■多和田新也のニューアイテム診断室■
日本時間の3月27日に発表されたGeForce GTX 480。シングルGPUにおける性能比較は発表日にベンチマーク結果をお伝えしているが、その記事中で予告したとおり、いくつかの追加テストを実施した。ここでは、その結果を紹介したい。
●Catalyst 10.3との比較前回記事において、Radeon HD 5870のドライバはCatalyst 10.2を使用した。これはテスト時点での最新公式ドライバだったからだ。だが、このテストを終えた直後にCatalyst 10.3がリリースされており、リリースノートを読むと、いくつかのタイトルにおいてパフォーマンス改善が行なわれたとの記載も見られる。
パフォーマンス改善があるならば、GeForce GTX 480とRadeon HD 5870の現時点における評価も多少変わるかも知れないわけで、筆者としても心残りになっていた件である。まずは、前回記事のフォローアップということで、シングルGPU環境におけるGeForce GTX 480とRadeon HD 5870の性能を再チェックしてみることにしたい。
テスト環境(表1)、テスト機材(写真1~5)、テスト条件はすべて前回と同じで、GeForce GTX 480と、Catalyst 10.2使用時のRadeon HD 5870の結果は流用している。
ビデオカード | GeForce GTX 480 | Radeon HD 5870 |
グラフィックドライバ | GeForce Driver 197.17β | Catalyst 10.3 Catalyst 10.2 |
CPU | Core i7-975 Extreme Edition(TurboBoost無効) | |
マザーボード | ASUSTeK P6TD Deluxe(Intel X58+ICH10R) | |
メモリ | DDR3-1333 2GB×3(9-9-9-24) | |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12×2台 (ST3500418AS/RAID 0) | |
電源 | KEIAN KT-1,200GTS | |
OS | Windows 7 Ultimate x64 |
【写真1】GeForce GTX 480のリファレンスカード | 【写真2】Radeon HD 5870を搭載するXFX 「HD-587A-ZNF9」 |
【写真3】Intel X58 Express+ICH10Rを搭載する、ASUSTeK「P6TD Deluxe」 | 【写真4】ナナオの2,560×1,600ドット対応30型液晶「FlexScan SX3031W-H」 |
テスト結果はグラフ1~12に示した。総評としては、Cataylst 10.3の効果が認められる結果となった。多くのタイトルで2~5%程度ではあるが、安定して性能を伸ばす傾向にあるのは好ましい。とくにDiRT 2は効果が顕著で、10~20%のフレームレート向上が見られる。
ただしDarkest of Days、Left 4 Dead 2、Unreal Tournment 3の3つはまったく効果がない結果となっている。後者2つに関しては負荷が軽いアプリケーションということもあり、負荷が高いメジャーなタイトルを優先していると推測される。
なお、消費電力が変わらないことは確認しており、Radeon HD 5870の対電力性能がドライバアップデートによって若干ながらも高まったといえる。
もっとも、肝心なのはCatalyst 10.3を導入した結果、GeForce GTX 480との差がどうなるか、という点になる。目立って性能を伸ばしたDiRT2はCatalyst 10.2の際には20~40%程度の差をつけられていたのに対して、新ドライバで10~20%前後にまで差を詰めている。もっとも差が小さいところは10%を切っており、このタイトルに関しては、GeForce GTX 480に対するビハインドをかなり解消としたといっていい。
ほかのタイトルについては、両GPUに多少の得手不得手があることは前回の記事で述べたとおりで、GeForce GTX 480が優勢だった条件はやや差を詰められ、劣勢だった条件はやや差が開くといった傾向はあるものの、先述のとおりCatalyst 10.2と10.3の差は大きいところでも5%程度。両GPUの性能傾向の大勢をガラリと変えるほどではない。
●マルチGPU環境のテスト
さて、前回記事ではシングルGPUビデオカードの3製品を比較したが、GeForce GTX 480は当然ながらNVIDIA SLIをサポートしており、その際の性能スケーリングも気になるところである。ここからは、マルチGPU環境におけるベンチマーク結果を紹介していきたい。
環境は表2のとおりで、基本的には先述のテストと同じである。Radeon環境のドライバはCatalyst 10.3を使用している。ここでは、GeForce GTX 480のSLI、Radeon HD 5870のCrossFireというマルチビデオカード構成に加え、デュアルGPUビデオカードとなるRadeon HD 5970も比較に加えた。使用機材は写真5~7のとおりである。
ビデオカード | GeForce GTX 480 SLI GeForce GTX 480 | Radeon HD 5870 CrossFire Radeon HD 5870 Radeon HD 5970 |
