バグは本当に虫だった - パーソナルコンピュータ91の話
第6章 AIの時代へ情報化社会の未来予想(3)
2017年6月19日 06:00
2017年2月21日に発売された、おもしろく、楽しいウンチクとエピソードでPCやネットの100年のイノベーションがサックリわかる、水谷哲也氏の書籍『バグは本当に虫だった なぜか勇気が湧いてくるパソコン・ネット「100年の夢」ヒストリー91話』(発行:株式会社ペンコム、発売:株式会社インプレス)。この連載では本書籍に掲載されているエピソードをお読みいただけます!
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八幡神社が日本でいちばん多い 2015年
マイナンバー制度で法人には十三桁の法人番号が割り当てられました。個人番号と違い法人番号は公開されます。法人番号には利用範囲に制限がなく、また民間による利活用を促進していますので、なににでも使えます。会社だけでなくNPO法人も対象ですので、自宅住所を登記していれば自宅住所が公開されます。
法人番号公表サイトで日本の神社の数を調べてみよう
文化庁の「宗教年鑑」によると全国の神社は約八万八千社。摂社末社を含めれば、三十万社にものぼるともいわれています。では、どの神社が多いのでしょうか。実はマイナンバーのおかげで簡単に調べられるようになりました。それが国税庁の法人番号公開サイト。
マイナンバーには個人番号と法人番号があり、個人番号は厳格に秘匿しなければなりませんが、法人番号は公表され、なにに使ってもかまいません。国税庁の法人番号公表サイトで名称、住所、法人番号が公表されています。法人は会社や行政機関だけでなく国税の対象となる組織が該当になりますので、各地の神社も登録されています。
代表的な神社の名前を法人番号公開サイトに入れて検索してみました。
- 八幡神社 → 5841件
- .稲荷神社 → 3349件
- .熊野神社 → 2187件
- .八幡宮 → 2058件
- .諏訪神社 → 2004件
- .白山神社 → 1634件
- 天神社 → 1140件
- .春日神社 → 1070件
- .八幡社 → 914件
- .神宮 → 760件
八幡神社は大分県にある宇佐八幡宮が総本社です。八幡神社、八幡社、八幡宮ともよばれていますので、それぞれで検索して合計すると八千八百十三件あります。稲荷社は二百三十七件ですので稲荷神社と合計しても三千五百六十八件。やはりダントツで多いのが八幡神社です。
法人番号公表サイトでは、都道府県や市町村単位でも調べることができます。東京都の八幡神社を調べると百十三件、八幡神社は源氏の神様でもありますが、鎌倉がある神奈川県は八十一件、反対に千葉県は二百七十六件もありました。板東武者といえば関八州(相模など八カ国)の武士で鎌倉時代から続き、なかでも足利氏や新田氏などの源氏が有名です。現在の関東一円に分布しますので、八幡神社の分布と関係しているのでしょうか。八幡神社の総本社がある大分県の八幡神社は意外に少なく六十五件でした。
昔、物部守屋と蘇我馬子、聖徳太子との間で戦があったことを日本史で習いましたが、物部氏に由来する神社が物部神社。法人番号公開サイトに“物部神社”と入力して検索すると十四件見つかります。しかも新潟に五件も集中しています。古代、日本海を通じた海のルートがあったからかもしれません。
国税庁はおそらく法人番号公表サイトの歴史での活用は意図していないと思いますが、いろいろと活用できそうです。神社と同じようにお寺について調べようと“浄土真宗”で検索すると、三十四件しか見つかりませんでした。宗派を名称につけているお寺が少ないため宗派別のお寺の数を調べるのは難しいようです。
高級ホテル予約サイト「一休」は犬の名前から名づけられた 2016年
2016年3月、高級ホテル予約サイト一休ドットコムを運営する株式会社一休を、ヤフーが一千億円で買収し子会社にしました。ヤフー史上最大の企業買収となります。ヤフーにもホテル予約サイト「ヤフートラベル」がありますが、ビジネスホテルが中心なため、ブランド力を持つ一休ドットコムとのシナジー効果を狙っています。
