ライバルには教えたくない本日の特選アプリ
用語統一機能でラクできるテキストエディタ「WZ EDITOR 9」
~送り仮名や名称の統一、文章精度向上に便利
(2016/3/16 06:00)
【お詫びと訂正】初出時に掲載していた「前置文字」と「後置文字」の説明に間違いがあったため、該当部分を削除いたしました。お詫びして訂正させていただきます。
仕事か趣味などで文章を書く多くの人はテキストエディタを使っているはずだ。出版業界に割と長くいる筆者の経験からすると、その中でもっとも利用率が高いエディタは「秀丸エディタ」である。Windows 3.1時代から連綿と開発が続けられている定番中の定番と言える存在なので、愛用者が多いのも頷けるというもの。
ただし、今回の主役は秀丸エディタではない。ここで取り上げるのは「WZ EDITOR」だ。
過去にビレッジセンターが、今はWZソフトウェアが販売しているWZ EDITORも負けじと古い歴史を持っており、開発も継続している。現在はバージョン9を販売。なぜ筆者はWZ EDITORを使うことになったのか? それはここで目玉機能として紹介する「用語統一機能」を備えているからである。
送り仮名やさまざま名称を統一して、手間を省きつつ精度を高める
新聞、雑誌、書籍など、その会社の方針で漢字の送り仮名や開き方/閉じ方(ひらがな/漢字にするか)、音引きの付け方が結構違っているのは、出版物を読んでいれば誰もが気付くことだろう。例えばよく見かけるもので言えば、動詞の「行なう」または「行う」が挙げられる。横文字をカタカナにした「サーバー」または「サーバ」などもそうだ。
文章中のふりがなの使い分けがメチャクチャだった場合、読み手が非常に読みづらくなるということは容易に想像できる。メディアでは各社がこうした表記ルールを統一し、そこから逸脱しているかどうかを校正時に確認している。特に紙媒体の場合は印刷後に修正できないので厳格だ。こういう経験がない方は「なんか面倒そうだな」と思うかもしれない。やっている内に慣れるものだが、所属媒体が変わったりするとルールが変わってしまうので、また一から覚える羽目になる。
私が以前いた雑誌編集部では、こうした文章内容の齟齬や事実の裏付け確認などとは無関係の作業に対し、編集者の労力を割くのはもったいないということで、頻出の用語を機械的に統一する仕組みが導入されていた。それがWZ EDITORの「用語統一機能」である。ちなみにこの頃使っていたものは確かバージョン5だったと記憶している。
文章であれこれ書くよりも実例を見ていただいた方が早いだろう。私の手元には某ライター氏から頂戴した原稿のテキストがある。これに筆者がPC Watch用に作成した用語統一辞書を適用してみるとどうなるだろうか?
こんな具合である。テキストエディタとは別のウィンドウが表示され、そこには原稿内でひっかかった用語(左側)と、その置き換え候補(右側)がリストアップされる。PC Watchでは「デタッチャブル」は「着脱式」で統一し、「ジェスチャ」は音引きを付けない。「行う」は“な”まで入れて表記しているというのがここから見て取れる。ちなみにこの原稿で指摘された置き換え候補は83個だった。
それぞれの用語をクリックするとテキストエディタ上のカーソルがその位置に移動し、前後の繋がりを判断できるようになっている。また、下の「段落順」、「綴り順」といったボタンを押すと、その名の通りの並び方に変えてくれる。筆者としては綴り順が一番見やすいと思う。
基本的に外部のライターの方々がその会社の用語規則を気にする義務はない。他社でも書いたりしているので当然だ。そのため、その原稿のほとんどはこのように社内の用語ルールに合致しない状態である。こういった修正は編集者の仕事の範疇なのだが、文章を読みつつ一字一句修正する(同一の単語が複数あれば全置換をかけるが……)といった作業は1万字に近いものだと割と時間を取られるし、人間のすることなので見落としが起きやすい。量が増えるほど精度は落ちてゆくものだ。
そんな時、用語統一機能を使えば、指摘箇所を見て、修正が必要であれば1つ1つクリックもしくはEnterキーを叩くだけなので、自分で書き換えていくよりも遥かに楽だ。「え? 1つ1つ確認するの? 一斉置換じゃないの?」と思った方がいるかもしれない。実はそれほど万能ではないのだ。あくまで自分で登録した単語に対して文字の合致を行なっているだけであり、前後の単語や文脈の解釈はしない。そのため、日本語の使い回しによっては間違った修正候補を挙げることがある。以下の画像がそれだ。
“about”の意味で書いている「ついて」という連語が「付いて」として修正候補に挙がってしまっている。筆者が“付属する”という意味で「“ついて”いる」などと書かれていた場合に「“付いて”いる」に直すように用語登録してしまっているため、こういったことが起きてしまったのだ。安全を考えて一旦は目視での確認が必要と言える。
簡単に作れる「用語統一辞書」
それでは用語統一辞書の作り方を説明しよう。と言っても辞書の作成は簡単だ。メニューから「ツール」→「用語統一」と選べばいい。筆者なんかは「Alt」→「T」→「W」と順番に押してキーボードのショートカットで呼び出している。
これで「用語統一」のダイアログボックスが表示される。「辞書1」、「辞書2」……とタブが並んでおり、それぞれに用語統一用の辞書を作れるようになっている。ここでは「辞書1」に用語統一辞書を作りたいので、「辞書1」が選択されていることを確認して、右に並んでいるボタンの中の「編集」を押せばいい。
そうするとWZ EDITOR上で「idwsdic1.cfg」というファイルが開かれる。ここに統一したい用語を追加していく。試しに冒頭で述べた「行う」を「行なう」に変換するように指定する。こんな感じだ。
行なう 行う
