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暗所視を支援するメガネ型ウェアラブルデバイス

~HOYAと東急電鉄が実証実験

眼鏡型のウェアラブルデバイス「HOYA MW」の試作品

 HOYA東京急行電鉄(東急)は、眼鏡型のウェアラブルデバイス「HOYA MW(仮称)」を活用し、夜盲症の人たちの暗所視支援の実証実験を共同で行ない、その成果について発表した。

 MWの型番には、「メディカル・ウェアラブル」の意味を持たせており、暗所視支援機器と位置づけている。

 夜盲症は、最初は暗いところでものが見えにくくなり、視野がせまく、見える範囲が小さくなり、やがて視力も低下していく網膜色素変性症などを含むもの。

東京都網膜色素変性症協会の土井健太郎会長

 東京都網膜色素変性症協会の土井健太郎会長は、「夜盲症の人たちは、明るい場所では、ある程度の視機能が残っているにも関わらず、薄暗くなると視覚が低下してしまうため、外出をひかえる傾向があり、生活に大きな影響か出ている。病気の状態に差はあるものの、この製品によって、夜盲症に苦しむ人たちにとって大きな恩恵を与え、世界を照らす光になることを期待している」と語る。

 夜盲症は、3,000~4,000人に1人が発症しており、治療法が見つかっていない。

 「今の時期では、午後4時30分過ぎには見えにくくなり、午後6時を過ぎるとクルマのヘッドライトなどの光以外は見えなくなる。暗い神社は漆黒の闇である」と、夜盲症である土井会長自らが語った。

 「HOYA MWを使って、夜に神社を訪れたところ、桜が満開であることが見えた。夜桜を見ることは不可能だと考えていたが、これをカラーで見ることができ、大きな感動を覚えた。夜にコンビニに行くことがたいへんだったり、お洒落なレストランは薄暗いことが多く、食事やデートが楽しめなかったりという課題があったが、こうした問題も解決できる」と述べた。

HOYA MWを装着した様子

 HOYA MWは、HOYAが開発した小型高感度カメラを備えた眼鏡タイプのウェアラブルデバイスで、カメラで捉えた像を画像処理ソフトウェアで処理し、ハーフミラーを通じて、装用者の眼前に設置された有機ELディスプレイに投影する。

 レンズは、シースルー構造であり、外界光を感じたり、外の気配などを感じたりできるほか、視力矯正レンズを入れることも可能としている。夜盲症の人たちの声を聞き、日常的に使ってもらえるデザインを採用したという。約3時間のバッテリ駆動を目指している。

HOYA MWの概要

 HOYAでは、2016年8月~12月まで、九州大学への委託研究などを通じて同デバイスの開発を進めてきた。

 今回の東急電鉄との取り組みでは、実社会での有用性の確認と、課題の抽出を目的としており、バリアフリーに取り組む東急電鉄と、デバイスの改善に取り組むHOYAが共同で、日常生活の暗所や低照度の環境下でも、多くの人がスムーズに活動できる社会の実現を目指すという。

 具体的には、9月6日および7日に、夜盲症の人が、HOYA MWを装着し、二子玉川駅および用賀駅、二子玉川ライズといった駅構内や商業施設などの生活空間を歩行し、有用性を検証。課題の抽出を行なった。

 東京急行電鉄鉄道事業本部事業推進部沿線企画課の平江良成課長は、「東急電鉄は、すべての人が利用しやすい駅や商業施設を目指して、積極的なバリアフリーに取り組んでいる。今回の実験を通じて、より利用しやすい環境を実現することに期待している」と述べた。

 また、HOYA メディカル事業部 MWプロジェクトディレクターの石塚隆之氏は、「日本には、網膜色素変性症の患者が約3万人、糖尿病でも10%の患者が目に影響が出ており、合計で5万人が対象になる。夜盲症の人たちに、見えることを支援し、就労や学業への参加を促すことができる。駅と駅の移動、商業施設といった生活空間での実用性を検証するものであり、可能性を広げていきたい。眼鏡レンズなどのノウハウを活かすとともに、電子機器のノウハウを活用し、社内プロジェクトとして取り組んでいる。世界に光を灯す機器に進化させたい」と述べた。

 そして、「HOYA MWは、病気を治癒するための機器ではないため、医療機器ではない。福祉機器と位置づける製品であり、世に出して、支持を得てから補足具としての認可を取りたい。これまでに前例がない製品であり、新たな販売ルートを構築する必要がある」としたほか、「暗所での作業などの業務用途への応用も可能だろうが、今は、ビジネス利用などは想定しておらず、夜盲症の人たちに向けた福祉機器とて、複数の機能をつけずに、シンプルな機能だけでやっていきたい」とした。

東京急行電鉄鉄道事業本部事業推進部沿線企画課の平江良成課長
HOYA メディカル事業部 MWプロジェクトディレクターの石塚隆之氏

 なお、今回の実証実験では、夜間の歩行や屋内の歩行においても、夜盲症の人たちが、不自由なく歩けるといったことがわかったという。

 HOYAでは、HOYA MWの実用化に向けて検証をさらに進める一方、基板の小型化やレンズ部分の薄型化などの改良を進め、デザインを一新して、2017年12月の発売を予定している。価格は未定。

 HOYAでは、2017年11月1日~3日まで、すみだ産業会館で開催される「サインワールド2017」に、HOYA MWを展示する予定だ。

二子玉川駅での実証実験の様子