グラフィックドライバ | GeForce Driver 197.17β | Catalyst 10.3 |
CPU | Core i7-975 Extreme Edition(TurboBoost無効) | |
マザーボード | ASUSTeK P6TD Deluxe(Intel X58+ICH10R) | |
メモリ | DDR3-1333 2GB×3(9-9-9-24) | |
ストレージ | Seagete Barracuda 7200.12×2台 (ST3500418AS/RAID 0) | |
電源 | KEIAN KT-1,200GTS | |
OS | Windows 7 Ultimate x64 |
【写真5】GeForce GTX 480のSLI構成はリファレンスカードを2枚用いた | 【写真6】Radeon HD 5870のCrossFire構成はXFX製品のリファレンスカードを使用。XFX製品はリファレンス仕様に準拠したもの | 【写真7】Radeon HD 5970は、ASUSTeKの「EAH5970/G/2DIS/2GD5/A」を使用 |
「BattleForge」(グラフ13)の結果は、シングルGPU時はAA&AF非適用時に性能差が小さく、AA&AFを適用するとGeForce GTX 480の優位性が出る結果となっているが、SLIおよびCrossFireにおいても、その傾向が出ている。どちらもGPUも、マルチGPUによって、わりと素直にフレームレートが伸びた例といえる。
【グラフ13】Battleforge |
「Colin McRae: DiRT 2」(グラフ14)は、WUXGAのAA&AF非適用時にGeForce GTX 480 SLI環境とRadeon HD 5870 CrossFire環境の差が縮まる結果となったが、シングルGPUの結果や、WUXGAのAA&AF適用時の結果から見るに、GeForce GTX 480のSLI環境ではCPUによるボトルネックが発生したと見ていいのではないだろうか。
シングルビデオカードという観点では、GeForce GTX 480のシングル構成の結果が、WUXGAのAA&AF非適用時にRadeon HD 5970に迫っているが、負荷が高まった際には、マルチGPUとシングルGPUの違いが出てくる。
【グラフ14】Colin McRae: DiRT 2 |
「Unigine Heaven Benchmark 2.0」(グラフ15)は前回結果でも見たとおりGeForce GTX 480が優位なテストだが、マルチGPU環境においても、その差は極めて大きい。GeForce GTX 480のシングルGPU環境に対してなら、Radeon HD 5870のCrossFireこそ上回る性能を見せるものの、Radeon HD 5970は同等以下といったところで、GeForce GTX 480の優位性が際立っている。
【グラフ15】Unigine Heaven Benchmark 2.0 |
「3DMark Vantage」(グラフ16、17)は、AA&AF非適用時にRadeon HD 5870に優位性があり、AA&AF適用時にGeForce GTX 480が健闘するという、シングルGPU環境における傾向がマルチGPU環境でも表れている。ただ、AA&AF適用時の結果はGeForce GTX 480のSLI環境のほうがスコアの伸びが良い。
【グラフ16】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Graphics Score) |
【グラフ17】3DMark Vantage Build 1.0.2 (Feature Test) |
「BIOHAZZARD 5 ベンチマーク」(グラフ18)の結果は、シングルGPU環境ではGeForce GTX 480の良さが出ていたが、マルチGPUになるとRadeon勢が良好な結果を見せる。ただ、WQXGAにおいてはGeForce GTX 480がわずかながら良い結果を見せており、CPUバウンドが出てしまっている可能性がある。低解像度(といってもWUXGAだが)の結果は、Radeon環境のほうがオーバーヘッドが小さいため、と考えるのが妥当だろう。
【グラフ18】BIOHAZZARD 5 ベンチマーク |
「Crysis Warhead」(グラフ19)は、Radeon HD 5870のCrossFire環境、Radeon HD 5970環境において、WQXGAのAA&AF適用時に、何度リトライしてもテストが途中でフリーズしてしまう問題が発生したため、結果を出せていない。
結果の傾向としては、シングルGPU環境では差が小さかったGeForce GTX 480とRadeon HD 5870だが、マルチGPU構成ではGeForce GTX 480の良さが目立つ。WUXGA、AA&AF適用時こそCPUバウンドと見られる差(誤解されそうな数値だがVSYNCは無効化している)であるものの、より負荷が高い状況では差が歴然としている。このタイトルに向けたドライバのチューニングが進んでいる。
【グラフ19】Crysis Warhead (Patch v1.1) |
