笠原一輝のユビキタス情報局

PCI Express接続SSDへの移行を推進するIntel
〜mSATAより薄い新モジュール仕様「NGFF」を提案中



 Intelはサンフランシスコで開催したIntel Developer Forum(IDF)において、2013年の投入を計画している次世代PC用プロセッサ“Haswell”(ハスウェル)の技術概要を明らかにした。Haswellでは、新たに10WというTDP枠のプロセッサが投入されるほか、これまでのPCプロセッサの消費電力の高さの要因だったアイドル時の消費電力が現行製品に比べてシステムレベルで20分の1になるなど、性能だけでなく消費電力の低さにも配慮した製品となる。

 OEMメーカーは現在、Haswell世代のUltrabookの設計を行なっている段階だが、より薄く、より軽いUltrabookの設計にあたって障害となり得るのが、SSDやHDDなどのストレージだ。このストレージを、低コストでかつ、薄型化の阻害にならないように搭載することが1つの課題になりつつある。

 また、SSDへの需要の高まりと将来の高速化を見据えて、業界ではSSDのインターフェイスを現行のSATAから、PCI Expressへと変更することに取り組んでいる。まずはサーバーから採用が始まっているが、2013年〜2014年にはクライアントPCにも普及が進む見通しだ。Intelは薄型でPCI Expressのインターフェイスを利用している新しいカードモジュールの仕様である「NGFF」を業界に提案し、今後Ultrabookなどでの普及を目指していく方針だ。

●急成長するSSD市場、近い将来にSATAがボトルネックになる可能性

 Intelアプリケーションエンジニアリング課長 ジェームス・マイヤーズ氏は「5年前にSSDの出荷数が5,000万台を超えると言ったが、何のジョークを言ってるんだと受け取られた。しかし、今年(2012年)の末にはそれが実現する。さらに、2014年に1億台を、2016年には2億台を超えるとアナリストは予測している」と、SSDが従来のペースを大幅に超える勢いで成長するだろうという認識を示した。実際、SSDは今や成長産業の1つになったと言って良い。ここ数年で急速にSSDが価格下落したこともあり、HDDから乗り換えたユーザーも少なくないだろう。

 また、Ultrabookの立ち上がりも、この傾向を加速している。IntelはUltrabookを定義するにあたり、薄さだけでなく、システムのレスポンス、つまりハイバネーションからの復帰時間などにも要件を定めた。これにより、PCメーカーは少なくともSSDをシステムドライブのキャッシュに利用するか、SSD自体をシステムドライブにする必要がある。このため、Ultrabookの普及が進めば、それだけSSDの普及も進むということになる。

 そのSSDだが、間もなく次の壁が見えてくることになる。さらなる高速化の実現にあたって、システム側との接続に採用されているSATAがボトルネックになる可能性が出てきたのだ。

 現行のSATA規格は、従来のPATAの弱点を解消した規格として2000年にSATA 1.0として発表された。その後PCの標準ストレージ向けのインターフェイスとして普及し、転送速度を最初の1.5Gbpsから、SATA 2.0で3Gbpsに、そして最新のSATA 3.0で6Gbps向上させてきた。

 SATAが策定された当時としては、6Gbpsの転送速度があれば十分だと考えられていた。1つにはHDDがそこまで高速化するのは難しいと思われていたからだ。HDDはディスクが回転してそこを磁気ヘッドで読むのだが、HDDの高速化の手段であるディスクの回転数や記録密度を上げていくのは限界に近づいていた。

 ところが、SSDはそうならなかった。SSDは半導体であるため、半導体の進化に伴って年々高速化していく。近い将来にも6Gbpsを超えることはあり得ると業界では考えられている。そこで、SATAに代えてPCI ExpressでSSDのコントローラとシステムを接続しようという取り組みがすでに始まっている(従来のSATA接続のSSDと区別する意味で、PCI Express SSDなどと呼ばれる)。PCI ExpressはGen3の1レーンで1GB/secの転送速度を実現しているだけでなく、マルチレーン化することで転送速度を上げていくことが可能になる。こうした技術的な背景があり、SSDのインターフェイスをSATAから、PCI Expressへと転換する動きが着々と進みつつある。

急速に市場を拡大しているSSD、成長分野の1つだ SSDは間もなくSATA 3.0ではカバーできない転送速度に達する

●サーバーはPCIe SSDへ移行中、コネクタやコントローラ仕様を定義

 この動向が最も進んでいるのがサーバー向けのソリューションだ。サーバーでは性能が最大のプライオリティであり、6Gbpsでは転送速度が十分でなくなることが見えているため、PCI Expressへの移行が急務なのだ。

