日本AMD株式会社は10日、2009年下半期のコンシューマ向けPCプラットフォーム製品戦略についての説明会を開催。この中で、「Tigris」(タイグリス:コードネーム)プラットフォームを採用したノートPCの試作機を世界で初めて公開。また、ノートPCのバッテリ駆動時間に関する、新しい提言も行なった。
説明を行なった米AMD本社プロダクトマーケティング担当副社長のレスリー・ソボン氏は、下半期のコンシューマ向けPCとして、14型前後のメインストリームおよび、「超薄型」ノートに注力していく方針を明らかにした。ここで言う、超薄型とは、Athlon Neoなどを採用し、Intelでいう「CULV」のように、サイズや価格的にもメインストリームとネットブックの中間に位置づけられる製品を指す。正確な定義はないが、厚さは1インチ以下(約2.5cm)で、10~14型前後の液晶を搭載。また、必ずしも「ウルトラポータブル(超軽量)」とは限らない。
同社が2008年に行なった調査によると、一般ユーザーがPCを買う目的の上位には、写真の編集、HD動画の視聴など、デジタルコンテンツを楽しみたいといったものが挙がっているという。ソボン氏は、「我々にはネットブックに最適化された製品がない」という事実を認めつつも、こういった用途には性能的な面からAtom搭載ネットブックは適さないと指摘する。
これに対し、「HP Pavilion Notebook PC dv2」に代表される第2世代の超薄型ノートは、DirectX 10対応3Dや、1080p対応の動画再生支援機能などを持つ統合型チップセットの支えもあり、上記のようなユーザーニーズに十二分に応えられる。同時に、直接の競合であるCULVに対しては価格面で優位性があるとした。
現在のノートPCの分類。この内、AMDはメインストリームと超薄型(Ultrathin)に注力する | 第2世代超薄型の概要 |
Atomと比較すると多くの点でAMDが勝る | CULVとの比較では、一長一短だが、AMDは価格で優位性があると考える |
昨今のユーザーの注目は、こういった安価な薄型ノートやネットブックに集まっているが、同社は従来からのメインストリームノートにも引き続き注力していく。具体的には「Tigris」プラットフォームを投入し、その採用機はこの10月末のWindows 7発売に合わせて、8社から44製品が登場予定という。
同プラットフォームは正式発表前のため詳細は明かされてないが、CPUにノートPCとして初めて45nm SOIプロセスの「Stars」コアを採用。チップセットのビデオ機能はDirectX 10.1に対応する。これにより現行の「Puma」プラットフォームと比較して、性能の向上とバッテリ駆動時間の延長の両立を実現しているという。会場には、MSI製の実機も展示された。
こういったモバイル技術は、デスクトップ製品にも活かされる。日本では販売台数の8割近くがノートPCだが、それでもデスクトップPCは一定規模の市場を持つ。その中でも、同社は液晶一体型や、ファンレスの小型PCなどに焦点を定めつつ、シングルコアからクアッドコアまで柔軟で幅の広いソリューションを提供する。
Tigrisプラットフォームの概要 | MSIのTigris搭載試作機(右)。左にあるのは12.1型のHP Pavilion Notebook PC dv2 |
デバイスマネージャーでCPUの表記は「Turion II Ultra Dual-Core Mobile M640」(2.6GHz)となっていた | モバイルプラットフォームを使ったデスクトップにも注力する |
●ノートPCのバッテリにも「待ち受け時間」と「連続通話時間」の表記を
携帯電話では「待ち受け時間」と「連続通話時間」を区別して表示するのは当たり前 |
今回、ソボン氏は、製品説明だけでなく、ノートPCにおけるバッテリ駆動時間の測定方法について新たな提言も行なった。それは、ユーザーに対して、アイドル時における最長の時間と、高負荷時における最短時間の両方を示すべきというもの。これは、携帯電話では常に、「待ち受け時間」(=アイドル時)と「連続通話時間」(高負荷時)を示しているのとほぼ同義だ。
現在、海外ではMobileMark 2007の結果、国内ではJEITAバッテリ動作時間測定法に基づくバッテリ駆動時間が仕様として掲載されている。しかし、これらは、PCが進歩したこともあり、CPU負荷が低かったり、バックライトが暗かったりと、バッテリに対する負荷が低い状態で計測される。
しかし、ソボン氏は、ユーザーがノートPCを放置している時間は少なく、何かしらの作業や視聴を行なっていることが多いことから、それらの計測方法は必ずしも実態に即していないと語る。そこで、そういったアイドル時の駆動時間に加え、高負荷時の駆動時間も示すことで、ゲームやDVDを楽しんだときにどれくらいバッテリが持つのかも知らせようというのが同社のアイディアだ。
これは厳密な規格にはされていないようだが、同社ではHDビデオや3DMark06を連続して動かしたときの駆動時間を1つの指針として、PCメーカーや販売店などに、この2つの駆動時間の表記を働きかけており、ロゴも用意している。日本での具体的な取り組みはこれからだが、米国ではすでに大手量販店で採用が決定したという。
なお、同社の計測によると、MobileMark 2007では総じてIntelプラットフォームの方が良い結果が出るが、3DMarok06やHDビデオの再生では、ほぼ同等の結果が出るという。
AMDとしては、必ずしもバッテリ性能で負けてないことを示すためのマーケティング目的で、こういった提言を行なっている面もないとはいえないだろうが、高負荷時の駆動時間を知ることはユーザーにとって実際にメリットのあることなので、この動きが広まることに期待したい。
カタログにこのように表記されると、確かに把握しやすい | AMDが計測した、MobileMark 2007の結果と高負荷時の結果 | 会場にはHP Pavilion Notebook PC dv2で各ベンチのデモも行なわれた |
(2009年 8月 10日)
[Reported by 若杉 紀彦]