前回のフリフリライトに引き続き、カメラと組み合わせて使う撮影装置を作ってみました。今回のほうが少し複雑ですが、シャッターとストロボを自在にコントロールできる応用範囲の広い回路です。
製作した回路を使って、ミルククラウンの撮影に挑戦します。水滴となって落ちた牛乳がもっとも美しい冠となる瞬間を収めるためには、着水(着乳? )のタイミングでストロボを点灯する必要があります。今回は入手しやすいレーザポインタと光センサを組み合わせて、水滴を検出しました。カメラはバルブモード(シャッターを開いた状態)で待機していればいいのですが、ひとりでも撮影がしやすいよう、自動的にシャッターを制御し、撮影に必要な時間だけシャッターボタンを押した状態にします。ストロボとカメラを1台のArduinoでコントロールします。
それでは作り方を順番に説明します。
まず自作の電子回路から制御できる外付けストロボを準備しましょう。我々は最初、カメラ内蔵ストロボで撮る方法を考えたのですが、レリーズ(シャッターを切る操作)のタイムラグにより発光がかなり遅れること、また光線を真正面から当てると立体的に撮れないことから、クリップオンタイプのストロボをカメラの横に置き、それを直接コントロールすることにしました。
ストロボを発光させるためには、なんらかのスイッチ操作が必要です。しかし今回使用したキヤノン・スピードライト430EXには、カンタンに外部から制御できる端子は出ていません。そこで、ホットシューアダプタを使って、シンクロコードを接続できるようにしました。
ここでいうシンクロコードとは、カメラとストロボ機材を接続する目的で昔から存在するケーブルのことです。シンクロコードを改造して、一端をブレッドボードに挿せる端子とし、もう一端はホットシューアダプタを経由してストロボにつなぎます。これで、ストロボとの配線は完了です。
次はカメラ本体についてです。
作例の回路とプログラムは、バルブモードがあって電子式のレリーズ(リモートコントローラ)が接続できるデジタル一眼レフカメラを想定しています。ただし、撮影時の手作業が増えても良ければ、どんなカメラも使えます。バルブモードがないカメラでも、5秒から10秒程度のスローシャッターに設定して撮ることができます。シャッターボタンを指で押すことにすれば、レリーズの改造と制御回路の製作を省略することができます。その場合、かなり忙しい撮影になりますが、シャッター係の友人がいれば解決するかもしれません。コンパクトカメラでもいけそうですね。
デジタル一眼レフカメラを接続するためには、レリーズの改造が必要となります。その仕様は機種ごとに異なるので、ここでは一般的な仕組みと、キヤノンEOS(kissを除く)の例を紹介します。
一般的なレリーズの構造を回路図的に表現するとこうなるはずです。2個のスイッチは、それぞれシャッターボタンの半押しと全押しに対応します。レリーズの内部では2つのスイッチが重なっていて、1つのボタンを押し下げる過程で半押しから全押しへ、連続的にオンとなるわけです。これと同じ動作を電子的に実現すれば、カメラをコントロールできます |
2個のスイッチを順番にON/OFFするだけですから、Arduinoを使えばカンタンな回路で実現できます。しかし、カメラによっては問題となるのが、レリーズ端子の形状です。秋葉原の部品屋さんでは見かけない、特殊な形状を採用している機種があります。今回使ったキヤノンEOSもその1つです(EOS Kissのコネクタは一般的なステレオプラグと同じ形)。
一番速い解決策は、市販のレリーズを改造する方法でしょう。ケーブルをカットし、そこにブレッドボード用のピンをハンダ付けします。問題は3本ある線のどれがどの機能かわからないことですね。これはもう自分で確かめるしかありません。線にテスタを当て、レリーズのボタンを半押ししたり全押ししたりしながら、どの線の状態が変化するかを観察します。さきほどの回路図と配線を対応づけることができれば、解析完了です。
なお、レリーズの改造によりカメラにダメージが及んだ場合、メーカーの保証が受けられなくなる可能性があります。自作の回路による操作が、カメラにとっては想定外の動作となり、通常は生じない負荷を与える可能性もあります。注意してください。先述のとおり、ミルククラウンを撮影することが目的なら、カメラ本体の制御は必須ではないので、心配な人はマニュアル操作を選択しましょう。ちなみに、我々も普段仕事で使う一番大事なカメラにはレリーズ回路を接続せず、手作業を分担して撮影しました(スポイト係とカメラ係の2人組)。改造レリーズケーブルを接続して使ったのは、予備として持っている型落ちのEOS 30Dです。今回のような実験のために、中古屋さんで安く買える数年前の型を入手しておくのも1つの手だと思います。
機種によってレリーズのコネクタは特殊な形状です。写真はキヤノンEOSシリーズに対応するケンコーのレリーズ『リモートコード キヤノンC3』。今回はこれを改造しました |
このレリーズの場合、オレンジの線が半押し、赤の線が全押し、白の線が共通のGND信号です。テスターを当てて調べました。ピンをハンダ付けしたあと、EOS 30Dからの出力を測定すると、オレンジと赤がプラスとなる3.3Vの電圧が確認できました |
カメラの制御ができるようになったので、制御回路を作ります。Arduinoがセンサの状態変化を待ち、所定のタイミングでレリーズとストロボをオンオフします。
それでは、次の回路図を見てください。
レリーズの制御にはMOSFETを使用しています。汎用性のある回路ですが、あくまでも今回の構成(EOS 30Dと市販レリーズを改造したケーブルを使用)でのみ、動作が確認できた回路と考えてください。カメラによっては、違う素子のほうが良いかもしれません。Googleで検索すると、カメラを制御する回路の例がたくさん見つかります。その際のキーワードは、自分のカメラの名前のほかに「インターバルタイマー」「自作」としてみると、ヒットしやすいでしょう。