一休ドットコムを立ち上げたのが森正文という人物。日本生命保険に勤めるビジネスマンでニューヨークの米リーマン・ブラザーズ投資顧問にも出向するエリートでした。ところが三十歳の時に受診した健康診断で肝炎が見つかります。インターフェロンを打ちながら闘病生活に入り、一時は死を覚悟します。
“一度きりの人生だから光り輝くような仕事をしたい”と思ったことから、三十六歳で保険会社を退職し、大学時代の後輩たちを誘って株式会社プライムリンクという会社を設立。なかなか、うまくいかず業績は低迷します。
当時、インターネットを利用したビジネスがアメリカではやっていることを知り、オークションを開始。新宿を歩いている時に、部屋の明かりがまばらなホテルを見つけ、部屋もオークションの商品にならないかと思ったのが、一休ドットコム立ち上げのきっかけとなります。
一休という名前の由来は母親が飼っていた犬の名前です。“一級”のホテルに“一休み”とサイト名にぴったりでした。会社名もプライムリンクから一休に変更しています。
飛び込み営業でホテルの契約をとる
さっそく高級ホテルを一軒ずつ飛び込んで営業を開始します。一休ドットコムをスタートした時、最初の登録ホテルはわずか五つでしたが、全国を飛び回って営業し、一年後には百八十一に登録数を増やします。
当時、山一證券や日本長期信用銀行が破綻した時期で、景気が悪くホテル業界が大変でした。また不動産の評価基準といえば、土地価格から部屋の稼働率で割り出す新しい評価に変わる時期でもありました。ホテル側もホテルの価値を上げるには稼働率をのばすしかありませんでした。
またホテルは旅行代理店と契約しており、手数料が高く、売れ残るとその日の夕方にホテルに返品するシステムになっていました。一休ドットコムが提供する成功報酬型のサイト予約は、ホテル側にリスクが少なく、ありがたいシステムでした。
囲碁で人間がコンピュータに負ける 2016年
グーグルの検索窓で「人生、宇宙、すべての答え」と入力し検索してみてください。「42」と結果が出てきます。これはダグラス・アダムズのSF小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』に登場する質問と答えです。銀河ヒッチハイク・ガイドは地球滅亡の少し前から始まります。ある日突然、宇宙人がやってきて今から地球を爆破すると通告しました。やぶからぼうの話にパニックとなった地球人は当然、宇宙人に理由を尋ねます。
アルファ・ケンタウリの出張所に立ち退き勧告を公示
宇宙人からは「銀河ハイウェイの建設予定地に地球が当たり、破壊されることになった。ずいぶん前から立ち退きするように勧告したはずだ。」という回答が返ってきました。そんな勧告は聞いたことがないと抗議する地球人に、「地球の破壊はアルファ・ケンタウリにある出張所に五十年前から公示されていた。」とお役所的な返事が返ってきました。そのまま、地球は破壊されます。そして宇宙を舞台にハチャメチャSFになっていきます。
銀河ヒッチハイク・ガイドによると、昔、超知性をもった生命体が存在し、「人生、宇宙、すべての(究極の疑問の)答え」を計算させるために「ディープ・ソート」というコンピュータを設計します。ディープ・ソートが七百五十万年かけて出した答えが「42」でした。
“「42」という答えはどういうことだ!”と皆は納得がいきません。理解できないのはそもそも“究極の疑問”がなんであるかを、わかっていないことが原因だと、今度は究極の疑問に答えられる凄いコンピュータの開発が始まります。
現実世界でも似たような話があり、2012年8月、京都大学数理解析研究所の望月新一教授が「abc予想」という、世界中の数学者が頭を悩ましている数学の予想を証明しました。発表から時間が経ちましたが、数学者の間ではいまも検証が続いています。望月教授は「宇宙際タイヒミューラー理論」という全く新しい理論を構築して証明にあたったので、検証している数学者はまず、この新しい理論を勉強するところから始めています。
