瀬文茶のヒートシンクグラフィック

Cooler Master「TPC 612」

~バーティカルベイパーチャンバー採用のサイドフローCPUクーラー

 今回は、熱輸送にバーティカルベイパーチャンバーを用いるCooler Master製サイドフローCPUクーラー「TPC 612」を紹介する。購入金額は7,980円だった。

TPC 812をスリムにした縦型ベイパーチャンバー採用クーラー

 2013年8月に発売となったCooler Master「TPC 612」は、約1年前となる2012年7月に同社から発売された、「TPC 812」の下位モデルにあたるサイドフロー型CPUクーラーだ。TPC 812で世界初採用となったバーティカルベイパーチャンバーを備え、ベースユニットから放熱フィンへの熱輸送をヒートパイプとベイパーチャンバーのハイブリッド構成で行なう構造を特徴としている。

 TPC 612のヒートシンクは、接地面にメッキ済み銅板を備えたベースユニットと、1本のバーティカルベイパーチャンバーと4本のヒートパイプで構成される熱輸送ユニット、54枚のアルミニウム製フィンを備えた放熱ユニットで構成されている。TPC 812に比べ、熱輸送ユニットのスペックと放熱ユニットの厚みが抑えられており、冷却性能よりメモリスロット等との物理的な干渉を抑える設計となっている。

 ヒートシンクは全面にメッキ処理が施されているほか、放熱ユニット最上段に金属製の飾りプレートを備えているため、見た目的な安っぽさは無い。ただ、ベースユニットとヒートパイプ、ベイパーチャンバーの接続部に関しては、TPC 812と同じように隙間の多いものとなっている。ヒートシンクにおいて、パーツ同士の接続部の良し悪しは、性能を大きく左右する要素の1つなので、改善が見られないのは少々残念だ。

 標準ファンには、PWM制御によって回転数を600~2,000rpmというワイドレンジで調整可能な120mm角25mm厚ファンを1基備える。ファンのヒートシンクへの固定には、専用の樹脂製ブラケットを用いる仕様となっている。このファンブラケットは、120mm角ファンをねじ止めして固定するタイプであるため、市販の120mm角ファンであれば、厚みやリブの有無に関わらず取り付ける事ができる。また、標準ファンは1基のみだが、ファンブラケットは2セット用意されているため、ファンを買い足すことでデュアルファン構成での運用も可能だ。

Cooler Master TPC 612本体
付属品一覧
標準搭載のPWM制御対応120mmファン
ファン固定用ブラケットは、ファンをねじ止めで固定する。
ヒートパイプの手前側に配置されている平型の部材がバーティカルベイパーチャンバー
ベースユニットはTPC 812同様、隙間の多い構造
メモリスロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE使用時)
拡張スロットとのクリアランス(ASUS MAXIMUS V GENE使用時)

 上位モデルのTPC 812は、放熱ユニットが厚いタイプのサイドフローCPUクーラーであったため、ファンを搭載するとメモリスロットの上空を覆ってしまうという仕様だった。対して、TPC 612は、ナロータイプを売りにしているサイドフローCPUクーラーに比べると余裕のある設計とは言い難いが、放熱ユニットの厚みを抑えることで、メモリスロットとのクリアランスを改善している。

 拡張スロットとの干渉については、ヒートシンク単体であればある程度余裕が確保できるサイズなのだが、ファン固定用の樹脂製フレームをヒートシンク側面に取り付ける関係で、最上段拡張スロットとのクリアランスは少ない。最上段に拡張スロットを備えるマザーボードに、基板裏面を覆うバックプレートを搭載したビデオカードなどを搭載するのであれば、注意した方がよさそうだ。

冷却性能テスト結果

 それでは、冷却性能テストの結果を紹介する。今回のテストでは、マザーボード側のPWM制御設定を「20%」、「50%」、「100%(フル回転)」の3段階に設定し、それぞれ負荷テストを実行した際の温度を測定した。

 テスト結果を確認してみると、3.4GHz動作時の温度は59~72℃を記録しており、CPU付属クーラーの85℃より13~26℃低い温度となっている。120mmファン1基構成のサイドフローCPUクーラーとして、特に優れているわけでも、劣っているわけでもない結果という印象だ。

 発熱が増すオーバークロック動作時のテストでは、4.4GHz動作時に71~91℃、4.6GHz動作時は82~90℃を記録し、ファン回転数20%制御時については、CPU温度が94℃を超えたためテストを中止している。20%制御時のファンは、約680rpmという相当な低速で動作するため、4.6GHz動作時に過昇温については仕方のないところだろう。

 ファンの動作音については、全域にわたって回転数の割に風切り音が少ない印象を受けた。回転数が1,800rpmを超えるフル回転時はさすがに静かとは言い難い騒音を発するが、約1,000rpm動作の50%制御時や、約680rpm動作の20%制御時については、ケースに収めてしまえば気にならない程度の騒音であると感じた。より静粛性を重視するのであれば、ファンを追加・交換して、超低速ファンのデュアルファン運用を検討してみるのも良いだろう。

扱いやすさとルックスが魅力のベイパーチャンバー搭載クーラー

 ベイパーチャンバーという新機軸の熱輸送ユニットを搭載したTPC 612だが、上位モデルのTPC 812がそうであったように、同価格帯や類似した形状のサイドフローCPUクーラーに対して、ベイパーチャンバー採用による冷却性能面でアドバンテージは見られない。冷却性能自体は、120mmファン搭載サイドフローCPUクーラーとして、良くも悪くもない平凡なものだ。

 冷却性能とコストに重点を置くユーザーには、積極的に勧められる製品ではないが、TPC 812譲りの金属感溢れるルックスはなかなか魅力的である。やや太ましいレイアウトだったTPC 812からスリム化を果たしたTPC 612は、組み合わせるパーツの制約が緩くなっており、扱いやすさという点においてはTPC 812に勝っている。

 冷却性能について平凡と評したが、大幅なオーバークロックを狙うわけでないなら十分な性能は備えている。TPC 612のルックスに魅力を感じるユーザーであれば、ケース内を彩る装飾パーツという付加価値を備えたこのクーラーに、約8,000円という価格相応の価値を見出すことができそうだ。

Cooler Master「TPC 612」製品スペック
メーカーCooler Master
フロータイプサイドフロー
ヒートパイプ6mm径×4本 + ベイパーチャンバー×1本
放熱フィン54枚 + 飾り板×1枚
サイズ145×97×161.6mm(幅×奥行き×高さ)
重量約762g
対応ファン120mm角ファン×1
電源:4ピン(PWM制御対応)
回転数:600~2,000rpm ±10%
風量:24.9~82.9CFM ±10%
対応ソケットIntel:LGA 775/1150/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1/FM2

(瀬文茶)