■西川和久の不定期コラム■
少し前に、iOSの新しいバージョン、iOS 4.2.1が公開された。iPhoneやiPod touchでは、AirPlayとAirPrintの対応が主な変更点、iPadでは加えてマルチタスクやフォルダによるAppの整理など、従来iPhoneで使えていた機能が加わった。今回は、iOS 4.2.1の新機能、AirPrint、そしてAirPlay対応したApple TVの使い勝手などをレポートしたい。
●iOS 4.2.1の新機能/iPhone & iPod touch編まず、iOS 4.2.1について軽く触れたい。iPhoneやiPod touch用の1つ前のバージョンは4.1で、基本的にはマイナーアップデートだ。後述するAirPrintとAirPlay以外の変更/追加点は以下の通り。
【iOS 4.2.1の変更/追加点】
・SMS/MMSテキスト用の着信音が新たに追加。連絡先ごとにカスタム着信音を設定
・FaceTimeの機能向上→Voice Controlを使って発信/SMSメッセージから発信
・Bluetoothアクセサリに対応
・SafariでWebページ内のテキストを検索できるように
・メモで使用できるフォント設定が新たに追加
・ペアレンタルコントロールの制限項目を追加→アカウント設定/Appの削除/Game Centerの友達機能/位置情報設定
・カレンダーがicsファイルの読込みに対応
・iPod touch(第4世代)での、オーディオ録音時の異音発生を修正
・USB経由によるカーステレオでのオーディオ再生機能が向上
・「iPhone(iPad/iPod touch)を探す」機能が無料に
ご覧のように、細かい部分ばかり。AirPrintとAirPlayに関しても、対応する機器が必要となり、持っていない場合には、これと言って特筆する部分は無い。既存ユーザーで嬉しい点があるとすれば「iPhone(iPad/iPod touch)を探す」機能が無料になったことだろう。これまでこの機能は、年会費9,800円必要とする「Mobile Me」のアカウントが必要だったが、この機能だけ使う場合に限り無料となった。
さて、目玉となるAirPrintとAirPlayについて簡単に説明すると、対応したプリンタまたはAV系周辺機器へ、Wi-Fiを使いダイレクトにコンテンツをストリーミング送信する仕掛けとなっている。
AirPrintに対応しているプリンタは下記の通り。今のところHP製品のみで、機種も少ない。ベータ版では、Macに接続されたプリンタもその対象になっていたが、リリース直前にこの機能は削られてしまった。他社の対応も含め、今後どうなるか気になるところだ。
製品名 | 対応時期 |
<個人向けインクジェット複合機> | |
HP ENVY 100 | 対応済み |
HP Photosmart Premuim C310c | 対応済み |
HP Photosmart Plus B210a | 対応済み |
HP Photosmart Wireless B110a | 対応済み |
<ビジネス向けインクジェット複合機> | |
HP Officejet Pro 8500A Plus | 12月下旬以降対応 |
HP Officejet 6500A Plus | 12月下旬以降対応 |
HP Officejet 6500A | 12月下旬以降対応 |
HP Officejet 7500A | 12月下旬以降対応 |
【AirPrintを使ったダイレクトプリントの動画】メールからダイレクトにプリントできる。両面印刷対応だ。印刷開始時、iPadの画面が一瞬暗くなるのは「インクが少なくなってます」と、iPadに警告を表示するから。[OK]ボタンをタッチすると、もとの明るさに戻る |
良く似たHP独自の機能「メールdeプリント」と比較すると、「メールdeプリント」はいったんクラウドにあるサーバーへ転送されるため印刷が始まるまで少しタイムラグがあるほか、名前の通り、プリントするデータをメールに添付して送信しなければならずやや面倒と言える。AirPrintは対応Appから即プリントできるため、簡潔で分かり易い。感覚的にはPCに接続されたプリンタと同等な感じだ。App側の対応は必要となるものの、今後急速に対応が進むと思われる。
AirPlayに関しては、Apple TV、AirMac Express、そして最近徐々に発表され出した、デノンやJBLなどのAirPlay対応機器などが対象となる。ただ、ほとんどは音のみの対応で、筆者が知る限り、動画と写真にも対応しているのはApple TVのみ。日頃音に関しては、iPhone 4を購入し、余ったiPhone 3G/3GSをオーディオテクニカ「AT-HA35i」に乗せ、DACを接続して使っているので、後述する液晶TVを購入するまでは、個人的には全く興味の無かった部分だった。
