケティングは機能訴求による買い替え促進と、用途提案によるプリント促進を両輪とし、新しい基軸として「Webプリント」を取り上げた。ユーザーアンケートによれば、Webプリントは、デジカメ画像と年賀状に続く3番目の用途に浮上しており、しかも、うまくプリントできないという不満が高い分野だという。

買い換えと利用促進が、マーケティングの両輪「写真はもちろん、Webプリントに強い」が訴求ポイント
プリンタの仕様用途調査結果Webプリントがうまくできないという不満は多いという調査結果
●新コミュニケーションパートナーは岡田将生さん

 最後にTV CMを始めとするPIXUSのコマーシャルに登場する、新しいコミュニケーションパートナーとして岡田将生さんが紹介された。CMでは、キヤノンマーケティングジャパンの新入社員に扮して登場する。

岡田将生さんTV CMと同じユニフォームに着替え、CMに登場する販促ツールを広げてみせる。左は共演した岩田さゆりさん製品を前に記念撮影
TV CM撮影風景。若手社員がエキストラとして参加したグラフィック広告例店頭キャンペーンでは、広告と同じユニフォームとツールが使われる
スペシャルサイトも公開済み広告宣伝計画。年末にかけて11月から再度盛り上げる

 今回発表された製品は、ハードウェア的には昨年型を継承しながら、ソフトウェア面での改良で、ソリューションとしての魅力を上げるというパターンだった。マーケティング的には興味深い方法ではあるが、ハードウェアに対する興味はやや薄いという印象はあった。

 質疑応答では、そのあたりを踏まえインクジェットプリンタに技術的なノビしろは残っているのかという質問があったほどだ。それに対し、インクジェット事業本部長の清水勝一氏が「ノンインパクトで非接触という意味で、現在のインクジェットプリンタは究極の技術である。インクジェットを置き換える技術は存在していない。インクジェットにはまだ発展性があり、鋭意開発を続けている」という回答があった。

 今回もA3ビジネスインクジェットプリンタの「iX7000」のように興味深い製品が登場しており、今後の発展が期待されるところだ。

(2009年 9月 9日)

[Reported by 伊達 浩二]