銀河ヒッチハイク・ガイドに戻ると、究極の疑問に答えられる凄いコンピュータは、コンピュータそのものに生命体を取り込み、名前は「地球(ディープ・ブルー)」。あまりに大きいのでよく惑星と間違えられます。ところが計算が終わる五分前に銀河ハイウェイを通すための工事で破壊されてしまいます。なんともハチャメチャなSFですが、人気があったので、小説で使われた名前がいろいろなところで登場します。
1997年にチェスの王者をコンピュータが破る
アイビーエムが作ったコンピュータ「ディープ・ソート」がチェスの世界チャンピオン・カスパロフに挑戦。ところが敗れたため、改良を続け、できあがったのが「ディープ・ブルー」。一秒間に二億手の先読みをおこない、対戦相手となるカスパロフの思考を予測します。
1996年2月におこなわれた試合ではカスパロフが三勝一敗二引き分けで勝利。1997年5月の試合では六戦中二勝一敗三引き分けでディープ・ブルーが勝利。世界で最初に人間のチェス世界チャンピオンを破ったコンピュータとして、その名を歴史に刻むこととなります。
グーグルはディープ・ソートよりも優秀
銀河ヒッチハイク・ガイドの中で、ディープ・ソートがGoogolplex Star Thinkerというコンピュータの性能を「電卓レベル」だと、けなすシーンがでてきます。グーグル本社の愛称グーグルプレックス(Googleplex)をもじって、暗にグーグルを揶揄しているわけです。
しかしグーグルで「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」と入力して検索すると、七百五十万年もかからず瞬時に「42」と表示しますので、グーグルはディープ・ソートに比べ、かなり優秀です。
2011年、コンピュータがクイズ王になる
アイビーエムが開発をすすめているのが質問応答システム「ワトソン」。アイビーエムの創立者であるトーマス・J・ワトソンから名づけられています。本・台本・百科事典など二億ページ分の文献データを読み込み、機械学習で理解し、質問の答えを自動生成します。
2011年にはアメリカのクイズ番組に出演し、人間のクイズ王と対戦して勝利。賞金百万ドルを獲得しました。ワトソンは銀行のコールセンターなどに導入がすすんでおり、コールセンターや受付の仕事は人工知能が担当する時代になっています。
2013年、将棋でもコンピュータが人間に勝利
将棋はチェスと異なり、奪った駒をまた自分の駒として使うことができるため、チェスと比べ、はるかに複雑な計算になります。なかなかコンピュータが人間に勝てませんでした。2013年の第二回将棋電王戦で、現役プロ棋士五人と五つのコンピュータ・プログラムが団体戦形式で戦い、コンピュータ側が三勝一敗一分けとし、人間が団体戦で敗れました。ついに将棋でもコンピュータが人間に勝利する日がきました。
2016年 アルファー碁が人間に勝利
将棋とくれば、次は囲碁です。チェスや将棋は駒に役目があり、動きが決まっていますが、囲碁の駒は黒石か白石だけ、石のつながり、地の大きさ、石が生きているか(目があるか)など局面の状況を考え、評価する必要があり、計算が難しくなります。
グーグルが始めたのがディープラーニング(深層学習)。人間の神経はニューラルネットワークで構成されていますが、これをコンピュータで実現しようとしています。スタンフォード大学と協力し、一週間にわたりユーチューブビデオを千台のコンピュータからなるニューラルネットワークに見せたところ、白紙の状態から何百万もの未分類のイメージを分析し、「これはネコ」と分類ができました。事前にネコのことを教えず、ネットワーク自身が、ユーチューブの画像からネコがどういうものか学習したことになります。
この技術を使って開発されたアルファー碁が、2016年3月に世界でもっとも強い棋士である李世ドル(イ・セドル)九段に勝利をおさめました。
ペンギン、パンダに大騒ぎ 2016年
グーグル八分という言葉をご存じですが、時間の八分ではなく村八分と同じ八分(はちぶ)です。グーグル検索結果に出てこなくなることで、アダルトや権利侵害などで法律的に問題があるサイトなどが対象となります。今や検索して出てこなければ、無いのと同じ状態なので、ネットショップなどにとっては怖い話です。
