●CPUロードマップとFab計画の全貌を明らかに AMDは11月13日(日本11月14日深夜)に行なったアナリスト向けカンファレンス「2008 Financial Analyst Day」で、2011年までのプロダクトロードマップを発表した。昨年(2007年)のAnalyst Dayで、ロードマップからいったん姿を消した次世代CPUコア群「Bulldozer(ブルドーザ)」と「Bobcat(ボブキャット)」が2011に再登場した。BulldozerベースのデスクトップCPUは「Orochi(オロチ)」、Bobcatベースのウルトラポータブル/ミニノート向けCPUは「Ontario(オンタリオ)」となる。 これらのCPUのプロセス技術は32nmとなる。また、x86 CPUコアとGPUコアを統合する「Accelerated Processing Unit(APU)」の最初の製品も2011年の32nmに持ち越された。最初のAPUは2010年のメインストリームデスクトップ&ノートPC向けの「Llano(リャノ)」。AMDは、「同じシリコンのピースの上にx86プロセッサとグラフィックスが載る」と、明確にシリコン統合であることを強調した。また、APUはBobcatベースのOntarioでも投入される。
AMDは別会社へと再編するFabの計画についても、より詳細を明らかにした。アラブ首長国連邦の首長国の1つアブダビ(Abu Dhabi)政府が所有する投資企業Advanced Technology Investment Company (ATIC)と立ち上げるチップ製造ベンチャー「The Foundry Company(仮称)」では、CPU向けの「SOI(silicon-on-insulater)」プロセスだけでなく、GPUやチップセット向けのバルク(Bulk)プロセスも45nmプロセスから製造する。簡単に言えば、AMDのCPUだけでなく、旧ATI系のGPUとチップセットも製造できる体制となる。さらに、32nmプロセスでは低消費電力プロセスも導入される。 チップ製造施設としてAMDからThe Foundry Companyに移行されるのは、AMDのドイツのドレスデンの現行の先端Fab「Fab36」、同じくドレスデンの「Fab30」をリニューアルした「Fab38」に加え、ニューヨークに建設をスタートさせる「Fab4x」の3個のFabとなる。AMDは資金面での不安からFab4x建築はスタートしていなかったが、アブダビからの資金を得て建設を開始する。これによって、今後長期に渡って、先端プロセスでは、常に2個以上のFabが稼働するようになる。AMDによると、32nmと22nmプロセスはすでに開発が進んでおり、2年サイクルでのプロセス移行のペースを維持するという。つまり、Intelよりやや遅れるが、同じペースでプロセスを移行させて行くことになる。
●10年振りのCPUマイクロアーキテクチャの全面刷新 BulldozerとBobcatは、AMDにとって久々のCPUマイクロアーキテクチャの刷新となる。AMDは、Athlon 64(K8)以降は「K8」マイクロアーキテクチャに拡張を重ねて使ってきた。現在のPhenom系の「K10」も、基本的にはK8の拡張だ。そして、K8自体はAthlon(K7)を拡張したものだった。AMDは、K7/K8系マイクロアーキテクチャを9年間使っており、最終的には10年以上に渡って基本形が同じマイクロアーキテクチャを使うことになる。 それに対して、BulldozerとBobcatはマイクロアーキテクチャを完全に一新する。「マイクロアーキテクチャのラディカルな変革になる」とAMDは今回のAnalyst Dayで説明している。つまり、AMD CPUにとって技術的には過去10年の最大の最大の転機となるのがBulldozerとBobcatだ。 Bulldozerでは技術の流れも変わると推測される。よく知られているように、K7/K8の源流は旧DECのAlphaプロセッサにあった。Alphaのアーキテクトチームが主軸となってAMDで開発したのがK7/K8系だったからだ。それに対して、Bulldozer世代はIBM色の強いアーキテクチャになると言われている。BulldozerのチーフエンジニアであるChuck Moore(チャック・ムーア)氏(Senior Fellow, AMD)が、元IBMでPower4のチーフエンジニアを努めた人物だからだ。 BobcatもAMDにとって転換点となる。Bobcatが、IntelのAtomに対抗して開発が進められている超低消費電力x86コアだからだ。つまり、AMDはハイパフォーマンスと低消費電力の両方に最適化したCPUコアを、完全に新しく作っている。これは、IntelのCore i7(Nehalem:ネハーレン)Sandy Bridge(サンディブリッジ)系のパフォーマンスCPUと、Atom(Silverthorne:シルバーソーン) Lincroft(リンクロフト)系の超低消費電力CPUの2系統に対抗する有力な武器となる。BulldozerとBobcatがなければ、2010年代にIntelに対抗することは難しくなるだろう。 しかし、AMD CPUにとって最大の転換となるBulldozerとBobcatの計画はずれ込んだ。2007年の7月のAnalyst Dayで、AMDはBulldozerとBobcatの存在を公式に明らかにした。その時点では、Bulldozerコアは45nmで2009年に登場する見込み(APUのコアに使われる予定だったため)で、Bobcatもほぼ同時期と見られていた。しかし、その後のAMDの製品投入の遅れやATI Technologies統合の混乱の収拾で、両CPUの計画を大きく後退させた。