笠原一輝のユビキタス情報局

低価格で魅力的な製品が登場しつつあるWindowsタブレット市場

〜月200MB無料データ通信付きの米HPの8型タブレットを試す

 現在筆者は1月の恒例行事となっている、デジタル家電関連の世界最大の展示会となるInternational CESに参加するため、米国のラスベガスに滞在している。こうした外国の取材では時間に追われることが多いため、自由時間を持つことが難しいのだが、今回は時差の調整もあり、早めに現地入りしているため、ラスベガスで電器屋さんを巡ったりという時間を持てている。

 そうした中で、筆者が「おっ」と思って購入してみたのが、Microsoft Storeで販売されていたHPのWindowsタブレットだ。「HP Stream 8 Signature Edition Tablet」(以下:Stream 8)という製品名が付けられた8型のWindowsタブレットで、ワイヤレスWANモデムを内蔵していながら179ドル+消費税(ラスベガス市では8.1%)と低価格で販売されていたからだ。このStream 8に限らず、現在市場には2万円を切るようなWindows 8.1を搭載したWindowsタブレットが多数登場しつつあり、日本でも格安Windowsタブレットとしてトレンドになりつつある。

69.99ドル相当のOffice 365 Personal1年分のライセンスもバンドルされている

 Stream 8はHPが製造し、Microsoftが自社のスペックで自社の流通網(Microsoft Store、リアル店舗とオンライン店舗がある)を利用して販売する8型Windowsタブレットだ。製品名にもある“Signature Edition”(シグネチャーエディション)を素直に日本語にすれば“サイン付き版”となるわけだが、例えばエステ業界などではショップオリジナルのメニューを“シグネチャーメニュー”呼んだりすることがあるのと同じように、Microsoftの独自仕様だ。Microsoft StoreのWebサイトで公開されているSignature Editionの定義によれば、OEMメーカーが独自にインストールするサードパーティ製のソフトウェアが一切ない仕様とのことで、ピュアなWindows環境が欲しいユーザー向け仕様が最大の特徴だ。

 なお、このSignature Editionの製品は、日本のMicrosoftストア(ただし日本ではオンラインのみ)でも販売されており、レノボ・ジャパンのThinkPad 8やMiix 2 8、日本エイサーのAspire Switch 10などのSignature Editionがラインナップされている(詳細はMicrosoftストアのWebサイトを参照)。

 Stream 8は、800x1,280ドットの8型IPSパネルを採用した8型Windowsタブレットで、SoCはIntelのAtom Z3735G(Bay Trail Entry)、1GBメモリ、32GBのeMMC、OSはWindows 8.1 with Bingという構成になっており、米国のOffice 365 Personalの1年分がバンドルされている。なお、Office 365 PersonalはOneDrive 1TBとSkypeで月60分の無料通話の利用権、Word、Excel、PowerPoint、OneNote、Outlook、Publisher、AccessといったPC用Officeアプリケーションが1台分、タブレットとスマートフォン版のOffice利用権がそれぞれ1台分のライセンスが付いてくるサブスクリプションで、単体で購入すると1年で69.99ドルになっている(ただし、米国の個人向けOffice 365は商用利用は不可)。

 日本のユーザーでもバンドルされているOffice 365 Personal 1年分をMicrosoftアカウントに登録することができるのだが、仕組み上異なるSKUの個人向けOffice 365を、2つ同時に登録することができない。米国ではOffice 365 Home、Office 365 Personalと2つの個人向けOffice 365のプランが用意されているが、1つのMicrosoftアカウントに対してどちらかのSKUしか紐付けることができないのだ。

 筆者の場合には米国ではHomeに相当する日本のOffice 365 Soloが自分のMicrosoftアカウントに紐付けられているため、自分のアカウントに米国のOffice 365 Personalを紐付けることはできなかった。なお、既にOffice 365 Personalを紐付けていて、追加でもう1つのサブスクリプションを紐付ける場合は、期限の1年分が延長されるという形で利用可能だ。

HP Stream 8 Signature Edition Tablet。Atom Z3735G、1GBメモリ、32GB eMMCというスペックで、サイズは123.95×209.04×8.89mm(幅×奥行き×高さ)、重量は408.23g。
ボタンはシンプルで電源ボタンとボリュームだけ
端子類も最小限でヘッドフォン端子とMicro USB端子
低価格なWindowsタブレットだとWindowsボタンが無いことが多いが、本製品にはちゃんと用意されている
背面にはブランドロゴや各種認証ロゴが書かれている。日本の技適マークはないので、日本で使う場合にはT-Mobileの回線契約を利用してローミングする場合のみ利用できる
今時のタブレットには珍しく、裏蓋がとれ、microSDカードやSIMカードを挿す形状になっている。バッテリにもアクセスできるが、ユーザーが交換はできない。容量は14.8Wh(3.7V/4,000mAh)とWindowsタブレットとしてはやや少なめ