ペンギン、パンダといっても動物園の話ではありません。グーグルでは常に検索エンジンの改良(アップデート)を続けていて、この改良が本番リリースされる時の名前にパンダやペンギンが使われています。改良がおこなわれると検索順位が大幅にかわりますので、ウェブサイトを運営している企業にとっては大問題。いままで上位にでていたのが、順位が下がってしまうこともあります。とくにネットショップや、検索順位を上位にするサービスを提供しているSEO(サーチエンジン最適化)事業者は、パンダ、ペンギンに戦々恐々としています。
日本ではとくに改良の影響が大きい
日本では検索にヤフーまたはグーグルを使っている人が多いのですが、ヤフーの検索エンジンはグーグルが提供しています。アメリカのヤフーが2009年7月に独自に開発していた検索エンジンをやめて、マイクロソフトの検索エンジンに乗り換えると発表しました。
日本のヤフーはアメリカのヤフーが開発した検索エンジンを使っていましたので、アメリカがやめてしまうと使えません。
日本のヤフーはソフトバンクの孫社長が出資していることもあって、以前からアメリカのヤフーとは距離をおいていました。アメリカと同様、マイクロソフトの検索エンジンを使おうかと検討しましたが、結局、グーグルから検索エンジンを提供してもらうことになります。
検索大手が組むこととなりますので、独禁法の問題がでてきましたがクリアし、いまではグーグルで検索してもヤフーで検索しても、同じ検索結果となっています。つまりパンダやペンギン・アップデートがおこなわれると、グーグルだけでなくヤフーにも影響があります。
パンダ、ペンギンはなにをしている
グーグルの目的は人類が使うすべての情報を集め整理することです。ユーザが入力した検索語に対するドンピシャリの情報がでるように、検索エンジンを改良し続けています。中身がない低質なサイトの順位をどんどん下げ、良質なサイトの順位が上がるよう検索エンジンを見直しています。
その一つがパンダ・アップデート。パンダといっても動物のパンダではなく、グーグルのエンジニアであるビスワナス・パンダという名前から命名されました。パンダ氏が中心となってアップデートをおこなっていたのが理由です。
ペンギン・アップデートは、良質なサイトかどうか白黒をハッキリさせる目的の改良で、パンダ・アップデートの次に登場しました。白黒のパンダと同様に、白黒のツートンカラーのペンギンが選ばれ、名づけられました。
ペンギン・アップデート、パンダ・アップデートは、通常のグーグルアルゴリズムの一つに組み込まれることになり、2016年に終了しました。
検索順位を上げる方法は良質なサイトを作ること
では、どうすればグーグルの検索順位を上位にあげられるのでしょうか。
グーグルはもともと大学で生まれました。ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンとが、スタンフォード大学の博士課程で出会いグーグルがスタート。博士課程では論文が重視されますが論文評価の仕組みがグーグルに取り入れられています。
論文で必要なのはまず専門性の高さです。
誰もが知っている内容をサイト(論文)に掲載しても誰も読みません。研究テーマについて、独自で新鮮かつ専門性が高い内容が求められます。
独善的な文章ではなく、ユーザにとって、わかりやすく読みやすい文章でなければなりません。当然、文法的な間違いや変換ミスしたままの文章を載せては駄目。
キーワードの数を稼ぐためだけに、同じような文章を重複させてもいけません。検索エンジン対策にはなっても、ユーザにとって読みづらくユーザに逃げられてしまうなら本末転倒です。
同じページにさまざまなテーマをいれず、一ページ一テーマにしましょう。
お酒をテーマにしたページでワインや日本酒のトピックスを盛り込むより、ワインをテーマにし、ボルドーワインやチリワインのページを作成し、産地やシャトー情報などを紹介すればワインの専門性が高くなり、ワインについて知りたいユーザによって有益な情報になります。
このようにオリジナル性が高く、専門的な情報でページを作っていけば、おのずと検索順位があがっていきます。
こういったサイト評価の方法がたくさんあり、グーグルの検索エンジンは二百以上のアルゴリズムに基づいて動いています。パンダやペンギンはその一部になります。