笠原一輝のユビキタス情報局

Intelのタブレット向けAtom戦略を聞く



Intel ネットブック・タブレット事業部 マーケティング担当事業部長 ビル・キルコス氏

 台北で開幕するCOMPUTEX TAIPEI 2011において最もホットな話題は、言うまでもなくタブレット端末だ。ARMアーキテクチャのプロセッサを採用したタブレット機器が先行する中、x86プロセッサで市場奪回を目指すIntelは、新しいタブレット向けプラットフォームとなるAtom Z670+Intel SM35 Express Chipset(開発コードネーム:Oak Trail)を4月に行なわれたIDF Beijinで発表したほか、今年(2011年)の後半には32nmプロセスルールで製造されるネットブック向けプラットフォームのCedar Trailの投入を計画するなど、矢継ぎ早に新製品の投入を行なっている。

 Intel ネットブック・タブレット事業部 マーケティング担当事業部長 ビル・キルコス氏は「次期AndroidであるIce Cream Sandwich(開発コードネーム)世代では、IA版とARM版はほぼ同じタイミングでリリースする」とし、x86陣営の課題となっている、Androidの最新版リリースがARM陣営に比べて遅くなっている問題は次世代で解決できるという見通しを語った。

 また、同時にキルコス氏は「Windows 8向けのSoCは、2012年にリリースする予定のClover Trailになる」と述べ、Intelが2012年の前半に投入するOak Trailの後継となるClover Trailにおいて、Windows 8をサポートし、タブレット機器などに利用することができるようになると見通しを語った。


●Cedar Trailベースのネットブックはより薄く、速く、長時間バッテリ駆動が可能に

 キルコス氏によれば「ネットブックの累計出荷台数は今年の末で丸3年を迎える段階で1億台を突破する見通しだ。さらに今年の後半にはネットブック向けの新製品としてCedar Trailを投入する。この新製品は、ネットブックに新時代をもたらすことになるだろう」と述べ、引き続きネットブック市場にコミットメントしていく姿勢を明らかにした。

 Cedar Trailは、Intelが現在ネットブック向けに投入しているPine Trail(パイントレイル、開発コードネーム)の後継となる製品で、現行製品が45nmプロセスルールで製造されているのに対して、Cedar Trailは32nmプロセスルールで製造される製品となる。

 「Cedar Trailでは消費電力が大幅に低下する。これによりOEMメーカーは従来よりも薄く軽いファンレスなネットブックを製造することが可能になり、10時間を超えるバッテリ駆動時間が可能になる。また、製品によっては2〜4週間のスタンバイが可能になる。これらを実現できたのは、最先端の32nmを利用して製造しているからだ」(キルコス氏)との通り、Cedar Trailは32nmプロセスにより、TDPや平均消費電力だけでなく、スタンバイパワー、つまり待機時の消費電力も大幅に下がることになるという。

 これ以外にもCedar Trailにはいくつかの強化点があるが、最大のものはグラフィックス周りであるという。「Cedar Trailではグラフィックスを大幅に強化する。1080pの動画デコードが可能になるほか、WiDiにも対応する」(キルコス氏)との通り、Pine TrailのIntel GMA 3150に比べて、Cedar Trailのグラフィックスコアは強力なものに置き換えられているとした。

 特にPine Trailでは、スマートフォンやタブレット向けのSoCですら対応しているMPEG-4 AVCやFlashのハードウェアアクセラレーションに対応していなかったため、CPUへの負荷が増え、結果として消費電力が増えてしまうという弱点を抱えていた。Cedar Trailではこの点を改善することにより、低いCPU利用率でも1080pの動画やFlashが再生できることになり、バッテリ駆動時間の延長に大きなメリットをもたらす。さらに、GPU自体の処理能力が上がるため、WiDi(Intel Wireless Display)のようなGPUの処理能力を必要とするようなワイヤレスディスプレイ機能を利用することも可能になる。

●Oak Trailベースのタブレットは年末までに35製品が市場に投入される

 Intelは4月に行なわれたIDF Beijinにおいて、Atom Z670+SM35 Express Chipsetの2チップから構成される、Oak Trail(オークトレイル、開発コードネーム)プラットフォームを正式に発表した。

 Oak Trailは、Intelが昨年(2010年)の5月に発表したスマートフォン向けのプロセッサであるMoorestown(ムーアズタウン)ことAtom Z600シリーズのタブレット端末向けとなる製品で、AndroidやMeeGoなどのスマートフォン/タブレット向けのOSだけでなく、Windows 7もサポートされるのが特徴となる。

 このOak Trailについてキルコス氏は「今回のCOMPUTEXで多数の搭載製品をお目にかけることが可能になると思う。今年末までに35種類タブレットが市場に出回ることになると思う」と述べ、今年の後半にかけてOak Trailプラットフォームに基づいた製品が順次投入されることになる見通しだと述べた。

