福田昭のセミコン業界最前線

東芝の「不適切会計」問題(PC事業編)

 本コラムでは以前に、東芝の不適切問題に関する経緯を解説した。第三者委員会が2015年7月20日に提出した「調査報告書」によると、調査対象事業で累計1,518億円の修正(損益の下方修正)が必要なことが判明した。損益の下方修正を必要とする事業は、調査対象事業の全てである。大別すると「インフラ事業」、「パソコン(PC)事業」、「映像事業」、「半導体事業」の4つになる。

 事業分野別の要修正金額(いずれも下方修正金額)は、インフラ事業が477億円、PC事業が625億円、映像事業が56億円、半導体事業が360億円に達した。第三者委員会の調査対象事業の中では、PC事業の不正会計金額が最も多い。不正会計の期間は2008年度〜2014年度(2014年度だけは2014年度第3四半期まで)のおよそ7年近くに及ぶ。単純平均では、年間93億円もの利益の水増しが実施されていたことになる。

第三者委員会の調査報告書による各事業の要修正金額(累計)

PC部品の価格上乗せ分を「利益」と計上

 実際に不正会計が実行されたのは、主に2008年度〜2013年度である。ただし、不正会計の下地となる取り引き、すなわち数字を操作可能な取り引きが始まったのは2004年度のことだ。2001年度〜2002年度にPC事業が極度の業績不振に陥ったため、東芝は2004年度に事業構造改革を実施した。

 調査報告書によると、PC事業改革の大筋はPC製品に占める外注比率の大幅な上昇(製造コストの低減)と部品調達コストの低減である。この時始まった部品調達コストの低減手法と、その会計処理が、問題の発端となる。

 PC製品の製造を外注する時、それまでは主要部品を外注先企業(調査報告書では「ODM」と呼称)が独自に調達していた。東芝ではこれを改め、主要部品を東芝(あるいは東芝のグループ企業)が調達することで、部品コストを削減しようとした。

 具体的には、東芝グループが安い価格でPCの部品を調達し、一定の価格を上乗せしてODMに部品を譲渡する。ODMがPC製品の完成品を東芝に納品した後で、東芝グループは上乗せ分を含む部品代を支払う。一定の価格を上乗せするのは、東芝グループが調達した価格が外部に漏れないようにするためである。なお上乗せした価格を「マスキング価格」と呼ぶ。調達価格をマスキングする(隠す)のが目的の価格なので、このように呼ばれるのだろう。

 部品調達の代行と部品価格の上乗せ(マスキング価格での譲渡)そのものは、電子機器の製造を外注する時の取り引き形態としては珍しいことではない。問題となったのは、会計処理の方法である。東芝では部品をODMに譲渡する時に、上乗せ分の金額を利益として計上していたのだ。借方勘定を「未収入金」、貸方勘定を「製造原価」との勘定科目で仕訳していた。勘定科目「製造原価」は上乗せ分の金額であり、製造原価のマイナスとして処理していた。

 会計処理の常識から考えると、おかしなことに気づくだろう。調査報告書では、「売り上げがないのに利益だけを計上している」、「製造原価の発生(プラス)がないのに、製造原価をマイナス処理している」、「当期利益をかさ上げできる」の3点を、会計処理の問題点として挙げていた。ただしこれだけであれば、会計処理が適切ではないとの指摘はできるが、不正な会計処理とは言えない。問題はここからだ。

東芝のPC製造と部品調達
東芝のPC製造おける会計処理とその問題点

部品価格上乗せ分を操作して利益をかさ上げ

 粗く言ってしまうと「東芝は上乗せ分の金額を操作することで、当期利益をかさ上げしていた」のである。例えば2万円で部品を調達し、同額の2万円を上乗せする。そして月間2万台のPC製造を委託する。すると2万円×2万台で、合計4億円の利益が1カ月に発生する。

 もちろん、完成品のPCを引き取った段階で上乗せ分の金額は帳消しにされるのだが、タイミングの違いがある。例えば部品を譲渡する月を四半期の期末月(例えば第1四半期であれば6月)に設定すると、完成品を引き取る月は次の四半期以降(7月以降)になる。すなわち第1四半期の利益がかさ上げされ、第2四半期以降の利益は減らされる。つまり、いくつかの四半期を通じてみれば、利益のかさ上げは解消される。適切とは言えないが、不正な会計処理は起こらない。