「Darkest Days」(グラフ20)は、Radeon勢ではマルチGPUの効果がまったくないという結果になった。そのため、GeForce GTX 480のSLI環境のスコアがほかに比べて圧倒している。シングルGPU環境では差が小さいだけにRadeon勢にとっては惜しまれる結果で、Catalystのチューニングに期待したい。
【グラフ20】Darkest of Days |
「Far Cry 2」(グラフ21)もシングルGPU環境ではGeForce GTX 480の結果が良好だったタイトルだが、WUXGAのAF&AF非適用状態ではCPUがボトルネックになったと見られる結果だ。この場合はやはりRadeon HD 5870のCrossFireの結果が良好だ。負荷が高まれば、シングルGPU時と同じく、GeForce GTX 480の優位性が出てくる。
【グラフ21】Far Cry 2(Patch v1.03) |
「Left 4 Dead 2」(グラフ22)は軽量なタイトルで、マルチGPUの各環境の差が小さいものとなった。シングルGPUではAA&AF非適用時にRadeon HD 5870、AA&AF適用時にGeForce GTX 480が健闘する傾向があったが、わずかにGeForce GTX 480のほうが良い結果が出ている。もっとも、200fps前後という平均フレームレートであることを考えると、この差は実用面ではほぼ影響ないといっていい。
【グラフ22】Left 4 Dead 2 |
「Unreal Tournament 3」(グラフ23)も、WUXGAのAA&AF非適用時にRadeon HD 5870が優勢だが、負荷が高まるとGeForce GTX 480の優位性が出る。これまでにもいくつか出ていたのと同じ傾向の結果といえる。優劣はあるにせよ、やはり平均200fpsを超えているだけに、あまり深刻に考える必要はないだろう。
【グラフ23】Unreal Tournament 3 (Patch v2.1) |
「World in Conflict」(グラフ24)も、これまでに出たいくつかの結果と同じ傾向を示している。AA&AF非適用時にはRadeon HD 5870が健闘するが、AA&AFを適用するとシングルGPU環境時と同じようにGeForce GTX 480の優位性が出てくる。
【グラフ24】World in Conflict (Patch v1.011) |
最後に消費電力の測定結果である(グラフ25)。この結果は少々インパクトのあるものとなった。GeForce GTX 480のSLI環境は、シングルGPU環境時からさらに300Wを超える消費電力の増加量となった。2つのレーンを使うことによるチップセット側の電力変化や、電源ユニットの変換効率の変化もあるだろうが、ビデオカード1枚あたりで250Wというピーク電力を考えると、予想を超える差である。
また、前回テストでは比較していなかったRadeon HD 5970を加えると、GeForce GTX 480のシングルGPU環境の消費電力の大きさが、より目立っている。
【グラフ25】各ビデオカード使用時の消費電力 |
以上、マルチGPU環境のテストを行なってきた。Crysis WarheadやLeft 4 Dead 2のようにシングルGPU環境ではGeForce GTX 480がRadeon HD 5870に対して伸び悩みを感じた場面で良好な結果を見せたタイトル、CrossFireの効果がまったく出なかったDark of Daysといったところは、シングルGPUとは異なる傾向の結果ではあるが、多くはシングルGPUのときの傾向を反映している。
しかしながら、GeForce GTX 480のSLIやRadeon HD 5870のCrossFireにとって、WUXGAのAA&AF非適用時は負荷が軽すぎるようなタイトルでは、GeForce GTX 480のSLIはオーバーヘッドがより大きいと推測できる結果が出ている。
さらにいえば、CPU性能が高いCore i7-975環境に加え、WUXGAクラスの解像度であってもGeForce GTX 480はオーバースペックになるタイトルもあるということは気に留めておきたい。WQXGAクラスの液晶を持っているユーザーでないと、GeForce GTX 480のSLI導入は無意味になる可能性も小さくないわけだ。
また、消費電力は先述のとおり、シングルGPU環境から比べてもかなり大きい。この点も導入を検討する人は強く留意する必要があるだろう。
もう1つ気になったのは、今回テストに加えたRadeon HD 5970の存在だ。マルチGPUビデオカードということもあって、GeForce GTX 480のシングルGPU環境よりもよい結果を残すシーンが多いし、その差も大きい。Radeon HD 5870のCrossFireに迫る場面すらある。一方で、電力はGeForce GTX 480より抑えられている。コスト面ではRadeon HD 5970製品が75,000~80,000円前後なので、GeForce GTX 480の想定価格である6万円よりは高めではあるが、得られるパフォーマンスや電力効率の対価として面白い価格差と感じられる。
