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産総研と九大、有機ELを低コスト化させる次世代有機ELの発光メカニズムを解明

~稀少金属を必要としないTADF分子から発見

TADF発光の従来考えられてきたメカニズム(左)と、今回明らかになったメカニズム(右)の模式図

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)と九州大学は11日、次世代有機EL用発光材料の発光メカニズムを解明したと発表した。

 次世代の有機EL素子用の発光材料として注目されている熱活性化遅延蛍光(TADF)は、室温の熱エネルギーで有機EL分子を放出して蛍光させることができ、現在の有機ELの発光材料に不可欠な稀少金属が不要なことから、低コスト化と効率化の切り札とされ、発光メカニズムの詳細な解明が求められている。

 九州大学はこれまで熱によってりん光を放出する三重項状態から蛍光を放出する一重項状態へと逆変換して蛍光を放出するTADF分子を開発し、炭素、窒素、水素といったありふれた元素だけからなる有機化合物でほぼ100%の発光効率を実現していたものの、そのメカニズムは不明なままだった。

 今回、産総研が開発したポンプ・プローブ過渡吸収分光法を用いて、九州大学が開発した複数のTADF分子の発光過程を調べたところ、TADFを強く発光する分子群にのみ特徴的な励起状態が生成されていることが判明した。

 TADFを強く発光する分子群では、プラスの電荷(ホール)が分子内で自由に移動できる「電荷非局在励起種」が生成されていたのに対し、TADFを発光しないか発光が弱い分子群ではホールが自由に移動できない「電荷局在励起種」や「中性励起種」しか観測されなかった。そのため、TADFの発光には電荷非局在励起種が関係しているとわかった。

 さらに、今回得られた過度吸収スペクトルを詳細に考察したところ、三重項状態から一重項状態への逆変換は、三重項状態の一種である中性励起種が一重項状態の励起種とエネルギー的に近いと生じることもわかった。そのため、逆変換が室温で起こるかどうかは一重項状態と三重項状態の電荷分布が異なる励起種間のエネルギー差に着目する必要があることが解明された。

 今回の知見によって、さまざまな発光色で高い発光効率と材料の耐久性を備えた高性能なTADF分子を探索・作成できるとしており、有機ELデバイスの大幅な低コスト化や、有機半導体レーザーなどの次世代光デバイスの実現が期待されるとしている。