瀬文茶のヒートシンクグラフィック

サイズ「阿修羅(SCASR-1000)」

~大きなレベルアップを果たしたCPUクーラー

 今回は2月7日に発売された、サイズ(Scythe)製サイドフロー型CPUクーラー「阿修羅(SCASR-1000)」を紹介する。購入金額は4,980円だった。

各部の改良にも取り組んだ意欲作

 日本では冷却パーツメーカーの代理店としても知られるサイズが、2013年最初のオリジナルブランドCPUクーラーとして発売した阿修羅は、PWM制御に対応した140mm径の大口径ファン「隼140」を搭載したサイドフロー型CPUクーラーだ。標準ファン以外にも25mm厚の120mmファンが搭載可能となっており、付属のファン固定クリップを用いて最大で2基のファンを取り付けることもできる。

 阿修羅のヒートシンクは、6本の6mm径ヒートパイプとベースユニット、50枚の放熱フィンと1枚の飾り板からなる放熱ユニットで構成されたサイドフロー型ヒートシンクだ。「干渉排除型デザイン」を採用するというこのヒートシンクは、ヒートシンクの全高を161mmに抑えて200mm幅のケースに対応するとともに、ベースユニットの位置を奥行き方向の中心からずらして配置することで、ヒートスプレッダ搭載メモリとの干渉を回避する形状を採っている。

 ヒートシンクの作りとして注目したいのが、ベースユニットとヒートパイプの接合部だ。従来のサイズ製CPUクーラーでは、平板でパイプを両側から潰したものや、片側にパイプ形状の溝を掘り、カマボコ型に潰すという形でヒートパイプとベースユニットを接続していたが、阿修羅ではヒートパイプを潰さない形に変更され、ろう付けもしっかり施されている。本連載で紹介したIvy BridgeやTrinityの殻割り検証の結果からも明らかなように、接続箇所の処理の良し悪しは、CPU温度に多大な影響を与える要素だ。サイズがこの箇所を改良してきたことは好印象だ。

 ヒートシンク以外の大きな改良点として、阿修羅で採用された新方式のリテンションキットが挙げられる。日本ではコストパフォーマンスに定評のあるサイズ製CPUクーラーだが、大型CPUクーラーでのプッシュピン方式の採用や、固く取り付けにくいAMD用クリップ、基板裏面からヒートシンクをネジ止めする必要があるバックプレート方式など、リテンションの完成度に対する評価は芳しくなかった。阿修羅ではこのリテンションについて大きな改良が図られているのである。

 阿修羅で採用された新設計の「ブリッジ式リテンション」は、スタッドナットや金属製のプレートを用いてマザーボード表面に土台を作り、そこへヒートシンクに取り付けたブリッジタイプの金属バーを固定するというものだ。これは、ハイエンドCPUクーラーメーカーのProlimatechが、Megahalemsなどの上位製品などに採用しているものと同系統のリテンションキットであり、特に力を入れるような必要もなく、各部のネジを締めきるだけでヒートシンクをCPUに取り付けることが可能となった。マザーボード標準のバックプレートに依存して取り付け方法が若干変わってしまうAMD用リテンションの仕様が惜しいが、従来より格段に完成度が高まっている。

 干渉排除型デザインの採用を謳う阿修羅だが、CPUクーラーの全高161mmという仕様については、165mm級や170mm級のCPUクーラーも存在することを考えれば、高さを抑えたモデルと言えなくはないものの、大型のサイドフロー型CPUクーラーとしては平均的な全高であり、特筆するほどのスペックとは言い難い。また、140mmファン向けのヒートシンクであるため幅が広く、今回テストに用いたASUSの「MAXIMUS V GENE」ではPCI Expressスロットにわずかではあるが被ってしまった。

 一方、メモリスロットとのクリアランスは十分に確保されており、CPUソケットとメモリスロットの距離が短いMAXIMUS V GENEであっても余裕がある。ただし、このクリアランスは放熱ユニットをメモリスロットの反対側にオフセットして配置したことによって確保されているため、ソケットの両側にメモリスロットを備えるLGA2011環境では、デュアルファン構成を行なうとファンとメモリの干渉が発生し得る。薄型の放熱ユニットを採用しているため、メモリとの干渉が発生しないわけではない点に注意が必要だろう。

冷却性能テスト結果

 それでは冷却性能テストの結果を紹介する。今回は標準ファンのPWM制御を無効にしたフル回転時と、PWM制御を20%に設定した際の温度をそれぞれ測定した。

テスト結果

 検証結果を見てみると、3.4GHz動作時にCPU付属クーラーが85℃を記録しているのに対し、搭載ファンフル回転時に56℃(-29℃)、20%制御時には61℃(-24℃)を記録しており、CPU付属クーラーからの交換で、大幅な冷却性能向上を期待することができる。また、オーバークロック動作時の温度については、4.4GHz動作時に67~75℃、4.6GHz動作時は77~86℃を記録している。シングルファンのサイドフロー型CPUクーラーの結果としては、なかなか優秀な結果と言えるだろう。

 動作音については、ファンをフル回転にした約1,480rpm動作時は大きな風切り音が発生していた。一方、20%制御時は回転数が約680rpmまで低下するため、風切り音はほとんど気にならないレベルまで減少するのだが、若干軸音が発生していたことが気になった。それほど大きな軸音ではないため、ケースに収めてしまえば気にならないとは思われるが、静音動作にこだわりたいのであれば、ファンの交換も視野に入れておきたい。

コストパフォーマンス一辺倒から脱却したハイレベルなCPUクーラー

 国内に於いて、サイズオリジナルブランドのCPUクーラーといえばコストパフォーマンスに特化したCPUクーラーというイメージが強かったのだが、阿修羅ではベースユニット部分やリテンションなど、これまでのサイズ製品で不満の大きかった仕様が一気に改良された。

 最上級の性能とは言わないまでも、空冷の上級製品に匹敵する冷却性能と、扱いやすいリテンションキットを備えた阿修羅は、CPUを冷却するというCPUクーラー本来の目的を達する手段として、かなりレベルの高い製品に仕上がっている。「干渉排除型デザイン」には中途半端な印象があるものの、プロトタイプの登場から製品版の発売までに3年もの年月を要しただけのことはある出来栄えである。

 見た目的には高級感や美しさに欠けているため、窓付きPCケースなどに搭載して見て愉しむという目的には適さないが、冷却性能とコストを重視するのであれば有力な選択肢となりそうだ。

サイズ「阿修羅 (SCASR-1000)」製品スペック
メーカーサイズ
フロータイプサイドフロー型
ヒートパイプ6mm径×6本
放熱フィン50枚+飾り板×1枚
サイズ(ヒートシンクのみ)145×65×161mm(幅×奥行き×高さ)
重量750g(ヒートシンクのみ)
付属ファン140mm径25mm厚ファン ×1
電源:4ピン (PWM制御対応)
回転数:500(±300) ~1,300rpm(±10%)
風量:37.37~97.18CFM
ノイズ:13.0~30.7dB
サイズ:140×140×25mm
対応ソケットIntel:LGA 775/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1/FM2

(瀬文茶)