ライバルには教えたくない本日の特選アプリ

壊れたNASのRAIDボリュームからデータを救出できる「復旧天使 Standard RAID」を試す

~RAID 0/1/5/6/10に対応。ファイルの表示までは無料で利用可能

復旧天使」。国内販売元はLIVEDATA

 NASはTB(テラバイト)級のデータを保管できるだけに、破損した時のダメージは大きく、それゆえバックアップはきわめて重要だ。SOHO事業者である筆者の場合、自宅で使っている複数台のNASはRAID 5以上の構成にするのはもちろん、定期的に外部HDDにデータのコピーを取り、さらに重要なデータはクラウドにバックアップするなど、二重三重の冗長構成を心掛けている。業務データであれ、プライベートなデータであれ、原則この構成が基本だ。

 そんな中、今から3カ月前になるが、プライベートなデータの保存先として使っていた4ベイNASのクラッシュに遭遇した。ドライブ単体が故障しただけなら差し替えてリビルドすれば済むが、今回はRAIDが崩壊したことにより、4台のドライブ全てにアクセスできない状況に陥った。通常であればバックアップ先の外付HDDからデータを復元して事無きを得るはずだが、今回は一部の共有フォルダをうっかりバックアップ対象から漏らすという設定ミスを犯しており、データを完全に復旧できない事態に相成った。

 その後4台のドライブ自体に異常はないことが確認できたため、同一メーカーのNASを入手してドライブを差し替えてみたのだが、RAIDの構成情報が失われているため未知のドライブとしか認識されない(ちなみにこれ自体が本来危険な行為である)。データ復旧業者に依頼すれば高い確率でサルベージに成功する事案だが、プライベートなデータに数十万円という費用はなかなか出せるものではない。とは言え、データが健在であることが分かっていながらあきらめるのも抵抗がある。

 と、2カ月ほど悶々としていたところ、某ライター氏に紹介してもらったあるデータ復旧ソフトを用いることで、正月休み数日をかけて4本のドライブからRAID 5ボリュームを再構築し、必要なデータすべてを無事救出することに成功した。今回はそのデータ復旧ソフト「復旧天使 Standard RAID」の概要と使い方、および注意点など、今回の筆者の体験をベースに要点をまとめておきたい。読者諸兄が今後同様のトラブルに遭遇した際に参考にしてもらえれば幸いだ。

今回壊れた某社の4ベイNAS。使用期間は約2年、これまで特に不具合はなかったが、再起動をきっかけにRAIDを認識しなくなり、合わせてサーバー名や固定IPアドレスなどの情報が全て初期化された。ドライブではなくNAS本体に異常が発生したパターンだ

RAIDボリュームの復旧に対応。ライセンス料は実際の復旧時にのみ発生

 「復旧天使」は、いわゆるデータ復旧ソフトだ。ネーミングこそ(失礼ながら)やや怪しげな印象を受けるが、海外で「Raise Data Recovery」という名前で販売されており、それなりに知名度もあるようだ。日本国内ではデータ復旧事業を手掛けるLIVEDATA社がホームページ上で販売を行なっている。

 「復旧天使」には複数のラインナップがあるが、今回使用した「復旧天使 Standard RAID」は、その名の通りRAIDボリュームの復旧に対応した製品だ。ホームページによると「一般的なHDD、USBメモリだけでなく、NASやストレージ、サーバー等の専門的なRAIDボリュームに対応した高度なデータ復旧ソフトウェア」とのことで、RAID 0/1/5/6/10の復旧が可能とされている。ファイルシステムについてはNTFSやFATはもちろん、XFS、HFS、EXTなどもサポートしている。見るからにNAS向けの仕様だ。

「復旧天使 Standard RAID」。RAID 0/1/5/6/10の復旧が行なえる。Windows/Mac/Linux用があり、さらにライセンスにはHome/Business/Expertの3種類がある

 気になる価格は、家庭向けのライセンスは21,600円(ビジネス向けは48,600円)ということで、データ復旧サービスに依頼した場合に発生が見込まれる数十万~百万円という費用に比べると破格の安さだ。ライセンスの期限は1年のみなので事実上の使い切りとなるが、この価格であれば納得がいく。

