AMDは3月4日(独時間)、新しい統合型チップセット「AMD 780」シリーズを発表。同社にとっては、2007年2月28日に発表した「AMD 690G」以来、約1年ぶりとなる統合型チップセットのメジャーアップデートだ。DirectX 10世代のグラフィックコアを統合した本製品のパフォーマンスを見てみたい。 ●Radeon HDブランドのグラフィックコアを統合 AMDはこれまで、2007年11月に発表したPhenomとAMD 790FXを中心とした「Spider」プラットフォームのアピールに努めてきたが、AMD 780を中心としたプラットフォームは「Cartwheel(カートウィール)」と呼ばれる。Spiderプラットフォームが主にハイエンドに近い層をカバーするのに対し、メインストリームからローエンドをカバーするのがCartwheelプラットフォームになる。 AMD 780Gのブロックダイヤグラムを図1に、AMD 690Gとの主な違いを表1に示している。HyperTransport 3.0サポートによりAM2+準拠のチップセットとなる。グラフィックコアはDirectX 10対応へと進化し、Universal Video Decorder(UVD)やDisplayPortを実装。また、PCI ExpressがGen2対応となっており、現在のトレンドに即した機能強化がなされている。
【表1】AMD 780G,AMD 690G比較表
組み合わせられるサウスブリッジもSB700へ変更されている。USBポートとSATAの増加が主な変更点。面白いのはUSBで、USB 2.0×12に加え、USB 1.1×2を搭載。異なるホストを持つことで、高速転送を期待したいUSB 2.0デバイスのオーバーヘッド軽減を目的としたものと思われる。キーボードやマウス、赤外線デバイスなど、USB 1.1接続で間に合うデバイスをつなぐのに便利だ。 今回発表されたチップセットは「AMD 780G」と「AMD 780V」の2製品。両者の違いは統合されているグラフィックコアで、上位モデルとなるAMD 780Gには「Radeon HD 3200」が統合される。一方の下位モデルのAMD 780Vには「Radeon 3100」が統合されている。大きな違いはUVDの有無である。高解像度コンテンツを楽しむためのUVDを持たないため、Radeon 3100はHDのつかないブランドになったとAMDは説明している。 このUVDには、Radeon HD 3200独自のファンクションが付け加えられている。これまでのUVDでは、H.264/MPEG-4 AVCとVC-1を利用したHDコンテンツのデコード支援を行なえたが、これに加えてMPEG-2 HDのデコード支援が可能になった。Blu-rayなどでMPEG-2 HDで収録したタイトルは多くないが、家庭用ビデオとして利用されるケースは多い。多くのユーザー層をカバーするAMD 780Gだけに、この機能追加は心強いものといえる。 このほか、AMD 780Gは「Hybrid Graphics」もサポートしている。Hybrid Graphicsに関しては、先に行なわれたRadeon HD 3470/3450の発表時に機能が紹介されている。AMD 780G内蔵グラフィックとRadeon HD 3470/3450を組み合わせて利用することにより、ニーズに応じてパフォーマンスを3段階に切り替えて利用できるようになる。特に、2つのGPUコアを同時に利用することで、パフォーマンスを底上げできるという点への期待は大きい。ただ、原稿執筆時点では、正式なHybrid Graphics対応ドライバがリリースされておらず、この機能の効果については、機会を改めてテストすることにしたい。 今回テストするのは、すでに秋葉原の一部ショップで発売された、ECSの「A780GM-A」(写真1)で、発売後に編集部が購入したものだ。AMD 780GとSB700を組み合わせたもので、スリムな形状ではあるがATXフォームファクターに準拠した製品だ。 拡張スロットの構成はPCI Express x16×1、PCI Express x1×2、PCI×3と、昨今のATXマザーとしては一般的な構成(写真2)。SATAポート×5基、USB 2.0ヘッダピン×3(6ポート分)、COMポート、サウンド関連のヘッダピンなども実装されている。 I/Oリアパネルは、PS/2×2、D-Sub15ピン、HDMI、USB 2.0×6、eSATA、LAN、サウンド入出力となっている(写真3)。本製品はデジタル出力をHDMIしか備えていないが、AMD 780G搭載マザーでは、DVIとHDMIの両方を搭載する製品も増えそうである。ちなみに、本製品はUSBを12ポート備えているが、いずれもUSB 2.0に対応しており、SB700が持つUSB 1.1×2ポートは使われていない。 今回テストに利用したドライバは、ATIのサイトで公開されている公式ドライバ「CATALYST 8.2(8.453-080122A-059347C-ATI)」で、これを利用してRadeon HD 3200は問題なく認識された。動作状態を見ると、コアクロックは500MHzとなっている(画面1)。 ●AMD 690Gとの基本性能差をチェック