 ところが次の四半期の期末月(本例では9月)に、部品の上乗せ金額をさら増やすとどうなるか。部品の上乗せ分が完成品の納品によって相殺されたとしても、まだ利益が残る。東芝はこれをやった。調査報告書によると、2008年度には部品価格の2倍の金額を上乗せしていたのに対し、2012年度には部品価格の5.2倍の金額を上乗せするようになった。

 実際には月単位で細かに、かつ大胆に利益額を調整することで、四半期業績の公表値と年度通年業績の公表値を取り繕ってきた。その結果、年度によっては赤字のはずが黒字となり、年度によっては赤字の金額が過少になっていた。部品価格の上乗せによる利益のかさ上げ金額は、年度ベースでは198億円〜286億円に達した。

PC用部品の調達価格と譲渡価格(「マスキング価格)と呼称」、上乗せ金額(「マスキング値差」と呼称)の推移。部品の調達価格を「100」と仮定した時の相対値※以下全て第三者委員会の調査報告書を基にまとめた
PC事業における営業損益の推移。公表値と実際の損益(公表値から要修正額を単純に差し引いた金額)。なお要修正額は、部品価格の上乗せによって利益を操作した金額を使用した
2008年度〜2013年度の通期決算で発生した営業損益に関する不正な会計の概要

社内カンパニー制度の崩壊

 良く知られているように、東芝は企業統治の形態として「社内カンパニー」制度を採用してきた(採用したのは1999年)。社内カンパニーとはおおむね、各カンパニーが独自採算の権限を持つことで、経営判断を迅速にするとともに、事業責任を明確化する目的で実施される。東芝も、各社内カンパニーに権限を委譲することで、自主責任体制の確立と迅速な経営判断が行なわれるようになったとホームページに明記してある。

 しかし第三者委員会の調査報告書からは、社内カンパニーの独立性は伺えない。毎月末の営業会議における「東芝本社の社長」と「PC事業担当カンパニー社長」とのやり取りは、「ワンマン社長」と「事業部長(あるいは事業本部長)」のやり取りと、あまり変わらないように見える。

 いや、少し違う。調査報告書を読むと2008年度の第1四半期は、PC事業担当カンパニーの社長は「独立採算性の事業体」を代表して営業損益等の見通しを述べているように見える。これに対し、東芝本社社長は社内カンパニーの独立性を尊重せず、あるいは独立性を認めず、「チャレンジ」と称して独自の数字(利益をかさ上げした数字)を押し付けている。そしてPC事業担当カンパニーは「チャレンジ」を達成する。

 そして第2四半期に入ると、PC事業担当カンパニーは「営業損益の見通し」を営業会議では正確に報告せず、独自の改善策によって上乗せした数字(見せかけの数字)を報告するようになる。調査報告書の220ページによると、2008年7月末の営業会議では、PC事業担当カンパニー社長は上半期の業績見通しとして営業損失206億円という数字を報告せず、独自の利益改善策(内容は不明)を盛り込んだ営業利益148億円という数字を報告していた。

 そしてこの第2四半期において「CR前倒し」と東芝が呼ぶ不正会計を実行する。PC製造の外注先企業(ODM)が必要とする数量よりも過大な数量の部品を譲渡し、利益をかさ上げした。

 同年度の第3四半期に至って、不正な会計処理は常態化する。第3四半期の期末月である2008年12月、同第4四半期の期末月である2009年3月、翌2009年度第1四半期の期末月である2009年6月に、「CR前倒し」を実行したのだ。社内カンパニー制度は崩壊した。ワンマン社長が営業損益の操作を指示し、事業部門長が実行するという「軍隊」同様の企業統治が出現していた。

不正会計が常態化した経緯(1)。2008年度第1四半期の状況※以下全て第三者委員会の調査報告書から抜粋
不正会計が常態化した経緯(2)。2008年度第2四半期(決算対象は上半期)の状況
不正会計が常態化した経緯(3)。2008年度第3四半期以降の状況

東芝グループ内でPC部品の取り引きを「人為的に作成」

 その後も「CR前倒し」による不正会計は止まらない。2012年9月には、東芝グループ内でPC部品の取り引きを「人為的に作成」することで、利益をかさ上げする手法を実行するようになる。2012年度上半期の期末である9月30日を目前にした9月27日に東芝社長が、上半期業績の損益を120億円改善することを要求し、翌日の28日までに検討結果を報告するように指示したのだ。そして28日午後には、119億円の損益改善案が東芝社長に報告された。