 もっとも、注目すべきなのは、このライセンス料が発生するのは「実際に復旧を行なう場合」に限られることだ。本ソフトは無料体験版が用意されており、まずはこれをサイトからダウンロードしてRAIDの再構築とスキャンを実行するわけだが、もしハードウェア障害によりRAIDの再構築が不可能であると判明したり、あるいはリストアップされたフォルダ/ファイル名をチェックした上で復旧不要と判断して復旧を行なわなかった場合は、ライセンス料は一切支払わずに済むわけである。障害の内容にもよるが(後述)、これは試してみなければ損というものだろう。

データの保存先を選択する画面。ここから先に進むためにはライセンス料を支払う必要があるが、逆に言うとフォルダ/ファイル名がきちんと見えるかを確認するところまでは無料で行なえるわけである

分かりやすい操作体系であっさり認識、無事に復旧成功

 復旧までのプロセスをざっとまとめると、まずはドライブ4台をPCに接続した後、ソフトをインストールして起動。ファイル検出ウィザードを実行し、フォルダとファイルが表示されたら保存先フォルダを指定して復旧を行なう。前述の通り、ライセンス料がかかるのは保存先フォルダ指定以降のプロセスだけで、後は全て無料体験版で行なえる。

 具体的な画面イメージは以下のスクリーンショットでご確認いただきたいが、実際の作業では実にあっさりとRAIDボリュームを再認識し、復旧に成功した。日本語対応でインターフェイスも分かりやすく、説明書を読まずに適当に操作していても、迷うことなく目的を達成できるレベルだ。

「復旧天使 Standard RAID」を起動したところ。左列に表示されているドライブの中に、今回のターゲットである「Drive 1」から「Drive 4」までの4台のドライブがあることが分かる。画面左下の「ウィザードモードでデータを復旧」をクリック
上段のメニューから「RAIDストレージ」を選択すると、RAIDを構成可能と判断されたドライブの組み合わせが一覧表示される。左下の「仮想RAID」をクリックして次に進む
ファイルシステムの分析および詳細スキャンが実行される。今回は3TB×4台とボリュームが大きかったせいか、詳細スキャンの完了までには約6時間ほどかかったが、この過程はスキップすることも可能なようだ
スキャンが完了し、RAID 5ボリュームの中にあったフォルダおよびファイルが無事であることが確認された。JPGなど一部のファイル形式は右端にプレビューが表示される
復旧したいフォルダとファイルを選択する。なおここで全選択を行なうと、リストの下段にある「検索されたファイル」、「拡張子別ファイル」にもチェックが入り、フォルダ構造とは無関係にファイルが二重三重に収集されてしまうので、必要なフォルダやファイルだけにチェックを入れるよう気をつけたい。筆者はうっかり全選択を行い半日ほど遠回りをした
選択したフォルダとファイルの総数およびサイズが表示される。下段で保存先のフォルダを選んで復旧開始……と行きたいのだが、ここから先はライセンスの支払いが必要。「ライセンスを購入する」をクリックする
製品ラインナップが表示されるので、必要なものを選んで「購入する」をクリック。購入に当たってはメール認証を含む会員登録が必要になる
購入を実行し、アクティベーション用のキーをマイページから入手する
アクティベーションを実行すればライセンスの登録が完了。あとは保存先フォルダを選んで復旧を実行するだけだ
復旧を実行中。空き容量に対して復旧ファイルのサイズが大きすぎる場合は何回かに分割して復旧を行なう。ちなみにこの画面、ファイル単位での進捗は表示されるが、「後何分」といった全体に対する進捗が表示されず、後何時間なのか何日なのか分からないのがやや難

 と、こうしてスクリーンショットをベースに手順をまとめると非常に簡単に見えるのだが、実際にやってみるとありとあらゆるところに落とし穴があって大変だ。これはソフトの使い勝手に問題があるわけではなく、主に作業環境の構築にまつわるものだ。順に見ていこう。

 まず最初に直面する問題は「4台のSATAドライブをどうやってPCに接続するか」である。筆者の環境では内蔵のSATAは2台分しか余りがなく、また外付けで接続しようにもHDDケースもしくは変換ケーブルの手持ちが足りない。本ソフトにはディスクイメージファイルの作成機能があり、これを使えばドライブを1台ずつイメージ化して取り込み、仮想ドライブとして読み込めるらしいのだが、今回は1ドライブあたり3TBものサイズなのが厄介だ。そもそもこの先、復旧データを保存するためのディスク領域は少しでも空けておきたいので、この方法は使いたくない。

