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来年開催のISSCC、ビッグデータを支えるシリコンの開発成果を披露

記者会見に望んだISSCC委員会のメンバー

 大規模半導体集積回路(LSI)の研究開発成果に関する世界最大の国際会議、ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)が来年(2015年)2月22日~26日に米国サンフランシスコで開催される。ISSCCでは、プロセッサやメモリ、ミクスドシグナル、アナログ、ワイヤレス、ワイヤラインなどの多種多様な最先端の半導体チップが製品となる直前、あるいは製品化直後に発表される。このため、半導体技術の実用化動向をいち早く知るには、最適なイベントとなっている。

 来年2月のISSCC(ISSCC 2015)開催を控えた11月17日に、ISSCCの実行組織である極東地域委員会と国際技術プログラム委員会のメンバーは東京で記者会見を開催し、発表予定となる講演論文などのハイライトを説明した。

記者会見の進行表と会見したメンバーの一覧
ISSCC国際技術プログラム委員会(ITPC)の組織概要
ISSCCの参加者推移を説明する、韓国科学技術院(KAIST)の教授でISSCC国際技術プログラム委員長(ISSCC ITPC Chair)のHoi Jun Yoo氏。来年2月のISSCC(ISSCC 2015)では2,500名~3,000名の参加を見込んでいる

 ISSCC 2015での発表を目指して投稿された論文アブストラクト(発表予定の論文を短く要約したもの)の件数(本数)は610本である。この中から選ばれた、採択論文(発表予定の論文)の件数は206件である。採択率(採択論文数/投稿論文数)は33.8%で、競争率にするとほぼ3倍の狭き門となっている。採択論文を地域別にみると、北米が75件、欧州が49件、アジア(日本を含む)が82件であり、アジア地域が最も多い。

 国/地域別の採択件数のトップは例年通り米国で、74件。2位は韓国で29件、3位は日本で25件、4位はオランダで17件、5位は台湾で15件と続く。企業や大学、研究機関などの組織別でみると、KAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology、韓国の研究機関)が最も多く、13件の発表を予定する。以下は2位がSamsungで10件、3位がIntelとIMEC(ベルギーの研究機関)でいずれも8件、5位がIBMで7件となっている。日本からは東京工業大学の発表件数が最も多い。4件の発表を予定している。

ISSCCの投稿論文数と採択論文数の推移
ISSCCの地域別採択論文数の推移

 ISSCCでは毎回、開催テーマを発表している。今回のテーマは「Silicon Systems-Small Chips for Big Data(シリコン・システム-ビッグデータを支える小さなチップ)」である。IoT(Internet of Things)によって生成されるビッグデータがライフスタイルや社会を変えようとしており、これを可能にするのがセンシングやコンピューティング、ネットワーキングで活躍する、小さくても強力な半導体チップである、というコンセプトだ。

 またカンファレンス初日(2月23日)の午前にISSCCの恒例となっている、基調講演セッション(プレナリ講演セッション)が開催される。半導体技術に限らず、半導体の応用や市場などを俯瞰した講演を特徴とする。ISSCC 2015では、半導体メモリのトップメーカーであるSamsung Electronicsの半導体事業部門でトップを務めるKinam Kim氏による基調講演などが予定されている。

ISSCC 2015のテーマとその具体的な内容
ISSCC 2015の基調講演と講演者

 ISSCCがカバーする範囲は半導体チップのほぼ全分野にわたる。すなわち、アナログ、データ変換、RF(高周波)、ワイヤレス通信(無線通信)、ワイヤライン通信(有線通信)、イメージセンサ、MEMS、メディカル、ディスプレイ、高性能デジタル(高性能プロセッサ)、低消費デジタル、メモリなどである。ISSCC国際技術プログラム委員からは、これらの全てについて見どころの説明があった。ただしここでは、読者の関心が高いと思われる高性能プロセッサとモバイルプロセッサ、メモリに関するトレンドと注目講演を紹介しよう。

 高性能プロセッサを含めた高性能デジタル関連の講演では、極めて数多くのトランジスタを集積した超々高集積度のプロセッサが毎年のように、トラジスタ数の最大値を更新してきた。前回のISSCC 2014では40億個ものトランジスタを1個のシリコンダイに搭載したチップが登場した。来るISSCC 2015では、シリコンダイ当たりのトランジスタ数は、56億個に達する。

 高性能プロセッサでの注目すべき発表は、IBMとOracleの講演である。IBMは、22nmのSOI CMOS技術による「System zマイクロプロセッサ」を発表する(講演番号4.1)。8個のマルチスレッディング(デュアルスレッディング)CPUコアと4MBのeDRAM2次キャッシュ、64MBのeDRAM3次キャッシュを内蔵し、5GHzで動く。製造技術は高誘電率ゲート絶縁膜と高融点金属ゲート(HKMG)技術、17層の金属配線技術などである。Oracleは、20nm技術によるSPARC M7プロセッサを発表する(講演番号4.2)。32個のS4 CPUコアと64MBの3次キャッシュを内蔵している。3次キャッシュのデータ転送速度は1.6TB/secに達する。

 モバイルプロセッサでは、Samsung ElectronicsがARM v8アーキテクチャの64bit CPUコアとARMのグラフィックスコア「Mali」を内蔵したbig.LITTLEアーキテクチャのアプリケーションプロセッサを発表する(講演番号23.1)。big側の高性能CPUクラスタとしてARM A57プロセッサコアを4個と2MBの共有2次キャッシュを搭載し、LITTLE側の低消費電力CPUクラスタとしてARM A53プロセッサコアを4個と256KBの共有2次キャッシュを搭載する。製造技術は20nm、9層金属配線。

 メモリでは、NANDフラッシュメモリの高密度化がさらに進んだ。Samsung Electronicsが、3bit/セル(TLC)技術と3D NAND技術による128GbitのNANDフラッシュメモリを発表する(講演番号7.2)。シリコン1平方ミリ当たりの記憶容量は200MBを超え、過去最高を塗り変えた。東芝は、15nmと微細な加工技術で製造する64GbitのNANDフラッシュメモリを発表する(講演番号7.1)。2bit/セル(MLC)技術。シリコンダイ面積では世界最小を謳う。

 プロセッサやSoC(System on a Chip)などに埋め込むことを想定したメモリでは、Intelが14nmのFinFET技術による高密度SRAM技術を発表する(講演番号17.1)。メモリセル面積はわずか0.0500平方μmである。またIBMが、ランダムアクセス時間が1.0nsときわめて短いeDRAM技術を発表する(講演番号17.4)。14nm技術で製造した。

 なおプログラムは、ISSCCのホームページに11月末までにはアップロードされる予定。さらに詳しい情報を待ちたい。

(福田 昭)