富士通、世界最高性能を目指すスパコン第1号筐体を出荷
〜石川県かほく市のFJITから、神戸の理化学研究所へ

次世代スーパーコンピュータ「京」

9月28日 出荷開始



富士通の佐相秀幸執行役員副社長

 富士通は、9月28日、理化学研究所に納入する次世代スーパーコンピュータ「京」(けい)の第一号筐体出荷セレモニーを、石川県かほく市の富士通ITプロダクツ(FJIT)で行なった。

 次世代スーパーコンピュータ「京」は、文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」計画のもと、独立行政法人理化学研究所と共同で、開発、製造を行なっている世界最高性能の10PFLOPS(ペタフロップス)を目指すスーパーコンピュータ。製造は、富士通のコンピュータシステムの基幹工場である富士通ITプロダクツにて行なわれている。

 出荷されたスパコンは、兵庫県神戸市ポートアイランドにある理化学研究所の計算科学研究機構に納入。2012年秋の供用開始を目指して設置および調整が行なわれることになる。

 今回の第1号筐体を皮切りに順次出荷が行なわれる予定で、2012年6月までに800台以上が生産され、同研究所に納入されることになる。

 富士通の佐相秀幸執行役員副社長は、「スパコンプロジェクトは、富士通の技術を牽引しているものである。半導体、PC、携帯電話、サーバーといった富士通の製品群の信頼性を高め、これらのトータルな基盤の上で総合サービスを提供する。富士通は、これまでに30年近くスパコン事業に取り組んでおり、1993年には性能世界ナンバーワンを獲得した実績もある。性能の追求だけでなく、これをきちっと安定稼働させるという点にも力を注いでおり、365日間に渡り、低消費電力で安定稼働させることができるのが大きな特徴だ」などとした。


●富士通の技術を活かして社会貢献につなげる

 午後2時から行なわれた初出荷セレモニーには、富士通の佐相秀幸執行役員副社長、富士通ITプロダクツの高田正憲社長のほか、文部科学省研究振興局情報課長の岩本健吾氏、理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部プロジェクトリーダーの渡辺貞氏、石川県の山岸勇副知事などが出席。出荷を祝ってテープカットを行なった。

富士通ITプロダクツの高田正憲社長 セレモニーで挨拶する富士通の佐相秀幸執行役員副社長 文部科学省研究振興局情報課長の岩本健吾氏
理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部プロジェクトリーダーの渡辺貞氏 石川県の山岸勇副知事

 富士通の佐相秀幸執行役員副社長は、「国や国民の理解があって、今回の初出荷につながった。豊かな風土を持つこの地で生産したスパコンは、富士通が持つ技術を活かしたもの。これにより、社会貢献をしていきたい。今後も、富士通および富士通ITプロダクツが一丸となって、京の開発、製造、出荷に取り組んでいく」と挨拶。また、富士通ITプロダクツの高田正憲社長は、「この1年間に渡って、火の玉集団となり、世界一のコンピュータを生産するという栄誉を感じながら取り組んできた。ただし、これは第1歩に過ぎない。石川県の地で『京』を作る喜びと歓喜を持ち続けながら、英知を結集させ、完納を目指したい」と挨拶した。

 また、来賓を代表して挨拶した文部科学省研究振興局情報課長の岩本健吾氏は、「今回の初出荷により、3年間に渡る努力に一区切りがついたことには意義がある。これから出荷が本格的に始まっていくことになるが、理化学研究所の収容施設はすでに準備万端である。多額の投資をしたスパコンであり、世界最高水準の性能を目指すとともに、国民に対していかに成果を出すかといったことにも取り組んでいく。ライフイノベーション、グリーンイノベーションといったこれまでに成しえなかったものが実現されるようになるだろう。政府としても未来につながる投資として期待したい」とコメント。理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部プロジェクトリーダーの渡辺貞氏は、「スパコンは国家基幹技術であるとされたものの、システムの大幅な構成変更や、新政権発足の事業仕分けにより一時凍結にあうなどの状況にあった。だが、国民や科学技術関係者の支援もあり、計画通りに今回の出荷を迎えることができた。富士通の総力にも感謝したい。これからの生産に向けて、より品質を高めてもらうことを期待したい」とした。

 さらに、石川県の山岸勇副知事は、「富士通ITプロダクツは、地元産業の発展や、約800人にのぼる雇用といった貢献がある。その生産拠点において、最先端の技術の粋を集めたコンピュータが生産されていることは県民にとっても誇りである。この次世代スーパーコンピュータが科学技術の発展、産業の国際競争の強化にもつながることを期待したい」とした。

 また、セレモニーでは、地元かほく市の小学校6校から12人の児童が参加して、出荷を記念したくす玉を割り、関係者によるテープカットののちに、地元関係者および社員で、第1号筐体を積載したトラックを拍手で見送った。

 なお、10月1日には、神戸市の理化学研究所計算科学研究機構において、計算科学研究機構設立式典が行なわれる予定で、今回出荷した筐体第1号の見学会や、京の愛称の命名者の表彰などが行なわれる。

出荷される第1号筐体 第1号筐体が積載されたトラック
セレモニーでは、地元かほく市の小学校6校から12人の児童が参加 地元小学校12人の児童によって記念のくす玉が割られ、「めざせ!世界一」の文字が 第1号筐体を積載したトラックによる出荷の様子
【動画】テープカットの様子
【動画】神戸に向けて第1号筐体が出発。社員や関係者が拍車で送り出した