ストロボの制御にはフォトカプラを使用しています。フォトカプラは、内部に光源と光センサを持つ、光を使ってオンオフをするスイッチング素子です。なぜ光を使うかというと、2つの回路の間を電気的に絶縁した状態で、情報を伝えることができるからです。ここでは、Arduinoによる制御回路とストロボを電気的に分離しています。内部に高電圧部分を持ち、新旧のさまざまな機種が存在するストロボに対してちょっと慎重に考えた結果で、先人の回路を見ても、ストロボの制御にはフォトカプラを使っている例が多いようです。
フォトカプラにはたくさんの品種があり、ストロボの制御に使う場合、動作しない組み合わせもあるようです。今回使用したTLP-621とスピードライト420EXの組み合わせは安定していますが、他のストロボでのチェックはしていません。こちらも、検索すると事例が見つかりますので、試す前に調べてみましょう。
回路図の左側はセンサです。フォトトランジスタは、光が当たると導通するスイッチとして使っています。今回の用途では、レーザ光が当たっている状態がデフォルトで、それが一瞬でもとだえるとフォトトランジスタがオフになって、Arduinoが気づきます。とだえる瞬間とは、落ちていく牛乳の水滴がレーザ光を横切るほんの一瞬のことです。
20KΩの可変抵抗は、センサが水滴を検出してからストロボを光らせるまでのタイムラグを設定するためのものです。0秒から256ミリ秒の範囲で調整できます。センサを10cmほどの高さに設置した場合、数十ミリ秒の待ち時間が必要です。かなり微妙なタイミングで、わずかでも早いと冠が開かず、わずかでも遅いと冠は消えてしまいます。可変抵抗でおおよその設定をしたら、あとは何回も何回も撮って、ベストショットを待ちます。
Arduinoを中心に、右側はカメラとストロボの制御回路、左側がセンサ回路です。カメラの端子には改造レリーズケーブル、ストロボ端子には改造シンクロコードがつながります。端子の極性等については、自分の機材に合わせて確認してください。テスターは必須です。ストロボについては、フォトカプラの4番ピンがプラス側となります |
この連載でArduinoが登場するのは久しぶりです。標準ボードがArduino UNOにかわりました。写真はDIPタイプのマイコンが載っている初期型。現在は品薄のDIPタイプの代わりに表面実装タイプを採用しているArduino UNO SMDが主流です。作例ではSMD型を使っています。どちらを使っても回路、プログラムともに違いはありません |
フォトトランジスタのPH-102です。手持ちが潤沢にあったので、これを使ったのですが、撮影後に確認すると現在の入手性はあまり良くないことがわかりました。可視光線に反応するものならば、他のものでも同様に使えると思います |
MOSFET(Nチャネル型)の2N7000。日本のトランジスタの型番ルールと違いますね。フェアチャイルド社の製品で、海外の作例でよく登場するようです。秋月電子で10個200円と安く、小型なので、使いやすい部品です |
東芝セミコンダクタのフォトカプラ TLP-621。秋月電子で4個100円です |
回路は小規模なので、ミニサイズのブレッドボードにまとめました。電源(5V)はArduinoボードの5Vピンを利用します |
ブレッドボードのアップです。配線の参考にしてください。左側に出ている細い線はフォトトランジスタへつながっています。手前の太い2本はストロボ(右)とカメラ(左)のケーブルです |
フォトトランジスタはタミヤのユニバーサル金具セットを折り曲げて作ったスタンドに固定しました。これがセンサユニットです |
切った基板にハンダ付けをして、強力両面テープで貼り付けました。カンタン工作です |
レーザ光源はもらいもののレーザポインタを改造して、やはり両面テープでスタンドに固定しました。セッティング時に光軸の微調整が必要となるので、最初からガッチリ固定してしまうと、あとでやりにくくなります |
全体をセットしているところ。お皿の中心をレーザ光線が横切るように光源とセンサを配置し、光の中心とセンサ(透明な受光部)の中心が合うように調整します。合ったらスタンドをテープで机に固定してしまいましょう |
お皿に牛乳を注ぎます。平らな皿を使い、浅めに入れるのがコツです。1滴1滴垂らすためのスポイトも必要です |
Arduinoに転送するプログラム(スケッチ)は次のURLからダウンロードしてください。
□ダウンロードURL
http://www.musashinodenpa.com/arduino/lib/milkCrown.pde
カメラとストロボを制御するコードには、タイミングを調整するための定数が散らばっています(わかりにくくてすいません)。繰り返しになりますが、現在はEOS 30Dとスピードマスター420EXに対してのみ動作確認をしています。別の機材では、タイミングの再調整が必要となるかもしれません。
ソフトウエアの準備ができたら、カメラの電源を入れます。絞りはF10くらいから始めて、後ほど撮れた写真を見ながら調整します。オートフォーカスはオフにし、ピントを王冠の位置を予想して合わせておきます。ストロボの光量を変更できる場合は弱めの設定でスタートし、絞りとのバランスを見ながら増減するといいでしょう。
いよいよ撮影です。部屋の明かりを消して、スポイトに牛乳を吸わせ、Arduinoをリセットしてから(シャッターを制御している場合、この時点でカシャッと開放状態になります)、レーザを横切ってお皿の真ん中に落ちるようしっかり狙って一滴落とします。
全体がうまく動いていれば、レーザを横切った瞬間にストロボが光ります。どうでしょう、うまく撮れたでしょうか。