 最終的に選択したのは、SATAドライブを4台接続できる内蔵ボードを購入し、新たにSATAの接続先を確保するという(ある意味でまっとうな)方法だ。今回復旧させるボリュームはRAID 5なので、実は4台のうち3台が接続できれば復旧は可能だったのだが(後述)、この時点では考えが至らず、4台すべてを接続することにこだわり、この方法に行き着いた。とは言え、価格は約3,500円とそれほど大きな出費ではなく、いずれにしてもこの方法に行き着いていたのではないかと思う。

今回購入したのは、玄人志向の「SATA4P-PCI」。SATA×4個口を持つ内蔵ボードだ。価格は3,500円前後
本体および付属品一覧。4本のSATAケーブルが付属しているので、別途用意する必要がないのがありがたい。ただし電源ケーブルは別だ
PC本体にボードを装着したところ。この時点でドライブの電源確保をまったく考慮していなかったことに気づき、内蔵ドライブの電源ケーブルを外して接続するなどの対応を強いられる
ドライブはケース内に収まりきらないのでむき出しのまま接続。最後までこの写真の状態のまま復旧作業を行なった

データ保存のための空き容量をどう確保するかも問題

 続いて問題となったのは、復旧したファイルの保存先だ。3TBのドライブ×4台によるRAID 5ということで、ボリュームの総容量は9TB。その8割ほどを消費していたので、実際のデータ量は約7TBという計算になる。筆者は複数台のNASを所有してはいるが、さすがにこれだけの容量を一括保存できる空きスペースはなく、整理してスペースを作り出すのもかなり面倒だ。一番簡単な解決策は新しいHDDを購入することだが、今回の復旧作業が終われば3TB×4台のドライブが宙に浮くことが分かっているので、これ以上ドライブを増やすのは是が非でも避けたい。

 最終的に選んだのは、普段週1回の定期バックアップに使っている外付HDDを初期化し、一時的にデータ保存場所として使う方法だ。そもそも定期バックアップの設定をミスしたことが今回の事態を引き起こした原因なので極力採りたくない方法ではあるが、コストをなるべくかけずに保存スペースを一時確保するには致し方ない。翌週には元に戻すことを前提に、バックアップデータを一時削除してHDDを空にし、復旧に備えることにした。

 こうして四苦八苦しつつ、フォルダ単位でデータを復旧させて元のフォルダに移動させ、保存先ドライブが空になったらさらに続きのデータを復旧させてまた元のフォルダに移動させ……というバケツリレーを繰り返し、最終的に全データの復旧を完了させることができた。大晦日前に作業を始め、最後のデータの移動が完了したのが6日なので、かれこれ1週間ほど作業をしていたことになる。

 ただ、終わってみれば「もっとこうすればよかった」と感じるポイントはいくつかある。中でも最大の失敗は、アクセス速度がお世辞にも速くないHDDを復旧先に選んでしまったことだ。なにせ復旧データは7TBものサイズがあり、普通にコピーするだけでも莫大な時間がかかる。

 今回復旧した中でもっともサイズの大きいフォルダは約2.33TBあったのだが、HDDの性能が低かったために、全てを書き出すのに丸4日、これらを元のフォルダに移動するのにさらに1日かかるという効率の悪さだった。USB 3.0クラスのドライブを使っておけばおそらく2日で完了していたはずで、これから本ソフトを利用される方は、手持ちのドライブの中から少しでも高速なストレージを復旧先に選ぶことをおすすめする。

NASが壊れた際に他社製品にデータを移すのにも有用

 さて、無事にデータが復旧できたので、作業環境を元通りにする前にいくつか実験をしてみることにした。まず1つは、4台全てを使うのではなく、3台のドライブからデータが復旧できるかどうかの実験だ。RAID 5である以上、1台を除外しても読み出しが可能なはずである。むしろ最初の段階でこれを試しておくべきだったと言える。

 結論から言うと、あっさり認識に成功し、データの復旧も問題なく行なえた。つまり今回のデータ復旧においては、データを読み出すドライブは3台だけに絞り、残り1台は早めに見切りをつけて復旧データの保存先として利用しても構わなかったわけである。まあ、より安全な方法を選択したということでよしとしたい。