●iOS 4.2.1の新機能/iPad編iPadに関しては、iOS 4.2.1で、マルチタスク、フォルダによるAppの管理など、これまでiPhoneやiPod touchでは出来て、iPadでは未対応だった機能が実現。心待ちにしていたiPadユーザーも多いだろう。
既にリリースされてから日も経つため、細かい部分には触れないが、個人的に良くなったと思う点は、「Safariに戻った時、ページのリロードが減った」こと。iOS 3.2の頃もSafariをいったん終了、何かほかのAppを動かし、再度Safariを起動すると、前に表示していたページをタブを含め保持しているので、状態を復帰して起動するものの、ほとんどのケースでリロードがかかってしまい、待たなければならなかった。また、Ajaxを多用したページは初期状態に戻ってしまう。この待ち時間がiOS 4.2.1になって激減し、快適に使えるようになった。ただし、ゼロにはならず、他のAppで多くのメモリを使うと、リロードされる。同じことを行なってもiPhone 4ではほとんどリロードがかからないので、内蔵メモリ256MBか512MBかの差が出ているようだ。
また輝度調整が、[設定]に加え、コントロールウィジェットでもできるようになり、使う場所や外光が変わったりして、明るさを変えたい時にサクッと行なえ便利になった。
そのほかには、「複数メールアカウントを1つの受信トレイで管理」、「日本語キーボードに50音キー追加」など、先のAirPrint/AirPlayに加えより使い易くなっている。iPadユーザーなら、絶対アップデートすべき内容と言えよう。
●AirPlay対応「Apple TV」
従来のApple TVは、Mac OS XをベースにしたOSを採用、CPUにPentium M、HDDも搭載したPCに似たマシンだったが、新型は完全にアーキテクチャを変更。iPhoneやiPad同様、Apple A4を使いiOSをベースに、HDDは非搭載となった。従って本体にはコンテンツを保存することができない。その替わり、価格が8,800円と安くなった。また、本体サイズは98×98×23mm(幅×奥行き×高さ)、重量272gと、手のひらサイズで非常にコンパクトになったうえ、冷却ファンも無いため完全に静音となる。
インターフェイスは、有線LAN(100BASE-T)/無線LAN(IEEE 802.11a/b/g/n)、HDMI出力、S/PDIF光出力(ただし48kHzのみ)、IRレシーバ、ACコネクタと最小限。マイクロUSBコネクタはあるが、これはサポート用だ。ACアダプタは内蔵で、直接ACケーブルを差し込む仕様になっている。電源ケーブルとリモコンは付属するが、HDMIケーブルは別途用意しなければならない。
本体全体。ご覧のように非常にコンパクト。ハードウェアスペックは、iPadから液晶パネルをなくした感じだ | コネクタ部は、ACコネクタ、HDMI出力、マイクロUSB、S/PDIF光出力、Ethernetと非常にシンプル | 実測で256gだった。箱も小さく値段も安いので、つい衝動買いしてしまうかも |
本体のみだとできることはあまり多くなく、iTunesストアにある映画やドラマのストリーミング(保存不可/無料で数分間のプレビューもできる)によるレンタル、Mobile Me、Flickr、YouTubeにあるコンテンツ、そしてネットラジオの再生のみとなる。YouTubeやネットラジオに対応しているので、それなりに楽しめるものの、汎用性が無くイマイチだ。加えて付属のリモコンでは日本語による検索もできない。
この環境にPCやMacで管理しているiTunesが加わると、iTunesストアにある映画やドラマの購入(ダウンロード)と、iTunesで管理している動画、音楽、写真の再生も可能となる。一般的にApple TVはSTBのように思われていることが多いと思うが、環境が整えば「STB機能もあるAV機器」に大変身する。ただし、NASなどに入っているiTunesライブラリは再生できない。またiTunesはあくまでもアプリケーションなので、サービスには登録できず、起動しっ放しにする必要がある。
不便な点があるとすれば、iTunesはDLNAサーバーのように、再生可能なフォーマットへトランスコードする機能は無いため、対応コンテンツが下記のフォーマットに限定される点。特にWMVの非対応は大きい。HDMI出力は720pまでの対応となるが、試したところ下のリストには無いものの、1080p動画の再生自体は可能だった。
