西川和久の不定期コラム

デジタルファクス機能を備えたインクジェット複合機
「HP Officejet Pro 8500 Wireless All-in-One」



HP Officejet Pro 8500 Wireless All-in-One

 4月13日、HPから企業向けのプリンタとして「Officejet」シリーズ2モデル、「同Pro」シリーズ2モデルが発表された。新しいインクシステムを採用し、更にProでは大容量の顔料インクを採用。ランニングコストを抑制、印刷速度や省電力性など、ベーシックな性能も向上している。その中の最上位モデル「HP Officejet Pro 8500 Wireless All-in-One」が届いたので、早速レポートしたい。

Text by Kazuhisa Nishikawa


●ご対面!

 事務所に届いたところ、結構箱が大きい。計ると約590×480×580mm(幅×奥行き×高さ)。1人で持ち上げるにはちょっと大変なサイズだ。本体の重量が12.7kgなので、重さ自体は大したことなく、本体を箱から取り出す時は割りとすっと持ち上がった。

 ルックスはご覧の様にブラック+グレーかつ正面から見るとブラックの面積が多くなっている。今風にした雰囲気だが、この機種はもともとビジネス用モデル。筆者としてはグレーの面積が多い方がいいのではと思ってる。と言うのも黒い部分は指紋の跡やホコリが目立つからだ。本体の大きさは494×331×479mm(同)。4人がけの机の上に置くとそれなりの占有面積となる。

正面。USB、メモリースティック(PRO)×1、SDカード(SDHC)/MMC×1、xD-Picture Card×1、CF×1に対応したスロット、3.4インチカラータッチスクリーン、各ボタン、無線LANに対応裏面。USB、Ethernet、電源コネクタ、電話線のIN/OUT。約5cmほど出っ張っている付属品一式。左からプリントヘッド×2、インク×4、電源ケーブル、ACアダプタ、USBケーブル、ネットワークケーブル、電話線、マニュアル、インストールCD
トレイ。最大250枚給紙できるトレイ。ビジネス用とあって、別途Lサイズの用紙を入れるサブ・トレイは無い原稿台。最大A4サイズの原稿台。右側手前がセット位置。透過原稿には対応していない両面に対応したADF。自動両面、最大50枚対応。コピー、ファクス、スキャンに利用できる

 詳細な仕様は同社のHPをご覧頂きたいが、特徴をピックアップすると以下のようになる。

・CMYK全色顔料系4色独立インクシステム、最高解像度最高4,800×1,200dpi
・印刷速度モノクロ: 最高 35ppm、カラー: 最高 34ppm
・光学解像度 2,400x4,800dpi、最大補間解像度 19,200dpiスキャナ搭載/最大48bit
・3.4型カラータッチスクリーン
・無線LAN IEEE 802.11b/g、有線LAN 100Base-TX/10Base-T
・自動両面対応ADF
・G3ファクス/メモリ代行受信約125枚
・デジタルSEND機能搭載
・494×331×479mm(幅×奥行き×高さ)/12.7kg
・直販価格 39,900円

 従来モデルでは顔料系黒+染料系4色のインク構成だったが、今回、全色顔料系に変わった。これによって普通紙でもにじみが無くシャープなプリントを得ることができ、加えてプリントは保存性が高く水にも強いため、レーザープリンタの代用にもなる。また写真から分かるように、インクカートリッジのサイズがかなり大きく、特にビジネス用途として大量に使う黒インクは筆者がこれまで見た中でも最大級のサイズだ。

 目新しいものとして「デジタルSEND」機能はなかなか面白い。従来機種でもスキャンデータをネットワーク経由でPCへ保存することができたが、それを更にスキャン/ファクス(白黒のみ)データをLAN上に公開している共有フォルダ、もしくはメールに添付して送信できるようになった。またこの時、送り先はパネル上で複数の中から選択できる。共有フォルダに関してはNASなどネットワーク上にフォルダを公開できる機能を持つ機器であればPCである必要は無い。