●テッセレーション品質による性能差への影響最後はUnigine Heaven Benchmark 2.0を使った、テッセレーションの性能チェックである。このテストを行ないたいと思ったのは、GF100のアーキテクチャが発表されたときにNVIDIAが示した2枚のスライドがきっかけになっている(図1、2)。そのスライドでは、テッセレーションの負荷が高いほどRadeon HD 5870に対する優位性が増すこと、Radeon HD 5870よりもフレームレートの落ち込みかたが小さいこと、の2点が示された。果たして実際にはどうか、というのをチェックしてみたい。
【図1】テッセレーションクオリティが上がるほどに、GF100アーキテクチャの優位性が増すことを紹介したスライド | 【図2】Unigine Heaven Benchmark(1.0)実行時に、GF100の最小fpsの落ち込みが小さいことを示すスライド |
テストはUnigine Heaven Benchmark 2.0である。このソフトはテッセレーションのクオリティを3段階に調整可能で、加えてテッセレーションを無効化することもできる。まずは、テッセレーションのクオリティを変化させてベンチマークを行なった結果をグラフ26、表3に示した。
【グラフ26】Unigine Heaven Benchmark 2.0 |
GeForce GTX 480 | Radeon HD 5870 | 相対値 (HD 5870=1) | ||
Extreme | 1,920×1,200,NoAA/NoAF | 40.7 | 21.4 | 1.90 |
1,920×1,200,4xAA/16xAF | 29.9 | 17.1 | 1.74 | |
2,560×1,600,NoAA/NoAF | 28.7 | 17 | 1.68 | |
2,560×1,600,4xAA/16xAF | 20.8 | 12.6 | 1.65 | |
Normal | 1,920×1,200,NoAA/NoAF | 53.4 | 35.8 | 1.49 |
1,920×1,200,4xAA/16xAF | 38.1 | 26.9 | 1.41 | |
2,560×1,600,NoAA/NoAF | 35.1 | 26 | 1.35 | |
2,560×1,600,4xAA/16xAF | 25.1 | 18.8 | 1.33 | |
Moderate | 1,920×1,200,NoAA/NoAF | 58.6 | 43 | 1.36 |
1,920×1,200,4xAA/16xAF | 41.6 | 31.4 | 1.32 | |
2,560×1,600,NoAA/NoAF | 37.5 | 29.9 | 1.25 | |
2,560×1,600,4xAA/16xAF | 26.8 | 20.7 | 1.29 | |
Disabled | 1,920×1,200,NoAA/NoAF | 67.6 | 55.7 | 1.21 |
1,920×1,200,4xAA/16xAF | 48.1 | 39.3 | 1.22 | |
2,560×1,600,NoAA/NoAF | 41.3 | 35.8 | 1.15 | |
2,560×1,600,4xAA/16xAF | 29.8 | 24.7 | 1.20 |
結果は、テッセレーションのクオリティがあがるほど、GeForce GTX 480の優位性が増すというものになった。この点はNVIDIAの主張どおりだ。
もう1つのフレームレートの落ち込みについては、テッセレーションをExtremeとModerateに設定し、WUXGA、AA&AF非適用の条件でベンチマークを実行したときのフレームレートを、FRAPSを用いてトレースした結果を用いてチェックする。結果はグラフ27、表4に示したとおりだ。
【グラフ27】Unigine Heaven Benchmark 2.0 |
テッセレーション=Extreme | GeForce GTX 480 | Radeon HD 5870 | 相対値 (HD 5870=1) |
最大値 | 100 | 74 | 1.35 |
最小値 | 23 | 6 | 3.83 |
テッセレーション=Moderate | |||
最大値 | 109 | 95 | 1.14 |
最小値 | 43 | 30 | 1.43 |
NVIDIAのスライドでは、GeForce GTX 480とRadeon HD 5870でフレームレートの動きが異なるが、実際にテストした結果を見る限り、同じテッセレーションクオリティであれば、絶対的な性能差はあるものの、動きは似たような傾向を示す。もっとも、NVIDIAのスライドはバージョンの古いHeaven Benchmarkの結果であるため、異なる傾向となったのかも知れない。
最大値と最小値の差としては、NVIDIAが主張する内容を確認できる。Radeon HD 5870とGeForce GTX 480の最大値ごとの差に対して、最小値ごとの差は大きくなっており、とくにテッセレーションクオリティが高いほうが、この差も大きい結果となっている。
このあたり、GF100アーキテクチャにおいて、ジオメトリ処理エンジンの数を増やし、かつ並列化した効果は認められるといっていいだろう。もちろんコンシューマユーザにとっては、このリッチなジオメトリエンジンの価値はゲームタイトルの対応具合に依存しており、今後、大きく高まる可能性もあるし、逆の事態に陥る可能性もある。テッセレーションを活用したDirectX 11対応タイトルが少ない現時点では価値を感じるユーザは限定されるだろうが、まだまだ流動的な状況といえる。