月200MBのデータ通信が無料でついてくる

 HP Stream 8 Signature Edition Tabletのウリの1つは、ワイヤレスWANモデムを内蔵していることに加え、米国の通信キャリアであるT-Mobileの月間200MB無料データ通信が付属する点だ。宣伝文句には4Gと書かれており、日本では4G=LTEというイメージがあるかも知れないが、米国ではHSDPAの拡張版であるHSPA+なども4Gと呼ばれている。この製品もLTEには未対応で、モデム表記を確認してみるとHSPA+/HSUPA/HSDPA/UMTS/EDGE/GPRSに対応となっていた。なお、SIMカードは出荷状態で本体に内蔵されており、ユーザーは接続というボタンを押すだけでT-Mobileの回線に接続される。

 購入後、初めてT-Mobileの回線に接続するとアクティベーション(開通作業)の画面になる。接続後にWebブラウザが起動してプランを選択する画面になり、月額プランや1日プランなど有料プランを選ぶこともできるし、月額無料で200MB利用できるプランを選ぶこともできる(ただしSIMカードは製品に紐付けられるため、製品の寿命が尽きるまでとなる)。筆者の場合は米国に住んでいるわけではなく、旅行中にちょっと使えればいいだけなので、迷わず無料で200MB/月のプランを選択した。

 なお、米国のプリペイドは、特に身分証明書による認証なども必要無く、名前、メールアドレスなどを入力するだけで契約は完了だ。このため、旅行者でも使い勝手が良いので、米国に旅行に行くなら各キャリアのプリペイドプランを現地で契約するのがお薦めだ。

箱を開けると、T-Mobile回線のアクティベート方法が書かれている
中身は非常にシンプルでT-MobileのSIMカードのパッケージ(SIMカード自体は製品に装着済み)、簡易マニュアル類、USBチャージャーなどだけ
初期状態では回線は開通していないので、アクティベーション(開通作業)をユーザー自身が行なう必要がある
有料プランも含めて表示されるが、無料の200MBを選択すると、製品の寿命が尽きるまで月200MBまで無料で利用できる
名前やメールアドレス、パスワードなどを登録するだけで簡単にアクティベーション作業は終わる。本人確認などは必要ない
この画面が出れば通信可能になっている
モデムの詳細で確認すると、LTEには未対応でHSPA+までであることがわかる

視認性が高いIPS液晶を採用する

 フル機能(無印かつwith Bingの方だが……)のWindowsが利用でき、Office 365 Personalの1年分が付属していて、さらに200MB/月の無料データ通信が可能なモデムまで内蔵していて179ドル+消費税(ラスベガス市では8.1%)という価格は、日本円(1ドル=約120円換算)にすれば23,000円強ということになる。

 もっともこうした製品は別に米国だけというトレンドではなく、日本でも低価格のWindowsタブレットは登場しつつある。例えば日本エイサーの「Iconia Tab 8 W」は、8型IPS1,280×800ドット液晶、Atom Z3735G、1GBメモリ、32GB eMMC、Windows 8.1 with Bingという構成。Officeのバンドルこそないものの、大手量販店ではポイント10%込みで21,000円、通販サイトなら2万円を切る価格設定になっている。

 年末にIconia Tab 8 W、年明けにHP Stream 8 Signature Edition Tabletを触ってみて感じたのは、以前のモデルと比較して液晶ディスプレイの表示品質が大幅に改善されていることだ。以前の低価格タブレットと言えば、「これDSTN?」と溜息をつきたくなるような、視野角が狭くて暗いという液晶が多かった。ユーザーにしてみれば唯一のタブレットとのインターフェイスであるディスプレイの品質が低いがゆえに、低価格タブレット自体がイマイチの品質という印象を持つことが多かった。これに対して新製品は、液晶にIPSパネルが採用されており、視野角や明るさなどに不満を感じない。

 より厳しく見るのであれば、タッチディスプレイの視差は高価格帯の製品に比べるとやや大きめに感じた(つまりタッチパネルの層がやや厚いということだ)。このあたりはコストとのトレードオフなので仕方ないところだが、実際問題はあまりない。

 もう1つ気になっていたのはメモリ1GB、ストレージ32GBでどの程度使えるのかという点。まずストレージの方だが、Stream 8の場合はリカバリ領域などにも使われているため、システムのドライブとして利用できるのは23.5GBだった。その状態で筆者の環境を構築して、Office 365 Solo、ATOK 2014およびプレミアム辞書などをインストールして、OneDriveの必要最低限のキャッシュ(自動で生成される写真のサムネイルなど、1.34GBあった)などの同期が終わった状態で11.1GBの空き容量があった。ローカルのストレージは使わず、OneDriveを常にオンラインで利用する設定で利用するユーザーであれば特に問題なく利用できるだろう。

 なお、microSDカードで容量を増設することもできるので、例えば動画などのファイルサイズが大きくセキュリティ的にあまり問題がないファイルはそちらに追い出すといった使い方をしていれば実用十分だ。