●一般的なコンピュータの1万倍の性能
富士通テクニカルコンピューティング・ソリューション事業本部・奥田基氏

 富士通テクニカルコンピューティング・ソリューション事業本部・奥田基氏は、「次世代スーパーコンピュータの『京』は、企業の部門で一般的に使われるコンピュータの1万倍の性能がある。これは1日かかっていた計算が10秒で終わり、1週間かかっていた計算が1分で終わる性能。事実上不可能だった1年間かかっていた計算も、1時間で終わることになる。自動車産業では、ボディの厚みなどの設計値をいろいろと変えた計算を大量に行なうことができるため、安全かつ経済的な車を短期間で設計可能になる。また、波と船のように異なる性質を持つ物体のシミュレーションを組み合わせることにより、より現実の世界に近い計算が可能になる」とし、「自然の真理を追求するような5年以上先を見たシミュレーションや、5年以内に実現するような研究開発に直結する計算、または大規模災害対策、新ウイルス対策など、いますぐに結果を求める緊急計算などに活用できる」とした。

石川県かほく市にある富士通ITプロダクツ 次世代スーパーコンピュータ「京」 富士通次世代テクニカルコンピューティング開発本部・常務理事の井上愛一郎氏

 また、富士通次世代テクニカルコンピューティング開発本部・常務理事の井上愛一郎氏は、「単に高性能を目指したのではなく、低消費電力、実効性能、高信頼性という実運用上に求められる要件をクリアすることを目指したのが、富士通の次世代スーパーコンピュータ。マルチコアプロセッサのSPARC64 VIIIfxは、128GFLOPSのピーク性能を誇りながら、水冷時に58Wの消費電力を実現し、消費電力あたりの性能は最高となっている。また、独自開発のVISIMPACTにより、マルチコアを単に並列に処理すると通信量が増大するという問題を解決。マルチコアCPUを仮想的な1つのコアと見なして処理することで、通信量を削減することができた。さらに、豆腐を語源にしたTofuにより、CPU間接続(インターコネクト)を、柔軟、最適に構成することができ、CPU通信オーバーヘッドの抑制と、故障CPUの回避を達成している。こうした富士通ならではの技術によって、安定性、信頼性を高めている。単に力尽くで性能を発揮する他国のスーパーコンピュータとは異なる」とした。

●生産体制も改善

 一方、富士通ITプロダクツでは、次世代スーパーコンピュータ「京」の生産にあわせて、生産体制を大きく見直した。

 富士通ITプロダクツの高田正憲社長は、「これまでトヨタ生産方式による平準化生産に取り組んできたが、京では究極の平準化生産に取り組んだ」とする。

 生産面からみた「京」の特徴は、単一顧客であること、単一の仕様であること、そして、部材の調達から出荷までスケジュールが決まっており、平準化生産をしやすいという点だ。

 そこで、これまで繁忙期と閑散期とにの差があるサーバー生産では導入に限界があるとされていた「ミルクラン」方式と呼ばれるジャストインタイムによる納入体制を構築。さらに、受入検査レス、ICTの積極導入という新たな取り組みにも踏み出した。

 ミルクランとは、複数の牧場で絞った牛乳を巡回するトラックが、定期的にそれを回収する仕組みを指しており、これと同様に、取引先からの集荷ルート、集荷時間を決め、FJITには、午前8時30分、午前10時、午後2時、午後10時という4回の集荷サイクルで部材が納入される仕組みとした。

 現在、ミルクランに参加しているサプライヤーは27工場で、これにより、デイリー納入による物量の平準化、棚卸資産の圧縮効果、納期管理工数の削減などが実現できたという。

 また、サプライヤーも生産を平準化できたことで専用ラインの構築にも踏みだすことができるようになり、これが結果として品質を引き上げることにもつながっているという。

 「単一仕様、大量生産が可能になることから、サプライヤーの製造性改善への取り組みや、専用治具や試験機における協業、量産版プロダクトラインの実地検証などが可能になる。その結果、受入検査レス体制の構築にまで取り組むことが可能になり、これまでに73社233部品でこれを実現している」という。

 受入検査レスの部品点数は全体の25%だが、金額ベースでみると70%が対象になっている。

 さらにミルクランは、通い箱の導入を促進することにつながり、ダンボール廃棄量を1日450kgも削減。開梱作業に関わる付帯作業も縮減できたという。

 さらに、プリント板ユニット、サブユニット、ラック組立、構成試験などを1階フロアに集約することで製造動線を短くしたほか、SMTラインでは段取り替えなどでも止めないライン構成を達成。加えて、携帯情報端末を導入して、作業改善や設計変更の場合も瞬時に情報を伝達。試験情報のデータ管理、生産の進捗管理などにもICTを駆使した取り組みを行なっている。

 「サーバー生産におけるリードタイムは、トヨタ生産方式の導入によって半減したが、新たな仕組みを導入した『京』ではさらに半減しており、3日間程度になっている。また、年間で数億円の削減効果が出ており、サプライヤーがミルクラン方式の効果を実感しはじめている。今後はメインフレームやサーバー生産にもこの手法が活用できないかと探っていきたい」とする。

 京は、新たな生産方式への進化という点でも効果を発揮しているといえそうだ。

心臓部となるSPARC64 VIIIfx 「京」に搭載されるシステムボード サブユニットの組立工程
BPユニットの組立工程 京のラックにサブユニットなどを搭載する
基板ユニット組立工程
基板ユニットの機能試験工程 最終試験となる顧客構成試験 扉取り付けなどの最終組立工程
携帯情報端末を腕につけて最新情報をもとに組み立てる 梱包工程。このあとに出荷される

(2010年 9月 29日)

[Reported by 大河原 克行]