笠原一輝のユビキタス情報局
リアルなポケットPCを実現するWindows 10 MobileのContinuum機能を試す
~MicrosoftのLumia 950とDisplay Dock試用記
(2016/1/5 08:20)
筆者は1月6日~9日の4日間にわたってアメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市で開催される「CES 2016」に参加するために、新年早々渡米してラスベガスに滞在している。そして、今後米国渡航時にメインスマートフォンとして利用するつもりで、MicrosoftのWindows 10 Mobile搭載スマートフォン「Lumia 950」とその純正オプション「Display Dock」を購入した。
Display Dockは、Windows 10 Mobileの目玉機能の1つである電話用Continuumを利用するための製品で、これにLumia 950/950XLを接続すると、スマートフォンをPCのUIで利用可能になるのだ。
有線と無線という2つの接続方法がある電話用Continuum
MicrosoftがWindows 10(PC版/モバイル版)でサポートした新機能の代表として、「Continuum」(コンティニュアム)と呼ばれる機能がある。Continuumとは日本語にすると連続性という意味で、Windows 10でユーザーインターフェイスがシームレスに形を変えながら利用できるという機能である。
現代のデバイスは、Windows PCにおける2in1デバイスに代表されるように、クラムシェル型とタブレット型と変形する機構を備えているものが増えてきた。クラムシェルモードではマウスやキーボードで操作するのが便利だし、タブレットならタッチで操作するのが便利だろう。そうした入力デバイスに合わせてUIも変化すべきというのがWindows 10のContinuumの基本的な考え方になる。PC版のWindows 10では、例えばSurfaceシリーズのようにタイプカバーキーボードを接続するとWindows 7的なスタートメニューに切り替わり、タイプカバーキーボードを外すとWindows 8的なタイルUIに切り替わるという仕組みになっている。なお、全てのキーボードでこれが実現可能だと言うことではなく、GPIOによる着脱通知が可能になっている必要がある。
これに対して電話用Continuumは、キーボードやマウスなどの入力デバイスの有無によってUIが切り替わるという基本的な考え方は同じだが、もう1つの要素として外付けディスプレイを接続した時という前提条件が付く。というのも、ディスプレイが4~6型程度のスマートフォンでは、キーボードやマウスを接続しても、ディスプレイが小さすぎてPC的に使う意味がないからだ。
Windows 10の電話バージョンとなるWindows 10 Mobileでは外付けディスプレイを接続する方法としては2つの方式が用意されている。1つは、Miracastを利用した無線出力で、もう1つが有線による出力になる。
Miracastのレシーバは、Microsoft自身がSurfaceシリーズ向けに販売しているWireless Display Adapter(型番:CG4-00009)に限らず市販品がそのまま利用できる。これに対して、有線で利用する場合にはスマートフォン自体がMHLの機能などを持っており、単体でHDMI出力できる機能を備えているか、あるいはオプションで用意されるディスプレイ出力のドックなどを利用する必要がある。今回筆者は米国で販売されているMicrosoft Lumia 950(AT&T Wireless版、RM-1105)と、純正オプションとして販売されているMicrosoft Display Dock(HD-500)を購入した。
なお、RM-1105は米国向けのモデルとなり、無線部分は米国での認定しか受けていない。従って、日本では電波を出して使うことができないので、仮に日本で無線を有効にして使おうとしても日本の法律では利用禁止されているので注意したい。
Lumia 950はSoCのSnapdragon 808(MSM8992)を搭載し、メモリ3GB、USB Type-CコネクタというスペックのハイエンドWindowsスマートフォンとなる。Display Dockは、USB Type-Cコネクタを備えており、Lumia 950とその上位機種となるLumia 950XLを接続できるドッキングステーションとなる。キーボードやマウス用の3つのUSB 2.0ポートと、HDMI/DisplayPortの出力を1つずつ持っている。
Continuumに対応しているアプリと対応していないアプリ
Lumia 950/950XLとDisplay Dock(HD-500)を利用して接続する場合、スマートフォン側の設定は何もいらない。ドックと外部ディスプレイをHDMIケーブルないしはDisplayPortで接続し、ドックのACアダプタを接続して、Lumia 950/950XLをドックに付属のUSB Type-Cケーブルで接続する。数秒すると、外部ディスプレイにWindows 10の見慣れた画面が表示される。
ただ、よく見ると微妙に異なっており、デスクトップの上部にスマートフォンの通信状態を示すアイコン(アンテナピクトやWi-Fi接続時にはそのマークなど)が表示されているほか、タスクバーの辺りはデスクトップ版よりすっきりした表示になっている。また、アプリのウインドウ表示はできず、フル画面での表示のみになる。タスクの切り替えは、PCのWindows 10と同じようにタスクバーに用意されているタスク切り替えのアイコンを押して表示されるリストから選ぶか、タスクバー上の起動中アプリのアイコンから選んで行なう。
