■笠原一輝のユビキタス情報局■
パット・ゲルシンガー氏(2009年4月、都内の記者発表会より) |
米Intelは14日(現地時間)にプレスリリースを発表し、組織改編を行なうことを明らかにした。従来は、社長兼CEOであるポール・オッテリーニ氏の下に製品の種類ごとに事業部が成り立つ形となっていた。
新体制では、主要な事業を新たに設立したIAG(Intel Architecture Group、Intelアーキテクチャ事業本部)に集約し、ショーン・マローニ上級副社長とダディ・パルムッター上級副社長の2人が統括する。さらに、製造や技術に関する権限はTMG(Technology and Manufacturing Group、技術・製造事業本部)へ移行し、アンディ・ブライアント上級副社長兼CAO(Chief Administrative Officer)が統括する。
その一方で、これまでデジタルエンタープライズ事業本部を統括し、次期社長候補の1人だと考えられていたパット・ゲルシンガー上級副社長は退任し、ネットワーク機器ベンダのEMCへ社長兼COOとして移ることが明らかになった。
ポール・オッテリーニ氏(中央、2009年2月、Economic Clubでの記者会見より) | ショーン・マローニ氏(2009年6月、UQ WiMAX発表会より) | ダディ・パルムッター氏(2008年4月、都内の記者会見より) |
●IAG、TMG、SMGの3事業本部体制へ移行
これまでのIntelの組織は、製品ごとに事業本部があり、それぞれの事業本部長がCEOのポール・オッテリーニ氏に直接レポートを提出するという体制になっていた。たとえば、企業向け製品はDEG(Digital Enterprise Group、デジタルエンタープライズ事業本部)、モバイル製品ならMPG(Mobility Product Group、モビリティ事業本部)、MIDなどはUMG(Ultra Mobility Group、ウルトラモビリティ事業本部)など、それぞれ独立しておりそれぞれの事業本部長(GM、General Manager)がCEOにレポートを提出していた。
しかし、今回の組織改編でこれらの製品の事業部は、1つのIAG(Intel Architecture Group)にまとめられ、マローニ氏とパルムッター氏がCEOにレポートを提出する形態に大きく変更された。このIAGの下に、6つの製品事業部がぶら下がることになる。
それがPCG(PC Client Group、PCクライアント事業部)、DCG(Data Center Group、データセンター事業部)、VCG(Visual Computing Group、ビジュアルコンピューティング事業部)、UMG(Ultra Mobility Group、ウルトラモビリティ事業部)、ECG(Embedded and Communications Group、エンベデッド・コミュニケーション事業部)、DEG(Digital Home Group)の6つだ。
従来の区切りとの大きな違いは、PCにおけるモバイルとデスクトップや、コンシューマ向けと企業向けといった区切りがなくなったことだ。PCのクライアントはすべてPCGに集約され、従来はMPGの副社長だったムーリー・イーデン氏が統括することになる。
【お詫びと訂正】初出時にVCGが設立されたとしておりましたが、以前からある事業部でした。お詫びして訂正させていただきます。
こうしたIAGと並び立つ組織として、TMG(Technology and Manufacturing Group、技術・製造事業本部)とSMG(Sales and Marketing Group、セールス・マーケティング事業本部)が設立され、それぞれ上級副社長兼CAOのアンディ・ブライアント氏とトム・キルロイ副社長が統括する。なお、各地域のIntel現地法人はSMGに直結しており、例えばインテル株式会社の吉田社長はキルロイ副社長にレポートを提出する仕組みとなる。
アンディ・ブライアント氏 | トム・キルロイ氏 |
●大胆な組織改編で透けて見える、次期社長レースの3人の候補
今回の組織改編でもっとも重要なポイントは、プレスリリースの中に書かれている「ポール・オッテリーニ氏は企業戦略の立案などの権限を徐々に委譲していく」というところだろう。同氏は2002年に社長兼COOに就任しすでに7年近くが経過しており、長期政権となりつつある。しかし、将来のことを考えると、そろそろ後継者を決めなければいけない時期であり、誰が次期社長として選ばれるのか、数年前からさまざまな噂が飛び交っていた。そうした中で、今回の発表が行なわれたということは、この組織改編の中にヒントがあると考えることができるだろう。
今回のリリースを読むと、IAGの2人の上級副社長であるマローニ氏とパルムッター氏、さらにはTMGのトップであるブライアント氏が今後のビジネス戦略などに責任を負っていくと書かれており、その後の文脈でオッテリーニ氏は徐々に権限を手放していくと書かれている。ということは、その手放した権限はその3人に委譲されていくと考えるのが妥当であり、オッテリーニ氏の後任はこの3人の誰かに絞られたと考えるのが自然だろう。
●パット・ゲルシンガー上級副社長は退任し、EMCの社長兼COOにその一方で、もう1人Intelの次期社長候補だと思われていた人物がIntelからの退社を発表した。日本でもよく知られているパット・ゲルシンガー上級副社長がその人で、ネットワーク機器メーカーであるEMCの社長兼COOに就任したことがEMCから発表された。
ゲルシンガー氏は現在のIntelの基礎を作ったといってもよいIntel 386を開発したエンジニアの1人としても知られているだけでなく、かつてはIntelの技術を統括するCTO(Chief Technology Officer、最高技術責任者)を務めるなど、Intelの経営陣の中にあっても技術に詳しい経営者として知られていた。
今回の組織改編とゲルシンガー氏の退任が関係しているかはわからないが、1つだけ言えるのはこの退任が明らかに急遽決まったことだということだ。というのも、昨日のIDFのプレビュー記事でも触れた通り、ゲルシンガー氏は22日からサンフランシスコで開催されるIDFの初日で基調講演を行なう予定になっていた。つまり、少なくとも先週の末ぐらいまでは、ゲルシンガー氏がやめることは社内のほとんどの関係者は知らなかったということだ。実際、Intelの関係者の多くもこの人事はプレスリリースで知ったとのことなので、青天の霹靂だったといっても過言ではないだろう。
なお、Intelはゲルシンガー氏が予定してした基調講演について、マローニ氏が代わりを務めるとすでに発表している。
(2009年 9月 15日)