それではベンチマーク結果をお伝えしていく。テスト環境は表2に示した通り、ここではAMD 690Gとの比較を行なうことにする。AMD 690G搭載マザーは、ASUSTeKから借用した「M2A-VM HDMI」を使用する。 CPUはPhenom 9600とAthlon 64 X2 6000+を使用。AMD 780GはHyperTransport 3.0をサポートしているため、Phenom使用時にHyperTransportの理論帯域幅が異なる。同じHyperTransport 2.0同士でAMD 780GとAMD 690Gを使用したときとは違う傾向がでるかも知れないと考え、2つのCPUをテスト環境に加えている。 【お詫びと訂正】初出時、M2A-VM HDMIがPhenomをサポートしていないと記述しておりましたが、正式対応しております。ご迷惑をおかけした関係者の方にお詫び申し上げるとともに、訂正させていただきます。
【表2】テスト環境
AMD 780Gのパフォーマンスで、最も気になるのはグラフィックコアの性能ということになるが、その前に一般的なベンチマークでチップセットの基本性能をチェックしておきたい。テストは、Sandra XIIの「Processor Arithmetic/Processor Multi-Media Benchmark」(グラフ1)と「Cache & Memory Benchmark」(グラフ2)、「PCMark05」(グラフ3)、「CineBench R10」(グラフ4)、「動画エンコードテスト」(グラフ5)である。 まず、CPU周りの性能としてはSandraのProcessor BenchmarkやPCMark05、CineBench R10の結果が参考になるが、ここはチップセットの違いによる性能差は小さい。若干、AMD 690Gの方が良い結果となっている部分が多いが、誤差とも取れる範囲であり厳しい目を向けるほどではないだろう。 問題はメモリ周りの性能である。SandraのCache & Memory Benchmarkの結果ではキャッシュ周りに性能差はなく、メモリ周りはPhenom環境およびAMD 780G環境が良好な傾向にある。しかし、PCMark05のMemory Testでは、それが逆転してしまっているのだ。 細かい結果を見ると、PCMark05のPhenom環境における性能が低い点に関しては理由が見えてくる。まず、PCMark05のMemory Testはマルチスレッドテストではないので、動作クロックの低いPhenomのキャッシュ性能が伸びなかった点が理由の1つである。 また、メモリのレイテンシが異常に大きく、5MAccesses/sec以下の結果がほとんど。この数字は、以前に検証したTLBをOFFにしたときの結果に近い。A780GM-A、M2A-VM HDMIともにTLBに関する設定がBIOSメニューに用意されていないが、TLBがうまく動作していない(効果を発揮できていない)可能性は高い。 もう1点のAMD 780G環境のスコアが低い傾向については原因不明だ。ただ、同じCPUを使っても、動画エンコードでもWMVとH.264ではAMD 690Gの方が優れているように、スコアの上下関係は一定していない。グラフィック統合型チップセットの場合、グラフィックコアのフレームバッファもメインメモリに展開されるという外的要因もある。 さらに、レンダリングパイプラインにおけるフレームバッファへのアクセスに変更が加えられたDirectX 10世代グラフィックコアと、DirectX 9世代のグラフィックコアという違いもあり、メインメモリ上へのフレームバッファ確保に関するアーキテクチャも細かいレベルでは変更されている可能性は考えられる。そのために、アプリケーションによってメモリアクセス速度にバラつきが出てしまうことがあるのではないだろうか。いずれにしても、メモリアクセス速度に関しては、どちらかが確実に速いということはいえない結果になっている。 最後に簡単ではあるがHDD速度に触れておくと、PCMark05のスコアはAMD 780Gが若干遅い傾向にある。ただ、HDDテストは誤差も大きいテストであり、このぐらいのスコア差は誤差の範囲であろう。少なくとも高速化されていないことは確認でき、同程度のパフォーマンスと考えて良い。