この状態でスマートフォンでは、2つの操作が可能になる。1つは通常のアプリを表示するモードで、この場合は本体と外付けディスプレイとのデュアルディスプレイとして利用できる。ただし、PCと違って1のアプリの両方のディスプレイには表示できない。例えば、スマートフォン側でブラウザのMicrosoft Edgeを起動した状態で外部ディスプレイ側でEdgeを起動すると、スマートフォン側のブラウザは終了され、外部ディスプレイ側のみが動作し続けるようになっている。もう1つはスマートフォンをリモコンとして利用する使い方で、この場合はスマートフォンをタッチパッドや、ソフトウェアキーボードとして利用できる。
この時、スマートフォン側でモバイルページとして表示されていた画面も、読み込み直され外部ディスプレイではPC用のページが表示される。ただし、Webサイト側の作りにもよるようで、Microsoftのサイトでは切り替わったが、他のWebサイトでは切り替わらない場合もあった。
また、全てのアプリケーションが外部ディスプレイで表示できるわけではなく、アプリケーションによってはContinuumには対応していないと表示されて、外部ディスプレイには表示できなかった。具体的には、SkypeやFacebookなどは対応しておらず、Windows 10の標準アプリ(メール、スケジュール、Edge、カメラなど)は対応している。なお、スマートフォン側のディスプレイではContinuum利用中であっても、それらのアプリを利用することができる。
現状では有線接続が圧倒的に便利
Display Dockを利用したContinuumはUSB Type-Cケーブルで接続するだけで利用でき、非常に快適だ。対して、Miracastのレシーバに接続した時には、接続時に若干の操作が増えることが煩わしく感じた。今回は、Microsoft Wireless Display Adapter(型番:CG4-00009)を利用してテストしたが、Miracastのレシーバに自動で接続することは(今のところは)できず、必ずユーザーがContinuumのアプリを起動して、Miracastのレシーバを探し、接続するという一手間が入る。
また、これはMiracast側の問題だが、現状のMiracastのレシーバは安定して表示するためにバッファを大きめに取ってあることもあり、表示遅延は決して小さくない。Microsoft Wireless Display Adapterとの組み合わせの場合には0.5秒程度の遅れがある。動画などではあまり大きな問題にはならないが、WordやExcelなどを使っている時にはその遅れにややイライラすることがあるだろう。
ポケットPCの実現への大きなマイルストーン
今回Lumia 950とDisplay Dockを利用してみて、これがPCの代わりになるかと聞かれればそうではないということだ。ウインドウ表示できないなどのUIとしても制約もそうなのだが、Windows 10 MobileではWin32アプリは使うことができないからだ。AdobeのCreative Cloudアプリケーションなどを始め、特に生産性向上に利用するアプリケーションの多くは、まだまだWin32アプリであることが多い。
しかし、UWP(Universal Windows Platform)アプリにもOffice Mobile(Word/Excel/PowerPoint)が用意されているし、クラウドストレージのOneDriveと組み合わせ、PCで作成しクラウドに保存したファイルをOffice Mobileで編集してという使い方ができる。さらに、Windows 10 Mobileには、ファイルエクスプローラのようなWindowsユーザーが使い慣れたツールも普通に用意されているほか、設定の画面もContinuumで外付けディスプレイに表示されると、PC版のWindowsと見間違うほどだ。その意味で、使い慣れたデスクトップが使えるという意味は決して小さくない。
そしてもう1つ指摘しておきたいのは、Continuumモードにした時には、Windows 10 MobileとWindows 10で共通に標準ブラウザとなっているMicrosoft Edgeがそのまま利用できるということだ。モバイルとPCでブックマークやパスワードなどが共有できるほか、既に述べたように大画面でWebを見ることができ、かつContinuumで外部ディスプレイに表示させた時にはPCビューに自動的に切り替わるので、この点でもContinuumになっていることは見逃せない。ただし、Windows 10 MobileのMicrosoft EdgeはAdobe Flashには対応していないという注意点はある。
Continuumが有効なWindowsスマートフォンは、スマートフォン以上、PC未満のユーザー体験と評価するのが正しいと思う。本気で生産性を向上させるようなタスクをやるときには依然としてPCが必要だが、Webブラウザを見たり、Twitterを見たりという程度のコンテンツを閲覧する使い方で、たまにちょっとしたPowerPointやExcelの編集という使い方でPCを使っているのであれば十分代替になる。
いずれにせよ、このContinuumにより、本当の意味で、スマートフォンがポケットPCとして利用できるようになることは間違いない。その意味で、日本でも早期に利用できるようになることを期待して、この記事のまとめとしたい。