 この時編み出されたのが、東芝グループ内でPC用部品を譲渡し、利益を計上するという手法である。ODMを相手とする「CR前倒し」には、交渉のための時間がかかる。わずか1日で、ODMを相手に金額を積み増す(部品の数量を増やす)交渉をまとめることは不可能に近い。そこで東芝子会社の3社間でPC用部品を取り引きし、上乗せ価格分をきわめて迅速に利益に計上する手法を編み出した。もちろん利益のかさ上げであり、粉飾決算であるとの誹りを免れない行為である。

不正会計の深刻化(2012年9月)※第三者委員会の調査報告書を基にまとめた

 利益計上を目的としたこの取り引きは少し複雑だが、第三者委員会の調査報告書は詳細を記述している。報告書の記述に従うと、まず東芝が輸出入子会社の「東芝トレーディング(略記は「TTI」)」にPC用部品を上乗せ価格(調達価格の4倍〜8倍の価格)で譲渡する。そして東芝はTTIに対する未収入金と製造原価(上乗せ部分)を勘定科目として仕訳し、製造原価を利益計上する。TTIは当該期末に別の子会社「東芝情報機器杭州社(略記は「TIH」)」に手数料を上乗せした価格でPC部品を譲渡する。期末在庫はTIHで保有する。そして次の四半期に入るとTIHはさらに別の東芝子会社「東芝国際調達台湾社(略記は「TTIP)」にPC部品を同額で譲渡する。TTIPはPC製造のODMにPC部品を同額で譲渡する。

 TTIPは従来からODMにPC部品を譲渡していた会社である。このため、ODMから見ると従来と変化しているとは気づかない。PC部品の価格がどのように変化しようとも、ODMはその価格をPC完成品の納入価格に反映させるだけである。ODMはPC部品の納入数量には注意を払う。在庫の数量が変わることで、ODMの製造コストが変化するからだ。しかし価格には注意を払わない。

 報告書によると、この東芝グループ内子会社を経由した、利益のかさ上げ目的のPC部品取り引きは、2012年9月〜2013年3月(2012年度第2四半期〜第4四半期)まで実行された。

東芝グループとPC製造会社(ODM)とのPC部品取り引きと会計処理(従来の取り引き)。※以下第三者委員会の調査報告書を基にまとめた
緊急の利益かさ上げを目的としたPC部品の取り引き
PC事業の売上高と営業損益の月別推移。2008年6月から期末月(3月、6月、9月、12月)に営業利益が巨額になり、期初月(4月、7月、10月、1月)に営業損失が巨額になるという周期振動のような損益を計上してきた。しかも年月を減るにしたがって利益と損失の金額(振動の振幅)が急速に拡大している。一方で売上高は2010年前半をピークに、ゆるやかに減少してきた※第三者委員会の調査報告書から抜粋

東芝の次期社長が東芝の将来を左右

 7月21日に東芝は、今後の対応スケジュールを発表した。7月29日には経営刷新委員会のメンバーを選任するとともに、執行役と取締役に対する追加の処分(執行役の辞任と報酬減額の強化)を発表した。

 8月中旬には新しい取締役の候補が選任され、順調に行けば9月下旬の臨時株主総会で正式に経営メンバーとなる。新しい取締役会は、社外取締役が半数以上を占めるという。

 会社はトップ(が誰かによって)決まる。ここで言うトップとは社長ではなく、実質的に会社を牛耳っている人物を指す。もちろん社長以外の誰かが会社を牛耳っているという状況は、会社の現状および将来にとっては大変好ましくない。社長が権限を持っているというのは、会社が健全であることの大前提である。その上で、社長がどのような人物なのかが、会社の行方を左右する。

 社外取締役が取締役の大半を占めるというのは、米国企業の取締役会に近い企業統治のあり方だ。その上で取締役会が健全な手法で適切な人物を社長に選任できるのか。東芝の将来を左右するのは、東芝の次期社長だ。個人的にはこのように考えている。

今後の予定(7月23日以降の決定分を含む)※東芝の公表資料を基にまとめた

(福田 昭)