●グラフィックコアの性能差と消費電力をチェック 続いては、3Dグラフィック関連のベンチマークである。テストは、「3DMark06」(グラフ6~9)、「3DMark05」(グラフ10)、「F.E.A.R.」(グラフ11)、「COMPANY of HEROES OPPOSING FRONTS」(グラフ12)、「World in Conflict」(グラフ13)、「Unreal Tournament 3」(グラフ14)である。 本コラムにおける、最近のビデオカード記事で使用しているアプリケーションを利用しているが、AMD 690GがDirectX 10をサポートしない点や、統合型チップセットのグラフィック性能によるところから、普段よりもクオリティを下げてテストしている。そのため、ほかの記事との比較には利用できないので注意されたい。 3DMark06の総合スコアに関しては、AMD 780Gでは(AMD 690Gでは実行できない)HDR/SM3.0テストの結果が含まれるため参考にしにくいが、それを省いてみても、AMD 780Gのグラフィック性能はすこぶる良くなっている。特に低解像度や負荷の低いDirectX 9時代にリリースされたアプリケーションでスコアの良さが目立つ。 また、AMD 690Gの場合は、Athlon 64 X2 6000+よりもPhenom環境のスコアが低いという結果が散見されるのに対し、AMD 790Gでは安定してPhenom環境の結果が優れる傾向も出ている。CPUをPhenomにした時のスコアの伸びも大きい。 CPUの演算性能差だけによるものであればAMD 690GのときにAthlon 64 X2 6000+のスコアが優れるシーンはないはずで、可能性が高いのはHyperTransport 3.0によってグラフィックコア-CPU-メモリ間の帯域幅が広がった点ということになるだろう。 ちなみにCPUの違いが出なかったのは、3DMark06のPerlin NoiseとWorld in Conflictの解像度が上がった場合。前者についてはシェーダユニットで行なう演算部分がボトルネックになったと思われる。 後者はCPU性能に依存する部分が多いものの、高解像度になるとフレームバッファを大量に利用している動きを見せるアプリケーションだ。性能の頭打ちが見られるのは、メモリ上に展開したフレームバッファが不足したためであろう。 次にグラフィックコア性能の1つである、動画再生支援機能についても見ておきたい。ソースはHD DVDにMPEG-4 AVCで収録された「VirtualTrip 地球の大自然」のチャプター12と、VC-1で収録された「SPY GAME」のチャプター21を再生しているときのCPU使用率を1秒ごとにトレースし、3分間の平均を取ったものだ(グラフ15)。 AMD 780GとAthlon 64 X2 6000+を組み合わせた環境で、MPEG-4 AVCを再生した場合のみ、再生自体は実行されているが画面がまったく表示されないというトラブルがあったので、結果を割愛している。原因は分かっていない。 結果を見ると、AMD 780Gを使用した時のCPU負荷は極めて低いことが見て取れる。AMD 690GはHDコンテンツに対する再生支援を実装していないので、この結果はCPUとUVDのデコード比較に近いものがあるのだが、UVDがCPU負荷の軽減に高い効果を得られることを示す結果といえるだろう。 最後に消費電力の測定結果だ(グラフ16)。マザーボードがまったく異なるので比較が難しいが、面白いのは、3DMark実行時以外の結果で、Phenom使用時とAthlon 64使用時の結果が逆転している点だ。いずれもCool'n'Quietは無効にしてテストしているので常に最高クロックで回っていることになる。おそらくBIOSの実装におけるCPU識別や設定されるコア電圧の違いによるものだろう。 3DMark06の結果に関してはグラフィックコアに高い負荷がかかるテストとなるが、明らかにAMD 780G環境の消費電力が高くなっている。AMD 690Gの80nmプロセスから、AMD 780Gは55nmプロセスへと微細化が行なわれているものの、消費電力に関しては好影響を及ぼしていないことが分かる。
●Phenom導入に気楽さを生むAMD 780G 以上の通り結果を見てくると、AMD 690Gに対してグラフィックコアの性能が大幅に向上したのが本製品のもっとも大きな特徴といえるだろう。一方で、一般的なアプリケーションを使う上で、明確な上下関係は確認することができなかった。 つまり、AMD 690Gプラスアルファの魅力の部分にグラフィックコアの性能向上がもたらされたような格好になる。もちろん、USBやSATAのポート数増加、デジタル出力の充実など、機能面での魅力も増している。 何より、AMD 780Gの最大のトピックはHyperTransport 3.0を採用した初めての統合型チップセットという点である。Phenomの性能を引き出せるプラットフォームとして初めての統合型チップセット、と言い換えることもできるだろう。 現時点で、Phenomは絶対的なパフォーマンスよりも、安価に購入できるクアッドコアとしてコストパフォーマンスの方に注目が集まっている。ただ、チップセットがAMD 790/770シリーズのみでは別途ビデオカードを購入する必要があって、最低でもプラス数千円を見なければならない。 ここに統合型チップセットが登場したのは非常に大きな意味を持っているわけだ。より安価な導入が可能になる統合型チップセット、しかも従来よりも高いパフォーマンスを持つ魅力ある製品が登場したことで、Phenomを導入しようと考えるユーザーが増えるのではないだろうか。 □関連記事 (2008年3月5日) [Text by 多和田新也]
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