瀬文茶のヒートシンクグラフィック

TITAN「Fenrir-Siberia Edition」
~珍しいマルチフローレイアウト採用CPUクーラー



 今回は、2012年2月にTITANより発売されたマルチフロー型レイアウト採用CPUクーラー「Fenrir-Siberia Edition」を紹介する。購入金額は6,980円だった。

●トップフローとサイドフローの特徴を併せ持つマルチフロー型CPUクーラー

 TITAN Fenrir-Siberia Editionは、同社のCPUクーラーブランド「FENRIRファミリー」の最新製品であり、トップフロー型とサイドフロー型の特徴を併せ持つマルチフロー型ヒートシンクを備えた製品である。TITANのFENRIRファミリーでは、北欧神話に登場する巨大な狼の姿をした怪物FENRIRと、その息子であるSKALLI、HATIの名が与えられている。その中で、FENRIRの名を持つFenrir-Siberia Editionは、同ファミリのフラッグシップモデルに位置する製品である。

 ヒートシンクは、銅製のベース面を備えるベースユニットと、5本の8mm径ヒートパイプ、2ブロックの放熱フィンブロックで構成されている。2ブロックの放熱ブロックは、トップフロー型の特徴を持つブロックと、サイドフロー型の特徴を持つブロックに分かれており、特徴的なマルチフロー型レイアウトのヒートシンクを形成する。同様の形状を持つヒートシンクは、2009年発売のCooler Master「V10」、2011年発売のProlimatech「GENESIS」がある程度で、CPUクーラーとしては大変珍しいレイアウトである。

 冷却ファンには、ナイフを模した羽根が特徴的なTITANオリジナルのファン「KUKRI FAN」を採用しており、トップフロー部に140mm角ファン、サイドフロー部に120mm角ファンをそれぞれ備える。いずれもPWM制御に対応しており、120mm角ファンは800±25%~2,200±10rpm、140mm角ファンは700±25%~1,800±10rpmと、広い範囲で回転数を制御可能だ。

Fenrir-Siberia Editionパッケージ
Fenrir-Siberia Edition本体
リテンションキットと主な付属品
標準搭載の「KUKRIファン」

 一般に、サイドフロー型CPUクーラーはCPUの冷却性能に優れる一方で、メモリや電源回路など、CPU周辺部品の冷却能力が低いという弱点があり、トップフロー型CPUクーラーは周辺部品の冷却能力が高い一方で、純粋なCPU冷却性能ではサイドフロー型に劣るものが多い。これらの弱点を補い合い、CPUと周辺部品の両方を高いレベルで冷却するためのデザインがマルチフロー型CPUクーラーである。

 奇抜なデザインのヒートシンクだが、ベースユニットとヒートパイプの接合部やフィンの配置はしっかりしており、組立精度の高さが伺える。外観上のデザインとして、放熱フィンにプレス加工による装飾が施されているが、ヒートパイプやベース面など、ヒートシンク本体にメッキ処理は施されていない。ハイエンドCPUクーラーに見られる高級感のある仕上げとは異なる、無骨な仕上げである。


●CPUと周辺部品を同時に冷却する、システムクーラーとしての役割に期待

 それでは冷却性能のテスト結果を紹介する。今回の冷却性能テストでは、前回まで利用していた機材とFenrir-Siberia Editionのバックプレートが物理的に干渉し、焼損するというアクシデントが発生した。このため、機材をAMD FX-8120ベースのPCに変更し、比較対象のリテールクーラーもAMD FX-8120付属品となっている。従来のテスト結果とは一切比較できないデータである点にご注意いただきたい。

MAXIMUS IV GENE-Z裏面のチップコンデンサと金属製バックプレートの干渉を筆者が見過ごしてしまった結果、マザーボードを焼損させてしまった。マザーボード上のパーツレイアウトは各マザーボードベンダーに委ねられているため、CPUクーラーメーカーが対応を謳うプラットフォームでもこのような干渉は起こり得る

 今回は、ファンの回転数を20%に絞った際と、ファン制御を行なわなかった際の温度をそれぞれ測定した。動作音については、フル回転時の動作音は両ファンともかなり高速で回転していることもあり、大きな風切り音が発生していたが、両方のファンが約1,000rpmとなる20%制御時の動作音は十分静かと言えるレベルだった。ファンを絞ってケースに収めてしまえば、動作音はそれほど気にならないだろう。

 測定結果を確認してみると、温度的にはFenrir Siberia Editionが優勢なものの、フル回転時でリテールクーラーより-7~-10℃、回転数を絞った際は僅か-1℃の差となっており、数字だけ見ると物足りない結果にも見える。この結果を見る際、注意が必要なのはリテールクーラーのファン回転数だ。リテールクーラーはファン制御を無効化して検証を行なっているため、オーバークロック時には約6,800rpmにも達する。いかに60mm角の小口径ファンとはいえ、これほどの回転数ともなると、その動作音はフル回転時のFenrir Siberia Editionと比べても遙かに大きい。それを考慮すれば、Fenrir Siberia Editionのヒートシンク性能がリテールクーラーを大きく上回るものであると言える。

 消費電力の大きなCPUを使えば電源回路の発熱は増大し、また、そのようなCPUに見合う高クロックメモリを利用すればメモリの発熱も大きくなる。この発熱の処理するにあたり、ケースのエアフローに加え、CPUクーラーからもエアフローを供給すれば、より確実な冷却が可能となる。マルチフローレイアウトを採用するFenrir-Siberia Editionには、単なるCPUクーラーとしての役割だけでなく、以前紹介した「スサノヲ」のようにシステムクーラーとしての役割が期待できそうだ。


【表】
TITAN「Fenrir-Siberia Edition」製品スペック
メーカーTITAN
フロータイプマルチフロー型
ヒートパイプ8mm径×5本
放熱フィンサイドフロー部:38枚
トップフロー部:37枚
サイズ130×200×162mm(幅×奥行き×高さ)
重量1,095g
付属ファン120mm角ファン
電源:4pin(PWM制御対応)
回転数:800±25% ~ 2,200±10%rpm
風量:24.23 ~ 66.62CFM
ノイズ:15 ~ 35dBA
140mm角ファン
電源:4pin(PWM制御対応)
回転数:700±25% ~ 1,800±10%rpm
風量:34.78 ~ 89.43CFM
ノイズ:8.3 ~ 28.8dBA
対応ソケットIntel:LGA 775/1155/1156/1366/2011
AMD:Socket AM2系/AM3系、Socket FM1