COMPUTEXで展示されている、ViewSonicのAtom Z670採用のWindows 7/Android 2.2ハイブリットの10.1型タブレット「Viewpad 10Pro」。Windows 7とAndroidを切り替えて利用できる

 また、キルコス氏は「Oak Trail搭載製品は、Honeycombや、Gingerbread、MeeGOをチョイスするOEMメーカーもあるが、大多数はWindows 7ベースである」とした。なぜかという問いに対しては「富士通のタブレットのように企業向けの製品が多く、それらはOSとしてWindowsが求められている」と答えた。

 ただし、キルコス氏によればAndroid OSを採用した製品の中には、デュアルOSとなっているものも含まれていると述べた。「WindowsとAndroidのデュアルOS構成にできることはIAを採用する1つのメリット。ブートローダーで切り換えるものもあるし、仮想化技術を利用して実現している製品もある」と、WindowsとAndroidの切り替えにより、ビジネスにも、パーソナル用途にも使える製品が可能であると述べた。


●Ice Cream Sandwich世代では、x86版もARM版と同じタイミングでリリースと明言

 Intelにとって大きな課題として指摘されてきた、AndroidのバージョンがARM版に比べて遅れている問題について、キルコス氏は「次期のIce Cream Sandwich世代で、Googleの開発パートナーとなる特定の1社を除けば、ARMと同じタイミングでIA版もリリースされることになる」とし、Ice Cream Sandwich世代ではキャッチアップする見通しであることを明らかにした。

 キルコス氏のいう“開発パートナーとなる特定の1社を除けば”という但し書きについては、若干の説明が必要だろう。これまでGoogleはAndroidを開発するにあたり、各バージョンでハードウェアを一緒に開発する開発パートナーを指定してきた。最初の1.6と2.0に関してはHTC、2.3に関してはSamsung、そして3.0(Hoenycomb)に関してはMotorolaがそれに該当する。これらの開発パートナーは、独占してハードウェアをリリースする優先順位が与えられており、その数カ月後に後続のベンダーがリリースするという仕組みになっている。

 つまり、キルコス氏の言う“開発パートナーとなる特定の1社”は、少なくともIce Cream Sandwichの開発パートナーはx86を選択してはいないが、それに続く2番手以降のOEMメーカーは、ARMだけでなくx86も採用可能なようなスケジュールでx86版の開発を進めているということだ。

 なお、現状のHoneycombに関してはどうなのだろうか? 「今回のCOMPUTEXにはHoneycombを搭載したIAベースのタブレットが出展されているはずで、Honeycombに関しても状況は改善している」(キルコス氏)とした。ただし、Hoenycombの改良版となるAndroid 3.1のx86バージョンに関しては「現時点では具体的なスケジュールに関するコメントはできない」(キルコス氏)と、明確な答えを示せなかった。

●Windows 8搭載のタブレット向けプロセッサとなるSoCのClover Trail

 キルコス氏は来年以降のIntelのタブレット端末向けプロセッサのロードマップに関しても説明した。キルコス氏は「我々は来年の初頭に32nmプロセスルールのMedfieldを発表し、来年の後半にClover Trailを発表する予定だ。さらにその先にも22nmプロセスルールに基づいた製品が控えており、45nm、32nm、22nmという3世代のプロセスルールに基づく製品を3年の間に投入する計画だ。このことはバッテリ駆動時間の延長に大きな効果をもたらすだろう」と述べ、タブレット向けの製品に利用する最先端プロセスルールを前倒しで投入していくことで、消費電力の低減をムーアの法則以上のペースで実現していくと説明した。

 また、キルコス氏はClover Trailに関して、「Clover TrailはOak Trailの後継となる製品で、SoCとなる。MedfieldがAndroid向けのソリューションになるのに対して、Clover TrailはWindows 8向けの製品となる」と説明した。

 Windows 8では、x86版のバイナリだけでなく、ARM版のバイナリも提供される計画であることは、1月のInternational CESでMicrosoftが明らかにしている。従来のようにPCだけでなく、タブレットのような市場も本格的にカバーするOSになると言われており、詳細は秋に行なわれる開発者向けカンファレンスで明らかになる予定だ。

 特にタブレット市場では、ARMベースのプロセッサを製造するベンダー(QualcommやNVIDIAなど)とx86プロセッサを製造するベンダー(IntelやAMD)などが激しい競争になると見られており、そこにどのような製品をIntelが投入するのかは注目となっていたが、それがClover Trailであることがはっきりしたわけだ。今後はClover Trailがどのような製品であるかが次の焦点となるが、キルコス氏はSoCであること以外のスペックに関しては特に語らなかった。

バックナンバー

(2011年 5月 31日)

[Text by 笠原 一輝]