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動く物体に遅延なく投影できる高速プロジェクタ「DynaFlash」を東大・石川研とTEDが共同開発
~8bit階調の可変映像を最大1,000fpsで投影可能
(2015/7/29 18:00)
東京大学 情報理工学系研究科 石川・渡辺研究室と東京エレクトロンデバイス株式会社(TED)は7月29日、8bit階調の可変映像を最大1,000fpsで投影できる世界最速レベルの高速プロジェクタ「DynaFlash」を共同開発したと発表し、開発概要と製品展開についてデモンストレーションを行なった。
移動物体の位置と方向を500fpsの高速ビジョンで検出し、その位置と方向に合った映像をコンピューターで生成して投影する。これによって、投影像があたかも対象物に印刷したかのように投影できる。高速3次元形状計測、遅延のないARシステム、「どこでもディスプレイ」の実現、はためく旗やカーテンのような変形柔軟体へのプロジェクションマッピング、高速ピンピッキングなどに応用できるという。今後はデバイスのカラー化と、システム全体の遅延のさらなる低減を目指す。
製品化は2016年夏リリースを目指して、東京エレクトロンデバイスの商品ブランドinrevium(インレビアム)として仕様検討中。産業機器や映像メディア、セキュリティ、自動車、医療などを応用分野とする。価格帯は未定。
移動物体にも高速投影、より詳細な3次元認識が可能に
東大 石川・渡辺研は、高速ビジョン技術の研究室として知られている。これまでにも高速の画像認識技術を使って、本をパラパラめくるだけでスキャンできる高速ブックスキャナーやジェスチャーインターフェイス、絶対に負けないじゃんけんロボットなどを開発してきた。
今回も高速ビジョン技術の応用展開の一環として開発したもので、東大側が使用設計と応用システムを担当し、東京エレクトロンデバイスが詳細設計を担当した。最大フレームレートは1,000fps/8bit。解像度は1,024×768ピクセル。システム全体に渡って速度遅延ボトルネックをなくすために独自の通信インターフェイスを用いて、映像生成から投影までの最小遅延を3msとすることに成功した。
東京エレクトロンデバイスが扱っているテキサスインスツルメントのDLP DMD(Digital Micromirror Device)チップと、高輝度LED光源を連携制御している。東京エレクトロンデバイス株式会社パネトロンTI事業本部 製品技術部の湯浅剛氏は、単純な制御ではなく、重ね合わせの制御で高速化を実現したと語った。
人間は100msくらいの遅れは見える。だが20~30msくらいになると気付かなくなる。だが、例えばば時速60kmのボールに像を投影した場合、30fpsだと50cmおきに投影パターンが変化することになり、大きなズレを感じてしまう。だが、1msごとに投影パターンの変更が可能な1,000fpsになると、投影パターンの変化は1.7cm置きになる。「人間の目には画像の変化は見えないが、遅れは見える」と東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻の石川正俊教授は語った。
また、産業用ロボットなどで用いられる、パターンを投影して3次元形状を計測する「構造照明」という技術がある。この世界でも投影速度の高速化が求められている。従来だとどんなに速くても33msだったが、今回の高速プロジェクタを用いれば1ms毎に投影パターンの変更が可能になる。高分解能の可変パターンを投影できるようになることで、より複雑な3次元形状を計測できるようになり、ロボットへの応用が強く期待されるという。
全く遅れなく投影する技術
会見では、マーカーが四隅に描かれた白い紙を赤外線カメラで撮影し、それに高速で映像を投影するというデモが行なわれた。通常のプロジェクタを用いると、投影された像は追従が遅れてずれてしまう。だが今回開発された高速プロジェクタ「DynaFlash」を用いると、ぴったり追従する。これは1,000fpsのフレームレートがないとできないという。
前後左右に動かしても遅れなくついてくる。写真で撮影すると、あたかも印刷されているものを撮ったかのようにブレる。赤外線を用いているので、室内の照明の変動程度は問題ない。今回は平面の板への投影だったが、将来的には、旗や服のような柔軟な物体にも投影できるように開発していきたいという。
なお、映像生成から投影までの最小遅延は3msだが、これはあくまで他に何の処理も入れない場合の話で、ほかにさまざまな処理を入れるとその分遅延する。人間相手のユーザーインターフェイスに使う場合には、人間がどれくらいの遅延だと気付くかという問題になってくるわけだが、最大どれくらいの遅れまで許容できるかは現在研究を行なっているところだという。現時点の研究によると、投影されるものによっても人の遅れ認識はだいぶ違ってくるようだ。人間側の認知負荷にもよるらしい。