ニュース

東芝、不適切会計処理問題での売れ行きへの影響は皆無

~PC、液晶TVの市場シェアには変化なし

7月21日の会見で陳謝する(左から)室町正志会長、田中久雄社長、前田恵造執行役専務(当時)

 不適切会計処理問題により、歴代3社長の辞任を始めとして、8人の取締役辞任という事態に陥った東芝。同社の田中久雄前社長は、7月21日に東京・芝浦の同社本社で開かれた会見で、「第三者委員会から、不適切な会計処理が、経営幹部の関与を含み、組織的に実行されたとの指摘を受けた。適切な会計処理に向けた意識の欠如、当期利益至上主義、目標必達のプレッシャーなどが認定された。こうした事態となったことを厳粛に受け止め、株主を始めとする全てのステイクホルダーに対して、心よりお詫びを申し上げる」として陳謝。

 さらに、「本件に関わる重大な責任は、私を始めとする経営陣にある。第三者委員会からの指摘を厳粛に受け止め、その経営責任を明らかにするため、本日を持って、私は、取締役および代表執行役社長を辞任する」と語り、即日の辞任を発表した。

東芝の田中久雄前社長

 その会見において、田中社長が言及したのが、ブランド価値の毀損だ。

 「東芝の140年の歴史において、最も大きなブランドイメージの毀損があったと認識している。これは一朝一夕には回復できない。20万人の従業員が一丸となり、一日一日全力で取り組んでいく姿をご理解いただくしかない。時間がかかっても、やり遂げなくてはならない」などと語った。

 では、不適切な会計処理によって、製品への売れ行きには、どれほどの影響が出ているのだろうか。

 量販店などにおける販売動向を調査しているBCNの調べによると、現時点では、その影響は全くないといって言い。

 PC市場における東芝のシェアは、6月はほぼ17%台のシェアで推移。7月は15%台に若干シェアを落としたが、第三者委員会から調査報告書が効果された7月20日や、東芝・田中社長が謝罪および辞任発表の会見を行なった7月21日を含む、7月20日~26日もPCのシェアは15.6%を獲得。7月27日~8月2日の集計でも15.7%とほとんど変動がなかった。

【グラフ1】東芝ノートPCと液晶TVの台数シェア

 PC事業は今回の不適切会計処理の対象となっており、さらに、田中前社長も、当時は、調達部長として、この不適切会計処理に関与していたことが、第三者委員会の調査資料で指摘されている。また、西田厚聰氏や佐々木則夫氏といった歴代社長も、PC事業の不適切な会計処理の構造を知っていて指示を出したとの指摘も行なわれている。それでも、PCの市場シェアには影響がないという結果が出ているのだ。

 シェアに変動がないのは、液晶TVでも同様だ。6月前半は11%台、6月下旬は10%を切るシェアとなっていたが、7月からは10%台のシェアに回復。7月20日~26日のシェアは10.5%、7月27日~8月2日の集計でもシェアは10.7%と変化はなかった。

 このように、調査データの上からは、東芝・田中前社長が懸念したようなブランドの毀損という事態には陥っていないと言える。量販店店頭でも、不適切会計処理の問題から東芝製品を避けるという動きは出ていない模様だ。

 実は、同様の傾向は過去にも見られている。2011年に発生したオリンパスの大規模な損失隠し事件およびそれに伴う経営トップの交代時にも、オリンパスのシェアはそれほど動いてはいなかった。

 BCNの調査によると、2011年7月に、この事件が明るみになった時点でのオリンパスのデジカメのシェアは8.8%。その後、社長解任などの動きとともに、社内規模での損失隠しをしていたことが明らかになり、それを正式に認めるに至るが、当時のマイケル・ウッドフォード社長が電撃的に解任され、さらに菊川剛氏が会長兼社長を辞任した2011年10月のシェアは10.0%と上昇。損失隠しを正式に認めた2011年11月も9.2%のシェアを獲得。その後もずっと10%前後のシェアで推移している。オリンパスが最もシェアが高いICレコーダ市場も同様の動きが見られており、2011年前半は40%前後のシェアで推移していたものが、事件が明るみに出た2011年後半は40%台半ばで推移。さらに2012年に入ってからもほぼ40%前後でシェアが推移していた。

【グラフ2】オリンパスのデジカメとICレコーダの台数シェア

 このように、社長交代にまで及ぶほど、経営を揺るがした大きな問題が発生しても、量販店店頭などでの製品の売れ行きにはほとんど影響がないと言っていい。

 だが、だからと言って、悪しき風土を企業内から払拭することを疎かにしてはならない。

 東芝の田中前社長は、会見の席上、「私は辞任するが、会社としての新たな体制を早期に構築し、信頼回復に向けて全力を尽くしていく。室町会長兼社長、経営刷新委員会、社外専門家によって実現する再発防止策などを通じて、日々の活動でそれを見せていく。当社への支援を賜りたい」と語った。

 シェアを維持しているということは、市場から信頼される製品を投入していることの証だろう。だが、そのままでいいとは言えないのは当然のこと。信頼される製品作りとは別に、経営体質を変えていくことは、東芝にとって避けられないテーマであることは間違いない。

(大河原 克行)