 実際、IntelもSSDのPCI Express化を進めており、今年に入りIntel SSD 910と呼ばれる拡張カードの形をしたPCI Express SSDをすでに発表、出荷している。マイヤーズ氏は「Intel SSD 910を利用することで、15,000rpmのSASドライブを利用した場合で180個のドライブが必要な性能を1枚のカードで実現することができる。これによりコストや管理コストは10分の1以下にできるなどのメリットがあるほか、既存のSASシステムにキャッシュとして追加することで性能を上げることができる」と説明した。

 ただし、現在のIntel SSD 910のような拡張カードをした形の性能はあくまで過渡期のソリューションであり、将来的には管理性の観点から、現在のSATAドライブのようにベイに格納でき、前面から簡単に交換できるような形が望ましいとマイヤーズ氏は指摘する。

 そこで、業界ではサーバー向けのPCI Express SSDを実現するために2つの規格を策定し、標準化を進めているという。1つはコネクタの仕様でSFF-8639、そしてもう1つがNVM Express(NVMe)というコントローラの仕様だ。

 SFF-8639は、2.5インチドライブにPCI Expressインターフェイスを追加するためのコネクタ仕様で、4レーンのPCI Expressを2.5インチドライブに実装することができる。また、同時にSATAやSASを接続するためのレーンも用意されており、SATAやSASとの互換性を維持しながら、PCI Expressへの移行が可能になっているのだ。

 これに対してNVM Expressはコントローラの新しい仕様だ。現在のSATAドライブで利用されているAHCIの仕組みは、もともとHDDを前提に設計されたもので、SSDのようなより高速なフラッシュメモリ用して設計されたものではない。このため、コマンドの実行のオーバーヘッドが大きかったりと、せっかく内部でフラッシュメモリが高速になったとしても、コントローラがボトルネックになってしまう懸念がでてきていた。そこで、Intel、Micron Technology、SanDisk、Samsung Electronicsなどのメーカーによりコンソーシアムが作られて策定された新しい規格がNVM Expressだ。

 このNVM Expressを利用すると、どのメーカーのPCI Express SSDのコントローラでも、OSからは同じように見えるようになるので、1つのNVM ExpressドライバですべてのベンダーのPCI Express SSDをサポートできる。今のSATA HDDやSATA SSDがすべて同じAHCIドライバでサポートできるのと同じような環境を、PCI Express SSDでも実現できるのだ。

 今回のIDFで、SanDiskやDellなどは、このNVM Expressに対応した2.5インチSSDドライブを実際に動かすデモを行なっていた。Windows OS用のNVM Expressのドライバもすでにバージョン1がリリース済みで、Windows 8世代をサポートしたドライバも第4四半期にリリース予定であるなど、着々と準備が進んでいるという。

Intel SSD 910と従来のSAS RAIDによるストレージ性能の比較。もちろん容量では圧倒的にHDDだが、性能ではSSDが上回っている 特にサーバーでは拡張カード形式ではメンテナンス性が良くないため、現在のHDDと同じようなフォームファクタが求められている
2.5インチフォームファクタ向けに規定されたSFF-8639のコネクタ。PCI Expressが4レーンで、1レーンはSATA/SASとしても利用可能 Intel、Micron、Samsung、SanDisk、MarvellなどのSSDのトップベンダーが作ったNVM Expressのコンソーシアム
DellとSanDiskが共同で行なっていたNVM Expressの実働デモ SFF-8639を採用した2.5インチフォームファクタのSSD このように、従来の2.5インチドライブベイを流用できるのが特徴

●UltrabookではmSATAの延長線上にある“NGFFカード”を提案

 そうしたSSDのPCI Express化は、「サーバーだけでなくUltrabookにも波及していくと考えている」とマイヤーズ氏は説明する。Ultrabookでは何らかの形でSSDが標準的に搭載されているが、今後はさらにSSDキャッシュ+HDDのような「過渡期のソリューション」は減り、SSDのみが搭載される形が増えていくと予想されている。

 IntelはHaswell世代以降でUltrabookのさらなる薄型化を目指す方針だと、IDFで多くの関係者が証言している。それによれば、現在14型より小さいディスプレイを持つUltrabookでは最大で18mmという薄さの定義をしているが、Haswell世代またはその次の世代で15mmになるという。15mmになれば、確実に9.5mm厚のHDDを利用することはできないし、HDDメーカーが計画している7mm厚のHDDを使ってもかなり厳しいレベルになる可能性がある。従って、実質的にSSD搭載が必須となる可能性が高い。