【Apple TVの対応フォーマット】
動画:H.264、MPEG-4、Motion JPEG
音楽:HE-AAC(V1)、AAC(16~320Kbps)、保護されたAAC、MP3(16~320Kbps)、Apple Lossless、AIFF、WAV、Dolby Digital 5.1サラウンドサウンドパススルー
写真:JPEG、GIF、TIFF
そしてApple TVは「AirPlay」にも対応し(ファームウェア4.1にアップデートが必要)、iOS4.2.1の動くiPhone/iPod touch、iPadの中にある動画、音楽、写真をWi-Fiを経由で再生できる。ただ現在、動画で対応できるのは、iOS標準AppとYouTubeのみ。他社のAppは音声のみの再生となる。今後のアップデートに期待したい。
先に書いたように、付属のリモコンでは日本語検索できないが、Apple純正のRemote Appを使えば、文字入力部分でIMEが動くため検索可能となる。このAppは、iPhone/iPod touch、そしてiPadにも対応し、十字キーの替わりにトラックパッドのような操作でApple TVがコントロールでき、一度使ってしまうと付属のリモコンへは戻れないほど便利なものとなっている。
Apple TV、ネットワークに接続しているコンピュータで動いているiTunes、そしてiPhone/iPadの3点セットが揃った状態で、使って実際便利だったのは、まずiPhoneで撮影した写真を、AirPlayを使いダイレクトにTVへ表示できること。スワイプによる写真の前後移動やスライドショーにも対応し、iPhoneを普通に手元で操作すれば、それがそのままTVで再生される。最近はHDMIでのTV出力に対応したデジカメも多いが、無線でこれだけのことができるのは便利で面白い。ただ、iPhoneで撮影した動画はAirPlayできない。
次にYouTubeはもともとApple TVにもあるのだが、たまたまiPhoneやiPadでゴロゴロしながらYouTubeを見ていて「これは大きい画面で見たい」と思った時に、AirPlayでTVへ即画面を切り替えることができるのも便利。もちろん音も大迫力。一度これを経験してしまうと、少なくとも自宅ではiPhoneやiPadでYouTubeを見なくなる上、ケーブル接続のオプション「VGAアダプタ」や「AppleコンポーネントAVケーブル」も不要となる。
そして何より便利になったのは、TVを中心に自分がiTunesで管理している、動画、音楽、写真を再生できるとこにつきるだろう。特に写真と動画を再生するのは、そのPCか、iPhoneやiPadとなり、これでは画面サイズ的に迫力不足。従ってこれまで音楽以外はあまり積極的にiTunesで管理しなかったが、これで一気に意欲がわいた。
唯一個人的に惜しいのは光デジタル出力だ。Apple TVのS/PDIF出力は48kHzに固定され、音楽CDなどで一般的な44.1kHzで保存したMP3などは、48kHzにアップサンプリングされ出力される。そのため44.1kHzのみ対応の自作DACで再生できないのだ。最近のTVに内蔵しているアンプやスピーカーは結構音質は良くなっているとは言え、DACにそれなりのアンプとスピーカーを接続した環境にはかなわない。ファームウェアのアップデートで是非対応して欲しいところである。
●Apple TV用に筆者が構築した環境以前の記事に少し書いているが、もともと自宅の環境は、DLNAサーバーとしてバッファローのルーター「WZR-HP-G300NH」+USB HDDを接続し、主に写真と動画用に利用。iTunesは「ThinkPad T43」へインストールして主に音楽用と、環境が分かれていた。また、iTunesの入っているThinkPadはノートPCなので、使わない時は蓋を閉め休止状態にしている。この状況では、すぐにApple TVからアクセスできない。また、音楽、写真/動画が2台のマシンに散らばっているので、1台サーバーマシンを組むことにした。
マシンを組むと言っても、余っていたCore 2 Quad Q8200、ケース、マザーボード、4GBのメモリ、複数の500GB HDDなどを組み合わせ、更に余っていた64bit版Windows Vista Home Premiumを使用したので一銭もかからず完成した(と言うより、パーツを買いに秋葉原へ行く時間が無かったのだが)。ケースは静音ファンを搭載しているため、自宅でもあまり煩くなく好都合だ。
