東北大学ら、世界最大規模のベクトル型スパコン連携を実現

今回のプロトタイプシステム

6月2日 発表



 東北大学サイバーサイエンスセンター、大阪大学サイバーメディアセンター、情報・システム研究機構とNECは、グリッド上で世界最大級の広域ベクトル型スーパーコンピュータ連携を実現した。

 今回の連携は、国立情報学研究所が研究開発した「NAREGI」グリッドミドルウェアを活用し、遠隔地にある2つのベクトル型スーパーコンピュータを1つのシステムとして仮想化するプログラムを実行したもの。遠隔地にあるスーパーコンピュータを連携することで、世界最大級のベクトル型スーパーコンピュータのグリッド環境実現が可能であることを実証した。

 「今回、連携を実現した東北大学サイバーサイエンスセンター、大阪大学サイバーメディアセンターともに、'69年から全国共同利用型大型計算機センターとして、それぞれが全国の大学などの研究者や教育に利用する計算を請け負っている。今回、東北大学がもつNEC製SX-9を16ノード、最大ベクトル理論性能26.2TFLOPSのスーパーコンピュータと、大阪大学のSX-9を10ノード、最大ベクトル理論性能16.4TFLOPSを学術情報ネットワークSINET3で高速接続し、NAREGIグリッドミドルウェアを活用することで、800km以上ある距離を超えて連携することに成功した」(東北大学サイバーサイエンスセンター 小林広明・センター長)。

東北大学サイバーサイエンスセンター 小林広明センター長東北大・大阪大センターの歴史と役割ベクトルスーパーコンピュータの性能の高さを示すベンチマークテストの結果
ベクトルスーパーコンピュータの活躍領域ベクトルスーパーコンピュータのクラウド利用実現に向けての取り組みNAREGIグリッドミドルウェアを活用したクラウド設計

 ベクトルコンピュータは、近距離航空機の設計技術や、自動車のCO2削減用タービン設計など、主に物作り分野でのイノベーション創出や、地球シミュレータのように環境や社会構築などの分野に利用されている。

 それぞれの大学で利用されているスーパーコンピュータは、秋以降にはおおよそ95%の利用率となるなど利用頻度は高い。だが、今回のようにそれぞれのコンピュータを連携して利用することで、研究者はさらに効率的にスーパーコンピュータを利用することが可能となり、利用者のプログラムが最も効率的に動作する計算資源の自動検索や、処理時間の短縮やコスト削減、クラウド型サービスとして提供していくことで、利用者が望むアプリケーションの存在を自動的に探索してジョブを実行させるなど、大学発のアプリケーションサービスの提供などが実現する見込みとなった。

デモンストレーション。シングルサインオンでユーザーはバックグラウンドで動いているコンピュータが何かを意識せずサービスを利用できる

 2つのベクトルスーパーコンピュータを連携するのに利用したミドルウェアNAREGIは、平成15年度から19年度までの5年間、研究・開発が行なわれた。平成20年5月9日にVer.1がリリースされ、現在はさまざまな領域で試験運用が行なわれている。

 NAREGIミドルウェアの機能の1つが、広域に点在する研究開発拠点の大規模な計算リソースを高速ネットワークで連携させる仮想化機能だ。今回の実験では、800km以上の距離の2台のスーパーコンピュータを仮想的に1つの巨大なコンピュータとみなして、個別コンピュータシステムの利用のみでは困難だった大規模並列シミュレーションなどを、効率的に実行することが可能とした。

 今回、新たにSX-9のローカルスケジューラ(NQS)と高い親和性を持たせた「GridVM for SX Vector Computer」を開発。ジョブ管理機能、情報プロバイダ機能、資源利用量制限機能などを強化し、グリッド環境においてもベクトル計算資源の効率的な利用が可能となり、さらに、センター通常ジョブとグリッドジョブの共存によって世界に先駆けたクラウド型計算サービスの提供が可能となる。

 実証実験では、共有メモリおよび分散メモリ用の並列プログラミングライブラリを用いて、並列化された電磁界分布シミュレーション用のプログラムを、東北大学と大阪大学のSX-9を接続して実行させた。クラウドによるサービスを提供するための基盤とすることを前提に、今回開発したSX-9用GridVMを NAREGIミドルウェアに導入、両計算センターの計算資源の仮想化を実現。処理負荷状況の自動的な判断によってジョブの最適な振分け実行が、2つのスーパーコンピュータ間で可能であることを、実証した。

 「実証実験の成果として、NAREGIグリッドミドルウェアが運用テストを行なうフェーズとなった。今後、1、2年かけてテスト運用を行なって、実稼働につなげていきたい。また、サイエンスグリッドとして情報基盤センター向け機能に加え、分子科学研究所や国立天文台など分野別研究機関を装備している。さらに、海外の主要なグリッドプロジェクトとの連携による国際的なグリッドミドルウェアとして国際共同研究プロジェクトへ寄与することになるだろう」(国立情報学研究所 リサーチグリッド研究開発センター長・三浦謙一教授)。

 なお、遠隔地にあるスーパーコンピュータを連携させることで、より大規模な計算を行えるものの、「これで地球シミュレータのような大規模スーパーコンピュータは必要でなくなるということはない。今回の実証実験では、コンピュータ同士をSINET3で高速接続しているものの、そのスピードはコンピュータ内部のネットワークスピードには及ばない。地球シミュレータで行なっているような計算にはグリッドコンピュータの利用は適さない」(東北大学サイバーサイエンスセンター・小林センター長)という。

国立情報学研究所 リサーチグリッド研究開発センター長 三浦謙一教授NAREGIミドルウェア Ver.1主要機能NAREGIミドルウェア Ver.1による研究環境
NAREGIグリッドミドルウェアの構造NAREGIミドルウェア Ver.1の運用形態例NAREGIミドルウェアの展開状況

(2009年 6月 2日)

[Reported by 三浦 優子]