 もう1点、カタログスペックから分かり辛い改善点として、単独使用でのPDF対応があげられる。これまでもスキャンデータをPDF化して保存することは可能だったが、PCが必要だった。しかしこの「Officejet Pro 8500 Wireless All-in-One」では、PDFエンジンを内蔵し、単独使用時でもデータをPDF化して保存できる。もちろん共有フォルダだけではなく、メディアにもダイレクトに保存可能だ。筆者としては以前レビューして気になっていた部分が改善され嬉しい限りだ。

 気になるインク代は以下の通り。大容量と言うこともあり、A4 1枚の印刷コストは安いが、インクパッケージはそれなりの値段になっている。


黒増量イエロー/シアン/マゼンタ
A4印刷可能枚数1,000枚2,200枚1,400枚
A4文書印刷コスト2.4円1.5円1.7円
直販価格2,394円3,297円2,394円
※価格は税込み。A4カラー印刷は6.6円/枚(黒増量使用時)

●セットアップ/本体

 本体のセットアップは、まずプリントヘッドを装着するところから。従って流れとしては、「プリントヘッド装着」「インク装着」「電源ON/初期化開始」となる。この時、プリンタの調整に使われる紙は3枚。一番はじめに写真の3枚右側の「プリンタが初期化中なので、電源を切らないでください。20分ほど待つ間に……」と、各国語で書かれれたプリントが出てくる。「本当に20分もかかるのか?」と思ったが、実測はしていないもののそれなりの時間が必要だった。この時、相変わらず横揺れやノイズが凄いが、従来機種よりは少し改善されていた。初期化の作業は操作パネルのボタンには一切触れる事無く、タッチスクリーンのみの操作でOK。非常に分かりやすいオペレーションとなっている。

プリントヘッドを装着。黒+黄色、シアン+マゼンタ、2種類のプリントヘッドを装着する。この時、パッケージには「←6x→」つまり、6回左右に振るよう書いてあるインクをセット。シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、この4色のインクを装着する。この時、「HP」のロゴが上下逆にならない様注意する。ご覧の様に黒インクはかなり大きい初期設定開始。電源ONにすると、インクカートリッジの装着を認識、初期化のシーケンスに入る
電源OFFにしないようにとの注意。プリンタの初期化中に電源をOFFにしない様、アラートが表示される。[OK]をタップすると初期化開始調整中。本当に20分ほどかかった調整には用紙を3枚使用した。普通紙を使っているが、顔料系インクなので、にじみが無く、くっきりしているのが分かる

●セットアップ/ネットワーク

 ネットワークの設定は「ホームメニュー」から右上「レンチ・アイコン」をタップし、「ネットワークメニュー」を選択すればいい。有線LAN/無線LAN共、DHCP(+無線LAN時WPA)なら非常に簡単だ。またタッチスクリーンなので、上下左右キーなどで項目を選択する必要も無く、パッパと操作できる。やはりこの手の複合機はタッチスクリーンの方がはるかに扱いやすい。

トップメニュー。右上「レンチ・アイコン」をタップし設定メニューへ入るネットワークメニュー。今回は無線LAN接続したため「ワイヤレス設定ウィザード」を選択SSID選択。周辺のネットワークを表示するので、接続するワイヤレスネットワークを選択する
WPAのパスフレーズ入力。入力はタッチスクリーンなので非常に簡単だ設定の確認。無線LANの設定を確認[OK]をタップすれば接続する接続完了。設定でミスが無ければ、無線LANに接続し「ホームメニュー」へ戻る

●セットアップ/ソフトウェア

 付属のソフトウェアはWindows Vista、XP共に32bit版、64bit版に対応している。但し、XPの64bit版に関してはドライバ、ツールボックスのみ。Mac OSは、PowerPCを含めたMac OS X 10.4.11以降、10.5.x。ドライバなどのインストールは、大きく分けて3段階。付属のCD-ROMを入れると「USB接続」か「ネットワーク接続」かの選択、指示に従いドライバやアプリケーションのインストールが終わるとファクスの設定、その後、「デジタルファクス」の設定となる。この「デジタルファクス」は、冒頭に書いた「デジタルSEND機能」の1つだ。保存する共有フォルダなどを設定する。