 メモリの方だが、正直に言えば性能を重視するユーザーにとってはあまりお薦めできるものではない。特にWindowsデスクトップアプリケーションで、起動時にモジュールをたくさん読み出すようなものは、使っていてかなり厳しい。CPUの性能も、CoreプロセッサなどのフルPC用のCPUに比べると高くない。例えば、Excelの起動では、Core i7-4650Uを搭載したPCでは1〜2秒で起動したが、HP Stream 8 Signature Edition Tabletでは7〜8秒といったところだった。ただ、アプリケーションの起動は、一番CPUの処理能力を使うので、一度起動してしまえば、さほど変わらない体感で利用できる。

 Officeアプリケーション程度であれば充分利用できると思うが、Photoshopのような写真や動画などを編集するアプリケーションはかなり厳しいと言っていいだろう。そもそもPhotoshopは、廉価版のElementsでもインストールするだけで数GBのストレージスペースが必要になるので、その点でもあまり向いていないと言える。

 ただ既に述べた通り、液晶の表示品質が上がっているので、モバイルPCとして違和感無く利用できる。Windowsタブレットの最大のアドバンテージは、iOS/Androidのタブレットでは簡易版しか利用できないOfficeのフルバージョンが使えることであり、それは格安Windowsタブレットでも変わらない点だ。そこを評価するなら、Office 1年分利用権込みで23,000円で購入できるというのは“いい時代になったな”としか言いようがない。

日本エイサーのIconia Tab 8 W。液晶は8型IPS 1,280×800ドット、SoCはAtom Z3735G、1GBメモリ、32GBのeMMC、Windows 8.1 with Bingという構成
出張先のホテルでの筆者の仕事環境。早速Stream 8を導入してみたが、WindowsタブレットはBluetoothキーボードを接続すれば緊急時のバックアップPCとしても使え、セカンダリディスプレイとしても有益だ

低価格なWindowsタブレットはWindows 10世代でも続く見通し

 昨年(2014年)末から続々とこうした低価格のWindowsタブレットが登場している。その背景は、2014年4月に行なわれたIDF ShenzhenおよびBuildでの発表を解説した記事で説明した通りだ。今目の前でおきているWindowsタブレットの低価格という現象は、まさにこの通りだ。Microsoftにせよ、Intelにせよ、かつての市場支配力は無く、Microsoftの敵はGoogleだし、Intelの敵はARMだ。それに打ち勝つために自社の利益を削ってもシェアを奪いにいく必要に迫られている。その結果として表れてきているのがWindowsタブレットの低価格化と、低価格なIA Androidタブレットだ(このことも以前の記事で触れた)。

 今後のWindowsタブレット市場はどうなっていくのだろうか。その鍵となるのは1月22日に予定されているWindows 10のコンシューマ機能に関する発表だ。既にこの連載では何度か説明している通り、Windows 10には通称デスクトップ版とモバイル版と呼ばれる2つのバージョンが用意されており、現在ベータテストが行なわれているWindows 10は、デスクトップ版と呼ばれる、既存のPC版の延長版となる。これに対しモバイル版は、Windows Phoneの機能を包含したWindows 10になる。

 現在日本で人気を集めているWindowsタブレットで利用されるWindows 10は、もちろんデスクトップ版となる。Windows 10世代になったとしても、8型や10型などに関しては依然としてx86のWindowsタブレット製品が続いていくし、タブレット向けの特別価格プログラムも継続する方向だと聞いている。ただ、SoCに関しては若干変更が入る可能性が高い。現時点ではBay Trail一択だが、今年(2015年)には14nm版となるCherry Trailがリリースされる。OEMメーカー筋の情報によれば、Cherry Trailはプロセスルールが14nmに微細化されるだけでなく、GPUのEUがBay Trailの4個から16個へと大幅に増やされるという。これにより、GPU性能がCoreプロセッサのローエンド版に近いレベルになるので、性能が大幅に向上する。

 しかしCherry Trailには、Bay Trail Entry的な製品となるCherry Trail Entryは存在しない。というのも、Intelは今後スマートフォンやタブレットの廉価版SoCを、モデム内蔵型のSoFIAに切り替える計画だからだ。SoFIAはまもなく3Gモデムを内蔵したSoFIA 3Gがリリースされ、その後LTE付きのSoFIA LTEが今年の後半に、そして2016年に性能を強化したSoFIA LTE 2が投入される計画だ。ただし、最初のSoFIA 3GはAndroidのみのサポートで、Windowsはサポートされない。Windowsのサポートは、SoFIA LTE以降となっており、それまでIntelの低価格SoCのラインナップとしては引き続きBay Trail Entryが利用されることになる。

 いずれにせよ、引き続きIntelも、Microsoftも、Windowsタブレット普及に向けた低価格なコンポーネントやソフトウェアの提供を続けていく方向性ではあるので、Windows 8.1ベースにせよ、Windows 10ベースにせよ、低価格なWindowsタブレットトレンドは2015年も続いていきそうだ。

(笠原 一輝)