2007年12月のAnalyst DayではBulldozerもBobcatも姿を消した。 今回のAnalyst Dayで、AMDは再びBulldozerとBobcatの計画を明確にした。ロードマップは再び晴れた。しかし、2009年遅くか2010年に登場すると見られていたBulldozerは2011年にずれ込んだ。AMDとATIの統合の最大の成果となるはずのAPUも、2011年に後退した。AMDにとって、技術上の大きな転機となるポイントが全てずれたことになる。それだけ、AMDのこの1年半の混乱は大きな影響があった。 ●クライアントCPUはコードネームの大洪水 AMDは今回のAnalyst Dayをコードネームのオンパレードで飾った。CPUでは、2011年のクライアントCPUのOrochi、Llano、Ontarioの3つに加えて、2009/2010年のモバイルCPUのロードマップも一新した。デスクトップCPUは、すでに明らかにされていたように、来年(2009年)に45nmプロセスのクアッドコア「Deneb(デネブ)」と「Propos(プロポス)」に移行する(トリプルコアも投入される)。それと平行して、2009年にはメインストリームのノートPC向けCPUも45nmのデュアルコア「Caspian(カスピアン)」に移行する。Caspianベースのプラットフォームは「Tigris(タイグレス/ティグリス)」となる。これが、現在のGriffin(グリフィン)ベースのPuma(プーマ)プラットフォームの後継となる。 また、2009年のウルトラポータブルとミニノート向けにはデュアルコアで65nmの「Conesus(コネセス)」とシングルコアの「Huron(ヒューロン)」が投入される。メインストリームが45nmに移行した時点でウルトラポータブル/ミニノートは65nmとなる。また、このセグメントと、おそらくバリューセグメントにはシングルコアが残る。Conesusのプラットフォームは「Congo(コンゴ)」、Huronのプラットフォームは「Yukon(ユーコン)」だ。
2010年には、メインストリームノートPC向けはクアッドコアの45nm CPU「Champlain(シャンプレイン)」に移行。ウルトラポータブル/ミニノート向けはデュアルコアで45nmの「Geneva(ジュネーヴ)」へと移る。2010年にはウルトラポータブル/ミニノート向けでもシングルコアがなくなり、全てデュアルコア以上へと移る。プラットフォームは、Champlainは「Danube(ダニューブ)」で、Genevaは「Nile(ナイル)」となる。 AMDはこの他、2009年のプラットフォームに市場を細分化したコード名をつけた。ビジネスデスクトップは「Kodiak(コーディアック)」、コンシューマデスクトップが「Pisces(パイスィーズ)」、ホームシアターPCが「Maui(マウイ)」、エンスージアストデスクトップが「Dragon(ドラゴン)」。市場セグメントの“連続体”の全てにプラットフォームコードネームをつけた形だ。
●大きな変化はないサーバーロードマップ サーバーロードマップは昨年(2007年)の12月のAnalyst Dayからそれほど大きな変化はない。45nmのクアッドコア「Shanghai(シャンハイ)」は、来年(2009年)に同じ45nmで6コアの「Istanbul(イスタンブール)」へと引き継がれる。IstanbulもShanghaiと同様に現状のプラットフォームにドロップインできるだけでなく、次のプラットフォーム「Fiorano(フィオラノ)」にも載る。 サーバーでは、2010年には「Sao-Paulo(サンパウロ)」が登場する。Sao-PauloはIstanbulと同様に45nmプロセスだが、インターフェイス回りが異なる。Sao Paoloでは、新ソケット「Socket G34」になり、メモリサポートはDDR3に、HyperTransportは3リンクから4リンクへと増強される。プラットフォーム名は「Maranello(マラネロ)」で、これが2010年以降の土台となると見られる。昨年の発表時との違いはSao-Pauloが6コアではなく8コアになった点で、Intelの8コア化と同期するように見える。 また、Sao-Pauloと同じタイミングで12コアの「Magny-Cours(マニクール)」も投入される。こちらは、デュアルダイ(半導体本体)になると言われている。サーバーロードマップ上には、BulldozerコアのSandtiger(サンドタイガー)は、まだ登場していない。
AMDは、今回のAnalyst Dayには力を注いだ。カンファレンスはブレイクアウトセッションにいたるまで全てWebキャストされ、プレゼンテーションもカンファレンス直後に公開された。カンファレンスの内容も、昨年までの奥歯に物が挟まったような曖昧なものではなく、“イケイケ”トーンとなった。もちろん、その背景にあるのは、アブダビからの膨大な資金によって、負債を減らし、莫大な投資が必要なFabを分離する当てができたためだ。 「国富ファンド」と総称される政府系投資企業の中でも最大規模と言われるアブダビをスポンサーにつけたことで、AMDが危機を脱することができると考えていることがよくわかる。もちろん、グローバル経済下での現在の金融危機をアブダビが乗り越え、AMDと新しいFab企業に資金を投入し続け、なおかつ経営にあまり口を出さないという条件が維持されればの話だが。
(2008年11月14日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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