左側が置き換える用語で右側が置き換えたい用語だ。それぞれの間にはTabが入っている。記入後は辞書を保存する。そのままCtrl+Sを押せばいい。後はテキストエディタ上の新規ファイルに「行う」と記述し、もう一度メニューから「ツール」→「用語統一」を選択し、今度は「OK」ボタンを押そう。すると以下のように候補として表示される。
この要領で統一を図りたい用語を増やしていけばいい。上記の“行なう”は「行った」などと書かれていた場合に対応できないため、追加でそのパターンを登録する必要がある。とりあえず書き出してみると以下のようになった。
行なう 行う
行なっ 行っ
行ない 行い
行なえ 行え
行なお 行お
行なわ 行わ
これで用語統一すれば、
見事にそれぞれのパターンを指摘してきた。動詞にはこのように対処していく。ただ、問題もある。既に気付いた人もいるかもしれないが、どこかの場所に“行った”という用法が異なる場合も用語統一機能に引っかかってしまうのだ。
こういうパターンには力業で対処できなくもないが、モグラ叩き状態になりかねないので素直に諦めた方がいい。筆者自身で色々と試してはみたが、結局抜け道ができてしまうし、一瞬目視すれば済む話であり、大きな手間が掛かるわけではないからだ。
なお、変換候補とする指定単語は「|」で区切ることで複数候補を登録できるようになっており、下記のように指定すればいい。便利なのでこちらも覚えておきたい。
一回り ひとまわり|一まわり|ひと回り
ひとまずどのように辞書を作れるか分かったかと思う。次は用語統一辞書に英数字を登録する場合の注意点だ。
英数字の用語をなぜか検出してくれない
さて、過去にWZ EDITORを使い始めた筆者は、編集部内で配られている統一辞書に独自のキーワードを追加していた。例えば「敷居が高い」というのはよく誤用されるので「ハードルが高い」に変換する、といったように日本語の精度を上げるべくカスタマイズしていたのだ。
ところが追加したはずの用語が候補に挙がらないことがあった。それがこれだ。
DirectX 1 DirectX1
筆者としては、「DirectX 11」や「DirectX 12」など、「DirectX」とその後の「数字」の間には半角スペースを入れたいのだ。しかしこれではなぜか置き換え候補に挙がらない。実はここで初めてしっかりと説明書を読んだわけだが、オプションで正規表現の指定をすればいいことが分かった。するとこうなる。
DirectX 1 DirectX1 ,,RE
「RE」というのが正規表現指定のオプションだ。これを指定しないと「DirectX11」や「DirectX12」と書かれていても候補に挙がらない。「X1」の後に続く数字によって別の用語と見なされていたからだろう。この状態で用語統一を実行すれば、
このようにきちんと候補に表示されるようになった。これは候補が英数字の場合に起きる問題で、例えば以下のようにA~Zまでのアルファベットが全角文字で書かれていた場合に、半角文字に設定するという指定をしていた場合にも使える。
A A
B B
例を挙げよう。この時テキストエディタ上に「AB」と全角で書かれた文字があった場合、「B」しか候補に出てこない。全角で「ABA」となっていたら、1番後ろの「A」のみ候補に挙がる。さらに「ABA」と最後の文字のAだけ半角だった場合は何も候補に挙がってこなくなる。
これを先ほどと同じ正規表現指定に書き換える。
A A ,,RE
B B ,,RE
これで半角文字混じりのパターンでも問題なく検出してくれるようになる。
全角と半角のアルファベットまたは数字が原稿に混在しているというのは稀にある。そういった人間が見落としやすいミスをなくすことができるのは編集者にとって大変心強い。
このオプション指定には以下のもの用意されている。
- ZENHAN : 全角・半角を区別して検索
- RE : 指定単語に正規表現を利用可能
- SENTENCE : 段落全体に対して指定単語の検索を行なう(RE指定時)
- NODE : 「、,。.」までに対して指定単語の検索を行なう(RE指定時)
- NOWORD : 指定単語の検索にワードサーチを使用しない
- TOHAN : 見つけた単語を半角にしたものを表記単語にする
- TOZEN : 見つけた単語を全角にしたものを表記単語にする
筆者はREしか使っていないが、場合によっては別のオプションを使うことで利便性が向上するのだろう。
なお、筆者のPC Watch用の辞書には現時点で596個の候補が登録されている。校正で入った赤字や新しい名称などが出るたびに、地道に候補を追加していった結果である。日を追うごとに用語が増え、それに伴い筆者の原稿の校正精度も若干上がっていくわけだ。
最大の魅力は用語統一機能だが、テキストエディタとして見ても遜色ない
WZ EDITORにはマクロやプログラマ向けの機能だとか、ルビ振り機能といった高機能なものも用意されているのだが、筆者はそういった機能をまったく使っていないので説明は省かせてもらいたい。
現時点での最新「WZ EDITOR 9」のダウンロード版の価格は6,800円。秀丸エディタの4,320円よりも少し高いが、テキストエディタとして使うなら遜色ないし、用語統一機能は個人的にとても役に立つので、その分を考えれば適正価格だと思う。適宜アップデートも行なわれており、以前バグを見つけた時にフォームで報告したら、その修正が入るまで数日程度で新しいバージョンがアップロードされていたので対応も早いようだ。
筆者のように用語統一機能を重宝する人はそう多くなさそうではあるが、WZ EDITOR 9は30日間無料で利用できる体験版が用意されているので、気になった方はちょっと触ってみてはいかがだろうか。テキストエディタとしてのカスタマイズ性も高く、用語統一機能と合わせて、ぜひともこの便利さを味わって欲しい。