付属のメディアを入れるとメニューが起動・無線LAN接続を選択したネットワークプリンタを検出。ネットワーク上のプリンタを見つけ表示するので選択[次へ]進むファクスの設定。ここからはG3ファクスの設定、電話番号や使用者の名前などを入力する
続いてデジタルファクスの設定。セットアップメニューへ戻ると選べる項目が増えている。「PCファクス受信を使用する」がデジタルファクスの設定だフォルダへ保存かメールで添付かの選択。ファクス受信したデータを「ネットワークフォルダに保存」か「メールに添付して送信」かを選ぶ。ここでは前者を選択共有フォルダの指定。保存する共有フォルダを設定。画面キャプチャでは操作しているローカルPCのフォルダを設定しているが、NASなどの共有フォルダなども設定できる

●デジタルファクス

 筆者が「HP Officejet Pro 8500 Wireless All-in-One」で一番興味を持ったのがこの「デジタルファクス」機能だ。従来機器と比較し他の単独使用におけるプリント/コピー/スキャナ/ファクスに関しては、インクやADFの違いやタッチスクリーンによる操作性の向上程度なので、真っ先にこれをチェックした。

 同社のプリンタは、Webインターフェイスで各機能の設定や状態の確認が出来る仕掛けにもなっている。現在使っているPCのIPアドレス(もしくはlocalhost)をWebブラウザへ入力するとパネルが開き、その中の「設定」タブの中に「デジタルファクス」の項目がある。ここで保存するネットワークパスやファクスの送受信ログの管理ができるのだ。もちろんはじめにインストールした時に設定した状態で起動する。

 筆者の事務所は電話回線が3系統あり、その1つに業務用の複合機がつながっているため、他の回線に「HP Officejet Pro 8500 Wireless All-in-One」を接続しテストすることにした。設定自体は簡単なので特に問題も無く受信できたのだが、なぜか同時にプリントもしてしまう。これでは意味がなく、先のWebベースの設定パネルでは「同時プリントOFF」的な項目が見当たらなかったため、実機の設定パネルを見たところデジタルファクスの項目に「ファクス印刷:オン/オフ」があった。どうやらこれが初期設定では「オン」になっているようだ。この項目、できればPCからでも設定可能になって欲しい。

設定/デジタルファクス同時印刷をOFFにしないと印刷してしまう事務所のファクスから送信
DigitalFaxフォルダへ読み込まれた。もともとは上が逆になって受信するオリジナル原稿普通紙に印刷したもの(Fine/DTPモードで送信)

 さて、実際使った感想としてはかなり便利だ。プリントが必要なものだけ別途印刷すればいいので、ランニングコストも安上がり。ただ残念なのは「カラーファクス」の時はこの機能が使えず普通にプリントしてしまうこと。また保存するフォーマットは昔ながらのTIFF。JPEGやPDFだと更に使い勝手が良くなると思われる。

 もう1点あるとすれば、受信したことに気が付かないケースが考えられることだ。フォルダ内に数枚程度なら一見して分かるものの、大量に溜め込んでしまうと、増えたかどうかパッと見判断つかなくなる。できればメールでファクス受信したことを通知する機能が欲しいところだ。

●単独使用/プリント

 単独でのプリントは、フロントに付いているメディアリーダ、もしくはUSB経由(PictBridheにも対応)で行なう。編集機能としては「トリミング」、「明るさ調整」、「タイムスタンプ」、「パノラマ印刷」、「パスポート写真」、「カラー効果(セピア、アンティーク、モノクロ)」などがある。もともとオフィス用途なのであまり写真画質については触れていないが、印刷したところ十分綺麗なプリントが得られる。

 ただ「HP Photosmart Premium FAX All-in-One C309a」にはあった、「ファクスカバーページ」、「チェックリスト」、「カレンダー」、「方眼紙」、「グラフ用紙」、「五線譜」などを本体のみで印刷する「クイックフォーム」がこのシリーズでは見当たらない。あれば結構便利なのでぜひ搭載して欲しいと思う。

写真の入っているSDメモリーカードを使用編集メニュー。フレームを追加する機能は無い専用紙を使ったL版印刷。十分写真品質だ

●単独使用/コピー

 原稿台かADFを使ってコピーできる。ADFを使った場合、白黒/カラーに加え「片面→片面」、「片面→両面」、「両面→片面」、「両面→両面」に対応する。機能的にはこの他に「フチなしコピー」、「品質設定」、「濃度調整」、「トリミング」、「写真/文字の強調」などがある。タッチスクリーンを操作してもいいし、操作パネルの「コピースタート モノクロ/カラー」ボタンを押す方法もある。普通紙でこれだけのクオリティなら十分以上だろう。