 今のところUltrabookにSSDを実装する場合、3つの選択肢がある。1つ目は2.5インチ、1.8インチのSSDをSATAコネクタで接続すること、2つ目はメインボードに直接SSDを実装してしまうこと、3つ目はmSATAのような小型拡張カードで実装することだ。

 それぞれメリットデメリットがあるのだが、薄型化を追求したいなら2番目のメインボードに直接実装してしまうことが1番良い。しかし、その場合、64GBモデルと128GBモデルの両方をラインナップしたい場合には、マザーボードを2種類用意しなければならず、部材の在庫管理の観点からもコストの観点からも、普及価格帯には使いにくい。このため、薄型化とSKU構成の柔軟性の両方をバランス良く実現できる小型拡張カード、現在だとmSATAカードを利用して実現するという手段をとっているOEMメーカーが多い。特に現行のUltrabookではこうしたデザインが増加している。

 IntelがこのmSATAをPCI Expressインターフェイスに置き換えようと新たに提案している規格がNGFFカードだ。NGFFカードは、mSATAに比べて小型で、シングルサイド版(デュアルサイド版も用意される)の高さが2.75mmと、mSATA(4.85mm)に比べて低く、Ultrabookの薄型化に貢献する。マイヤーズ氏は「現在42mmと80mmのカードを先行して規格化を進め、容量に応じて選択することになる。今後より多くのカードを定義することも検討されている」と、デザインに柔軟性を与えられると説明した。さらに、NGFFではSATAとの互換性やWi-FiやワイヤレスWANとのコンボカードも実現可能にするため、コネクタやソケットの仕様も複数検討しているとも説明した。

 ただし、このように複数のコネクタやソケットを用意することは一見よさそうだが、併存した場合、結局市場で混乱が発生し、最終的に1つのソケットとコネクタしか生き残らない可能性もある。従って、最初から1つのソケットやコネクタに限定した方がいいのではないかという議論は、今後起こることになるだろう。

 なお、マイヤーズ氏によれば「NGFFは現在業界標準規格として提案している段階。ぜひ皆さんからのフィードバックで、よりよいモノにしていきたい」とのことで、今後標準規格として策定されていく段階でそうした調整が行なわれることになりそうだ。

Ultrabookでは、2.5インチから1.8インチ、そしてmSATAへと小型化が進んでいる Intelは新しくNGFFカードの仕様を提案
現在提案されている仕様では、42mmと80mmの2つのサイズのカードがあり、コネクタによってはWi-Fiや3Gとのコンボカードも実現可能 左から現行のmSATA、NGFFカード(42mm)、NGFFカード(80mm)。42mmのカードは現行のmSATAよりも小型になる

●デスクトップPCや通常のノートPCではSATA Expressへ寄り道してSFF-8639へ移行か

 Intel自身が強力にドライブしているUltrabookでは、おそらくNGFFがすんなり受け入れらていくだろう。ただ、デスクトップPCや、UltrabookではないノートPCなどでは若干事情が異なっていくことになる可能性が高い。

 というのも、2.5インチドライブ向けのコネクタとして、前出のSFF-8639だけでなく、SATA Expressという仕様がSATA-IO(SATAの規格を策定化する標準化団体)で規格化されているおり、OEMメーカーはSFF-8639だけでなく、SATA Expressを選択することもできるからだ。SATA Expressは、SFF-8639のサブセット版という形になっており、SFF-8639が4レーンまで対応可能なのに対して、2レーンまでとなっていることが大きな違いとなる。マイヤーズ氏は「SATA Expressの唯一のメリットはコストだ。従って低コストなシステムではSATA Expressを利用しようというところもあるだろう」という認識を示した。

 その上でマイヤーズ氏は「私個人としては、SATAからSFF-8639へ直接移行することをおすすめするが、低価格のデスクトップPCやノートPCなどでは、まずSATA Expressへの移行が始まり、後にSFF-8639のコストが下がってきた段階で移行が進むだろう」と示唆した。

SFF-8639とSATA Expressの比較。物理形状は一緒で、SATA ExpressはSFF-8639の簡易版という位置付けになる マイヤーズ氏のサジェスチョンは、低コスト向けのPCなどはSATA Expressに寄り道し、ハイエンド向け製品はSFF-8639へと直接移行すること

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(2012年 9月 18日)

[Text by 笠原 一輝]