ここへiTunes for Windowsと、DLNAサーバーソフトの「TVersity」をセットアップ。TVersity側のフォルダ指定を、iTunesでコンテンツを管理しているフォルダへ割り当て、散らばっていたファイルをコピー、全コンテンツの一本化が完了した。
DLNAサーバーをインストールしたのは、AirPlayでiTunes→Apple TV、iPhone/iPad→Apple TVの流れはできても、逆のiTunes→iPhone/iPadは現在できないからだ。iPhoneやiPadにDLNAクライアントAppをインストールさえすれば、これも可能になる(ただしDRMのかかったコンテンツは不可)。ちょっとした時にTVではなく、iPhoneやiPadでコンテンツを再生できるので、これはこれで便利だったりする。
もう1つ、OSにHome Premiumを使ったため、リモートデスクトップが使えず、キーボードもモニタも接続していないサーバーマシンとして何かの時に不便なので、「TeamViewer」でリモートアクセスできるようにした。普段出番は無いものの、マシンメンテナンスなどを行なう時に重宝している。
余談になるが先に触れた液晶TVについて少し述べておく。長年使っていたソニー製ブラウン管TV「PROFEEL PRO/KX-27HV1」をやっと引退させ、液晶TVを購入することにした。32~37型のフルHDタイプが欲しかったのだが、11月末近くだったのでタイミング悪く人気製品は在庫切れ。年内納品も危ういとの話があったため、店頭に激安で山積していたシャープの「LED AQUOS/LC-32SC1-B」を購入し、持ち帰った。
解像度はHDであるが、このサイズの場合、PCでも接続しない限り、視力の弱い筆者は、少し離れて見れば差はあまり分からない。また液晶TV自体、かなり安くなっているので、そのうち必要であればフルHDを買い足せばいいかなという考えもある。このLC-32SC1-Bは、購入価格を考えれば画質/機能共に大満足だが、視野角がかなり狭い点と、DLNAクライアント機能はあるものの写真と音楽だけで動画は非対応なのが気になった。
さて、こうしてできた環境は非常に快適そのものだ。3ポートあるTVのHDMI端子には、PS3、STBのU-NEXT(旧GyaO NEXT)、そしてApple TVがつながっている。主に使うのはApple TVで、何もしない時はネットラジオを流しっ放しで、スクリーンセーバーとしてiTunesで管理している写真か、Flickrでキーワード指定した写真をランダム表示させている。
YouTubeや動画、音楽はケースバイケースだが、Apple TV + Remote Appを使って検索/再生、iPhoneやiPadで検索し大きく見たい(もしくは大きな音量で聴きたい)時にはAirPlayで出力をApple TVへ切り替えると、言った使い方ができる。映画やドラマはiTunes Storeからダウンロード購入/レンタルもできるし、U-NEXTでも観れる。もちろんPS3も接続しているので、DVDやBlu-ray Discも再生OK。これだけ対応できれば何も困らない。ブラウン管TVから液晶TVに変えたことでHDMI端子が使えるようになり、Apple TVをベースとしたPC系コンテンツとTVが融合し、これまでと違った使い方、そして見るものがまったく変わってしまった。大げさに言うなら、ブラウン管TVの時代にはできなかった、21世紀ならではの環境へ一気に進化した。
TVラックが届かないため、床置きになっている液晶TVやApple TV |
ただ1つ困っているのはエコポイントの影響だろうか、未だに注文したTV台が届かないこと(TVを買い換えTV台も購入する人が増えた?)。ここへPS3やSTB、アンプやDACも置く予定なのだが、それが出来ず、TVとApple TV、STB、PS3は床置き、アンプ類は接続せず、TVの音声出力をそのまま使っている。見た目が落ち着かないため、今月中には何とかしたいのだが。
以上のように、既にiPhoneやiPadを所有、iTunesでコンテンツを管理、ネットワークが組まれている環境さえあれば、8,800円のApple TVを加えることによって、コンテンツの楽しみ方の幅が広がる。
現状ではAirPlayの映像出力できるAppが限られていたり、NASなどのiTunesライブラリはAirPlayできない、AirPrintに対応するプリンタがHPの数機種のみと、今後に期待した部分もまだまだ多い。
とはいえ、Apple TVは、既に環境が整っている人には絶対お勧めできる。筆者的に今年イチオシの逸品と言えよう。