ADFへ原稿セット両面原稿/両面コピーを選択普通紙へコピー。両面コピー時、片面を印刷後、インクが乾くのを待つため数秒停止する

●単独使用/スキャナ

 原稿台かADFを使ってスキャンできる。この時、操作パネルの「デジタルファイリング/ネットワークフォルダ」もしくは「デジタルファイリング/電子メール」ボタンで、スキャンしたデータの送り先も簡単に指定可能だ。また冒頭に書いたように単独スキャン時でもPDF化に対応した。これまでメディアに保存する時はJPEGのみだったが、PDFでも保存でき、かなり便利になった。

ネットワークフォルダへスキャンPDF形式、300dpi/片面を指定ネットワークフォルダに読み込まれた原稿

●単独使用/ファクス

 「ファクススタート モノクロ/カラー」ボタンでを使って原稿台かADFからファクス送信できる。操作パネルに「ファクスの解像度」、「自動対応」、「リダイアル/ポーズ」、「短縮ダイアル」ボタンがあり、更に電源OFF時にメモリ内の保存ファクスデータ保持と、ファクス専用機と変わらない使い易さ。唯一残念なのは受信時、両面プリントに対応していないことだ。これについてはデジタルファクスと併用し、プリント時に両面指定するなど運用面でカバーすることになる。

ファクス先の電話番号入力通信中送り先のファクスはカラーをサポートしていなかった

●PCからの使い勝手

 同社のプリンタ関連製品は一括したソリューションで付属のアプリケーション、ドライバなどが構成され、一度使えば機種が変わっても同じ操作でコントロールできるため慣れてしまえば非常に使い易い。画面キャプチャをご覧頂ければ解ると思うが、「ソリューションセンター」や「Webインターフェイスの管理画面」などは以前記事にした機種と同じもの。Bluetoothなど機能の有無によって表示する項目が変化するだけとなっている。

 プリンタドライバは、印刷用とファクス送信用で2種類インストールされる。アプリケーションから印刷する時に出力先によってドライバを選んで使う。スキャンに関しては「ほこりと傷の除去」、「色あせの復元」、「不要なパターンの除去」など、編集機能も搭載。単独使用より細かい操作が可能だ。しかし単独使用でこれだけの機能を備えていると、印刷以外の用途でPCを経由するケースは非常に少ないと思われる。

ソリューションセンターWebインターフェイスの管理画面プリンタのプロパティなど
ネットワークドライブとスキャナが追加されるドキュメントマネージャ/OCRドキュメントマネージャ/ドキュメントへの注釈など

 これまでレビューしてきた同社の複合機には無かったアプリケーションとして「HP ドキュメント マネージャ」が挙げられる。オフィス用途を考慮し、ドキュメントの一括管理ができる仕掛けになっているものだ。例えばスキャンしたデータをOCRでテキスト化、ドキュメントへのメモ書きやマーキング、そしてそのドキュメントの印刷、メール/ファクス送信など、あれこれアプリケーションを起動することなく、スムーズにやりたい事を行なえる。よく考えられたアプリケーションと言えよう。


●総論

 例えばファクス機能を持つインクジェット複合機「HP Photosmart Premium FAX All-in-One C309a」と比較して約1万円ほど価格がアップしてしまったものの、3.4型カラータッチスクリーンで操作性が向上し、操作パネルはボタンが減りスッキリ、全て顔料系インク+大容量、そしてデジタルファクスと魅力的な部分が増えている。特にデジタルファクスはこの部分だけ別機器にして欲しいほど。

 プリンタとしては逆説的かも知れないが、不要なプリントアウトをなるべく避ける方向で、省エネ、省資源、と言ったグリーンIT化路線へ進化して欲しい。そのためにはカラーファクスも例外としないPDF形式での保存と転送、着信をメールで通知する機能などが最初の改良点になるだろう。

 企業向けとは言え39,900円と廉価なので、使用頻度の高い個人や個人事務所、小規模オフィスにピッタリな1台だ。