先ほどの構成から「Drive 1」を外し、「Drive 2」~「Drive 4」の3台からRAIDを構成しようとしている図
3台のドライブが「RAID 5」のボリュームとして認識されており、容量も4台構成の時と同じ8.2TBになっている

 次にやってみたのが、ドライブの接続順を入れ替えて認識できるかどうかの実験だ。自前でドライブを組み込むいわゆるNASキットは、ドライブごと別のNASへ引っ越しできる製品が多い(今回障害を起こした製品もその1つ)が、その際にドライブの並び順は必ず保ったまま引っ越すことが必要とされている。この順序を意図的に変えた場合にきちんと認識できるか? という実験である。

 今回はSATAボードのコネクタの並び順に従って1→2→3→4の順に取り付けられていたドライブを、3→4→1→2の順につなぎ替えたのち本ソフトで認識させてみたが、こちらもまったく問題なく認識でき、データの復旧が行なえた。これはつまり、NASの引っ越しにあたって元のドライブの並び順が分からなくなるミスを犯した場合、本ソフトを使えば復旧が可能ということになる。RAID 5以外でも同じ結果が得られるかは不明だが、試してみる価値はあるだろう。

ドライブの並び順を変えてもファイルシステムはきちんと認識され、フォルダ/ファイルを読み出すことができた

 また、これらの結果から言えるのは、本ソフトは壊れたNASから別メーカーのNASにデータを移す用途にも使えるということだ。NASがクラッシュした際、まずはデータを取り出す必要があることから、NASの耐久性に疑問を感じつつもまた同じメーカーの製品を買わざるを得なかったという話はちらほらと耳にするが、本ソフトを使えばドライブから直接データを吸い上げ、別のメーカーのNASに移動するのも容易というわけだ。本ソフトがサポートしているRAID方式であることが前提(NASメーカー独自のファイルシステムには非対応)ではあるが、これも活用方法の1つといえるだろう。

障害の原因がきちんと切り分けられることが利用にあたっての条件

 以上ざっと使い方および注意点を見てきたが、一般的に、専門業者によるデータ復旧サービスではRAIDの復旧コースはとくに高額で、数十万円もの見積もそれほど珍しくはない。事実、今回の障害で某データ復旧事業者に見積を依頼したところ、基本費用とデータ容量(7TB)に応じた復旧費用、データを受け渡すHDD代(実費)の合計で、百数十万円の見積を提示された。過去に何度か同様の見積を取ったことがあるが、RAIDの復旧は特殊作業として費用を上積みする事業者が多く、百万円の大台は超えなくともそれに近い額になるのはザラである。

 それが今回は、SATAボードの購入費を含めても3万円弱の出費で、データを完全に復旧することができた。作業に当たっても、ドライブの物理的な取り付け作業や復旧先ドライブの指定、元フォルダへのデータ移動といった操作を除けばつきっきりになる必要もなく、また仮にRAID再構築に失敗してもそこで作業を止めればライセンス料は不要で、まさにローリスクハイリターンの世界である。

 ただしくれぐれも注意して欲しいのは、本ソフトはNASのあらゆる障害に対して効果があるわけではないということだ。今回の筆者のケースは、NAS側の挙動およびエラーメッセージからしてRAIDの崩壊が起こったことが明白であり、また4台の内蔵ドライブをS.M.A.R.T.でチェックしても異常は見られないなど、当初から問題点は明らかだった(この段階でS.M.A.R.T.でチェックするのも本来はNGである。念のため)。

事故発生直後のNASのホーム画面。共有フォルダは表示されているが中が見られないという、典型的なRAID崩壊の症状を示している
エラーメッセージにもはっきりと、RAIDが原因のエラーであることが明示されている

 これがもし、ドライブから異音がしているなど、物理的な故障が明らかな場合は、本ソフトを試すことで逆に被害が拡大する危険があるので、ただちに通電を止め、専門業者に復旧の依頼をすべきだ。いくら無料で試せるからといって、この辺りの切り分けができないユーザーには、本ソフトをおすすめするのは難しいし、分解してドライブを取り出した時点で保証対象外となるNASも多い。ローリスクハイリターンと書いたが、これはあくまでも原因の切り分けができていて、かつ自己責任で対応できる場合の話であり、実際の利用にあたっては「今より状況が悪化するかもしれない」というリスクの存在を常に念頭に置いて欲しいと思う。

(山口 真弘)